おじいちゃん、必ず勝つからね―。プロボクシング世界3階級制覇王者・中谷潤人(28)=M・T=は5月2日、東京ドームでスーパーバンタム級の世界4団体統一王者・井上尚弥(32)=大橋=に挑む。

現在、米ロサンゼルスで強化合宿中だが、指導を受けるルディ・エルナンデス・トレーナーの父・ロドルフォさんが今年2月、93歳で永眠した。中谷は15歳の時から孫のようにかわいがってくれた米国の恩人に、ベルト奪取を約束した。

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 尚弥選手との試合に向けて、週3日ほどのペースで実戦練習を続けています。受け入れてくれたチームの雰囲気は変わりませんが、練習の質は、より強度の高いものになっているなと感じます。今、持っている能力をさらに上げていく。試合では、自分が持っている「もの」しか出ないと思うので、それを、より伸ばしていく。あるべき位置に手があったりとか、そういう細かいことを体に染みつかせないといけない。そういうことに重点を置く…というより、そういうことは絶対にできますから。

 ロサンゼルスは中学を卒業した15歳の時から、1人でボクシングの練習を積んだ街。治安は決して良い場所ではなかったですが、当時はそこまでの知識はありませんでした。ロードワーク中に入りこんだ場所で、「ちょっと空気が違うな」なんて思ったことも。それでも怖いという感じはしませんでした。

実際、銃声やパトカーのサイレンなどが聞こえたこともありましたが、ボクシング以外のことを考える余裕はなく、強くさせてもらっているんだから、と動揺がなかったんですね。試合で負けた時に初めてボクシング人生で泣きましたが、そんなことも自分を強くしてくれました。

 16歳の時(2014年)に現役世界王者と一度、実戦練習をさせてもらったことがあります。元WBA世界フェザー級スーパー王者(当時は正規王者)ニコラス・ウォータース選手(ジャマイカ)。激しい打ち合いなどはなく、パンチを打ったらキャッチされたり、タイミングをパッと合わせられたり、打てないようにされたり…。僕はスパーリングの気持ちでも、相手は遊び? でも、悔しくはなく、楽しかった。こういうこともされるんだと、いろいろな技術を蓄えました。プロになる前の経験は、今になっても生きています。

 ワクワクする気持ちが強かったから、全ての経験が新鮮。でも、不安要素が全くないわけではなく、慣れない環境にいる僕を、自分の家に住まわせてくれたロドルフォさん(享年93)の存在は、すごく大きかったですね。僕が「おじいちゃん」と呼ぶロドルフォさんは、指導を受けているルディのお父さん。ルディの弟・ヘナロ選手を元WBA&WBC世界スーパーフェザー級王者に育てた方です。

 おじいちゃんの運転でジムに送迎してもらったり、ジムではミットを持ってもらったり。感情豊かで、車のハンドルを指でトントン鳴らしながら、ずっと口笛を吹いていました。ドラマに出てくる陽気なおじさんみたい? すごく安心できました。洗濯など身の回りの世話までしてくれて、世界王者まで育てた名トレーナーというのを感じさせないような、とても温かく、フレンドリーに接してくれました。僕はたくさんいる孫の一人のようにかわいがってもらいました。

 15歳の僕と同じように、実はメキシコ出身のおじいちゃんも英語は全然、話せなくて…。僕らには合言葉がありました。ジム帰りに(メキシコ料理の)ブリトーのチェーン店に寄っていましたが、ボクシングの時には、僕がいつも注文する料理番号を使うんです。No.9と言われるとジャブ、No.12がアッパーを出す合図。合言葉で教えてもらうと、すごく入りやすかった。僕にわかりやすいようにと、おじいちゃんの工夫が、ボクシングの幅を広げてくれたと思います。食事という意味のスペイン語「comida(コミダ)」は左ボディストレートを打ての指示。

おじいちゃんが「コミダ!」と言うとボディーへ左強打でフィニッシュ。おじいちゃんの決めゼリフでした。

 おじいちゃんは糖尿病が悪化して、91歳の誕生日を前に足を切断する手術を受けました。そういう状況でも、僕がロスに行くと笑顔で迎えてくれました。僕を見ると、車いすの上でも両手を挙げ、ミット打ちの構えを見せる。だから僕もパンチを打つ。それが僕らのコミュニケーション。おじいちゃんもそれを楽しみにしていたと、ルディから聞いてうれしかったですね。

 ルディは、おじいちゃんを東京に連れて来たかったと話していました。ピーナツを見ると、おじいちゃんを思い出します。尚弥選手に勝って、大好きだった日本のピーナツをお供えしたいと思います。

 前回の試合と比べて、今の段階(40日前)での体調というのは、すごくいい感じです。

いい調整ができているので、本当にチームに感謝しています。あとは万全に仕上げて試合に行くだけ。僕が歩んできた道で、関わってきてくれた人たちの思いというのも、たくさん拳に乗っていく試合。そういう思いをしっかり背負って、5月2日は戦いたいと思っています。感謝! 感謝!(世界3階級制覇王者)

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