馬トク報知で過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】。今回はアブレイズが勝った2020年のフラワーCを取り上げる。

海外13か国を渡り歩いた異色のJRA騎手、藤井勘一郎さん唯一のJRA重賞勝利だった。

 

 4角を回って先頭に立つと、藤井はアブレイズをこん身の左ムチで激励した。1発、2発、3発…。後ろからレッドルレーヴが猛然と迫るが、抜かせない。そのまま12番人気の伏兵をゴールへ導いて、JRAで初の重賞タイトルを手にした。「結果を出せて素晴らしい。36歳になって勝ててうれしいです」。こぶしを突き上げて、藤井は喜びを表現した。

 積極的な気持ちが勝利につながった。「スタートが良ければ行きたい」とJRA所属2年目の36歳は、池江調教師と作戦を組み立てた。すんなりスタートすると、2番手キープから道中はイメージ通り。「前走も乗ったし、調教も乗って癖をつかんでいた。

いい意味でフワフワしていて、息が入って良かったです」と笑みが絶えない。

 藤井は中学3年生でJRA競馬学校の騎手課程を受験しようとしたが、体重を1キロ落とせず断念。豪州に単身渡って01年に見習い騎手免許を取得した。その後、シンガポール、韓国など13か国を渡り歩き、海外で516勝。南関東競馬やホッカイドウ競馬でもキャリアを積んだ。クリソライトで2016年コリアC、モーニンで2018年コリアスプリント(ともに韓国G1)を制し、2019年2月に6度目のチャレンジでJRA騎手免許試験に合格。記録の残る1981年以降では、海外で騎手免許を取得した後にJRAの騎手試験に合格した日本人は横山賀一元騎手に次ぐ2人目だった。

 海外で修行を積んできた苦労人は1年目こそ15勝どまりで思うような結果が残せなかったが、2020年は年明けから運気が上向いた。1月に第3子となる男の子が誕生すると、フラワーCの1週前に行われたアネモネSで騎乗したフィオリキアリを2着に導き、桜花賞の優先出走権をつかんだ。

 トレーナーにとっても、忘れられない1勝となった。20年以上も前の助手時代、前田幸治オーナーに同行した米国のセリで3代母となるリリオを購入。同馬の産駒にも携わってきた。

思い入れのある血統による大きな勝利。「きょうは眠れないですね」と興奮気味に振り返った。キズナ産駒の3歳牝馬が、無人の中山で複数のホースマンに幸福を運んだ。

 この後、アブレイズは主に牝馬限定重賞で活躍。2023年の愛知杯(4着)をラストランに現役を引退すると、生まれ故郷である北海道新冠町・ノースヒルズで繁殖牝馬となっている。通算成績は18戦3勝、総獲得賞金は1億326万5000円。

 藤井さんは2022年4月の落馬事故で大けがを負い、2024年2月に引退。その後も車いすで生活しながらも栗東へ頻繁に足を運び、昨年3月からは同月に開業した栗東・井上厩舎のマネジャーも務めている。懸命なリハビリを続けながら、海外にも足を運ぶなど精力的に活動している。

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