慣れ親しんだ場所なのに、どこかフレッシュな気持ちになれた。1―0の9回2死。

広島・栗林良吏投手(29)は95球目で板山を空振り三振に封じると、高校球児のように雄たけびを繰り返した。元守護神が272登板目のプロ初先発で、1人しか走者を許さない準完全試合。それも、100球未満の完封「マダックス」で成し遂げた。「今日という日を忘れない」。お立ち台で、余韻に浸った。

 7回まで完全投球も、8回先頭の細川に中前打を許した。NPB史上初のプロ初先発で完全試合の偉業を逃したが「ため息が気持ち良かった(笑)」と楽しむ余裕すらあった。昨オフ、新井監督から打診され、社会人以来の先発転向。入団から5年間で通算134セーブをマークしていたが、豊富な球種を生かす意味合いに加え「遊び心」の習得が狙いだった。指揮官は「先発で生き生きといい表情で投げていた」と目を細めた。

 やりがいも大きかった抑え。未練がないのは、トヨタ時代の経験にある。

中日のお膝元だが、社員に広島ファンが多くいた。そのほとんどがペンやカバンなど身の回りのもの全てがカープグッズ。熱い思いに衝撃を受けた。だから原動力は、脳裏に浮かぶファンを喜ばせること。心の底から「チームに貢献したいだけ。ポジションへの欲はない」と言い切れる。

 チームは4年ぶりの開幕3連勝発進。本拠地では前回Vの18年以来で、同じ中日戦と“吉兆”スタートだ。立役者となった右腕は「今日だけだったと言われないように」とフル回転を約束した。昨季は床田の9勝がチーム最多で、32年ぶりに2ケタ勝利はゼロ。ドラフト1位・平川を筆頭に開幕1軍入りした新人4人が目立つが、先発陣には心強い“オールドルーキー”が加わった。(直川 響)

 ▼…栗林(広)は1安打完封勝利。

許した走者は8回先頭に安打された細川の1人だけの準完全試合だった。完全試合は、22年4月10日オリックス戦の佐々木朗希(ロ)まで16人(16度)記録されているが、許した走者1人の準完全試合は、22年6月18日西武戦で1四球の走者だけのノーヒットノーランを記録した山本由伸(オ)以来53人目になる。

 ▼…球団では65年10月2日阪神戦で1与四球だけで無安打無得点の外木場義郎、15年3月28日ヤクルト戦で1被安打だけの初登板完封のジョンソンに次いで3人目になる(ほかに完全試合の68年外木場1度)。

 ▼…球団で100球未満の完封は、24年6月25日ヤクルト戦で91球の完封の森下以来。

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