◆報知プレミアムボクシング ▽後楽園ホールのヒーローたち 第31回前編 村田諒太

 元WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(40)は、2012年ロンドン五輪で金メダルを獲得し、プロ入り後も世界チャンピオンとなり、プロ、アマ両方で頂点を極めた日本ボクシング界では唯一の存在だ。リミット72・5キロのミドル級(アマは75キロ以下)は欧米、中南米の強豪がずらりと顔を並べ、世界的に最も層が厚いクラスとも表現され、日本ボクシング界からは、竹原慎二(WBA)と村田の2人しかベルトを手にしていない。

国内では重いクラスと表現されるが、世界的にはその言葉通り中量級だ。現状、挑戦すら難しくなっているクラスで、村田はなぜ頂点に立てたのか。後輩ボクサーへのエールを含め、本人の証言から解き明かしてみた。(取材・構成=近藤英一、敬称略)

 身長183センチの村田は、日本人としては大柄だが、欧米人が中心のミドル級では、普通のサイズ。幼少の頃から「同級生の中では体が頑丈だった」という利点はあったというが、飛び抜けて強かったわけではない。何か特別な練習をしていたのかと聞いても、答えはノーだった。

 「特に人と変わった練習はやっていません。ボクシングの練習でできることはストレート、フック、アッパーといったパンチの打ち方、ディフェンス。基本の反復練習ばかりです」と、ウェートが重いからといって、軽量級のボクサーと練習の内容に変わりはない。ただ、明らかに他の選手たちより優れていたという面も、認識していた。

 「自分がこの体で世界に通用したのは、巧緻性(こうちせい)にあると思う。自分のイメージ通りに体が動くか。

パンチを当てようとしたところにちゃんと打てるか。自分が思った通りに体を動かせるかは、巧緻性にある。階級が上がれば上がるほど、巧緻性は低くなる傾向がある。例えば、軽自動車と、大きなトラックとでは運転のしやすさが違う。巧緻性が顕著に表れるスポーツは体操競技。体操の選手で180センチを超える選手はほとんど見かけない。その巧緻性において、日本人は170センチを超えると低くなっていく傾向があると思う。自分はそれが人よりできていたと、感じている」

 巧緻性は子供の成長の中でよく聞かれる言葉で、一般的には「手先が器用なこと」を指しているが、幅広い意味を持つ。村田が言う巧緻性は、スポーツなどの時に全身を意図した通りに動かす能力。状況に応じて柔軟に対応する能力でもある。巧緻性が高ければ、体のバランス感覚が向上し、運動パフォーマンスも良くなるといわれている。幼少期、特に巧緻性を高めるトレーニングをした記憶はないという。

「昔、木登りとかで遊んでいた子供たちは、それが磨かれると聞きました。落ちる危険があるので、足を踏み外さないように、次はどこに足を置こうかと考えながら行動をすることで、(巧緻性が)磨かれるそうです。子供の頃、岡山の海に行って、波消しブロックの上を走ったり、奈良の山で遊んだりしていたことが良かったのかな」とわんぱくだった幼少期を振り返った。

 クラスが重くなればなるほど、日本人選手は海外ボクサーとのフィジカルの差を口にする。確かに肉体的なパワーでは劣るかもしれない。「フィジカルを強くしたいと、よく聞きますが、体のコントロールができなければ、何をやってもいっしょ。トレーニング方法を見直した方がいいかも」と自身の失敗談を踏まえて助言した。

 アマチュア時代、パワーアップしたいと筋力トレーニングばかりに注視して鍛え上げた時期があった。約2年間続け、ベンチプレスは120キロを超え、確かにパワーアップを確信した。が、競技には効果がなかった。それどころか、筋肉のけがばかりを繰り返した。「筋トレで鍛えるのもいいが、ボクシングは体重競技。

ヘビー級以外は、増やせる筋肉量も限界がある。筋肉ではなく、その分スピードを磨く、巧緻性を高めるとか、考え方を柔軟にした方がいい。依存する部分の割合を変えていくのも、自分を変えるいいチャンスになる。そうやってトレーニングを変えていければ、もっと上を目指せるはず」と言葉に力を込めた。

 ボクシングを外から見ている今だからこそ、いろんな見方や考え方ができる。「現役の時は、はっきり言って、あまり分かっていなかった。世界を狙うためにフィジカルの強化に励むというのは、確かに大事なことです。ですが、体重移動と地面の反発を使えば、パンチや体のパワーはアップする。リングに2本の足でしっかり立って、地面を踏んで、それをどう力に変えていくか。体をうまく使えば、さほど筋力はいらない」と体の使い方こそが重要だという。

 村田の強さを表現する時、関係者は「体力」「パワー」そして「ガードの堅さ」を挙げる。村田も「いかに致命打をもらわないか」という言葉を頭に描き、相手と対峙(たいじ)していた。

「パンチを全部外すなんてことは、ボクシングの試合では不可能。マイク・タイソン(元統一世界ヘビー級王者)だって、体を振りながらパンチをかわして相手の懐に飛び込むが、全部相手のパンチをかわしているかと言えば、そうではない。ガードと体の反応で急所にもらわないようにしていた」。相手のパンチを目で見て、脳に信号を送り、体が勝手に反応する。村田にとって巧緻性の高さを一番証明したのは、パンチを打つ攻撃よりも、パンチをよけるディフェンスにあったはずだ。アスリートである以上、フィジカルの強化は大事だ。村田がここで示したいことは、強さは肉体的な強化だけではなく、巧緻性などを高める脳トレでも追求できるということ。そして、メンタリティーの重要性にも言及した。(25日に続く)

 ◇村田 諒太(むらた・りょうた) 1986年1月12日、奈良市生まれ。南京都高(現・京都廣学館高)時代に高校5冠を達成し、東洋大に進学。2011年世界選手権で銀、12年ロンドン五輪では金メダルを獲得。13年8月にプロデビュー。

17年5月にアッサン・エンダム(フランス)とWBA世界ミドル級王座決定戦を行うが、判定負け。5か月後の再戦で7回終了TKO勝ちして王座を獲得。18年10月の2度目の防衛戦でロブ・ブラント(米国)に判定負けするが、9か月後の再戦で2回TKO勝ちして王座返り咲きに成功。22年4月、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのWBA、IBF世界ミドル級王座統一戦に敗れ、王座から陥落。プロ戦績は16勝(13KO)3敗。身長183センチの右ボクサーファイター。 

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