古材と古道具をレスキューし、新しい価値を見出して次の使い手につないでいく。今や全国的にもその名を知られる「ReBuilding Center JAPAN(リビルディングセンタージャパン)」、通称リビセンが、長野県諏訪市にできてから9年。
特急あずさで2時間強。豊かな水に恵まれた上諏訪へ

諏訪湖の手前に見えるのが、上諏訪の街並み(写真撮影/塚田真理子)
長野県諏訪市は、悠々と水をたたえる諏訪湖の東南部に位置。明治期には製糸業、戦後は精密機械工業で発展した地域です。
諏訪市の中心部である上諏訪(かみすわ)駅までは、新宿駅から特急で2時間強という好アクセス。湯量豊富な温泉地でもあり、各町内会に共同浴場があったり、自宅に温泉を引いている家もあるのだとか。

まちなかの手湯に手を浸してみると、体中がじんわり温まる(写真撮影/窪田真一)

西洋風のデザインで仕上げた看板建築の建物(写真撮影/窪田真一)
上諏訪駅から歩いて5分ほどの甲州街道沿いには、伝統的な看板建築の建物が並んでいます。ここを少し進むと、わずか500mの距離に5軒の酒蔵が立ち並ぶエリア。霧ヶ峰から湧き出る良質な伏流水と清涼な気候風土が、美味なる酒を醸すのです。

上諏訪駅近くの商店街。

諏訪湖周辺は温泉旅館が並ぶ観光エリア。湖畔にはランニングコースやサイクリングコースも整備されている(写真撮影/窪田真一)
こうした昔から変わらない上諏訪に、新しい風景と人の流れが生まれています。その中心にあるのが、今やこのまちに欠かせない存在となったリビセン。2016年の会社設立から続けていること、そして新たな取り組みについて、代表の東野さんに聞いてみました。
自分たちが楽しいと思える場所をつくっていった

元工務店だった約1000平米のビルをリノベーションしたリビセンの建物(写真撮影/窪田真一)
上諏訪駅から徒歩10分のところにある「リビセン」。1階は古材と雑貨のショップとカフェ、2・3階は古道具の売り場に。カフェもあることで、誰でも気軽に入れる雰囲気です。
リビセンは2016年9月に設立。地域で解体される建物などから古材や古道具を買い取り(=レスキュー)、販売することで、環境負荷を減らしてゴミをなくす取り組みを行っています。誰かが大切にしてきたものの価値や魅力を伝えて、新たな担い手に託すこと。そんな素敵な橋渡しをしています。

ワクワクするようなリビセンの入り口。カフェもあり誰でも入りやすい(写真撮影/窪田真一)

レスキューした食器や家具など、4万点以上がところ狭しと並ぶ(写真撮影/窪田真一)

レトロ好きにはたまらない品々も。
レスキューしてきた古材を使ってつくる、オリジナルプロダクトもたくさん。また古材を使って自分で家具をつくってみたい、という人向けに、DIYのワークショップも行っています。ほかにも作家との企画展や、料理人とのイベントなども開催されていて、とにかく楽しい仕掛けが詰まった場所なのです。

レスキューしたガラスや木材でつくるフレームや照明などのオリジナルプロダクト(写真撮影/窪田真一)

古材来店予約をすれば、スタッフに相談しながら古材を選ぶことができる(写真撮影/窪田真一)
これまでのレスキュー件数は3500件以上。リビセンから車で1時間圏内をめどにリビセンスタッフがレスキューに行ったり、地元の方が持ち込んだりするケースも多いです。

リビセン代表取締役の東野唯史さん(写真撮影/窪田真一)
リビセンでは、レスキュー古材を用いた店舗や住宅の設計デザインも行っています。なかでも、地域の空き家を活用してリノベーションする事業を本格化させたのは、2019年のこと。
「前年に北九州でリノベーションスクールの講師をすることになり、空き店舗の再生などを通じてエリアの魅力と価値を高める『エリアリノベーション』の考え方に出合ったことがきっかけ。それまで全国のお店をデザインして作っていたんですけど、良いお店ができても、遠方だとその後僕自身がそのお店を楽しめない。出張も多かったので、もっと家族の時間を増やすためにも、地域の仕事を積極的にやっていきたいという思いもありました」と東野さんは話します。
物件との出合いや、そこで開業したい人とのつなぎ方は、ケースバイケース。例えば2019年にオープンした3件のお店のひとつ「あゆみ食堂」は、もともとは「真澄」の酒蔵である宮坂醸造にゆかりがある建物。
書店「言事堂(ことことどう)」は、妻の華南子(かなこ)さんがSNSで「本屋さん向けのいい物件があるんだけどなあ」と書いたら、興味を持った現店主が連絡をくれて、なんと沖縄から移住してくることに。

(写真提供/ReBuilding Center JAPAN)
基本的に、リビセンでは空き家を積極的に探すことはしていないものの、エリア内でレスキュー依頼があれば、貸す・売るなどしてなにか活用できないか見極め、家主に提案することもあるとか。長年地域のレスキューを行ってきたからこそできる活動です。
そうした物件ありきのケースもあれば、花屋を開きたい女性がリビセンに相談、「太養パン店」の前に空き店舗があったことから「パン屋さんの向かいに花屋さんがあったら最高なのでは?」と考えた東野さんが大家さんに交渉。レコードショップ併設の花屋「olde(オルデ)」が誕生したという、事業者ありきのパターンもあるそうです。

リビセンが発行するマップ。レスキューしたお店の数々を掲載している。これを片手にまちをめぐりたい(写真撮影/窪田真一)
「こうした取り組みを行っているのは、リビセンにとって設計・施工の仕事に結びつくから。そして地域にいいお店が増えてくると、自分たちの1日が楽しくなるから」と東野さん。上諏訪駅徒歩圏内にお店が集まっていることも、観光客にはうれしいポイントです。
「まず、リビセンは駅から歩ける距離につくりたかった。
これまでリビセンが上諏訪エリアでリノベーションに関わった店は10件ほどで、ほとんどがリビセンから徒歩3分圏内という近さです。店主たちは後述の「太養パン店」をのぞいて全員が移住者なのだとか。
実は筆者は5年ほど前、開業したてのお店4件を取材したことがあるのですが、4件とも今も元気にお店を営み続けています。店舗の入れ替わりが激しいご時世において、このまちにしっかり根を張り、まちの人たちの日常に欠かせない場所になっていることに、うれしさが込み上げました。
エリアリノベーションでまちの活性化をめざす「すわリノ」が始動

複合施設「PORTALLEY(ポータリー)」。ウッドデッキはフードコートのような使い方もできる(写真撮影/窪田真一)
2022年には、新たな展開も。リビセンと諏訪信用金庫、地元の不動産会社サンケイの3社で、まちづくり会社「すわエリアリノベーション社」、通称すわリノを設立。エリアリノベーションによって、諏訪エリアの価値を再発見・リブランディングし、まち全体の活性化につなげていくのが狙いです。
「先ほど話したように、諏訪のためにというよりは、ただ自分たちが楽しく豊かに暮らしたいという思いで、これまでいろいろなお店のリノベーションに取り組んできました。そんななか、個人的に気になっていた築90年ほどの四軒長屋があって。
そうして、すわリノの第一弾プロジェクトとして「PORTALLEY(ポータリー)」がオープン。諏訪は昔、船が行き来する運河だったところを埋め立てて細い道を作ったことから、港(port)と小道(alley)を掛け合わせた名前に。1階には、麻婆豆腐の店や古着と菜食ごはんの店など4店舗が入居。2階には事務所やレンタルスペースが連ねています。
このあたりは歩道が狭く、近所の人たちがふらっと集まれるような場所がなかったため、ウッドデッキの中庭的な空間を公園のように開放しています。ベンチやドッグポールもあり、犬の散歩がてらおしゃべりしていく人も。昨年はここで野外上映会も行ったそう。「以前は上諏訪にも映画館があったけれど、今新たに作ることは難しいから、ここで定期的に映画鑑賞会もしていけたら」と東野さん。文化的にもとても豊かになりそうですね。

上映会の様子(写真提供/ReBuilding Center JAPAN)

灯台のオブジェは御柱(おんばしら)で作ったもの。写真の左側では拡張工事が進んでいる(写真撮影/窪田真一)
そしてこちら、港の灯台をイメージして作ったというオブジェは、なんとレスキューした御柱(おんばしら)というパワーワード!
諏訪といえば、7年に1度の御柱祭が行われる諏訪大社のお膝元ですが、諏訪系の神社のほか小さな道祖神でも御柱祭は行われていて、新たな御柱が建つと7年前の御柱を置くスペースがないとのことで、公民館からレスキュー依頼があったそうです。なんだか、神様に見守られているようなありがたさを感じます。
さらに、すぐ隣の空き家だった建物も、6月の完成をめざしてリノベーション工事の真っ最中。「建物の所有者が、お隣の四軒長屋はきっと解体されてしまうと思っていたから、こんなふうに活用されていることを喜んでくれて。『地域のために活用してくれるなら』と、すわリノに連絡をくれたのです」

完成イメージ(写真提供/ReBuilding Center JAPAN)
今ある建物は“デッキ棟”、隣の建物は“トンネル棟”になるそうで、新たなお店も誕生します。もともとあったかわいい窓は残して使う、と東野さん。建物の面影が残るのは、地元の人にとってもうれしいことですよね。
トンネル棟の建物は大家負担ゼロで、すわリノが家賃を払って活用するとのこと。2棟でひとつのスポットとして世界観が確立でき、まち全体の機運も高まることが期待されています。

ウッドデッキ拡張とトンネル開通は完了した(写真提供/ReBuilding Center JAPAN)
ほかにも、PORTALLEY斜向かいの「すわシェアハウス」(なんと温泉付き!)や、1階に新しいスタイルのコンビニ「わざマート諏訪店」が入った「スワマチビル」も、すわリノが手がけています。スワマチビルの3・4階には、2025年7月1日に「mitaya micro hotel(ミタヤマイクロホテル)」がグランドオープン予定。上諏訪の中心部、まわりに楽しいお店が集う好立地にできる宿なんて、ワクワクでしかありません。
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リビセンに共感するように、「自分らしく暮らしたい」人が続々移住

AMBIRD店主の黒鳥さん。コーヒーを日常的に楽しんでほしいからと、定休日なし。7割が地元の常連客だとか(写真撮影/窪田真一)
実際に、諏訪でお店を始めた方たちにお話をうかがってみました。
まずは、2019年にオープンした自家焙煎コーヒーとお茶の店「AMBIRD(アンバード)」店主の黒鳥伸雄さん。黒鳥さんは東京出身で、スペシャルティコーヒー店「オニバスコーヒー」やパンの店「ユヌクレ」などを経て、フリーのロースター、バリスタに。仕事は充実していたけれど、東京のスピード感に疲れてしまい、地方に移住して自身のコーヒー店を構えたいと考えたそうです。
場所は、知り合いが住んでいるエリアで、かつ東京から行き来しやすい距離感のところで探しました。上諏訪を選んだのは、このエリアにスペシャルティコーヒーの店がなかったから。「当時、人が集まるのは観光客に人気の諏訪五蔵と呼ばれる酒蔵くらいで、新しいお店は少なくて。リビセンの東野夫妻とは前から友達で、上諏訪を盛り上げたいと言っていたのを聞いていたから、一緒に楽しいまちにできたら、という気持ちもありました」

ガラス窓から黒鳥さんが顔を出すことも。ドリンクはテイクアウトも可能(写真撮影/窪田真一)

壁に描かれた鳥のイラストは、チョークグラフックアーティストのチョークボーイ作(写真撮影/窪田真一)
建物は、上諏訪に来てたまたま見つけた10坪の売り物件。黒鳥さんひとりで始めるので、目が行き届く10席の店がつくれるちょうどいいコンパクトさでした。内装デザインと古材の調達、左官はリビセンで、大工や水道・電気工事などは黒鳥さんが手配して進めました。
めざしたのは、朝7時からオープンする店ゆえ、店内は明るく。とはいえ真っ白の空間では目が疲れてしまいそうなので、ほんのり墨が入ったような色合いの壁に。「今では焙煎などの煙で経年変化して、店名どおりアンバー(琥珀)のようになりました」。古材でつくったカウンターも、やわらかさとぬくもりが感じられます。

ラテアートが美しいカフェラテ620円、自家製のテリーヌショコラ500円。コーヒーのほか日本茶もメニューに並ぶ(写真撮影/窪田真一)

作業する手元まで見える、フラットなカウンター。古材がいい味わい(写真撮影/窪田真一)

思いがけず焙煎所もつくれてうれしい、と黒鳥さん(写真撮影/窪田真一)
実は、すわリノが手がけたPORTALLEYは、AMBIRDの建物のすぐ裏手。そんな立地関係から、PORTALLEYの一区画を焙煎所として借りられることに。「これまでは1kgの焙煎機を店に置いていたのですが、図らずも焙煎所が作れることになって、店内が広く使えるようになりました。建物に境目がなくドアでつながっているので、直接行き来できて便利です」。拡張したPORTALLEYが完成すれば、ここが上諏訪のシンボル的な場所になるはず、と期待を寄せます。
黒鳥さんが上諏訪に移住して7年目。住み心地はどうでしょうか。
「衣食住の店はなんでもそろっているし、今どきはオンラインでも物は買えるし、不便はなにもないですね。音楽やアートなどのイベント系はやっぱり都市での開催が多いから、気軽に足を運べないというのはありますが。住んでみて、人との距離感がちょうどいいなと感じています。移住者も増えていて、お店もうちがオープンした2019年以降、ここ5年で30件くらいできている。実は、その半分くらいはリビセン以外が手がけているんですよ。リビセンがすべてやっているというわけではなく、バランスよくいろんなお店ができているというのが、またおもしろいんだと思います」
リビセンのまかないから生まれた麻婆豆腐の店が誕生

店名の「どんどん」は千葉さんの愛称から(写真撮影/窪田真一)
次にお話をうかがったのは、話題のPORTALLEY1階に「麻婆食堂どんどん」を開いた千葉夏生(なつみ)さん。千葉さんは実はもとリビセンのスタッフ。岩手県出身で、以前は10年以上古着の仕事をしていましたが、「古着においてリサイクルやリユースの世界はもう成熟していて、自分じゃなくてもできる。そう感じていたときにリビセンの存在を知り、一般の人に向けて間口を広げているのが新しいと思って、飛び込みました」
リビセンではお店づくりや古材レスキューの仕事をメインにしつつ、多いときは15人ほどいるサポーターズ(リビセンに興味がある人が、通常のリビセンの仕事を一緒にしてみるボランティア)とスタッフに提供する、1日2食のまかないを担当。そこで出した麻婆豆腐が評判だったことから、イベント出店などを経て味を磨き、PORTALLEYができたタイミングで専門店を開くことに。
「以前は岩手に戻ってリビセンみたいなお店をやりたいと思っていたけれど、リビセンに7年いて、やりきった感があって。諏訪での暮らしが気に入っていたこともあり、独立して開業することにしたのです」

内装はリビセンの古材を利用して、千葉さん自ら手がけた(写真撮影/窪田真一)

レトロな照明が素敵なテーブル席も1卓(写真撮影/窪田真一)

麻婆豆腐定食1200円~。辛さは卓上の山椒と自家製ラー油で調整できる(写真撮影/窪田真一)
メニューは麻婆豆腐のみで、豚肉で作るベーシックな麻婆豆腐と、食べごたえある鹿肉のミンチを使ったジビエ、凍らせた木綿豆腐を挽き肉に見立てたヴィーガンの3種類。麻婆豆腐限定だからこそ、どんな人でも同じ食卓を囲んで食べられるメニューを作りたかった、と千葉さんは言います。
麻婆豆腐には麹からつくる自家製の甘酒を調味料として使っているそうで、コクのある甘味と旨味のバランスが秀逸! すっかり胃袋を掴まれてしまい、ご近所に住む方が心底うらやましくなりました。

PORTALLEYのウッドデッキから店内へ(写真撮影/窪田真一)
移住してきた7年前と比べて、上諏訪に個人店が増えていて楽しい、と千葉さん。「上諏訪駅から歩けるエリアに、飲食店だけでなく古本屋や花屋さんなどもできて、選択肢が増えた。かと思えば80歳のおばあちゃんが一人でやっている昔からのお店も健在で、そのミックス感が魅力だと思います。リビセンからまちが楽しくなっていく勢いみたいなものが、最近では成熟のフェーズに入ったような気がしています」
創業100年超の老舗パン店が、リビセンデザインで現代風に

3代目と4代目で切り盛り。スタッフはパート含め30名以上。最近神奈川から移住してきた人も(写真撮影/窪田真一)
最後は、リビセンのすぐご近所にある「太養(たいよう)パン店」へ。店に入ると、大きな造作ショーケースに並ぶたくさんのパンが迎えてくれます。シンプルでモダンな内装と対面式の販売スタイルが、一見新しいお店のように感じますが、創業はなんと1916年。来年110周年を迎える老舗のパン屋さんです。
3代目オーナーシェフの奥村透(おくむら・とおる)さん(写真右から2番目)によると、2020年、コロナ禍で店を休業するタイミングで、リビセンにリノベーションを依頼。古材を生かしたショーケースを造作してもらい、セルフ式から対面式にチェンジしました。奥の壁にあしらった古材は、上部は麦の穂、下部はパン生地をこねる職人の手をモチーフにしたもの。床には、もともと奥村家にあっていつか何かに使いたいと思っていたイタリア製タイルを用い、かつて縁側にあった木材を目地に。
ちなみに、当時リビセンでリノベーションをメインで担当したのが、「麻婆食堂どんどん」店主の千葉さんだったそうで、「どんどんの最高傑作の店がうちなんです」と奥村さん。みんなつながりあっていて、おもしろい!

セルフ式から対面式にして、お客様とのコミュニケーションが増えたという(写真撮影/窪田真一)

「向かいの元和菓子屋さんには花屋ができた。自分の好きでまちが盛り上がっているのがうれしい」と奥村さん(写真撮影/窪田真一)
そんな太養パン店には、地元の人とおぼしき年配のお客さんや観光客が次々と訪れ、たくさんのパンを買っていきます。
「週末は県外からのお客様が8割。観光の方は特にたくさん買ってくださって、客単価は2000円以上。頼まれてきてシェアしたり、おみやげにしたりするみたいですね。もともと、僕が子どものころは、この一帯は個人商店がなんでもそろっていて、村部からも買い物に来るようなにぎやかなまちだったんです。でもスーパーなどの大型店に押されて、時代とともに典型的なシャッター街に。10年くらい前まで高齢者しか歩いていなかった。だけどリビセンができて、空き店舗を利用して若い人が開いた個人店が増えて、コロナ禍のあとくらいから、まちを歩く若い人たちが本当に増えた。新しい時代の流れですよね。我々はものを捨てまくってきた世代だけど、古いものを捨てずに大切に使っていこうという文化が、今の時代にマッチしているんだと思います」
上諏訪に空き店舗はまだ多いから、ポテンシャルはある、と奥村さん。
「リビセンや『すわリノ』が空き店舗のコーディネートをしてくれて、まちなかからムーブメントが生まれていますよね。うちの父の代の友人たちが大家なんだけど、そうやっていい前例ができると貸しやすいし、信用できる人が来てくれてよかったと、みんな喜んでいます」

BBQでサンマの炭火焼きにバゲットを合わせたところ大好評だったことから生まれたメニュー「サバサンド」690円ほか(写真撮影/窪田真一)
上諏訪のまちにはリビセンが放つ「暮らしを楽しむ」エネルギーにあふれていて、そこに引き寄せられるように移住してきた人が多いのがとても印象的でした。「徒歩圏内に自分がほしかったお店がいくつもあるから、もう東京に行かなくていい」という移住者の声も。地域資源を活用したエリアリノベーションで、歩いて楽しい、住んで豊かになれるまちが整いつつあると実感しました。
意外だったのは、リビセンがつくったムーブメントに呼応しながらも、リビセンが関わらない独自のお店も近年増えているということ。世界観に共感できない人はまちに入りづらい、気まずいというような空気感はなく、まちとして多様化し、バリエーションが増えるのもまた、素敵なことだと感じました。
一方で、リビセンではこれまで培ってきたノウハウをオープンソース化して、取り組みやカルチャーを広める活動も行っています。全国各地にリビセンのようなお店ができ、地域資源を使い継ぐことが当たり前になれば、日常はもっと豊かになることでしょう。そんな近い未来に胸が躍る気持ちです。
●取材協力
ReBuilding Center JAPAN
すわエリアリノベーション社
AMBIRD
麻婆食堂 どんどん
太養パン店
mitaya micro hotel