大相撲春場所限りで現役を引退した元幕内・英乃海(木瀬)が3日、東京・両国国技館で引退会見を行った。十両在位は歴代4位の53場所、関取在位も66場所と、長く関取として活躍した。

 会見に同席した師匠の木瀬親方(元幕内・肥後ノ海)は「本当に体がボロボロになってもよくやってくれた。体のケアもしっかりして、そういうところは今の金峰山、美ノ海も見習っていた。下の力士たちのいい見本で、親分肌で、今の木瀬部屋があるのは英乃海たちのおかげ」とねぎらった。36歳まで現役を続けたベテランは、9歳年下の20代記者にとっても兄貴分のような存在だった。

 初めて大相撲担当になった24年春場所の3日目。英乃海は「急性胃腸炎」で休場した。翌日には復帰し、「ちょっと古い野菜」が原因だったことを明かした。本来なら取材は状況説明で終わるところだが、5日目以降も取組後の取材を続けた。「どこで買った野菜だったのか」「なんで野菜を持ち込んだ」など、恐る恐る質問をぶつけた。過去の失態と言えるようなことを掘り起こすような失礼な質問にも、英乃海は笑顔で答え続け、場所の終盤になると「俺のことを気に入ったのか!」と笑った。その大きな器と優しさに、デビュー場所の緊張感も徐々に和らいでいった。

 以降は毎場所、時間があれば取組終わりに取材へ通った。

相撲と関係のない話題を話すことも多かったが、支度部屋でふいに他の力士の取組の映像を見つめる時は真剣な目に。映像を見てから口にする各力士の取り口や傾向は的確で、10年以上関取の座を守ってきたすごみを感じた。

 また昨年1月からは体脂肪と筋肉量の計測を始め、糖質制限をしながらの肉体改造に着手したという。同年夏場所には年始から体脂肪率を3・5%落としつつ、7・5キロの体重の増量に成功した。10月のロンドン公演参加への意欲も口にしており、名古屋場所で再入幕。同場所のけがで秋場所は十両に陥落したため、公演への参加はかなわなかったが、峠の過ぎた36歳が幕内へ戻ることは一見すると難しいことのように思えるが、有言実行してみせた。

 23年の秋場所で幕下に転落した際には、引退を考えたこともあったという。あの時、現役続行を決断していなければ、力士・英乃海を取材することはなかった。取材に行く度に「また来たのか!」と言いながら、向ける優しいまなざしが見られなくなることはさみしい。約2年、英乃海との取材を通して感じたことを胸に、これかも大相撲の取材に臨みたい。(大相撲担当・大西 健太)

編集部おすすめ