朝、玄関で足が止まる子ども。その一歩の重さは、家庭全体に静かに広がっていく。

いまや「行き渋り」は特別な出来事ではなく、多くの家庭が直面する日常のひずみとなっている。子どもの問題として語られがちだが、実態は親の働き方や夫婦関係にまで影響を及ぼす、より広い社会課題だ。

 花まるグループを展開する株式会社こうゆうの調査(全国の小学生以上の子どもを持つ親219名)によると、子どもの行き渋りを経験した親の60.0%が、退職や勤務時間の調整など働き方の変更を検討。そのうち72.8%が実際に変更していた。内容は「勤務時間を減らした」が62.7%で最多、「在宅勤務へ変更」37.3%、「退職」15.3%と続く。子どもの状態が、親のキャリア選択に直結している構図が浮かぶ。

 一方で、家庭内の関係にも影響は及ぶ。行き渋りをきっかけに夫婦関係が「悪化」「やや悪化」と答えた割合は26.6%にのぼり、約4人に1人が関係の変化を感じていた。理由としては「相手が理解していないと感じた」(63.9%)、「精神的余裕がなく強く当たってしまった」(58.3%)などが挙がり、見えにくい負担の偏りが対立を生んでいる。

 そもそも、子どもが登校を嫌がる状態が複数日以上続く、または長時間の説得や付き添い、欠席など保護者の対応が必要となる「行き渋り」はどれほど一般的なのか。調査では61.6%の親が「経験あり」と回答し、決して一部の問題ではないことが明らかになった。理由は「友達関係」(42.2%)、「先生との相性」(39.3%)が上位を占め、「本人が理由を説明できない」(33.3%)ケースも少なくない。

さらに、経験者の45.9%は現在も継続中で、長期化する傾向もうかがえる。

 対応の難しさも際立つ。94.8%が担任やスクールカウンセラーなどに相談しているが、「改善していない」が約4割に達した。加えて、「何をすればよいかわからない」と感じた親は88.2%、情報不足を感じた人も80.8%にのぼる。相談先はあっても、解決に至る道筋が見えないというジレンマがある。

 自由記述には、迷いの深さがにじむ。「寄り添うべきか、無理にでも行かせるべきか分からない」「親自身も苦しくなり家庭の雰囲気が悪くなる」といった声が並び、正解のない状況に置かれる保護者の姿が浮かび上がる。中には「もっと早く専門医に相談すればよかった」と振り返る声もあり、初期対応の難しさも課題だ。

 子どもの不調が、家庭の内側だけで抱え込まれている現状も見逃せない。行き渋りは不登校の前段階ともされ、適切な関わりが予防につながる可能性がある一方で、現実には孤立が深まりやすい。学校、家庭、地域がどう連携し、どの段階で支えるのか。子ども一人の問題としてではなく、社会全体で受け止める視点が求められている。

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