apartment301さんは、白で統一されたインテリアの住まいから「持たない暮らし」をSNSで日々発信する、フォロワー数12万人のインスタグラマーです。その洗練されたライフスタイルで人気を集めていますが、暮らしているのは、実は築約50年の賃貸アパート。
Instagramで話題!「持たない暮らし」を発信するapartment301さんの築約50年賃貸集合住宅
訪れたのは、熊本県にある5階建てのアパート。団地ライクなレトロな雰囲気に包まれた建物の階段を上り部屋のドアを開けると、そこにはまるで異世界のように洗練された空間が広がっていました。ここが築約50年の物件だとは信じられません。
物件タイプ賃貸アパート築年数築約50年家賃(月額)35,000円間取り2DK→ワンルームへリノベーション広さ(平米数)40平米この部屋の主が、apartment301さん。彼女が暮らすのは40平米の賃貸アパートで、原状回復義務のないDIY可物件。もともとは2DKだった間取りを、真っ白なワンルームにリノベーションしています。さらに驚かされるのは、室内に置かれているのが最低限の家具や家電だけという点。寝具も布団ではなく寝袋を使い、洋服は黒の数着のみ、靴もサンダルを含めわずか5足と、「持たない暮らし」を徹底しています。

朝のルーティンにしているお掃除。Instagramのストーリーズで、暮らしの様子も随時発信している(写真撮影/中川千代美)
apartment301さんは、そんなライフスタイルをInstagramで日々発信しています。
しかもこの洗練された暮らしを、家賃月3万5000円+αというコストで実現しています。+αとは、リノベーションにかかった費用で、「賃貸だけど、できる限り長くこの部屋に住みたいという思いで、大家さんに確認の上、思い切ってプロにお願いしてリノベに臨みました」とapartment301さん。
多くの人を惹きつける洗練空間の中、理想的でミニマルな暮らしを楽しむ彼女ですが、「昔は物欲にまみれた暮らしだったんです」と振り返ります。
かつては物欲まみれ。地震で被災して始まった「捨て活」ライフ
apartment301さんがどのようにして、現在のような暮らしをかなえたのか、その道のりをうかがいました。
初めての一人暮らしを始めた以前の賃貸アパートでミニマルな暮らしに目覚め、現在住んでいるDIY可賃貸アパートでリノベに踏み切ったと言います。
まずはミニマルな暮らしに目覚めたきっかけについて伺いましょう。
apartment301さんが一人暮らしを始めたのは、社会人として販売の仕事にも慣れてきた30歳を過ぎたころ。職場の近くに借りた家賃3万3000円、25平米の古いアパートの「301号室」が、初めての一人暮らしの住まいでした。
「当時はモノをたくさん持つのが大好きで、一人暮らしをきっかけに物欲が爆発しました。ネット通販のセール情報やポイント還元のキャンペーンを見つけると、欲しいものを次々ポチってしまって(笑)」と振り返ります。
とはいえ、部屋がモノで散らかっていたわけではありません。片づけや収納が好きだったこともあり、収納道具にもこだわり、中にモノをぴったり収める「シンデレラフィット」に喜びを感じていたそうです。
「それで、上手に片づけているつもりだったんです。6年くらい、せっせとモノを増やす暮らしを続けていました。でも、このころの買い物は、インターネットで見た『誰かのおすすめ」』や『ショップのおすすめ』を『好き』と勘違いして買っていたのかもしれないと、今となっては感じています」とapartment301さん。とはいえ当時は当時で、ものをたくさん持ってきちんと整頓することで気持ちが満たされ、心豊かに暮らしていたと話します。
「そして、もっとたくさんのものを持って収納できるよう、広いマンションを購入してリノベーションしたいとすら思っていました」

捨て活を始める前の301号室(以前のお住まい)。現在と比べると物が多かったとのことですが、決して散らかっていたわけではない(写真提供/apartment301)
しかし、そんなapartment301さんの意識を根底から覆す事態が起こります。熊本地震です。
幸い自身は無事だったものの、地震で大きく揺れた後の部屋を見て愕然としたそうです。
「収めていたありとあらゆるものが床に落ちていて、自身がこんなにもたくさんのものを持っていたのかと思い知らされました」
発生時はたまたま浴室にいたそうですが、もしこの部屋にいたら、これらが自分に向かって落ちてきて凶器にすらなったかもしれないと、ゾッとしたと語ります。
モノを持ちすぎることは不便にもなるし危険にもなる、そう実感し、持ち物を減らす「捨て活」を始めることになりました。
最初は地震で壊れたり使えなくなったものを整理し、その次は「これはもういいか」と思えるものも捨て始めます。そうして手持ちのものが減ると見える世界がガラリと変わり、「なくても暮らせるもの」を見極めることができるようになっていったそうです。すると今度は部屋の「色」の多さが気になってきました。
「それまでは洋服もインテリアも比較的カラフルだったんですが、それらがノイズに見えてきて。服の色を減らして最終的に黒と白のものだけになっていったし、インテリアも変えていきました」

色を減らしていった結果、現在は服は黒一色に。写真は春夏のワードローブで、今の時期、冬物はクリーニング店のお預けサービスを活用している(写真撮影/中川千代美)
まず薄いグレーのフロアタイルを購入し、自分でカッターで切りながら敷き詰め、床の「木の茶色」を消すと、一気に部屋の景色が変わりました。これをきっかけに、家具も最小限に減らして余白を増やし、白とグレーで統一した部屋へとDIYを進めていきました。
「同じ広さの同じ部屋なのに、『ノイズ』が減って部屋がぱっと明るく広くなって、なんだか心の中まですっきり晴れやかになったようでした」

301号室時代(以前のお住まい)のDIY後の部屋。当時は畳ベッドに寝袋で寝る生活へ(写真提供/apartment301さん)
ものを減らすなかで、ものとの向き合い方を変え、暮らし全体の無駄もそぎ落とし磨き上げる――。そんな意志ある「捨て活」を続けることで、apartment301さんは、今のようなミニマルで洗練されたライフスタイルを築き上げていったのです。
「自分の部屋が大好きになったし、ここから人生のいろんなことが回り始めたように思います」
美容師さんの一言で始めたInstagramが、人生を変える転機に
もう一つの大きな転機が、Instagramを始めたことでした。そのきっかけは、美容師さんの何気ない一言です。
「部屋の写真を見せたら、『この写真、Instagramで発信しては?』と言ってくれたんです。

夜になると自動的に灯りがつく、生体リズムと光の関係を考慮したサーカディアンリズム照明を採用(写真撮影/中川千代美)
そこで、当時の部屋番号をつけた「apartment301」の名でアカウントを開設し、Instagramをスタート。ものを少なくしつつもインテリアを楽しむライフスタイルを発信しはじめました。当初は少しずつの反響でしたが、ミニマニスト系YouTuberの動画での紹介やCSテレビ番組での紹介をきっかけにフォロワーが激増し、バズる(※)ことになります。
※バズる…インターネット上で多くの人の注目を集めること
さらに、そのライフスタイルを紹介する書籍化の話もやって来ました。そうして発行されたのが、『捨て活で見つけた「私」が主役のワンルームライフ』(apartment301 著、主婦の友社 刊(2023年09月))です。40代独身女性のワンルーム一人暮らし、捨て活で見つけた自分らしい暮らし方や、もの選びのポイントとヒントが綴られた著書は、ミニマルな暮らしに憧れる多くの人から反響がありました。

靴は全部で5足。下駄箱も不要の足数(写真撮影/中川千代美)
自分の世界を広げてくれたこの大好きな301号室に一生、住み続けたい……。そう思っていたところに、さらなる転機がやって来ました。

部屋の中央に収納棚を配置。空間デザインも、収納の動線も秀逸(写真撮影/中川千代美)
DIY可賃貸物件との出会いと、お任せリノベーション
ちょうど、前述の著書の制作を進めていた時期。301号室が入っているアパートで地震による強度不足の欠陥が見つかり、立ち退きを余儀なくされました。
「一生住みたい部屋だったので、少なからずショックでした」と振り返ります。
立ち退き期限の数カ月後までに次の住まいを決める必要があったため、まず検討したのは中古マンションを購入してリノベーションすることでした。しかし、立地や条件、予算面で合う物件になかなか出会えず、月日ばかりが経っていきます。
そこで分譲マンションは諦め、賃貸で探すように切り替えました。
「実は私、本当は自分でDIYするのがあまり好きではないんです。なので、リノベするならプロにお願いしたいと思っていました」
そんなとき、かねてより交流のあった建築プロデューサー・ヨシヤスタカユキさんから「原状回復義務なしの賃貸の部屋があった」とのお知らせ。さっそく内見に行くと、レトロな団地風の雰囲気や便利な立地など環境の良さが気に入り、ほぼ即決で契約しました。リノベーションもヨシヤスさんにをお願いすることに。
「ヨシヤスさんは私のInstagramの初期からのフォロワーでもいてくださっていて、私がどんなライフスタイルを送りたいのかをよくご存じでした。なので、ほどんどおまかせでお願いしたんです。お伝えしたのは予算なるべくかけたくないということと、『前の部屋と同じようにワンルームの間取りで暮らしたい』ということくらいだった気がします」

色数が本当に少ない真っ白の空間(写真撮影/中川千代美)

【before】昔ながらの板張りや畳の部屋があった以前の部屋(写真提供/apartment301さん)

【After】外せる壁を外し、色数を極限まで抑えることで、真っ白な洗練空間に(写真撮影/中川千代美)
そうして、最初の内見から入居までわずか80日という短期間で進んだリノベーション。築約50年の団地ライクな鉄筋コンクリート造集合住宅で、部屋の広さは40平米と前よりは広く、もとは2DKの間取りでした。構造強度に影響しない壁を全て取り払い、ワンルームに。

【before】玄関から入って最初に見える景色(写真提供/apartment301さん)

【After】部屋を仕切っていた壁を取り払い、ワンルームの状態に(写真撮影/中川千代美)

【before】洗面所・トイレ回り。右手にはもう一室部屋がありました(写真提供/apartment301さん)

【After】壁を取り払ったため、窓からの空気がよく通るように。昭和のアパートの雰囲気を少しだけ残す、むき出しの配管もオシャレ(写真撮影/中川千代美)

【before】昭和レトロを感じるタイル貼りの浴室(写真提供/apartment301さん)

【After】タイルを少しだけ残しつつも、やはり白い空間にリノベーション。空間のおしゃれさもお手入れのしやすさも両立(写真撮影/中川千代美)
「この部屋を見たヨシヤスさんから、『ワンルームにするために壁は取り払うけど、欄間(らんま)は違う素材で再構築したい』と言われて、最初は戸惑いました。残す意味が分からなくて(笑)。でも、完成した空間を見て『なるほど』と思ったんです」
スチールで作り替えた欄間は、シンプルな空間にデザインを加えてくれる。そしてワンルームを程よく区切ってくれるので、ゆるく空間割りができて「居場所」をつくりやすいのだといいます。さらに、壁の幅木も残して壁色と合わせて白くペイント。apartment301さんはなるべくシンプルな見た目にしたくて外したいと思っていたそうですが
「完成後に見てみると、そのちょっとした段差が素敵なデザインになっていて。今ではお気に入りです」

【before】昔ながらの木の欄間がある和室(写真提供/apartment301さん)

【After】強度の都合上で残した垂れ壁と欄間が織り成す直線が、空間のアクセントに(写真撮影/中川千代美)

スチールで再構築された欄間は、スタイリッシュな存在感(写真撮影/中川千代美)
新しい部屋で「持たない暮らし」がさらに進化。もっと自由に暮らすために
そうしてリノベーションした現在の部屋に住み始めて1年とちょっと。「叶うならば、ここに一生すみたい」と微笑むapartment301さん。家賃3万5000円なので、単純計算で20年住んでも840万円(家賃のみ)。そこにリノベーション代を加えたとしても、分譲マンションを購入・リノベーションするよりも安いコストで、理想のミニマルな生活を実現しています。
費用の種類金額計算の内訳家賃840万円35,000円 × 12ヶ月 × 20年更新料・諸費用13万5000円2年ごとの契約更新を9回合計853万5000円apartment301さんいわく「濁りのない」白の空間は、以前の部屋よりも広くなった分ゆとりを持って暮らせるようになり、家で過ごす時間がより充実していると感じているそうです。
部屋にある収納らしき収納は、シナ合板で造作してもらった中央の棚とキッチン下、そしてキャスター付きで自由に動かせるキッチン台です。思い思いの場所に動かせるので、料理Live(Instagramで料理の様子をライブ配信すること)する際の作業台としても、食卓としても使える便利な逸品。毎日、一番居心地がよい場所に移動してお茶を飲んだり、食事をしたりと楽しんでいます。

家の中では立っていることが多いそう。ゴロゴロとキッチンワゴンを動かして、ほっと一休み(写真撮影/中川千代美)

収納スペースも、余白のある空間づくりに。以前の301号室でも愛用していたポスターをさり気なく置いて、アクセントに(写真撮影/中川千代美)

窓側は飾り棚と隠し棚。ここに入りきれないものは持たない(写真撮影/中川千代美)
そんなapartment301さんが心地よく「持たない暮らし」を続けるために、心がけていること。その第一は、ものの居場所をきちんと決めて、そして使ったものは必ず元に戻すことの徹底、そして、「家の中で置き場所が決められないものは買わない」ことだそうです。
「どんなに『欲しい』『いいな』と思うものでも、自分の暮らしに必要でないものは、極力持たないようにしています。その方が部屋が機能的に使えて便利になるし、ものが増えるとその維持管理で自分の仕事が増える結果になるので、自由に暮らせる時間が減っていくんですよね」

カール・ハンセン&サンのチェアも、居場所の1つ(写真撮影/中川千代美)
衣類も最低限で、お手入れや乾燥のしやすさまで考慮してそろえ、布団も使わずベッド兼ソファベンチの上で寝袋で寝ています。一方で、サーカディアンリズム照明やスマートキー、スマートスピーカーを取り入れ、朝起きてから夜寝るまでの日々の習慣はなるべくルーティン化。「考えないといけないこと」をなるべく減らして、無駄なストレスを排除しているといいます。そうすることで、自由な行動と思考の時間を、より多く確保できるよう努めているのです。

ベッド兼ソファベンチ。この上に寝袋を敷いて寝る(写真撮影/中川千代美)

毎日の家事はルーティン化。食事の買い物も、冷蔵庫の中から減ったものを補充するスタイルで、極力、無駄なことを考えないようにしている(写真撮影/中川千代美)

キッチンコンロは手前と奥に2口。右側の作業スペースを広くすることを意識した(写真撮影/中川千代美)
apartment301さんのようなライフスタイルに憧れても、センスや自己管理能力がなければ難しいのでは……? その疑問に、「そんなことありませんよ」と笑顔で答えてくれます。
「例えばネットや雑誌でオシャレな人が持っているものを見て、『これがあればうちもオシャレになるかも』って手に入れても、結局違う人のセンスがぶつかってごちゃごちゃになってしまうだけ。でも、『捨てる』ことで雑多な『他人のセンス』や不要なものをそぎ落としていくと、最後にはその人にしか出せない何かが残って、素敵なお部屋やライフスタイルが生まれると思うんです。私の場合は『捨てる』ことを通してこのような部屋に辿り着きましたが、人によって『その人らしいセンスが光る部屋』はまったく違うと思います」

窓から望める緑の景色も、お気に入り(写真撮影/中川千代美)
いろんな情報が大量に飛び込んでくる今の時代、その中で不要な価値観をそぎ落として自分を見つめ直し、自分らしさを大切に引き出す……。豊かな暮らしや住まいを得るためのヒントを、apartment301さんは「持たない暮らし」を通して伝えてくれています。
●取材協力
apartment301さん