空き店舗が増えた商店街を再生させたいと奮起する地域が多いなか、いま気になる存在が埼玉県「本庄デパートメント」です。古いシャッター街の中で “働く・暮らす・つくる・学ぶ・遊び倒す”装置として、シェアキッチンやカフェ、私設公園をつくり、若者たちの挑戦の場に変えました。
商店街にある空き家を活かして面白いことをしたい
埼玉県の北西部にある、本庄市。最寄り駅「本庄」駅北口には、本庄銀座通りという大きな商店の並ぶ通りがあります。築100年近い古い建物がいくつもあり、古民家やレトロ建築が好きな人にとって歩くだけでも楽しい街です。かつては中山道最大の宿場町「本庄宿」として栄えていました。
しかし今、この建物の多くは空き家。せっかくならばこれらを活かしてもっと街を面白く、遊び倒せるような拠点づくりをしよう、と思いついたのが建築家の大橋千賀耶(おおはし・ちがや)さんです。プロジェクトのディレクションを担う早川純(はやかわ・じゅん)さんと二人で活動をしています。大橋さんと早川さんはこの試みを「本庄デパートメント」と名付けました。
「本庄デパートメント」の二人。メイン拠点「WORK+PARLOR」エントランスにて。写真左が早川さん、写真右が大橋さん(写真撮影/栗原論)
本庄の駅付近からまっすぐ300mほど続く銀座通り(写真提供/本庄デパートメント)
現在、「本庄デパートメント」が市内で自社での運営・所有する拠点は6拠点あります。空き家や空き地になっていた建物や土地を借りる、あるいは買って、コワーキングやカフェスペース、私設公園、あるいは実店舗を持ちたいという方に、伴走支援する形でスペースを貸すほか、自ら場の運営もしています。
本庄デパートが自ら運営・所有する拠点は全部で6カ所ある。そのほか伴走支援した店舗なども(写真提供/本庄デパートメント)
二人を訪ねたのは、本庄デパートメントのメイン拠点「WORK+PARLOR」。コワーキング兼カフェです。この建物も築100年以上と、歴史を感じる建物。
レトロな建物が大好きな大橋さん。ある日、建築巡りで本庄を訪れ、クラシックなたたずまいの家や商店街、店が並ぶ雰囲気に惹かれました。
「街の規模感も、大きすぎず小さすぎずちょうど良い。何より大好きなレトロな建物がたくさんある。空き家になっていた建物たちを活かして何か楽しいことをしたいなと思って、2019年に移住してきました」(大橋さん)
「WORK+PARLOR」。シェアキッチンになっており、日によってメニュー提供者が異なる(写真撮影/栗原論)
早川さんも同じく移住組。2017年に子育ての環境を変えたい、とゆかりのある本庄にやってきました。そこから2020年までは行政職員として働く毎日でしたが、大橋さんとの出会いが大きなきっかけになり、まちとの関わりが濃密なものになっていきます。
二人が出会ったのは、2019年9月に開かれた「本庄暮らし会議」。大橋さんが埼玉県や本庄市とともに主催した、まち歩きで地元の魅力を再発見するイベントです。
大橋さんは、当時すでに本庄で古い商店を借りようとしていて、リノベーションをして、誰もが挑戦できる小商いやコワーキングなどの場づくりをしようとしていました。
大橋さんの話を聞いてみたら、なんだか面白そう。「自分も大橋さんとは違う立場で関われる気がする」。そう思った早川さんは、大橋さんに「一緒にやろう」と声をかけました。
せっかくならば一人よりも二人で。2020年に早川さんは行政職員を辞めて、大橋さんと共に商店街を面白くするチーム「本庄デパートメント」を始めました。
遊べる拠点が増えたら、楽しい。ただその気持ちだけでスタート
2021年にまずはメイン拠点の「WORK+PARLOR」をオープン。
築100年以上、1階にブティックのあった建物の一部をオーナーの好意で借りることができ、まずはリノベーションすることから始まりました。
「もちろん大工さんにもお願いしますが、費用を抑えるほか、この場所を知ってもらいたいという気持ちでDIYのワークショップを何回も開きました」と大橋さんは言います。
構想からオープンまでは想定よりも時間がかかり、2年。コロナ禍で途中活動自体を停止していた時期もあったためでした。
「時間はかかりましたが、いいこともありました。ワークショップを繰り返していると、毎回たくさんの方が参加してくれたんです。本庄住まいではない、遠方から来てくれる人もいましたね。オープンした時にはファンがいてくれたらいいなと思っていたので、時間はかかったけれどじっくりとこの場を知ってもらえたのはよかったです」と早川さんは振り返ります。
店内はコワーキング兼カフェスペースになっている。仕事をする人、手仕事をする人、くつろぐ人が共存する(写真提供/本庄デパートメント)
ハンドドリップのコーヒーを提供(写真撮影/栗原論)
看板メニューはクリームソーダ(写真撮影/栗原論)
その後、拠点を次々と増やしていきました。場づくりは建物にとどまらず、広場づくりにも精を出すことに。
ある日、商店街にある空き地を借りて、大橋さん達が餅つきを実施していた際に、寄居町で「GOOD PARK」を展開していた一般社団法人ドコデモヒロバと出合います。彼らと共に、みんなが楽しめる広場をつくりたい、と本庄デパートメントは民間の土地を賃料を払って借り、私設公園「本庄銀座 GOOD PARK」をスタートしました。これが2つ目の拠点です。
夜はビアガーデンなどイベントを開催することも。時折キッチンカーも登場して皆で食事と会話を楽しむ(写真提供/本庄デパートメント)
「公共の公園だと花火ができない、ボール遊びができないなど制限が多すぎて楽しめなくなっています。それって心苦しいことですよね。だけど、私たちの責任のもとに場を借りて、企画し、運営していればその悩みは解消できる。一般的な公園ではできないけれど、ここでは花火も相談してもらえば許可します。もちろん周囲にお住まいの方々のご協力をもらいながらですが、安心して楽しんでもらえています」と話す早川さん。
公園では月1回地域の人がつくるお菓子や農産物、ハンドメイド小物などを売るマーケットを開催するほか、ビアガーデンを開くことも。毎週金曜日の夜にはキッチンカーが出店することもあるため、公園でご飯を楽しみながらご近所の人が談笑する時間が生まれています。
「本庄銀座GOODPARK」開設以降も、本庄デパートメントとして、商店のあちこちを借りては、リノベーションを繰り返し、6拠点に。そして、その場を若者たちや市民の挑戦の場として運営しています。
助けてくれる人がいるなら私もやってみたい、と店づくりに挑戦
早川さんは「この場を訪れる人に話を聞いていると、みなさん何か新しいことを始めてみたい、ちいさく商売を始めてみたいなど、何かしらやってみたい気持ちはある。だけどやり方がわからないと言う人も多いので、そういう人たちのサポートをしています」と言います。
大橋さんは店舗や場所のデザインや内装などの点でサポート、早川さんは資金面や事業運営面でのサポートをしています。
この2年で新しく増えた拠点は、小商いに特化したスペース。そのひとつは築138年、明治時代からある元お菓子屋さんの建物です。ここを本庄デパートメントが買い上げて、リノベーションした上で、子ども服のショップ「ayatori perch」と本庄デパートメントのアトリエとして2024年の3月にオープンしました。現在は建物1棟まるごと「ayatori perch」として営業しています。
菓子屋の看板がそのまま残る、「ayatori perch 」の入口(写真撮影/栗原論)
1階にはナチュラルなカラーの子ども服がたくさん並ぶ(写真提供/本庄デパートメント)
子ども服のショップ「ayatori perch」をオープンした、オーナーの大塚有記(おおつか・ゆき)さんは、コロナ禍をきっかけに夫の実家がある本庄へ移住しました。「リモートワークができる環境になったことが大きく影響していた」と言います。
もともと大塚さんは、オンラインで子ども服の販売をしていました。マルシェへの出店はしていましたが、どうせなら本庄でお店をやってみたいと、大橋さんと早川さんに相談。実店舗オープンになりました。
オーナーの大塚有記さん(左)と河田愛佳さん(右)(写真撮影/栗原論)
「店名の perchは止まり木という意味なのですが、この場がお母さんたちの止まり木になればいいなと思っています。子ども服だけではなく、ママさんが育児の合間のふらっと立ち寄ってくれるのがとてもうれしいんです。
一番新しい拠点“LIGHT+CANARY”。3階建ての化粧品店跡地に、やってみたいことがある人のための挑戦の場として提供している。オーガニックスーパー「NEW POINT」(25年10月末に閉店、11月からは催事営業)やワークスペース、音楽教室などがそろう「ちいさな商店街」(写真提供/本庄デパートメント)
内装を壊して、みんなでリノベーションした。デザイン、設計は大橋さんが担当(写真提供/本庄デパートメント)
ブラジルにルーツを持つ20代半ばの今津(いまづ)さん夫妻が挑戦したのは、オーガニックスーパー。日本の食材、ブラジルの食材をはじめ各国の食品がそろう(写真撮影/栗原論)
スーパーの隣には、解体されてしまう空き家や空き店舗で眠っていた古道具を販売するスペースがある(写真撮影/栗原論)
遊び倒す未来のこと、これからのこと
大橋さんと早川さんは、もっと暮らす街を面白い場所にしていきたい、知り合いを増やしてみんなを巻き込んで遊び倒したい、という思いが第一にあります。
実は本庄デパートメントの仕組みは、月額を支払い、各拠点を利用できる会員制度も設けています。ただ店をつくりたい人のための挑戦の場ではなく、拠点を自由に利用することもできるのです。
「街をよくしたい、盛り上げたいとか、大それたことをしたいわけじゃないんです。本庄のまちで、老若男女がもっと接点を持ち、互いにおしゃべりや交流する。それぞれがやってみたいことを楽しむ、応援する、そして遊び倒す。ただそんな気持ちなんです」と話します。
二人が出会って6年。その間にどんどん活動の拠点は増えて、歩けばそこかしこに拠点がある姿に。行けば顔見知りに会える。
商店街で遊ぶ仕掛けをこれからも増やしたいと、わくわくした表情で語る二人(写真撮影/栗原論)
「誰も顔を知らない街で暮らすことはどこか心細いもの。有記さんも話していましたが、社会から断絶されたかのように感じ、孤独な気持ちを抱えている人は多いです。ちょっとおしゃべりしたり、ちょっと顔が見えたり、それだけでもずいぶんと孤独感は薄まるものです。この“ちょっと”の関係が積み重なっていくと、きっとその人にとって街での暮らしが良い思い出になります」と早川さん。
願うのは、この街で暮らす子どもたちが、良いつながりをたくさん育み、成長すること。
「大人になった時に、“本庄って帰ってきたい街だな”って思ってくれたら」と二人は話してくれました。
空き家を誰かのやりたい夢を叶える場にするだけではなく、みんなの生活拠点にすることで、市民がつくり手にも使い手にもなれるという仕組みが魅力的です。新しい世代が、語り継ぎたくなるつながりづくりは、本庄でますます活発になりそうですね。
●取材協力
・本庄デパートメント
・ayatori perch
・NEW POINT
・LIGHT+CANARY

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