今年1月、東留伽(あずま・るか)さん(29)はアナウンサーとして勤めていた大阪のABCテレビを退社した。若手エースとして期待が集まる中、6年弱で会社を去ったのは、自分らしさを追い求めるためだったという。

現在はフリーアナとして活動すると同時に、幼少期から好きだった絵を描くアーティスト、東大大学院生と“三刀流”の多忙な毎日を送る東さんに、新たな人生に踏み出すことを決めた時の思いや今後の目標などを聞いた。(中西 珠友)

 フリーになって半年。「率直に楽しいです。(3月に都内で)個展もあったので結構バタバタしていて、毎日『自分が何者なんだろう』と思いながらも、いろいろな種類の仕事を頂けたので、すごく充実しています」。東さんの吹っ切れた表情からは、不安よりも新しい門出を迎えた前向きさがあふれていた。

 大阪大卒業後にABCテレビにアナウンサーとして入社。半年後には全国のテレビ朝日系で放送されている看板番組の一つ「朝だ!生です旅サラダ」(土曜・前8時)のレギュラーが決まり、早くも注目を集めた。抜てきを喜ぶ一方、戸惑いもあった。「注目されることはうれしかったけど、疲れてしまった。早いかもしれないけど、私的には結構精いっぱいなところがあって、一回(仕事を)離れて、ゆっくり考え直してみたいと思った」。入社4年目の23年、休職を申し出た。

 同年の9月から留学し、フランス・パリを拠点に美術、フランス語、国際政治学、ビジネスなど多ジャンルを履修した。

さらにイラン人画家に弟子入りし、プロの創作活動を間近で見て学んだ。「アナウンサー時代は全然やらなかったビジネスとかリサーチとか、市場の話とか、経済の話をすごく勉強させてもらいました」

 9か月に及んだ休職期間中には退職を考えたこともあったが、「(会社で)自分にできることがあったら続けたいなと思って戻ることにしました」。復職を決めたものの、その頃から人生のレールは徐々に“横道”へそれていく。編成の都合もあって担当番組がすぐに決まらなかったため、空いた時間を有効活用して留学中に興味を持った美学を勉強。東大大学院の入試が唯一、日程的に受験可能だったことから「じゃあ行こうか」と受けたところ、見事に合格した。

 「上司には(受験を)相談しておらず、『東大受かりました』って言ったら、『何やってんだ』と部長にすごい怒られました(笑)」。それでも仕事と学業を両立するため「『土日の夜勤を私がやるので、その代わりに平日2日を休ませてください』って交渉しました」。だが同時期に「局が求めるアナウンサー像と自分が表現したいことのギャップが生じてきてしまった」と再び仕事に対する考え方に変化が起きていく。

 仕事と並行して通う大学院では、美学芸術学を専攻。「人間が何を美しいと思うかの美的判断の基準を考える学問。哲学とかにすごく近い」そうだが、入学後には芸術面においても才能を開花させた。絵画を25年度の二科展に出品したところ、入選したのだ。

 絵との出会いは幼少期に遡る。母の影響で水彩画の教室に通うなど親しみがあったが、情熱を持ったきっかけはニュース番組のロケでアートバーを訪れたこと。「お花の絵を転写したら『すごく色使いが面白くて、センスがあるからやった方がいい』ってアートの先生に褒められて、調子に乗って描き出したっていう感じですね」。息抜きとして休日を中心に、筆を持つ機会が増え「絵の言葉にできない絶妙なニュアンスを表現できることに、私自身がものすごく救われた」とのめり込んだ。

 大学院生とアーティスト、2つの肩書を持ったことで、感じていたギャップは埋まらないものとなっていた。「多少リスクを取ったとしても、独立した方が自分らしく働くことができるんじゃないかなと思ったんです」。部署異動も考えたそうだが、アナウンサーへの未練は残っていた。「別の部署に行ってしまうと、アナウンサーとしての仕事が副業でもできなくなる。それなら外に出るしかない」と、局アナとしてのピリオドを打つ決断をした。

 現在はフリーアナとしてYouTubeチャンネル「美術手帖 アート・インサイト」などに出演する。アナウンサーとアーティスト、一見すると全く異なる仕事だが、「表現する」という意味では同じ。「支離滅裂に思えるんですけど、私の中では意外とつながってくるものだなって思いますね」。

一方で「フリーの女子アナがたくさんいる世界で、仕事をちゃんと取っていくのは、けっこう大変。会社員ほど安定しているわけではないから、私もヒヤヒヤ」と苦労も明かす。

 それでも、後悔は全くしていない。「辞めてでも自分の表現したいこと、辞めた結果、別の可能性が広がることが天秤(てんびん)にかけた時に大きいなら、(フリー転身も)よかったかなって」。ここまでのキャリアを振り返り「やってみないと分からないことはたくさんあると思う。自分が行きたい世界にも行くけど、同時に食わず嫌いもしないっていうのを大事にはしてます」と“まず動く”ことを信条とした。

 今後の目標は「世界を股にかけること」とスケールは大きい。「例えば日本の文化を海外に紹介したりとかをメディア(企業に勤めていた)経験や今までしてきた勉強で学んだことを使ってやっていけたらいいなと思ってます。もちろん、フランスにいた経験も生かせると思います」。アーティストとしては「『ザ・巨匠』みたいな画家になるよりは周りの人を巻き込んで、広くお仕事を生み出していけるような存在になれれば」。これまでの経験全てを詰め込み、世界で羽ばたいていくつもりだ。

 〇…8月には自身2度目の個展「花自在―Entre les mondes―」(12~18日、京都・大丸京都店、19~24日、大阪・Art Beat Cafe Nakanoshima)を開催する。

タイトルにあるように「お花がテーマになるので、いろいろなお花と人間とか景色とかを描いていきたいと思います」。3月の初の個展は大好評だったそうで「たくさんの作品のお迎え(売却)が決まったので、9割は新しいものですね」と、全く雰囲気の違ったものとなりそうだ。

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