沖縄県は、他の都道府県と比べての県民一人当たりの所得が低く(沖縄県2022年度県民経済計算より)、多くの人が住まいや生活における問題を抱えているそうです。公営住宅や民間の賃貸住宅への入居においても、沖縄ならではの事情で入居が難しい現実がある様子。

現在、沖縄が抱える住まいの課題や、その支援における課題とは。

沖縄県居住支援協議会・主幹の平良静香(たいら・しずか)さんをはじめとする職員、そして、沖縄県で居住支援(住まいへの入居や入居後の生活支援)に奔走する企業や団体に話を聞きました。

人気リゾート地の沖縄。所得が低く、公営住宅にも入居しにくい住宅困窮地域

日本で1番南にある県、沖縄県。南国のリゾートや観光地としてのイメージがありますが、実際に暮らす人びとに目を向けると、さまざまな問題が潜在していることがわかります。
2020年の国勢調査では、沖縄県の人口は146万7480 人。人口減少が課題となる日本において沖縄県の人口は増え続けているものの、増加の鈍化が見られ、今後は減少に転じると見られています。

沖縄県居住支援協議会の平良さんによると「居住支援協議会の相談窓口に来る人は、全国と同じく高齢者が圧倒的に多いものの、ほかにも低所得や障がいがあるなど、複数の問題を抱えた人がほとんど」だそうです。

県内の一部の地域ではリゾート開発が進み、観光客が大勢訪れますが、沖縄県2022年度県民経済計算では、沖縄県民の一人当たりの所得は全国平均の約7割。所得の低さと失業率の高さが目立ちます。

【沖縄、住宅問題にSOS】低所得・高失業率&リゾート開発で家賃高騰…深刻化する「住宅困窮」どう立ち向かう?

沖縄県民の一人当たりの所得は全国平均の7割程度に留まっていることがうかがえる(資料引用元/沖縄県2022年度県民経済計算)

特に若者の失業率は7.2%に及び、全国の失業率を大きく上回っています。

【沖縄、住宅問題にSOS】低所得・高失業率&リゾート開発で家賃高騰…深刻化する「住宅困窮」どう立ち向かう?

沖縄県では、完全失業率も全国の数字を上回る(資料提供/沖縄県)

沖縄県で住まい探しに困っている人を支援している居住支援法人(都道府県の指定を受け、住宅困窮者の民間賃貸住宅への入居を支援する団体)、ウパンナの和田聡(わだ・さとし)さんのところには、賃貸住宅の建て替え・取り壊しで住まいを無くした高齢者や、ホームレス、DVから逃れてきた母子まで、さまざまな人たちから年に700~800件もの相談が寄せられるといいます。

さらに平良さんによると「沖縄県の公営住宅の入居倍率は全国平均と比較しても高い値(全国:3.4倍、沖縄県:9倍)となっており、競争率が高く、空室がほとんどない状態」だそうです。

沖縄の賃貸住宅は? 住まいに困る人が家を借りられない理由

一方で、沖縄県の2024年地価調査結果からは地価の上昇率は平均で5.9%。国内外から宅地や商業用地の需要が高まっています。不動産が高騰し、持ち家率が年々低下していることとは対照的に、借家率は大都市圏並みに高く、慢性的に賃貸物件が不足。さらに建物の建築費も全国平均より高く(住宅金融支援機構「フラット35利用者調査」2023年度版より)、これらの背景が重なって家賃が高くなっているのが特徴です。

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2018年のデータになるが、沖縄県の借家率は49.5%と全国の 35.6%よりも 13.9%も高く、大都市圏並みの割合。特に30代~40代の世帯では全国平均と大きく開きがあるのがわかる。ちなみに最新の2023年の住宅・土地統計調査(総務省統計局)では沖縄県の借家率は50.7%とさらに借家の多い傾向が高まっている(資料引用元/沖縄県)

居住支援法人として家賃債務保証や住まい探しなどの支援を行っている不動産会社のレキオス 事業本部 本部長 下地雅美(しもじ・まさみ)さんの話では「宮古島などの一部の人気リゾート地は開発が進み、専有面積10平米強のワンルームでも家賃が10万円ほどまでに高騰している」とのこと。観光ニーズの高い那覇市や沖縄市のような都市や宮古島などのリゾート地と、それ以外の離島部や北部の町村では、かなり事情が異なる面もあるようですが、沖縄県の賃貸住宅の稼働率は平均で約95%という高水準を示す調査データ(沖縄振興開発金融公庫「公庫レポート」2024年6月より)もあります。

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宮古島では次々とリゾートホテルが建設。他の都道府県に比べて所得が低く、不動産は高騰しており、借家率が高い。空室もすぐに埋まってしまうため、低家賃で借りられる物件が少ないという沖縄県ならではの事情も(画像提供/PIXTA)

「空室が少なく、家賃の値上げが容易な状況では、家賃を下げてまで住まいに困る人たちを支援しようと考えるオーナーは多くありません。不動産管理会社もオーナーの資産を守るという使命を担っているため、社会貢献まで目を向ける余裕がないのが現実です」(レキオス 下地さん)

沖縄独特の賃貸住宅事情として、連帯保証人と家賃債務保証の両方をつけなければ部屋を借りられないという習慣が根強く残っていること、古くからの沖縄の家には仏壇があり、誰も住んでいなくても親族がお盆などに集まる機会があるため他人に貸し出せないことなどがあります。

また、日常生活に配慮が必要な人が入居して孤独死や近隣トラブルが発生した場合、オーナーや管理会社が頼れる窓口や仕組みがないことも、事情のある人が賃貸住宅を借りにくい要因となっています。

空室が少なく、住まい探しに時間がかかる…沖縄県居住支援協議会の苦悩

沖縄県では行政だけでなく、不動産業界、福祉の支援団体と共に居住支援に取り組んでいく必要性があると考え、2013年に沖縄県居住支援協議会(住まいに困っている人たちのために民間賃貸住宅への円滑な入居を支援する団体が集まる組織)を設立。現在、主幹の平良さんと事務の担当者、そして相談員の3人体制で住宅確保に配慮が必要な人たちの入居を受け入れる民間賃貸住宅(セーフティネット住宅)の登録や、その住宅情報提供、相談業務などを行っています。

相談窓口では、相談員が相談に訪れる人の事情を聞き、県が指定する13の居住支援法人の中から必要なサポートを提供できる企業や団体に紹介する流れです。時には相談員自らが相談者と共に不動産会社に赴き、物件探しに付き添うこともあるそう。

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沖縄県居住支援協議会 主幹の平良静香さん(オンライン取材時の録画をキャプチャ)

しかし相談窓口に来た人たちの対応をする職員は、今のところ相談員一人。多い時には年間230件ほどの相談があったのですが、3カ月以上住まいが決まらないケースもあり「とても一人で対応できる状態ではなかった」と言います。そのため、現在は連帯保証人がいて、かつ敷金・礼金などの一時資金を用意できる人のみ相談を受け付けるようにしているそうです。それでも、年間120件程度の相談に乗っている状況です。近年はさらに相談に来る人の希望に合う空き部屋が少なくなり、住まい探しが長期化する傾向にあります。

連帯保証人の確保や入居後の生活サポート…支援に奔走する民間企業・団体の活動

それでは、連帯保証人を確保できない人たちについては誰が支援しているのでしょうか。
現状は居住支援法人として指定されている民間の企業や団体が個別に対応しているようです。

居住支援法人のひとつ、ウパンナでは、連帯保証人がいないために賃貸物件を借りられない人や、施設への入所ができない人の連帯保証人になる支援をしています。

「身寄りがないという理由だけで入居や入所ができないことは、フェアではないと思うからです。

私がアパートなどの民間賃貸住宅の連帯保証人となっている契約は120件、老人ホームなどで120件、グループホームが100件、入院は20件ほどになります。トラブルや事故を避けるため、入居後の見守りも必須で、何かあれば私が駆けつけます」(ウパンナ 和田さん)

【沖縄、住宅問題にSOS】低所得・高失業率&リゾート開発で家賃高騰…深刻化する「住宅困窮」どう立ち向かう?

入居時の家賃保証人を引き受けるだけではない。入居中困ったことがあれば駆けつける入居後の見守りも行っている。亡くなったときに身寄りがいない、葬儀のお金がない人には和田さんが祭司となって故人を見送ることも(画像提供/ウパンナ)

同じく居住支援法人である不動産会社、レキオスは住まいを借りられずに困っている人たちのために、家賃債務保証会社としてスタートした会社です。社会ニーズに応じて賃貸管理業や公営住宅の指定管理などを開始し、住まい探しから高齢者や障がい者の見守り、遺品整理・残置物処理、子どもの居場所づくりなど、包括的な取り組みを行っているそう。

また、レキオスは、自身が居住支援活動をするだけでなく、行政や不動産会社の人たちに居住支援とは何かを理解してもらうための勉強会を開催するなどの啓蒙活動も行っています。
「沖縄県の居住支援がこれからもっと発展していくには、住宅政策の充実はもちろん、居住に関する知識と現場の意識を広く浸透させたうえで、連携を強化していくことが必要でしょう」(レキオス 下地さん)

【沖縄、住宅問題にSOS】低所得・高失業率&リゾート開発で家賃高騰…深刻化する「住宅困窮」どう立ち向かう?

住まいを借りる側と貸す側、双方が安心して契約できる仕組みをつくるために家賃保証会社としてスタートしたレキオス。現在では、グループ8社で保険事業や通信事業、コールセンター運営、公営住宅の指定管理、子どもの居場所づくりなど、幅広いニーズに応える事業を提供している(画像提供/レキオス)

まだまだ発展途上、まずは行政と企業、支援団体などが連携する仕組みづくりから

借り手がすぐに見つかり、オーナーが空室に悩むことのない貸し手市場であることを考えると「経済的合理性と社会貢献的視点の整合性が取れていないことが、沖縄県の居住支援を難しくしている」とレキオスの下地さんは話します。さらに「その解決のために、行政、居住支援団体、不動産会社が連携を図る自治体単位の『居住支援協議会』の設立を期待している」とも。

「福祉的支援を必要としている人たちが支援につながる仕組み、オーナーをはじめ居住支援に関わる人たちが困ったときに相談できる仕組みも必要だと思います。仕組みをつくるのは行政の仕事ですが、その仕組みを使うのは民間です。当然、私たち民間からの行政へのフィードバックも必要でしょう」(レキオス 下地さん)

居住支援協議会の平良さんも「行政・不動産会社・支援団体の連携もまだ十分とは言えない状況で、まずはお互いを知り、交流を深めることが必要です。

その上で県内を主な活動拠点とする居住支援法人をもっと増やしたい」と語ります。

その足がかりとして2025年1月末に居住支援関係者やオーナーへの情報発信の場「沖縄県居住支援シンポジウム」を、続けて2月には初めて不動産会社と福祉団体が顔合わせした意見交換会を実施しました。住宅と福祉の担当者が互いに理解を深め、連携をとっていけることを期待して、継続しての開催を考えているそうです。

【沖縄、住宅問題にSOS】低所得・高失業率&リゾート開発で家賃高騰…深刻化する「住宅困窮」どう立ち向かう?

2025年1月末に開催した沖縄県居住支援シンポジウムの様子。県外から居住支援のトップランナーを招き、知識や考え方を学ぶ機会に(画像提供/沖縄県居住支援協議会)

【沖縄、住宅問題にSOS】低所得・高失業率&リゾート開発で家賃高騰…深刻化する「住宅困窮」どう立ち向かう?

まずはお互いを知ることから、と2025年2月に初めて開催した意見交換会。行政、不動産会社、支援団体が、それぞれの業務について自己紹介し、ざっくばらんに話し合った(画像提供/沖縄県居住支援協議会)

沖縄県には、空室が少なく入居できる物件が限られていることや、連帯保証人と家賃債務保証の両方がなければ賃貸住宅を借りられないなど、地域独特の事情がありました。行政も支援団体も、それぞれが住まいに困る人を支援につなげようと努力しているにもかかわらず、連携の仕組みが十分でないため、手が行き届いていない状況です。そして、まだ支援につながっていない、表面化していない困窮者も多くいる様子。

今の沖縄の居住支援は、産みの苦しみの中にあると言っていいでしょう。ウパンナやレキオスのような団体・企業が沖縄の居住支援を牽引し、支援体制が充実していくことを期待しつつ、沖縄の住まいの問題を注視していきたいと思います。

●取材協力
・沖縄居住支援協議会
・一般社団法人ウパンナ
・レキオスグループ

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