湘南を拠点に活動するグラフィックアーティストの茶薗彰吾(ちゃぞの・しょうご)さん。デザインディレクターとして企業に勤めながら、海の近くに構える自宅兼アトリエで日々制作に励んでいます。

今回は、茶薗さんのご自宅を訪問。湘南は、茶薗さんのほかにも多くのクリエイターが愛するまち。クリエイティビティを刺激する湘南での暮らしや制作活動について話を聞くとともに、ルームツアーもしていただきました。

湘南の海の近くのメゾネットで、広告の仕事のホームオフィスとアトリエを兼用

黒とスカーレット(緋色)で描かれた5つの目を持つウサギをアイコンに、ポップでストリート感あふれるアートを創造する茶薗彰吾さん。活動を始めたのは2023年と最近ながら、個展を開催するたび着実に反響を広げている新進気鋭のグラフィックアーティストです。

茶薗さんのご自宅兼アトリエは、湘南の海からも徒歩圏内の場所にあります。延床面積約70平米のメゾネット賃貸には、自身の作品はもちろん、他の湘南アーティストの作品や、インダストリアルな家具、ノスタルジックなアメリカン雑貨、味のある骨董の器などがセンス良くミックスされています。茶薗さんの湘南暮らしとお部屋はのちほどご紹介するとして、まずは茶薗さんの活動から伺ってみましょう。

湘南の2DKメゾネット賃貸を超カッコよく住みこなす。移住で人生に変化、会社員とアーティストの”二足のわらじ”実現する茶薗彰吾さんのアトリエ兼自宅

茶薗彰吾さん/グラフィックアーティスト。宮崎県出身。デザイナーとして外資系ブランディング企業に勤めながら、湘南を拠点にアート活動を展開(写真撮影/端 裕人)

湘南の2DKメゾネット賃貸を超カッコよく住みこなす。移住で人生に変化、会社員とアーティストの”二足のわらじ”実現する茶薗彰吾さんのアトリエ兼自宅

5つの目を持つウサギは、現代人の目は2つでは足りない」をテーマに現代人の敏感さと鈍感さを表現 。ラジカセなどにはストリートカルチャーの影響も(提供/茶薗さん)

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茶薗さんの自宅兼アトリエ(写真撮影/端 裕人)

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2Fのアトリエ兼仕事場。アメリカの「マイペットモンスター」などカラフルなトイが窓辺を彩ります(写真撮影/端 裕人)

ブランディング企業のデザインディレクターとしての顔も持つ茶薗さん。

高校まで宮崎県で過ごし、福岡でデザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。「福岡で12年間働いて、新しい環境でより大きな仕事に挑戦したいと思っていたときに、東京オリンピック開催決定のニュースが飛び込んできて。この一大イベントに関わる仕事がしたい!と上京を決意したんです」と茶薗さん。

念願かなって、希望のデザイン会社に転職。目標としていたオリンピック関連の仕事をはじめ、ナショナルブランドの広告デザインを数多く手がけたのち、現在は資系のブランディング企業にてブランド構築の仕事 に携わっています。

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手製のカレンダーを壁に張り出し色別の付箋でスケジュール管理。仕事の進行管理も大事なアートディレクターらしい工夫(写真撮影/端 裕人)

大手クライアントとの仕事に大きなやりがいを感じながらも、デザインという戦略的表現の中に、自分らしさを見いだす難しさを日々感じていたといいます。

「一度きりの人生、デザイナーだけで終わらせるのももったいなーなんて思いを持ちながら、会社以外にキャリアを積みたいって思っていて。自分を思い切り表現できる個人的な活動をしたいと思うようになり、起業を考えたり、以前から好きだった絵を描き始めたりしていました」

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茶薗さんが制作に使うアクリル絵の具。キーカラーは、蛍光色のようにインパクトあるスカーレット(写真撮影/端 裕人)

そんなころ、世界はコロナ禍に突入。茶薗さんも在宅勤務中心の生活に。都心のワンルームマンション暮らしに閉塞感を感じ、同程度の家賃で広々とした家に住める郊外に移ろうと考えました。

「東京近郊の中でも湘南は海街ならではの自由な雰囲気があって、クリエイティブな人も多い。自分の表現活動にもプラスになると、湘南への移住を決めました」

このときの湘南で暮らすという選択が、茶薗さんの制作活動にも大きな影響を与えることになります。

地域プログラムへの参加が、アーティスト活動の後押しに

2021年夏、茶薗さんは湘南・鵠沼での生活をスタート。湘南の中でもいくつかエリアの候補があった中、決め手になったのが海の眺めでした。

「ここからいちばん近い鵠沼海岸は見通しのいいロングビーチなんです。その眺めが気に入って。夕日がきれいな日は海に行ってぼーっとしています」

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自宅から近い鵠沼海岸にて(写真提供/茶薗さん)

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(写真提供/茶薗さん)

都心暮らしでは周辺住民とのつながりは希薄でしたが、湘南に暮らすことで、ローカルコミュニティとのつながりも期待していた茶薗さん。これが、茶薗さんがアーティストとして活動をはじめるきっかけにもなりました。

2023年に、神奈川県がスタートアップを支援する「HATSU起業家支援プログラム」の募集を地元誌で見かけます。
「都内に住んでいたころから、将来的にやりたいこととしてアトリエレンタル事業を構想していたんです。自分も含めた数人のアーティストのアトリエに、カフェやギャラリー、会議室なども併設した場をイメージして、建築家の方に設計図も書いていただいていました」

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構想したレンタルアトリエの設計図。今も寝室にかけてあります(写真撮影/端 裕人)

その構想をもとに「理想の働き方が見つかる事業」としてレンタルアトリエの計画を練り同プログラムに応募したところ、10名のチャレンジャーの一人として採用が決定。起業家創出拠点「HATSU鎌倉」で半年間にわたって専門家によるメンタリングや事業相談などの起業支援を受けることに。

ところがそこで壁にぶつかります。

「そもそもマネタイズを考えていなかったから、事業計画が全く進まなくて。支援プログラムのサポーターの方と話す中で『自分はこのレンタルアトリエ事業で社会課題を解決したいというより、自分自身がアーティストとして作品を作りたいのではないか?』と気づき始めたんです」

その気づきによって、茶薗さんはそれまで意識せずにいた自身の創作への渇望を自覚します。

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PC上で考案した図案を、マスキングという技法を使ってキャンバスに描いていきます(写真撮影/端 裕人)

「私は“商業性が重視されるデザイナーと自身の創作性を優先するアーティストは両立できない”という固定観念をずっと抱いていたんですが、「HATSU鎌倉」から紹介いただいたArt Gallery のオーナーさんにも『全然大丈夫でしょう!』 と言われて。『そうか、私もアートをやっていいんだ』と目から鱗が落ちるような衝撃を受けました」

支援プログラムの仕上げとして、自身のアートの社会的価値を証明するために個展を行うことに。期限まで2カ月しかない中、毎日ひたすら作品を制作しました。

「注文に応えてつくるデザインとは異なり、アート作品はお題もコンセプトも表現も、すべてひとりで創り出したもの。初めて世に出すのはすごく怖かったです」

個展を行うにあたり、「ステレオタイプ(固定観念)と向き合う人生」を意味する造語「STEREOLIFE」をテーマに設定。デザイナーとアーティストは両立できないという固定観念を打破した経験から生まれたものです。「自分の選択は本当に自分の意志で選んだことなのか、固定観念に縛られていないか、常に問いかけていたいんです」

湘南に暮らし地域プログラムに参加したことをきっかけに、自身の創作への思いと向き合いアーティスト活動に踏み出した茶薗さん。暮らしの環境を変えたことが、自身の固定観念との対峙という内省的なテーマをポップ&クールに表現してみせる独自の世界観が生まれる後押しとなりました。

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作品に描かれた雷は、自身の思考や選択に潜む固定観念への気付きや、それを打破した衝撃を表現しています(提供/茶薗さん)

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1階アトリエ。

過去の作品もここに保管(写真撮影/端 裕人)

不安を抱きつつも、2024年1月、初の個展を鎌倉で開催した茶薗さん。制作した作品14点のうち半分以上が売れ、用意した50枚のTシャツも3日間で完売。大きな手応えをつかみます。

その後、中目黒や代々木上原など都内でも個展を開催。地元も大切にしたいと、キャンプ用キャリーカートに作品を積み込んで湘南の海沿いを歩くムービングギャラリーを行ったり、藤沢のシェアスペースでオープンアトリエを開催したりしてきました。

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ムービングギャラリー(提供/茶薗さん)

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オープンアトリエ(提供/茶薗さん)

「知人が鵠沼のカフェに私のTシャツを着て行ったら、店主さんが気に入ってくださって、一緒にコラボTシャツをつくったり、ポップアップを行ったり。その店主さんがまた別のカフェに紹介してくださって、そこでもコラボレーションの依頼を受けたり 。自分で何もしていないのにどんどん輪が広がっていくのは、湘南の密度の高いコミュニティならではじゃないかな」

少しずつ、着実に地元・湘南とのつながりを育んできた茶薗さん。2025年10月3日(金)~11月3日(月)
で、湘南 蔦屋書店にて個展が予定されており、2025年12月5日よりデザイナーとしての礎を築いた福岡の蔦屋書店3店舗でも個展やポップアップイベントも開催予定です。

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「モトベロ湘南」とのコラボで、このような電動アシスト自転車も制作(提供/茶薗さん)

海街の自由さに影響され、自然体のライフスタイルに

茶薗さんにとって、住まいは制作活動の上でも大事な存在。湘南で約70平米メゾネット賃貸の暮らしを始めてから、「生活のサイクルが変わって朝型になりました。都心の家は寝に帰る場所だったけれど、今は違う。

時間にも空間にも、作品を生み出す“余白”があります」と言います。

今回は、個展の準備を進める茶薗さんの自宅兼アトリエの様子を見せていただきました。2階建てのテラスハウスの玄関に入ると、骨董の大皿と靴べらのアートのようなしつらえに目を奪われます。

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「大皿が好きなんだけど、高いものは買わないのがポリシー。これらはどちらも鎌倉の骨董店で800円くらいでした」。玄関(左)では鍵や靴べらを置いたり、寝室(右)ではメガネ置き場にしたりと使い方も自由(写真撮影/端 裕人)

アトリエは2つあり、1階アトリエは屋外に出やすい作業場と過去の作品を保管するスペース。2階はLDKの一部がアトリエになっています。

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1階アトリエにて。ダンスの経験があり、衣装も手がけていたためミシンを使うのも得意な茶薗さん。古着の布を使ったソーイングアートも制作(写真撮影/端 裕人)

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2階リビング。個展前なので制作に集中するためテレビには「DON’T WATCH TV(テレビ観ちゃダメ)」の張り紙が(写真撮影/端 裕人)

「家具はほとんどもらい物なんです」と笑う茶薗さんですが、どことなく懐かしい時代のアメリカンテイストが漂い、作品と共通するものを感じます。

「もともとは海沿いを感じる西海岸風のインテリアで揃えていたんですが 、自分が表現するものとのギャップに気付いて。

今は80年代アメリカのポップなものと西海岸風・和風のものをミックスしています」

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2階アトリエとキッチン。「ソファの向こう側が創造するスペースなんです」(写真撮影/端 裕人)

実は調理師免許も持つ茶薗さん。都内で暮らしていたころは仕事に追われ料理する暇もなかったそうですが、湘南の家に暮らすようになってからは、朝6時から昼ごろまで会社の仕事、午後を制作にあてるように。料理をする時間もでき、健康的な食生活になったといいます。

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肉料理が得意な茶薗さん。キッチンで大好きなコーヒーを淹れるのも日課だそう(写真撮影/端 裕人)

暮らしが充実した結果、器好きも加速。「器が好きになったのは年齢を重ねたせいもあるのかも」と笑います。彼が湘南暮らしで「いいな」と感じることのひとつが、元気な中高年世代が多いことなのだそう。

「サーフィンをしているおじさんや、犬のお散歩をしているご婦人方など、湘南では自分より年齢が上の方々がすごく楽しそうなんですよね。サーファーのおじさんたちは日焼けしてシミだらけでもすごくかっこいい。年齢に抗わず、自然体でいいんだと思えるようになったのは湘南暮らしの大きな収穫です」

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小鹿田焼(右)の器には麺料理を。骨董の小皿には作り置きの惣菜などを盛ったりしているそう。箸置きは海辺で拾った陶器。「シーグラスならぬ“シー陶器”ですね」(写真撮影/端 裕人)

現在、アーティストとデザイナーという二足のわらじを履く茶薗さん。これまでもダンスをしたり、バレーのチームをつくったり、ストリートパフォーマーをやったりと、仕事と並行して多彩な活動をし、“いつも二足のわらじを履いているね”と言われてきたといいます。

「私は気になることにはすぐに挑戦しないと気が済まないんです 。これまでのいろいろな活動や社会経験で培ったコミュニケーション能力が、今のアーティスト活動の糧になっていることを実感しています。これからも固定観念に縛られず、フットワークを軽くして、多彩な活動に挑戦していきたいです」

湘南への移住は、茶薗さんという才能あるアーティストが活動に踏み出す大きな後押しとなりました。住む場所を変えることで、暮らしや気分が変わり、新しいつながりも生まれる。暮らす場所の影響力の大きさにも、改めて気付かされる取材でした。

●取材協力
茶薗彰吾さん
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※10月3日(金)より個展「NOT JUST ONE~ひとつではない自由~」を湘南 蔦屋書店で開催予定。詳細はこちら

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