【ダンバートン(英国)25日=金川誉】

 日本代表は25日、グラスゴーでのスコットランド戦(28日・ハムデンパーク)に向け、合宿2日目のトレーニングを行った。昨年11月に負った左手骨折から復帰したGK鈴木彩艶(23=イタリア1部パルマ)は、一時「8」まで低下した左手握力を戻した経緯などを明かし、この代表活動を経てベストコンディションを取り戻す決意を明かした。

 絶対的守護神が帰ってきた。鈴木彩は約5か月半ぶりとなる代表活動に、生き生きとした表情で臨んだ。GKから始まるビルドアップの練習では、スコットランド特有のぬかるんだピッチでも、正確かつ鋭いキックでボールを前線にぴたりとつけた。「足元の技術(を磨く練習)は、(左手負傷中も)いつも以上にできることも多かった」と語る成果を表現していた。

 昨年11月に負った左手骨折は、決して軽傷ではなかった。長期離脱は初めての経験だったが、W杯に間に合わないという不安は「なかった」と明言するように、焦りを排し、目の前の回復に集中した。その姿勢こそが、世界と戦うトップアスリートとしての重要な行動だった。

 手術後、左手の握力は「8」まで低下した。現在は50近くまで回復し、右手(60~70)との差は残るものの、プレーに大きな支障はないレベルまで戻している。手術から3日後にはトレーニングを再開。左手が使えない期間も、足元の技術に加え、右手中心のハンドリングや視覚・反応系のトレーニングに取り組んだ。「左手以外の部分は全部やっていた」と笑ったように、落ち込んでいる暇などなかった。

 そして迎えた復帰戦。3月11日のトリノ戦で、約4か月ぶりにピッチに戻った。しかし股を抜かれてシュートを決められるなど4失点。「なにか(以前と)違った感覚があった」と試合勘の欠如を実感し、課題の残る内容となった。ただし、その感覚は「日に日に良くなっている」とうなずき、練習・試合を通じて改善傾向にある。

 日本がW杯で優勝を目指す上で、GKの存在感は欠かせない。カタールW杯の1次リーグ・ドイツ、スペイン戦では、先制点を奪われてもGK権田修一の好守もあって2失点目を許さなかったことが、逆転勝利につながった。特にワールドクラスの相手に対し、ピンチを一切つくられない、という試合は不可能に近い。試合中に何度かは訪れる決定機をGKが防ぐことが、勝利の可能性を高めていく。

 スコットランド、イングランドと対戦する今遠征。特にイングランドはバイエルンFWハリー・ケインという世界屈指の点取り屋を擁する。しかし「試合前に選手の個を理解するのは大事だけど、そこを意識しすぎて変に先入観が入ってしまうのもあまり好きではない」と語る。

特別な対応を意識するのではなく「普段通り」を心がけることが、鈴木彩のスタイルだ。現時点では「まだ完治はしていないので。痛みと付き合いながらやらないといけないところはあります」と、無意識にかけがをした左手にそっと右手を添えた。それでも体の感覚は日に日に上がってきており、リハビリ期間に「できることはやってきた自負がある」と語る

 過去のW杯をひもとくと、優勝国、または躍進を遂げた国には、必ずと言っていいほど、輝きを放ったGKがいた。22年カタール大会は、PK戦にもつれ込んだ決勝のフランス戦で、特徴的なパフォーマンスで優勝の立役者となったアルゼンチン代表GKエミリアーノ・マルティネス。18年ロシア大会は、3位と躍進したベルギー代表GKクルトワが、準々決勝のブラジル戦でネイマールのシュートを防いだ場面などが印象的だ。14年ブラジル大会は、まるでフィールドプレーヤーのようにDFラインの背後をカバーし、GKの概念を変える活躍とも言えたドイツ代表GKノイアーが、母国を優勝に導いている。

 北中米大会で優勝を狙う日本だが、まだその実力は優勝候補に挙げられるチームではない。ただ23歳の今、世界中のビッグクラブの獲得リストにも挙がる鈴木彩は、その名を日本、イタリア以外でも広めつつある。この日の練習後には、スコットランド人の少年が鈴木彩の写真を持ち込み、サインをねだる場面もあった。「まだ復帰していいパフォーマンスは、結果を含めて出せていないので、これからのプレーでリハビリ期間にやってきたことが間違っていなかったというところを証明できたらいい」。その実力が、世界中にさらに知れ渡る日は、もう遠くないはずだ。

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