毎年11月、九州の不動産再生や地域の活性化に関わる人々が集まり、DIY・リノベの活動視察のツアーや、最新リノベ事情の情報交換・講演会などを行うイベント「九州DIYリノベWEEK」。2024年11月9日~14日に開催された第11回となる今回は、どんな展開があったのでしょうか。
参加22都市の最新リノベ事情がまるわかり! 各地域の3分活動プレゼンの内容は?
今年で11回目を迎えた同イベントは、国土交通省主催の「第2回 地域価値を共創する不動産業アワード大賞」を受賞し、その活動の広がりがさらに注目を集めています。九州から始まったリノベーションのつながりは、全国に広がるだけでなく、韓国・大田(テジョン)からの参加も実現するなど、その活動の輪は世界へと広がりつつあります。
初日に行われた「全員集合シンポジウム」では、九州DIYリノベWEEKに参加する22都市の有志が、それぞれ3分間で活動内容をプレゼンテーションしました。空き家活用事例や賃貸物件のリノベーション事例、それによりエリアを活性化している事例など、さまざまな最新事例が紹介されました。まずはその一部をご紹介しましょう。

会場となった久留米石橋会館での様子(写真提供/NPO法人福岡ビルストック研究会)
まず、シンポジウムが開催された福岡県久留米市からは、賃貸住宅「H&A Apartmentハンダアパート」のメンバーが登壇しました。駅前に立地しているものの老朽化により空室が増えていた物件を、建物前面をウッドデッキに改修し、敷地内に広場と菜園を設置。これにより「マチと繋がるアパートメント」として再生され、周辺地域までを含めた価値向上に貢献している状況が紹介されました。

人が集まる場とシーンを生み出した半田ビルのウッドデッキ(写真提供/合同会社H&A brothers)

(写真提供/合同会社H&A brothers)
■関連記事:
賃貸大家ユニット・半田兄弟、老朽化アパート再生のカギは「家庭菜園とDIY」! 入居率も30%アップまでの軌跡 福岡県久留米市
福岡県柳川市からは、地域おこし協力隊として赴任したことをきっかけにリノベーションの重要性を感じたメンバーが、空き店舗をリノベして「KATARO base 32」というコラボレーションスペースをオープン。その活動をきっかけに地域住民主体のコミュニティが形成され、そこから次々にDIYリノベによるコミュニティが広がっている事例が報告されました。

地元の言葉で「仲間に入ろう、参加しよう」を意味するKATARO=かたろう。ここを拠点にまちづくりが広がっている(写真提供/(一社)SDGs未来ラボ)

(写真提供/(一社)SDGs未来ラボ)
福岡県北九州市の門司港からのプレゼンでは、戦後まもない時代に建てられ、今では希少となった築75年の49A型といわれる団地の事例が登場。

渋沢栄一にちなんだプロジェクトなので家賃「1万円」。昭和レトロな団地に新しい価値観をもった入居者が集まっている(写真提供/有限会社吉浦ビル)

(写真提供/有限会社吉浦ビル)
いずれも、空き家や古い建物を地域の特性に応じて再生した、DIYやリノベーションの最先端事例が満載のプレゼンテーションでした。
韓国チームの“みんなで取り組もう”DITプロジェクトとは?
九州だけでなく、海外・韓国の事例も。キーワードは、DIY(Do It Yourself 自分でやってみよう)ではなく、DIT(Do It Together 一緒にやろう)。韓国チームの活動プレゼンテーションでは、まちづくり起業家スタジオ「ウダンタンタン」の活動として、Yoon Zoosun(ユン)教授が提案し、CHAE Ahram・アラム代表が引き継ぎ発展させた『みんなで取り組もう』というDIT活動による地域再生プロジェクトの事例が紹介されました。
ソウルで行われるリノベーションの多くは、資金と人材を惜しみなく投じるもので、衰退する地方部では同様の手法では投資回収が難しいのが現状です。そこで、建物オーナーがリノベーションへの投資をすべて負うではなく、それを創作の場として楽しむ人「創作者」が加わり、オーナーとワンチームとなるモデル「DITデベロッパー」を試しているそうです。費用を抑えながらも、自分たちで自分たちの空間をつくり育てるDITプロジェクト。協働・共創してユニークな空間を街につくり、ブランディングし地域価値を高めているという事例は、九州エリアの活性化にも通じる内容です。

DIT活動による地域再生プロジェクトの様子(写真提供/Yoon Zoosun教授)

(写真提供/Yoon Zoosun教授)

(写真提供/Yoon Zoosun教授)
また、アラム代表とともに、DIT活動を推進している韓国 大田(テジョン)の忠南大学建築学科のYoon Zoosun(ユン)教授からは、韓国のDITムーブの背景となっている「NEIGHBORHOOD ARCHITECT(ネイバーアーキテクト)」という概念が提唱されました。
建築家という職業が歴史に登場したのは、近年、わずか200年程度。それ以前は、例えば、画家・彫刻家として知られるミケランジェロは、ローマのサン・ピエトロ大聖堂の建築家でもあり、施工者・工学者でもありました。

NEIGHBORHOOD ARCHITECTの概念を表す図(素材提供/Yoon Zoosun教授)
さまざまな地で「設計」だけ「施工」だけを行うのではなく、まちの中で企画・ブランディングからその施設の運営までを一貫して行う人・役割という概念です。つまり、建築を行うことは、ミケランジェロの頃のように、地域で多岐にわたる活動に関わり価値を生み出すという方向に戻っていくということ。そして地域の建築家の役割は、大きくて美しい建物を生み出すのではなく、自分のまちを美しくて、安全で魅力的な街にしていくことなのです。ミケランジェロの頃と異なるのは、このNEIGHBORHOOD ARCHITECTという概念においては、建築家が建物をつくるだけでなく、ブランディング・経営・広報・運営などさまざまな役割に染み出してもいいし、逆に、建築を専門としていなくてもそういった役割になれる、いわば誰でも建築家になれるということでもあるとユン教授は提唱します。

誰でも建築家になれる時代と提唱(素材提供/Yoon Zoosun教授)
実際、この九州DIYリノベWEEKのイベントに参加し、各地域で活躍しているプレイヤーを見渡すと、もともとの本業が設計だった人もいれば、コミュニティマネージャー、大工さん、大家さん、管理会社、公務員、医師などさまざまな起点からまちと幅広く関わるようになっていった方たちばかりです。
ファンドをベースに、関係人口や小さな商いを増やし地域を活性化するには?
基調講演は、日本の九州外のエリアから。神奈川県鎌倉市を拠点とする株式会社エンジョイワークス代表の福田和則氏が登壇しました。空き家や古民家などの遊休不動産を活用し、地域の人々と共に事業を展開し、収益分配の仕組みをつくっている同社。また、資金調達や人材育成を支援する「ハローリノベーション」などのプラットフォームも運営しています。シンポジウム参加者からは、投資を通じたファンづくりや投資家との密接な関係構築などに強い関心が寄せられていました。
公開討論会では、建築、不動産、大学、行政、職人、学生など幅広い方々が集い、社会変革や協働の重要性について議論が繰り広げられました。

総勢130名が集まった会場の様子。オンラインでも同時配信された(写真提供/NPO法人福岡ビルストック研究会)
11年の活動を振り返って。代表・原勝己さん
「専門家だけじゃない。自分の街をどうにかしたいと考える市民が集う場」
DIYリノベWEEKを立ち上げた原勝己さんは、「リノベーションミュージアム冷泉荘」をはじめ、福岡のビンテージビル再生に取り組んできました。
25年前、経営難に陥った実家の賃貸物件を引き継いだ頃は、業界が細分化されすぎていて、全体像を把握できる人も、相談できる相手もいない状況。“リノベ”という言葉も生まれたばかりで、各地でリノベに取り組み始めた方々とコンタクトをとって情報を共有しながら、約10年かけて福岡ならではの中古ビル再生のビジネスモデルを確立してきました。
賃貸業を始めるまでは、製薬会社で研究開発に従事していた原さんは、研究者時代の経験から「知の共有が業界の進化には不可欠である」という信念をお持ちでした。そんな思いから、「学会のような勉強会的な場をつくりたい」と考え、九州DIYリノベWEEKを設立しました。

イベントを立ち上げ牽引してきた原勝己さん(写真提供/NPO法人福岡ビルストック研究会)
リノベWEEKにあえて“九州”という冠を付けたのは、「日本の端っこ」だからこそ見つかる何かがあるという意味も込めたそう。九州は国内でも有数の人口減少が進むエリアで、空き家、空きビルの宝庫です。そんな中でも、福岡では空き家や空きビルの再生がビジネスモデルとして確立できました。その一方で、福岡への一極集中が進み、周辺地域はさらなる衰退が進んでいます。原さんは、福岡で成功モデルが見えてきたからこそ、九州のさまざまな地域にフィードバックをできる土壌を築く必要があるとも感じていました。
同時期に九州では「リノベーション協議会九州支部」や「リノベーションスクール」なども立ち上がりました。ただご自身としては、「建築じゃない立場で何かやらないと」と自覚されていたそうです。なので、九州DIYリノベWEEKでは、建築や不動産の専門家だけでなく、「自分のまちをどうしたいか」を考える市民が集える場を目指しました。
原さんは、「この組織にはあえて目標や目的も設けていません」と語ります。地域の課題を共有し、語り合いながら解決を探る。
10年続けてきて「そろそろ辞めどきか」という思いもよぎる中、受賞したのが国土交通省主催の第2回 地域価値を共創する不動産業アワード大賞でした。「次の世代のことを思って動く市民たち」が、グランプリを受賞したことは、大きな意義があると感じたそうです。「自分たちのまちは、自分たちでつくる」そんな姿勢を、国も推進していきたいと考える表れでもあるのでしょう。これまで「人の関係性をデザインしてきた活動」が、大きなエネルギーとなって動いているのを感じています。
受賞後、グループのメンバーたちは、積極的にそれぞれの街の首長を訪問して報告会を行っています。活動を形として示すことを通じて、市民の理解が深まり、公民の連携も進みやすくなっています。また、メンバーの中には国土交通省が進める「空家等管理活用支援法人」を取得し、空き家を活用したビジネスの展開を目指すグループも登場しました。さらに、行政ではなかなか難しい市町村を越えたアライアンスを進めるチームも現れるなど、10年を節目に「事業化」が本格化していることを実感しています。
イベントに参加してみて感じたのは、DIYやリノベーションを通じた街づくりはその街や立地、建物の特性によってさまざまで、取り組みも多岐にわたること。人それぞれできることはあっても、一人でできることはなく、街や住民に向き合い、丁寧に紡いでいかなければならないことばかりで、それら活動を継続している参加者の皆さんには素直に尊敬の念を抱きました。経験でしか得られないノウハウをこのように共有できる場は、吉原さんのいう知の共有という点はもちろん、11年にわたる活動の結果、続けている仲間同士が顔を合わせ、いっそう前に進んでいくためのモチベーション機能として大きな影響力を持つようになっていると感じました。
また今年11月、各地域での進化を楽しみに、その動向にはこれからも目が離せません。
●取材協力
NPO法人福岡ビルストック研究会
株式会社 スペースRデザイン
九州DIYリノベWEEK