赤道近く熱帯雨林気候に属するマレーシアから来た外国人留学生が、立命大の体育会アイスホッケー部でレギュラー定着を目指して奮闘中だ。「氷上の格闘技」に魅せられ、文化や習慣、食事も違う異国で日々、練習に打ち込んでいるのはマレーシア代表でもあるファイク・ハイカル(情報理工学部・2年)。

今年こそ、公式戦出場の目的を果たす。

 「大きな相手は怖いけど、トレーニングを積んで恐怖感はなくなった。やっと自信がついて来た」と、ファイクは笑顔を見せながら、日本語ではっきりと口にした。立命大は関西学生リーグの1部に所属し、全日本インカレ(日本学生氷上競技選手権大会)でもベスト8に入った強豪。来日前、「日本のイメージはあまりなかった」というが、アイスホッケー部の門をたたくのは、待ち遠しくて仕方がなかったそうだ。「(アイスホッケーは)ヨーロッパと日本が面白いと、ぼくは思う。ヨーロッパの方が少し技術は高いけど、日本でやってみたいと考えていた。自分には何がベストか、大学での勉強も考えて、日本で留学することを決めた」と、大きな決断となった2年前をこう振り返った。

 父は学生生活を大阪で送った経験があり、母も関西地方になじみがあった親日家の両親を持ち、クアラルンプールで生まれ育った。「マレーシアは今の気温は約30度、一年を通してそれくらい。冬と春がないので、ずっと夏と秋だけど、日本のように暑くないから過ごしやすい。日本は暑いし、寒い!」と、日本の気候には首をすくめるが、そんな温暖な地で、氷上のスポーツを始めたのは10歳の時。

兄・アシュラフさんとともに、10歳上で選手でもある従兄弟(いとこ)に誘われて、クラブのアイスホッケー教室へ行った。「元々、アイスホッケーには興味を抱いていて、従兄弟からも話を聞いてとても楽しそうに思えた。見に行った時、すぐやろうと決めて練習にも参加した」と、声を弾ませる。最初にスケーティングの授業があり、多少滑れるようになるとアイスホッケーの基礎練習へ。クアラルンプールなどマレーシア国内でスケートリンクが数か所しかないお国柄で、体をぶつけ、スティックを握り、円盤状のパックを追いかける魅力に徐々にはまった。

 マレーシアは元々、陸上ホッケーが盛んでファイクもプレーした経験があるという。スポーツのクラブがあるのは、陸上ホッケーに加えサッカー、バドミントン、アイスホッケーの4競技ほどだそうだ。「サッカーもやったことはあるけど、アイスホッケーだけはずっと継続してきた。本当におもしろいよ」。アイスホッケーにますます魅了されたのは、その醍醐味だった。「スピード感がいい。何より(アイスホッケーの)フィジカルが好き。

相手に当たった時はちょっと痛いけどね」と笑顔で話す。大きなクラブチームにも移り、国際大会があるタイへ何度も遠征。優勝も経験した。スケートリンクに立ってまだ3年ほどの13歳になると、マレーシアのフル代表に選出された。「ナショナルチームの合宿練習は長くて1時間30分。集中してやるので、最初は日本の長い練習時間にびっくりした」と、笑みがこぼれた。

 立命大の情報理工学部は英語で実施される授業で学位を取得できるプログラムがあり、母国語のマレー語と英語を話せ、理系が得意でプログラマーを目指すファイクには願ってもなかった。しかし、同学部は「大阪いばらきキャンパス」にあり、アイスホッケー部が普段、練習拠点とする滋賀・大津市とは距離が相当、離れている。「入学が決まってアイスホッケー部を探していたけど、見つからなくて…。大阪にあると思っていたら、まさかの滋賀だった」と頭をかく。入学前、アイスホッケー部の池田拓監督に熱意をぶつけて面談し、入部が認められると、自宅のある滋賀・草津市から大阪・茨木市での授業を受けて、練習場の滋賀に戻るハードワーク。しかも、練習が始まるのはアイススケート場が一般の営業を終える午後10時30分以降。

授業終了後からその間は練習の準備に余念がなく、練習が終わる頃には日付が変わる。「2年生になってから午前中の授業があまりなくて助かった」。週3回の練習と週末は試合。だが、個人でのトレーニングも欠かさない。サイズは167センチ、64キロと小柄。「大きな人が多いから、負けないように」と、ウエートトレーニングを1時間以上こなし、スピード力と瞬発力向上のためダッシュを約2時間繰り返す。「筋力が増えた。レベルも上がったし、(今年は試合に)出してもらえるかな」と、かすかな自信も芽生え始めている。

 立命大での公式戦初出場の目標のほかに、マレーシア代表としての使命もある。現在、世界選手権ディビジョン(Division)4に所属しており、昨年は6か国中6位。今年の世界選手権大会では3位が目標だ。「インドネシア、シンガポールがかなり強くて、イラン、アルメニアも強豪で、簡単には勝てない相手。

難しい目標だとは思うけど、全員で頑張りたい」と意気込む。氷上以外でも、プログラマーとして机に向かうと、その能力も入学してから飛躍的に向上している。昨夏は東京で情報処理関係の大きなセミナーに出場し、研究発表を行った。普段、小学生を対象とした塾で英語の授業を受け持つなど、文字通り、スポーツと学問の「二刀流」をこなす留学生だ。

 大学卒業後はプログラマーの道を究めるため、大学院への進学を考えている。「でも、アイスホッケーは大学院に行っても続けたい」と、ブレがない。あこがれの選手はロシア代表で、NHLでも活躍するアレクサンドル・オベチキン選手だ。今も40歳で現役を務め、昨年、NHL通算900ゴールを達成した「鉄人」。「人に強くて、得点能力が高い。アイスホッケーに関心を抱いた時、(YouTubeなどで)よく見ていた。憧れです」と、目を輝かす。立命大の中でも3年生の西山泰誠選手、2年生の小竹暸右選手も「得点能力がある」と絶賛。

今のポジションはディフェンスだが、ゴールに熱くなるほど注目するなど、全員で攻めて守るスタイルを頭の中で追い求めているのかもしれない。

 池田監督は、ファイクの加入に「公式戦にはまだ出場していないけど、練習態度がまじめで、気持ちが強い。それがチームにいい影響を与えている」と、高く評価する。ファイクも「もっとうまくなりたい。入学した時は滑るスピードもレベルがかなり違ったけど、今は慣れた」と、自己分析し「試合に出ない時も応援で頑張る。大きな声を出すのが最初は恥ずかしかったけど、それも今は大丈夫」と、「フォア・ザ・チーム」を口にする。

 今春で来日3年目。ひたむきな努力が報われ、晴れてエンジのユニホームに身を包み、公式戦のリンクに立つのはもうすぐ…。5000キロ以上離れたマレーシアからやって来た留学生が、日本で大きな夢を追っている。

 ◆ファイク・ハイカル(Faiq Haikal) マレーシア・クアラルンプール出身。10歳からアイスホッケーを始め、13歳でマレーシア代表に選出される。国内の競技人口は200人に満たないという。

2024年4月に立命大・情報理工学部に進学。体育会アイスホッケー部に所属する。「大学は研究と練習が楽しい」と話す。両親が来日すると食事を作ってもらい、旅行する。姉・シュハイダーさんも日本の大学で学ぶ。来日前は日本語を話せなかったが、今はチームメートとも十分にコミュニケーションが取れるほど。クラスにはアジア圏や欧州からの留学生が多いが、初めて友人になったのは日本人だそうだ。チームメート始め、今ではマレーシア人より日本人の友人の方が多い。立命大で公式戦の出場はなく、昨年と一昨年は練習試合には出場したが「思ったプレーはできなかった」と反省する。「アイスホッケーに出会えてよかったけど、もし(アイスホッケーを)やっていなかったら、家から一歩も出たくない」ほどのインドア派。趣味は家でリラックスすることで料理を作ることが好き。プログラマーを目指し、時間があれば黙々と勉強する。

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