年々暑くなる日本の夏。特に住宅性能がまだまだ十分でないことが多い賃貸住宅においては、家の中での熱中症対策が不可欠です。

エアコンで涼しさを保とうと思っても、気になるのは光熱費。悩ましい問題です。
そこで今回は、賃貸住宅の暑さ対策DIYを紹介します。地方公務員として公共施設の断熱化などに携わる傍ら、その専門性を生かし、知識と技術で自宅や知人宅の断熱化に取り組む梅木亮(うめき・りょう)さんに、DIYでできる住まいの暑さ対策を聞きました。

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暑さ対策は「断熱」と「遮熱」の違いを知ることから

日本の夏は年々暑くなっています。今年はとくに梅雨も雨が少なく、6月の平均気温は過去最高を記録しました。7月末から8月前半にかけて、地域によっては40度前後の酷暑になる可能性もあるとされています。

ここまで暑いと懸念されるのは、熱中症の発症です。総務省消防庁によれば、熱中症による救急搬送者(2024年)のうち38.0%と、約4割の方が住居内で熱中症を発症しています。また熱中症だけでなく、脳梗塞の発症数は夏が最も高く、夏の暑さは子どもの体調悪化や集中力低下にも繋がるというデータもあります。

寒さ対策については「住まいの断熱」が話題になりましたが、暑さ対策には「断熱」のほか「遮熱」についても知る必要があります。

「熱の伝わり方は、熱伝導・放射・対流の3つに大別されます。『断熱』というのは熱伝導を少なくすることで、室外の暑さ(熱)を室内に伝えないためのものです。

一方『遮熱』は、放射熱の室内への侵入を防ぐためのものです。簡単にいえば、遮熱は日差しを反射させ、室内に取り込まないための施策ということですね」(梅木さん、以下同)

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

(画像作成/SUUMOジャーナル編集部)

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

(画像作成/SUUMOジャーナル編集部)

夏は気温が高いことに加え「日射」による影響から室温が高くなることもあります。したがって「遮熱」により室内の温度上昇を抑えることができます。

まず、一定の長さの軒や庇(ひさし)がある場合は、夏の暑い日差しが室内に侵入してくることはありません。

「『窓の高さ:軒や庇の長さ』が10:3程度であれば、夏の高い日差しは避けられ、冬の低い日差しは取り込めるといわれています。
たとえば窓の高さが2mであれば、60cm強の軒や庇がある、あるいは上層階のバルコニーがせりでていれば、冬は日差しを取り込みながら、夏の暑い日差しが室内に侵入してくることは防げます。ただし、これは南向きの部屋に限ってのことです。東西の日射は高度が低いため、東向きの部屋、西向きの部屋、そして庇や軒、上層階のベランダがない部屋は、夏の暑さ対策として『遮熱』が効果的ということになります」

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

日射の影響を受ける窓については、基本的に軒・庇と日射遮蔽部材の組合せによって外部での日射調整が図られる(画像出典:国土交通省「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド」)

既存の建物への遮熱の手段としては、窓に遮熱効果のあるブラインドやレースカーテンを取り付けたり、窓自体に遮熱フィルムなどを貼ったりする方法が考えられます。しかし、室内側でできる対策による効果は限定的だと梅木さんはいいます。

「日射を『1』としたときに室内にどれだけ侵入するかを表したものを『日射熱取得率』といいます。断熱といえば『窓』を高性能なものにするのが有効ですが、単板ガラスを複層ガラスにしたとしても、日射熱取得率はわずかに低下するだけです。また、室内にブラインドやレースカーテン、障子などを取り付ければ一定の効果が見込めますが、普通の単板ガラスだと日射熱取得率は『0.5』前後です。

つまり、半分程度の日差しは室内に侵入してきてしまうのです。一方、室外に外付けブラインドを取り付けると、普通の単板ガラスであっても日射熱取得率は『0.19』にまで低減します。つまり、遮熱をしたいなら室外側で太陽の光を遮るのが最も効果的です」

ガラスの種類なしレースカーテン内付ブラインド紙障子外付ブラインド普通単板ガラス0.880.560.460.380.19熱線反射ガラス(熱反2種)0.480.380.340.310.12熱線反射ガラス(熱反3種)0.350.310.280.250.12熱線吸収ガラス0.680.470.410.350.15出典:国土交通省「開口部の日射熱取得性能および 断熱性能の評価方法に関する調査(鹿児島大学大学院・YKK AP・日本板硝子・三協立山アルミ・LIXIL・鹿児島TLO)

また「体感温度」は室温だけで決まるわけではなく、窓や壁、床などの表面温度が大きく影響します。簡易な計算方法としては、「(窓や壁、床など表面温度の平均+室温)÷2というものがあります。たとえ20度の室温でも、壁や窓の表面温度の平均が40度であれば体感温度は30度ほどになります。日射や外気に触れ窓や壁が温まると、実際の室温より暑く感じられるため、夏場に日差しが入る部屋で快適に過ごしたいのであれば、遮熱に加え断熱により壁などの表面温度を下げることが求められます。

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

同じ室温であっても室内の表面温度によって体感温度は異なる(画像出典:国土交通省「断熱性に優れた住宅の快適性」)

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

(画像作成/SUUMOジャーナル編集部)

賃貸住宅でもできる遮熱DIY

遮熱するなら外付けのブラインドが効果的とはいえ、高層階やベランダがない窓の外側にブラインドやすだれを付けるとなると、落下の危険性があり、そもそも管理規約や賃貸借契約で禁止されていることも少なくありません。そこで梅木さんに、賃貸住宅や集合住宅でも効果的に遮熱できて、なおかつDIYで比較的手軽に取り入れられる方法を聞きました。

「本来、室外側の窓に遮熱対策を施したい。だけど安全上や規約上それが叶わないとなると『内窓+遮熱ブラインド』が最も効果的だと思うんですよね。内窓とは、既存の窓の内側に取り付けるもので、室内側かつ簡単に取り外せるため、賃貸マンションや賃貸アパートでも施工できます。近年は、簡単に作れるキットも販売されているのでDIYも可能です。遮熱ブラインドを取り付けるのは、内窓と既存の窓の間です。

これにより、外付けではないものの、外付けブラインドと同じような遮熱効果を期待できます」

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

説明書に従って部材をカットし、はめ込むだけで内窓を取り付けられるキット(画像提供/梅木さん)

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

左/内窓を取り付ける前、右/DIYで内窓を取り付けた後(画像提供/梅木さん)

既存の窓と内窓の間に取り付けるのは、遮熱ブラインド(奥行きが足りなくて設置できない場合もある)だけでなく、遮熱効果のあるカーテンやアルミシートなど(奥行きがなくてもツッパリ棒が収まればOK)でも効果が期待できるのだとか。ただし、冬は日射を遮断すべきではないため、簡単に開け閉めのできるブラインドが最も汎用性が高いといいます。

内窓キットや遮熱ブラインド(アルミブラインド)などの参考価格は、以下のとおり。DIYで中程度の大きさの「内窓+遮熱ブラインド」を取り付ける場合の費用は1万2,000円弱です。

商品名参考価格内窓フレームキット内窓フレームキット中窓用(縦915mmまで・幅1830mmまで)5,980円(CAINZ)内窓にはめ込むポリカ中空ボード【CAINZ-DASH】光 ポリカ中空ボード 乳白半透明(910mm×1820mm)2,918円(CAINZ)遮熱ブラインド(アルミブラインド)アルミブラインド ホワイト 幅88×高さ183cm2,980円(CAINZ)HOPPVALS/ホップヴァルス 断熱ブラインド(60×155cm)2,499円(イケア)遮熱カーテン遮熱・ミラー レースカーテン ストライプ100×175cm 2枚組1,980円(CAINZ)アルミシート100円均一ショップでも購入可能110円~遮熱カーテンなどを取り付ける突っ張り棒100円均一ショップでも購入可能110円~

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【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

イケアの断熱ハニカムシェードも人気が高い。HOPPVALS/ホップヴァルス 断熱ハニカムシェード(60×155 cm)2499円、(80×155 cm)2999円(税込)(画像提供/イケア)

「断熱」は夏も効果的!高騰する光熱費の削減にも

断熱は「あたためるためのもの」、つまり冬にしか効果がないと思っている方も多いかもしれませんが、暑い夏は住まいの温度上昇を抑える効果に期待できます。

「断熱性や気密性を高めるというのは、部屋を『魔法瓶』のようにすることと同じです。魔法瓶には、冷たい飲み物を冷たく保つ効果もありますよね。同様に、住まいの断熱をすることで外から熱が入りにくくなり、冷やした空気も外に漏れにくくなることから、冷房効率の向上、結果的に、近年高騰している光熱費の削減にも期待できます」

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

夏の冷房時に開口部から熱が入る割合は73%(画像出典:一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会)

夏の冷房時に室内に入ってくる熱のうち、7割以上が窓などの開口部から侵入しています。したがって、断熱するなら窓が最も効果的です。賃貸住宅は天井や壁などをDIYしにくいということもあって、やはり断熱対策をする場合も基本的にはまず「窓」ということになります。

「遮熱対策として紹介した内窓やブラインドは、断熱効果も高い施策です。ただ、断熱を目的とするのであれば、アルミブラインドではなく『空気層』があるブラインドがおすすめです。

空気は、熱を伝えにくい物質の代表格ですからね。内窓は既存の窓との間に空気層があるからこそ、断熱効果が高いのです。

夏の日差しが入りやすい部屋は『内窓+遮熱ブラインド』を取り付けて、夏は遮熱ブラインドを閉めて日光を遮り、冬はブラインドを開けて日の光を取り込めば、季節ごとに窓周りを変えることなく快適に過ごしやすいのではないでしょうか」

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

空気層のあるハニカムシェードを取り付けた窓(画像提供/梅木さん)

窓以外にも、梅木さんはDIYで玄関のドアやタイル、居室の床などの断熱化もしているといいます。どのDIYもホームセンターや100円均一ショップなどで調達できるアイテムを使っており、梅木さん自身も賃貸マンションにお住まいで、賃貸住宅や集合住宅でも施工可能な方法を紹介しています。

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

左/DIY前のリビングの床、右/DIY後のリビング。既存の床に木材を敷き詰めるだけでも一定の断熱効果が期待できるという(画像提供/梅木さん)

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【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

既存の窓と内窓の間に遮熱ブラインドを設置することが難しい場合は、突っ張り棒を活用して遮熱シートを吊るすだけでも遮熱効果が期待できる(画像提供/梅木さん)

【夏の暑さ対策DIY】1万2000円、賃貸でもできる! 断熱・遮熱UP&電気代の節約テクを専門家が解説【内窓など】

(画像提供/梅木さん)

「遮熱+断熱」で暑い夏を乗り切ろう

冬の寒さに加え、夏の暑さ対策として有効なのも基本的には「断熱」です。ただし、西日、東日が入る部屋、軒や庇が短い部屋については、遮熱対策も検討してみましょう。最後に、遮熱DIYの注意点を梅木さんが教えてくれました。

「日射は、夏は避けたいものですが、冬は積極的に取り入れたいものです。また、遮熱すると室内の明るさが損なわれてしまいがちです。ガチガチに遮熱対策をして快適性を損なわないよう、季節や明るさ、見た目、費用などのバランスを考え、試行錯誤しながらDIYにチャレンジしてみていただきたいですね」

●取材協力
梅木亮さん
YouTube「賃貸でもできる断熱DIYチャンネル」

●画像・データ出典
国土交通省「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド」
国土交通省「開口部の日射熱取得性能および 断熱性能の評価方法に関する調査」
国土交通省「断熱性に優れた住宅の快適性」
一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会

●記事中で紹介した商品
■内窓フレームキット 内窓フレームキット中窓用(縦915mmまで・幅1830mmまで) 5,980円(CAINZ)
■内窓にはめ込むポリカ中空ボード 【CAINZ-DASH】光 ポリカ中空ボード 乳白半透明(910mm×1820mm) 2,918円(CAINZ)
■遮熱ブラインド(アルミブラインド) アルミブラインド ホワイト 幅88×高さ183cm 2,980円(CAINZ)
■HOPPVALS/ホップヴァルス 断熱ブラインド(60×155cm) 2,999円(イケア)
■遮熱カーテン 遮熱・ミラー レースカーテン ストライプ100×175cm 2枚組 1,980円(CAINZ)
■アルミシート 100円均一ショップでも購入可能 110円~
■遮熱カーテンなどを取り付ける突っ張り棒 100円均一ショップでも購入可能 110円~

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