世界が認める日本製、といえば、自動車、アニメ、家電などが思い浮かぶ。実は「まちの開発」もここ数年で存在感を増しているものの1つ。

今回注目するのは、ベトナム。経済成長を背景に、住宅需要が劇的に拡大しているのだ。ベカメックス東急が、その親会社、東急の代表的なまち開発である「多摩田園都市」のまちづくりを“輸出”、野村不動産など日本のデベロッパーが複数の大規模都市開発事業に参画しているなど、話題に事欠かない。今、どのような局面を迎えているのか。現地に向かった。

ベトナム、急成長で激変。10年で何が起きた?

急激な経済成長を遂げている国、ベトナム。その注目度は高く、アメリカや中国、フランス、ロシアといった世界中の首脳が頻繁に視察に訪れているほどだ。

2025年5月末、ベトナム最大の都市であり、経済の中心地であるホーチミン市を訪れた。今回取材した野村不動産ベトナムのオフィスがあるのは、市の中心部に位置する21階建ての高層ビル。外を見ると、このビル以外にもたくさんの高層ビルが立ち並んでいた。

ベトナム担当になってから約10年になる、野村不動産ベトナム 社長 東 伸明(ひがし・のぶあき)さんは「当時ホーチミンの郊外エリアは高層ビルや高層マンションはまだ少なかった。

この10年でベトナムは本当に変わった」と振り返る。

【ベトナム現地ルポ】マンション価格が5年で爆上がりエリアも! 日本も参画、10年で激変したマンション市場の最前線

野村不動産ベトナムのオフィスから見た市街地。写真中央は、フランス統治時代に建てられた「ホーチミン人民委員会庁舎」。市の行政機関が入居している。その前から目抜き通り「グエンフエ通り」が延びる(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【ベトナム現地ルポ】マンション価格が5年で爆上がりエリアも! 日本も参画、10年で激変したマンション市場の最前線

アジア各国はここ30年で都市化率が緩やかに上昇してきたが、今後20年でさらに加速すると見込まれている。ベトナムの都市化率も右肩上がり(出典:野村不動産ベトナム)(※試算については記事末を参照)

「ベトナム全土で見た時に、住宅は基本的には一戸建てを含む低層住宅がメインです。しかし、都市化と中間層の拡大による急速な住宅需要の高まりを受けて、ここ10年で伸びているのがコンドミニアム(マンション)市場。まだまだ若い市場です」

ベトナムの人口は約1億30万人(※1)、平均年齢は32.4歳(※2)と非常に“若い国”と言われている。また、GDP(国内総生産)もここ5年で平均5.2%で成長を続けており(コロナ禍の停滞を含み、最も成長率が高かった2022年は成長率8.0%)、今後も持続的な成長が見込まれているという。

※1:2023年時点、越統計総局調査
※2:2021年時点、JETRO 教育(EdTech)産業調査

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ベトナムのGDP成長率、一人当たりの名目GDPともに上昇傾向。2050年には人口は日本を抜く、という予想も。平均年齢の若さもあり、今後の市場拡大が期待されている(出典/ベカメックス東急「ベトナムファクトブック」)

2016年時点では低所得者層(1世帯当たりの年間可処分所得4999USドル以下)が60%を占めていたのに対し、2021年時点で低所得者層が46%まで減少。

代わりにマンション購入が可能な富裕層寄りの中間層(アッパーミドル層・1万5000~3万4999USドル)と富裕層(3万5000USドル以上)が、あわせて8.5%まで伸長した(2016年時点は4.9%)。
富裕層寄りの中間層の拡大により、マンション購入のニーズが高まっているというわけだ。

「今マンション購入をしているのは、中間層や富裕層寄りの若年層です。一方で、40代以上や、富裕層は高額な一戸建てを求める傾向があります」

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ローワーミドル層だけでなく、アッパーミドル、富裕層も割合が増えている(出典/東急「ベトナムファクトブック」)

2010年代、日本企業が一斉に参画

そんなベトナムの不動産市場に日本企業が参入し始めたのは、2010年ごろ。当時、日本国内の不動産市場はリーマンショックに伴う、不動産ミニバブルの崩壊で縮小傾向にあり、閉塞感を抱えていた。一方で、成長著しいアジア市場は、まさに“金脈”。ゴールドラッシュがごとく、多くの日本企業が期待をもって進出した。

「時代はまさに“ベトナムブーム”でした。ピークは2016年。2015年から2017年までの3年間で約30社の日系企業が投資をしました。しかし驚くことに現在も投資を継続している企業は片手で数えられるほどです。つまりほとんどの日系企業が1件目のプロジェクトだけで撤退し、2件目も参画するぞとはならなかった。これが大きな特徴です。


また、ベトナムのマンション市場はまだまだ安定しておらず、年によっては地元企業の『Vinhomes(ビンホームズ)』などが圧倒的なシェアを占めることもあります。日系企業以外の外資系では、シンガポール企業の勢いも増しており、他にもマレーシアやカザフスタンなど多様なプレーヤーが活躍しています」

■日系企業とパートナー(ローカル・外資系デベロッパー)一覧

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■東南アジア(※)における日系デベロッパーの住宅事業への進出状況
※タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、カンボジア、ラオス 合計9か国への参画数

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2010 年から驚異的に拡大、2016 年にピークを迎えた。拡大が続くと予測されていたが伸び止まり、コロナ禍期間に突入。コロナ後も回復できていない(野村不動産ベトナム調べ)

事業継続ができず、撤退した理由はいくつかある。
不動産開発には、土地を取得した後に、開発を行うための許認可、設計、工事、販売、引渡しなどの幾つかのフェーズが存在する。その中で、事業継続の最も大きな障害となったのは「許認可プロセスの複雑さ」。多くのプロジェクトで許認可が停滞し、事業停止、結果投資が回収できない、もしくは大きく遅れるケースが少なくなかった。

次は、「市場の理解不足」。調査会社や公の統計データ等、机上の市場調査を過信し本質的な現地理解が不足、その結果現地のニーズと乖離する事例。例えば、日本では一等地と思われるようなところでも(例えば日本でいう駅前など)ベトナムでは必ずしも価値に結びつかない。そういった現地の文化や慣習、都市構造といった一見すると目には見えない“深層”を理解せずに投資を行った企業は少なからず撤退した。

そして、「パートナー戦略の甘さ」も東さんは挙げる。

「ベトナムでの事業展開には地元企業との連携が不可欠。良いパートナーを見つけられないというのは論外だが、たとえ素晴らしいパートナーであったとしても、事業理解が浅い状態で全ての対応を盲目的にパートナー任せにする姿勢では、浮き沈みの多いこの市場を乗り切ることができない。不測の事態が起きた時、真っ先に切り捨てられるのは誰か?われわれ外国人投資家です。これがパートナーと適切な関係性をうまく構築できず失敗に終わってしまう典型例」

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「ベトナム市場での事業継続と拡大には、優秀な現地人材の確保と育成が不可欠」と東さん。土地の取得から引き渡しまでの全てのフェーズにおいて、経験と知見の深いベトナム人こそが解像度高く力を発揮できるという。一方で狭い業界の中では優秀な人材も限られており、優秀なローカル人材の獲得競争も激化しているそうだ。写真は現地スタッフ交えての1枚(写真提供/野村不動産ベトナム)

日本企業、ベトナムでのまちづくり参画例

ベトナムのマンション市場は地元企業「ビンホームズ」一強時代から、地元企業・外資も交えた戦国時代へと変化しようとしている。さらにはシンガポール系デベロッパー(キャピタランド、ケッペル・ランドなど)や、他の外資系も強い存在感を示し、日系企業もその中で奮戦中。
日本企業の「ジャパン・クオリティ」のブランド価値は、現地のデベロッパーからも高く評価されている。

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ここでは日本企業というだけで、他の海外トップ企業とも対等に交渉できる優位性がある、と東さんは話す。「過去の日本企業の努力と信頼感の賜物です」(東さん)(立っている人のうち右から4番目が東さん)(写真提供/野村不動産ベトナム)

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ベトナム人の“生活の脚”といえばバイク。街中を走るおびただしい数のバイクも、ほとんどが日本製。「ホンダ」をはじめ、「カワサキ」「ヤマハ」など日系メーカーへの支持は厚い(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

かつては拡大する住宅需要に応えるために大量生産が求められていた。

現在、住宅需要は「量より質」へ転換しつつあり、品質やデザイン、コンセプト(世界観)にこだわった物件が市場で高く評価されるようになっているそうだ。

高品質な建築技術、丁寧な仕上げ、高いデザイン性、コンセプト力、そして地震や火災への配慮といった「日本製マンション」の強みが評価されている。

さて、ここでベトナムにおける日系企業として、今回見学した4つの事例をご紹介する。

まずは、野村不動産と三菱商事が参画している、ベトナム最大手の不動産デベロッパー「ビンホームズ」による全体敷地271haの大規模タウンシップ開発「Grand Park プロジェクト」。住宅だけでなく、商業施設、教育機関、医療施設、公園などを複合的に整備する、2018年に始まった一大プロジェクトだ。

ホーチミンの中心部から直線距離で約20km(東京でいうと、東京駅から川崎駅や船橋駅あたりまでの距離)の場所にある。
区画ごとに段階的に開発が進められていて、野村不動産は特に分譲住宅事業の第2期および第3期開発フェーズに関わり、総戸数約2万戸超を供給している(竣工・引渡しは2022年から2026年にかけて順次行われている)。

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「Grand Park プロジェクト」は、ホーチミン市から直線距離で約20km、交通利便性も高いエリアにある。共用部には商業施設や公園など環境が充実。年中暖かい気候のホーチミン(南部)では、共用部にプールが欠かせない。取材時もにぎわっていた(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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敷地内には鳥居や石橋がかけられた和風庭園が。写真撮影をする人々も見られ、のどかな雰囲気(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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ビンホームズ属するビングループが手掛ける大型商業施設「ビンコムメガモール」や人工ビーチ、大型公園なども同じ大規模開発内に存在(撮影/野村不動産ベトナム)

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(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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道路上では食べ物を売る屋台もたくさん並び、平日にもかかわらずお祭りのような雰囲気(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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大型公園に併設されている遊園地「VinWonders」(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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(撮影/野村不動産ベトナム)

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VinWonders前では路上で大道芸も行われ、観客が集まっていた(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「Grand Park プロジェクト」がファミリー層をターゲットにしている一方、ホーチミン市7区で台湾資本の大手デベロッパー、フーミーフン社が主導で進める大規模都市開発エリアは富裕層向け。

都心から少し離れているが洗練されている、自然も多い高級エリアだ。
2つ目の事例となるこちらは、現地企業の経営層や高度専門職、ベトナム在住の外国人などがターゲットで、大型ショッピングモールや、国際見本市などの大型イベントが開催されるコンベンションセンターがある、日本では見られないタイプの高級ニュータウン。
しいて言うならば、自然がありながらもマンション、オフィス、さらに商業施設あるという点は二子玉川エリアと近いかもしれない。さらにゲーテッドの(ゲートで囲まれた)超高級戸建街区まで開発されている。同エリアには日本人学校があり、多くの日本人ファミリーも住んでいる、加えて複数のインターナショナルスクールや韓国人・台湾人学校もあり、国際色豊かなエリアでもある。
大和ハウス、野村不動産、住友林業は、このエリアを開発したフーミーフン社と共同で、コンドミニアムプロジェクトを行った。

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(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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富裕層には一戸建てが人気。豪邸が立ち並ぶ(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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川沿いにショッピングエリアが広がる(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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ベトナムでは高級百貨店として駐在マダムやベトナムマダムたちに人気を博している高島屋と双璧をなす、高級ショッピング施設「クレセントモール」(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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エルメス、ディオール、アルマーニなどハイブランドもそろう(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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地下にはイオンが。今、イオンはベトナムの“いい品物がそろうちょっと高級なスーパー”という位置づけ。ベトナム中に出店している(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

東急は、ホーチミン市の中心部である1区内でオフィス賃貸事業を行っている。3つ目の事例であるこちらは、2023年11月に竣工したオフィスビル「The Nexus(ザ・ネクサス)」。地上35階・地下5階建てで、ホーチミン市で希少性が高い、グレードA品質を備えている(※)。

※グレードA品質:立地条件、設備、デザイン、管理体制などに優れ、高品質であること

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「The Nexus」は1フロアあたり1000平米以上という大規模なオフィスビル(写真提供/The Nexus)

1階ロビーにはカフェ、広場に面したレストラン、19階にはフィットネスジムがあり、健康で快適なワークスタイルをサポート。ベトナムのオフィスビルで初めて、建物の環境性能と運営品質を評価するWELL Core認証を取得している。

これらが世界的企業から評価され、SAPなどのIT企業、世界銀行グループであるInternational Finance CorporationやJ.P. Morganといった世界的な大手企業や、三菱UFJ銀行やキーエンスベトナムなどの日本の主要企業が入居。9割以上の高稼働を実現している。

プロジェクトを主導し、昨年、「不動産業界に多大な影響を与えたリーダー」に贈られる個人賞「Real Estate Personality of The Year」(※)を受賞し、「今年のベトナム不動産の顔」として選出されたベカメックス東急の前社長・呉 東建(おう・どんごん)さん自身も“マスターピース(傑作)”だと自負。

※東南アジアの大手不動産情報サイト運営企業であるプロパティグル社が主催する、1年を通してベトナムにおける不動産業界内で最も優れたデベロッパー、プロジェクト、デザイン、イノベーションを表彰する権威のある賞の一つ

「テナント誘致も東急が積極的に関わっています。これだけのそうそうたるテナントの数々を誘致できたのも、東急の日本での実績があったからです。例えば、世界の一流企業が利用するシェアオフィス『The Executive Centre』も、渋谷の弊社のビルに入居しているというつながりがある」(呉さん)

「The Nexus」の開発・運営に関わった東急の100%子会社・東急モールズデベロップメントは、ローカルデベロッパーとマイナー投資、ホーチミンでのTOD(交通指向型開発)案件も検討しているとのこと。ベトナムでの海外事業がますます加速していくだろう。

そして4つ目、最後の事例は、東急のベトナムでの動きとして代表的な「TOKYU Garden City」プロジェクトだ(このプロジェクトの詳細は別の記事にて、ここでは概要を紹介する)。

ベカメックス東急(現地の大手デベロッパーで、ベトナム最大のインフラ投資開発会社(主に工業団地など)「ベカメックスIDC(Becamex IDC)」と東急の合弁会社)が、ベトナム南部にあるビンズン省(ビンズオン省とも呼ぶ)、ビンズン新都市で手掛けている大規模開発プロジェクトだ。(※)
※注釈:ビンズン省は、2025年7月1日にホーチミン市およびバリア・ブンタウ省と合併し、新たなホーチミン市の一部となっている。

【ベトナム現地ルポ】マンション価格が5年で爆上がりエリアも! 日本も参画、10年で激変したマンション市場の最前線

「TOKYU Garden City」は、ベカメックス東急が、東急株式会社とBECAMEX IDC両社のノウハウを活かして展開する新都市内の開発エリアの総称(画像/ベカメックス東急)

ビンズン省は、約30もの工業団地があり、日系企業をはじめ多くの外資系企業が進出しているエリア。積極的な経済発展と外国直接投資誘致などにより、住民の平均月収がベトナムで最も高く、高所得層による住宅需要が期待されるエリアでもある。ビンズン新都市は、ビンズン省の中でも集中的に大規模開発プロジェクトが推進されており、その最先端エリアで「多摩田園都市」のまちづくりが“輸出”されている、として注目を集めている。
ベカメックス東急は、日本の「多摩田園都市」開発で培ったノウハウを活かし、2012年から「ジャパン・クオリティ」のまちづくりを推進。住宅、商業施設、オフィスなどを計画的に整備し、交通、医療、教育、ICT(インターネット等の情報通信技術)、文化・エンターテイメント、働く環境、自然という「7つの環境」の充実を図っている。

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住宅や商業施設などの不動産の開発だけではなく、新都市の魅力を向上させるまちづくりを中長期的な視点で行い、「ビンズン新都市に住みたい」と感じてもらうための環境づくりを進めている(画像/ベカメックス東急)

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省政府、ビジネスパーク、金融センター、国際会議場、商業施設、医療機関、教育機関(大学、高校、中学、小学校、インターナショナルスクール)などが集中しており、2023年にはワールドトレードセンターも竣工した(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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2021年竣工した「SORA gardens II」は総戸数557戸、24階建ての高層マンション。子育て世帯向けの共用施設が充実、全戸にスマートホームシステムが導入されている(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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ホーチミン市はバイクの交通量がおびただしく、道路を渡るのもひと苦労なほどだが、ビンズン新都市は道が広く計画的な歩道も整備され、緑豊かな環境。マンション敷地内にも豊かな植栽が(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

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「TOKYU Garden City」プロジェクトの転機となったのが、2023年開業の複合商業施設SORAガーデンズへのイオンの出店。イオンはベトナムでも多店舗展開しており、最も有名なスーパーと言っても過言ではない。プロジェクト当初、買い物ができる場所の少なさが課題だったが、イオン出店により解消、住宅販売戸数も一気に増加に転じた(写真提供/ベカメックス東急)

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イオンには、その場で調理している麺類や寿司などフードコーナーが充実(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

マンション価格、5年で“爆上がり”。今後どうなる?

経済成長、所得の中間層の拡大を背景に成長しているベトナムのマンション市場だが、価格高騰が懸念されている。

東さんはこう話す。「今、マンション価格が“爆上がり”しているエリアもあります。この5~6年間で市場価値が倍以上に上昇している事例もある。極端な例では、6年前に100平米のコンドミニアムが約1,500万円で取引されていた同じエリアで現在では約5,000万円の住宅が取引されている、なんていうことも起きているのです。
供給数の少なさが大きな要因。過熱すれば、富裕層や高所得者層ではない、“ふつうの人”は買えなくなってしまう」

高品質マンション需要は今後も堅調に推移していくと期待されている中、供給数の拡大が急務だ。

【ベトナム現地ルポ】マンション価格が5年で爆上がりエリアも! 日本も参画、10年で激変したマンション市場の最前線

(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

その課題に対して、東さんはベトナムの「急速な政治改革」に期待を寄せる。
ベトナムは社会主義の国でありながら、1986年に導入したドイモイ政策により市場経済活性化を目指してきた。国家主導の行政改革スピードの速さは今も健在で、「特に2024年にトー・ラム氏が新書記長に就任してからは著しい変化が起きています」と東さん。

今までベトナムでマンション供給数の拡大を阻害していたのは、政府による許認可のプロセスに寄るところが大きかった。複雑かつ時間がかかっていた許認可も、現在は改善傾向を見せている。
「トー・ラム新書記長が“反浪費運動”をスローガンに掲げたことで、ここ1年で許認可も大幅な合理化とスピードアップが進んでいるようです。市場の健全な発展を後押ししてくれることを期待しています」

ライフスタイルの急激な変化に伴う課題も

ホーチミン市だけでなく、首都ハノイ市など各都市でマンション市場は拡大し続けている。
ベトナムのマンション市場は、単なる不動産投資の対象ではなく、日本企業が長年培ってきたマンション品質やまちづくりのノウハウを発揮できるフロンティアだ。文化や環境、常識が異なる国に参入する苦悩、コロナ禍の不況など過去の苦難を乗り越え、マンションの「ジャパン・クオリティ」評価は成熟期を迎えつつある。

一方で、ライフスタイルの急激な変化にともなう課題もありそうだ。

ホーチミン市内を歩いていると、道沿いに個人経営の店が所狭しと並び、その店の前で人が休憩したり、おしゃべりをしている姿をよく目にした。まちに迷路のように張り巡らされた路地裏「ヘム」では、家の軒先で洗濯をしたり、子どもの世話をする光景が当たり前。

【ベトナム現地ルポ】マンション価格が5年で爆上がりエリアも! 日本も参画、10年で激変したマンション市場の最前線

ベトナムは個性的な路地裏「ヘム」がたくさんあり、ヘム巡りも楽しみの一つ(写真/SUUMOジャーナル編集部)

「路地で座り込みくつろぐお母さんに、なぜ1日の多くの時間を家の中ではなく、家の前で過ごすのか聞いたことがあるんです。ヘムは、ただの路地であったり、寺があったり、場所によっては店舗が連なっていたりする。彼らは客がいようがいまいがお構いなしにずっと路上で過ごしている。なぜか?答えは、『社会とつながるためだ』と言っていました」という東さんの言葉が印象に残っている。

まちや人とつながる日常から、プライバシーが守られたマンションの暮らしへ。

かつて日本の高度経済成長期にも、急激なライフスタイルの変化による人間関係の希薄化や家族の在り方、価値観の変化、働き方の変化などにともない、新たな課題も生まれた。

これからもベトナムはどんどん変わっていくだろう。

紆余曲折もあるかもしれない。それでも、その成長していく街並みに日本が今まで培ってきた技術をもって関わっていくことを思うと、誇らしい気持ちもあり、これからもこの躍動に注目していきたいと感じた。

●取材協力
野村不動産ベトナム
ベカメックス東急

※「各国の都市化」の表について
・都市化の定義:
都市化率(Urbanization Rate)…都市部に住んでいる人口の割合
※都市化率(%)=(都市人口 ÷ 総人口)× 100

・一般的な分子と分母
分子(Numerator):都市人口(Urban Population)→ 中央政府が定めた「都市部」とされる地域(市、町、区など)に居住する人の数。
分母(Denominator): 総人口(Total Population)→ ベトナム全体の人口(都市部+農村部)。

・ 都市部の定義(ベトナム政府の基準)
ベトナム政府は、都市部(urban areas)を以下のように定義
法的に「都市」と指定された地域(市:thành phố、町:thị xã など)
一定の人口密度・インフラ・行政機能などを備えた地域
中央政府または省政府によって都市等級(1級~5級)として分類される

・補足:ベトナムの都市化率の推移(参考)
2010年:29.6%
2020年:約36%
2024年(推定):約41~42%

・政府目標:2030年までに都市化率を45%以上に引き上げる(ベトナム建設省の目標)

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