世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載20回目。今回は、中国の安徽省にある集合住宅「黄山(ホワンシャン)マウンテン・ヴィレッジ(Huangshan Mountain Village)」(設計:MADアーキテクツ)を紹介する。
絶景の中に生まれた集合住宅「黄山マウンテン・ヴィレッジ」
「黄山」は中国安徽(あんき)省の黄山市黟県(い-けん)西逓(せいてい)鎮にある山で、中国では最も美しい山のひとつと言われている。緑濃き景観と際立った花崗岩の美しい山頂で広く知られている。その類まれなランドスケープは長い間アーティストたちを鼓舞し、彼らに瞑想と熟考の空間を提供してきた。ユネスコ世界遺産の敷地として、人道的なアトモスフィアと、美しく静穏な環境はツーリストの憧れの地となってきた。国際的な建築家集団・MADアーキテクツの「黄山マウンテン・ヴィレッジ」はこうした地域に完成した建築である。

(c)Hufton + Crow
MADによるこの計画は、黄山大平湖のツーリズム・マスタープランの一部となっている。住民に対し現代生活の利便性を提供する一方、MADのデザインはこの文化的に重要な山脈の意義深さを表現している。この地方のトポロジー(地形)を尊重し、個々の建物は高さや外観が異なるものの、オリジナルな山の高さに比例して建設されている。
「黄山マウンテン・ヴィレッジ」は、大平湖に面する山々の南側斜面の広大な敷地約18万9,000m2に配置されている。10棟の延床面積6万9,000m2の建物群によって生み出されるダイナミックな関係は、マウンテン・ヴィレッジの斬新なランドスケープを生み出している。それは建築が自然となり、自然が建築の中へと溶融しているのである。
それぞれの居室に広いバルコニー。景観に溶け込み、山、湖、空との対話が生まれる
「黄山マウンテン・ヴィレッジ」を構成するアパートメントは、全て静穏な隠れ家として考案されている。

(c)Hufton + Crow
インテリア空間を外部へと拡張することにより、広いアウトドア・スペースが生まれた。それにより、住民はただ単に彼らを取り巻く景色を鑑賞するだけでなく、実際にその中に溶け込み、山、湖、空との対話が生まれるのである。ランドスケープ・デザインにより多くの小道が生まれ、人々は森の中や建物同士の間を自由に散歩することができる。
マ・ヤンソン(MADの代表者)によれば、「黄山の大平湖の印象は漠然としている。ここを訪れると、その度に異なる景色が現れ、異なる印象を体験する。それは決して実在しない、古代の風景画のように神秘的であり、むしろイマジネーションと言えるかもしれない。この不可解な感じは常にポエティックであり、それは幻のように不明瞭なのである。住民は単に景色を見るだけでなく、この環境との関係において、内面にある自分たち自身を見るのである。自分自身を観察することにおいて、人はおそらく都市における自分とは異なる自分を感じ始めるであろう」
周囲の自然を賛辞し、住人の幸福度を引き上げる。新しい住まい方の提案
本能的に山のようなランドスケープに起因する、ヴィレッジの静穏なデザイン感覚は、自然というセッティングの中に反映されている。

(c)Hufton + Crow
「黄山マウンテン・ヴィレッジ」は、マ・ヤンソンによる山水都市の哲学の真正な表現である。その意図は、山や水といった自然の形を参照する建築を創造するのみならず、人々が精神的レベルで再結合し、内部的な完成を求める、ヒューマニティの感情を誘発する建築を創造することにあるようだ。