歌舞伎俳優の中村時蔵が2日、東京・歌舞伎座で初日を迎えた「四月大歌舞伎」(27日千秋楽)の夜の部「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」に出演した。

 戦国時代の武田信玄と長尾(上杉)謙信の争いを軸にした時代物の名作「本朝廿四孝」から八重垣姫の一途な恋を描く通称「十種香」の場面を上演。

舞台上で実際に香が焚かれるなか、恋心を募らせていく八重垣姫は歌舞伎の女形が演じる代表的なお姫様「三姫」のひとつ。すでに「金閣寺」の雪姫、「鎌倉三代記」の時姫を経験している時蔵は初役で八重垣姫に挑み、「三姫」制覇となった。

 稽古で父の中村萬壽から教わり「おおらかで華やかな演目。八重垣姫は歌舞伎のお姫様の中でも特に難役だと思います。父に稽古してもらったことをしっかり意識して臨みたい」と話している。

 舞台中央から花作り蓑作に身をやつした武田勝頼(萬壽)が登場。続いて舞台上手、障子の向こう側に後ろ姿をのぞかせるのは八重垣姫(時蔵)。掛け軸に描かれた許嫁の勝頼を見つめ、一心に弔う。舞台下手の部屋には腰元濡衣(中村七之助)。まるで日本画のような美しい構図と、客席まで漂うお香の香りに観客は一気に「十種香」の世界に引き込まれた。

 掛け軸の勝頼に向かって訴えかける八重垣姫は、しっとりと美しい声。思いを馳せるかのように視線を移ろわせ、募る恋しさに涙を流す。

部屋の外にいる蓑作をひと目見た八重垣姫は、驚き、濡衣に仲立ちを依頼。恥じらいながらも積極的に仲立ちを請う八重垣姫の様子は、恋する乙女そのもの。ついに濡衣は蓑作の正体を明かし、勝頼と八重垣姫は手を取り視線を交わす。

 そこへ長尾謙信(中村芝翫)が姿を見せる。続いて白須賀太郎(中村萬太郎)、原小文治(中村歌昇)が登場し、勝頼を討つよう謙信に言い含められる。悲しみを露わにする八重垣姫に対し、無慈悲に突き放す謙信。情け容赦ない謙信の威厳あふれる姿と、成す術のない八重垣姫と濡衣の悲壮感漂う姿が観客の心を打った。

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