◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 ひと昔前に「鉄火場の競馬作法 『そのまま』『差せ』の叫び方」という競馬本があった。1998年に出版された作品で、著者は2023年1月に亡くなった藤代三郎氏。

本名の目黒考二、書評家としては北上次郎と3つのペンネームを持っていた方。「外れ馬券に~」というタイトルの20冊以上も続いた競馬エッセーで、ご存じの方もいるのではないだろうか。

 今の競馬場は昭和の鉄火場感が薄れて久しいが、藤代氏が提唱した「競馬作法」は色あせていないと考える。その内容はレース観戦中、例えば「ルメール!」などと騎手名を叫ぶ場合に、シチュエーションごとの正しい掛け声の仕方を紹介するなど、大まじめで妙な解説が続く。一見するとクスリと笑える競馬オヤジのぼやきに思えるが、「競馬作法とは、レースを正確に見ること」と喝破しており、そうでなければ“正しい掛け声”ができないというわけだ。

 他のスポーツでも口汚いヤジは許されないが、気持ちのこもった声援は大歓迎だろう(ジョッキーに聞くと、レース中の掛け声は集中して聞こえていないそうだが)。藤代氏が言うように、それによって「俺はこの馬券が取れた!」と、さりげなく周囲にアピールできるところも競馬のライブ観戦の面白さだろう。

 今週末は毎年のように日本から多くの馬が遠征したドバイ・ワールドカップデーだが、中東情勢悪化により出走を断念する馬が相次いだ。コロナ禍でも骨身に染みたが、競馬作法をうんぬん言えるのも、平穏な日常があってこそだ。(中央競馬担当・坂本 達洋)

 ◆坂本 達洋(さかもと・たつひろ)2006年入社。競馬でドバイ出張は19年に経験。

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