◆報知プレミアムボクシング ▽後楽園ホールのヒーローたち 第31回後編 村田諒太

 村田諒太がアマとプロで頂点を極めたミドル級は、紛れもなく中量級だ。プロは一番軽いミニマム級(47・6キロ以下)から上限のないヘビー級(WBA、WBC男子のブリッジャー級含む)まで18階級が存在する。

72・5キロ以下のミドル級は上から6番目、井上尚弥が4団体を統一するスーパーバンタム級(55・3キロ以下)より7階級重いクラスになる。世界的には中量級でも、日本では重量級と表現される。

 「日本のボクシング界でミドル級を重量級と思うメンタリティーが、まず違うと思う。重量級というのはヘビー級。ミドル級というのは本当に中間で、海外ではスタンダードな階級でしかない」

 日本のボクシング界がミドル級という階級に特別な意識がありすぎると指摘する。「たとえば、ボクシングをする上で、日本人は米国人より劣っているという感覚を植え付けられている。ウェートが重いクラスになればなるほど、その意識は強くなる。精神的な面が結果に反映してしまっている」と自身の体験をダブらせた。

 アマチュア時代の2011年。アゼルバイジャン・バグーで行われた世界選手権に日本代表として出場した時だ。2回戦の相手は07、09年と2大会連続で優勝しているアボス・アトエフ(ウズベキスタン)。「試合前にまず『これはまずい』と思った。

相手が強すぎる」と。しかし、だ。急に違う感情がわき出したという。

 「開き直れたんです。『こんな試合、誰が注目してんだ』と自分に言い聞かせた。当時は大学の職員で休暇をもらって大会に出場していたので、負けて帰ったら恥ずかしいという気持ちでしたが、それって、世間の評価にびびっているだけ。みんなの目におびえているだけ。自分のために、自分の強い部分だけを出してやろうと心に誓うと、すべてが楽になった」

 おびえていたはずの村田の闘争心に火が付く。そして、冷静に相手を分析したという。「パンチは相手の方が強い。多少打たれてもヘッドギアをしていれば倒される心配もない。スタミナと手数だったら負けない。

ボディーから攻めていこう」。最終3回、2度のスタンディングダウンを奪いRSC勝ちする大金星。その勢いで決勝まで進み、惜しくも敗れるが、当時、世界選手権での銀メダルは日本人最高成績。翌年のロンドン五輪金メダルへと続いていくのだが、「自分のボクサーとしてのピークは2011年の世界選手権。プロではロブ・ブラント(米国)との第2戦(19年7月、2回TKO勝ち)は自分のボクシングができたが、ボクサーとして分岐点となった試合は、世界選手権でのアトエフ戦」だったという。優勝候補、強い相手への憧れ的な感情を捨て、マインドリセットできた瞬間でもあった。

 外国人選手と対戦する時は、独特の分析法を駆使した。米国人ボクサーはダンスを踊るような軽やかなステップでリングを舞う。日本人は往々にして苦手なタイプだ。村田は選手の特徴を国別で頭にインプットしている。「米国の黒人ボクサーは確かに運動能力が高い。ダンスを踊っているみたいで、いい時はいいが、打たれて劣勢になると、すぐに弱みを見せる。

そうなると、またダンスみたいなステップを踏むんですが、今度は逃げのダンスになる」。ロシア、カザフスタンの選手は感情を顔に出さずに淡々と試合をする。韓国人は日本人と似ていて、最後まで頑張る。中国人はダウンするときに他人の足をつかんででも一緒に倒そうとする。それほど勝利への執着が強いという。

 「やりにくいとかではなく、『この国の選手たちはこういう特徴がある』というとらえ方をしていた。選手によってではなく、相手の国によって攻略法を変えていた」

 アマで137戦、プロでは19戦を行った。どちらも世界の頂点に立ったが、違いはあった。「同じボクシングでも、アマは短距離走、プロは長距離走。アマは3ラウンドなのでスピード、テクニックといった選手個人の才能への依存度が高いが、プロは10、12ラウンドなのでスタミナ、パワーが必要になり、それは選手の努力で補うもの。アマでそれほど成績を残せなくても、プロで活躍する選手は、みんな努力型。その逆も多くいます」と説明した。

 スーパーバンタム級(55・3キロ以下)までの階級では日本人選手たちの世界での活躍は顕著だが、ヘビー級と同じく最も歴史のあるライト級(61・2キロ以下)から上の階級では苦戦が続いている。日本ボクシング界からこれまで誕生した世界王者は104人。その中でライト級より上の階級では、ライト級=3人、スーパーライト級=3人、ウエルター級=0、スーパーウエルター級=4人、ミドル級=2人と、極端に数が少なくなる。その数が証明するように、日本人にとっては難しい階級ということになる。体を鍛えることはもちろん、もっと頭とメンタルの部分を磨くことで、よりいい結果が切り開けると助言する。日本では中量級と表現されるライト級は、欧米では軽量級だ。「今は井上尚弥選手がいることで、世界中から日本のボクシング界が注目されている。ライト級から上の階級でチャンピオンがでれば、より注目度も上がる。頑張ってほしい」と、後輩たちに期待した。(近藤 英一=敬称略、おわり)

 ◇村田 諒太(むらた・りょうた) 1986年1月12日、奈良市生まれ。南京都高(現・京都廣学館高)時代に高校5冠を達成し、東洋大に進学。2011年世界選手権で銀、12年ロンドン五輪では金メダルを獲得。

13年8月にプロデビュー。17年5月にアッサン・エンダム(フランス)とWBA世界ミドル級王座決定戦を行うが、判定負け。5か月後の再戦で7回終了TKO勝ちして王座を獲得。18年10月の2度目の防衛戦でロブ・ブラント(米国)に判定負けするが、9か月後の再戦で2回TKO勝ちして王座返り咲きに成功。22年4月、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのWBA、IBF世界ミドル級王座統一戦に敗れ、王座から陥落。プロ戦績は16勝(13KO)3敗。身長183センチの右ボクサーファイター。 

編集部おすすめ