自宅の地下室を貸し出したり、生活空間をハウススタジオとして開放したりと、暮らしながら多用途に活用されている、アートディレクターの駒井美智子(こまい・みちこ)さんの住まい。リノベーションによって空間の魅力を引き出し、人との交流を積極的に楽しんでいます。

外との関わりを柔軟に取り入れるそのスタイルは、住まいの可能性を感じさせます。

築約30年、地下アトリエ付きの個性派中古住宅を購入

地下室付きの中古住宅を購入+リノベ。地下アトリエを賃貸、生活空間をハウススタジオで時間貸し。”家を開いた”子育て家族の暮らし、どう変わった?

可能な限り既存壁を取り払うことで、くの字の奥行きあるフロアが生まれた(写真撮影/相馬ミナ)

アートディレクターの駒井美智子さんは、結婚後中古マンションをリノベーションし暮らしていましたが、子どもが生まれて手狭になったこともあり、フリーランスとして独立するタイミングで、東京都内に一軒家の中古物件を購入することにしました。

駒井さんも夫も人との交流が好きで、マンション時代も来客が多いライフスタイルだったそう。それをさらに発展させ、自宅の一部を貸し出すなどして活用できる、個性的な物件をSUUMOのサイトなどで探しました。夫は不動産関係の仕事で、物件の目利きができたとのこと。

運よく見つかったのが、写真家がアトリエ兼自宅として80年代の終わりに建てた注文住宅。地下に撮影用の独立したスタジオがついており、他ではあまり見られない魅力的な個性がありました。エリアは、渋谷や目黒、白金といった都心部へも自転車で気軽に行ける利便性と、住宅地の静けさが両立しています。周囲には都会的な商店やカフェが点在する一方で、古い寺社や公園、川などで自然も感じられ、どこかに懐かしさも漂うという、暮らすにも貸し出すにも理想的な環境でした。

地下スタジオは天井が高く、専用のトイレやキッチンなども備わっており貸し出すのに好都合。ショップや時間貸しのスタジオやギャラリーにするなど、いろいろな可能性があることを夫は見抜いていました。前のオーナーが写真家で、「撮影のときに揺れないように頑丈につくった」と誇らしげに話してくれたのを、駒井さんは覚えています。

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リノベーション前の写真(写真提供/駒井さん)

リノベーション工事を経て、2020年、長女が5歳のときに新生活をスタート。


駒井「近所へあいさつ回りをした際は『◯◯さんの家に引越してきました』と言うとすぐに理解してもらえました。前のオーナーさんはここに住んでいた年月も長く、家に愛着があり地域コミュニティにもなじまれていたので、リスペクトをもって住んでいこうという気持ちになりました」

【駒井さん邸データ】
■購入時期/入居時期:購入2019年/入居2020年
■築年数:築約30年
■家族構成:妻、夫、子ども2人
■間取り:5LDK+スタジオ→3LDK+スタジオ
■広さ:専有面積196.41平米
■リノベ会社:リビタ

構造的な制約を乗り越えた工夫満載のリノベーション

1階と2階を自分たちの暮らしの場としてリノベーションするに際しては、リノベーション会社のReBITA(リビタ)に依頼。設計はAraki+Sasaki architects (アラキ+ササキアーキテクツ)が担当しました。この家はツーバイフォーという壁で耐震強度を保つ構造であることから、間取りの変更にはかなりの制約があったそう。そこで、既存の間取りを活かしつつ、いかに面白くするかが課題となりました。

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構造上必要で残した廊下の壁にピクチャーレールを設置したので、ギャラリーのように利用することも可能(写真撮影/相馬ミナ)

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キッチンに備えたテーブルはオリジナルで制作したもので、調理中の作業台や朝食のテーブルに活躍する。来客が多いときには部屋の隅に移動しやすいキャスター付き(写真撮影/相馬ミナ)

1階は水まわり以外、玄関まで間仕切りなしでつながるオープンプランのLDK。三角形に近いクセのある敷地形状に沿ったいびつなフロアを連続させることで、広がりのある家族の空間へとリメイクしました。斜めの壁面を利用したキッチンがフロアの要。空間同士をつないで奥行き感を演出するとともにスムーズな動線をつくり出しています。玄関からキッチンまでの開放的な連続空間は来客をスムーズに導き、たくさんの心地よい居場所を提供します。

キッチン奥に備えたワークスペースは、今では成長した子どもたちの学習コーナーに。駒井さんは在宅で仕事をしていますが、ダイニングなどそのときの気分に合わせてノマド的に場所を選ぶそうです。

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キッチンから見守れる場所にある子どもたちのスタディースペース。壁に取り付けたボックス収納の視覚的効果で、中身が雑然としていても絵になる景色に(写真撮影/相馬ミナ)

「うちはものが多いんです」と笑う駒井さん。リノベーションで造作したオープンタイプの棚に、好きなものを見せながら収納するスタイルです。確かに、たくさんのものが賑やかに空間を彩っていますが、雑然とした印象はなく、むしろ個性があって魅力的。リビングの窓まわりと一体的にデザインした本棚には、家族の「好き」があふれ、子どもたちのワークスペースでは、夫妻自ら塗装した有孔ボードに創作物を気軽に飾って楽しんでいる様子。ボックス状の棚をランダムに配置した壁面は、見ているだけで楽しく、クリエイティブな気分が湧き上がりそう。駒井さんが目指した「家族の文化が見える家」が体現され、生き生きとした生活感にあふれています。

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一体的にデザインした本棚、ベンチ、エアコンカバーで、窓まわりが心地よい空間に変身。ソファ背面の既存出窓には、夫が好きな観葉植物を集めている(写真撮影/相馬ミナ)

寝室は、生活のしやすさを考えてLDKや浴室に近い1.5階に。2階にはウォークインクローゼットと一体の洗濯室と、斜めの壁を活かした広いフリースペースをつくり出しました。当初は民泊的なホステルとしての活用も考えましたが、子どもたちにもプライベートな部屋が必要になり、現状は遊んだり、ゲストが宿泊したりするスペースとして使用しています。

壁はポーターズペイント※でDIY塗装。

水栓や洗面ボウル、照明器具などのパーツ類は自分たちで安価な物を探し、海外から輸入するなど、コストを抑えながらも細部にまでこだわりが詰まっています。

※海外の自然由来の塗料の商品名

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タイル使いがホテルライクな1階の洗面所。インターネットで購入した安価なパーツ類も、組み合わせのセンスで高見えし、ラグジュアリーなスペースに(写真撮影/相馬ミナ)

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ガレージの上に位置する1.5階の寝室。右手のクローゼットとの仕切り壁には、リキッドコッパーという金属質の光り方をする塗料を自ら塗装し、アンティークのペンダント照明と合わせ雰囲気たっぷりに(写真撮影/相馬ミナ)

地下アトリエを貸し出すことで感じる人の温もり

地下のアトリエを最初に貸し出したのは、イラストレーターの女性でした。
駒井「その方は海外育ちで、人を招くのが好きなタイプだったので、よく一緒にホームパーティーを開いていました。アート界隈の多様な人との交流が自然な形でできたので、子どもたちにはとても良い経験だったと思っています」

自分たちと同じように“閉じこもらない”マインドの持ち主との出会いを求め、家賃も少し安めに設定しているそう。夫が仕事柄不動産に詳しく、契約まわりもスムーズに行えることはアドバンテージになっています。

現在借りているのは、クリエイティブディレクターで北欧アンティークのバイヤーでもある福岡康之(ふくおか・やすゆき)さん。
駒井「福岡さんはどちらかというと物静かな方で、交流は頻繁ではありませんが、自分の家に誰か他人がいるという状況そのものが面白く感じられます。また、私も家で仕事をしていることが多いので、地下から漏れてくる音や気配に、孤独を感じなくてすむ安心感がありますね」

福岡さんは「毎年商品の買い付けで訪れるフィンランドでは、地下にショールームやショップがあることが多いんです。それと似た雰囲気にすごく惹かれました」と話します。

福岡「この空間は、差し込む光が穏やかで、白い壁のシンプルな背景に商品の色が映え、フィンランドの倉庫のような雑然とした感じを、自然体で再現できているのが嬉しいです。

駒井さんご夫妻には、お会いした瞬間にフィーリングが合いそうだと感じました。

オーナーとの関係性の大切さを経験上痛感していたので、クリエイティブなことに理解があるご夫妻とは、良好な関係性が築けそうだと思いました。ご夫妻のやわらかく包み込むような雰囲気がありがたいです。

『子どもたちが少しバタバタするかもしれません』と最初に話してくださったんですが、僕にとってはむしろ好ましいので気になりません。子どもさんの成長を音で身近に感じられるというか、そういう意味でもとても心地いい環境です」

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元は写真家の撮影スタジオとして使われていた地下空間を貸し出し、今は北欧雑貨のショールーム兼倉庫、オフィスとして使用されています(写真撮影/相馬ミナ)

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スチールラックに無造作に並べられた北欧の雑貨たちを、シンプルな白い壁が浮き立たせ、フィンランドによくある地下倉庫の雰囲気が再現されています(写真撮影/相馬ミナ)

生活空間をハウススタジオとして貸し出すことで家をリセット

住み始めてしばらく経ったころから、クローゼット兼洗濯室以外の生活空間を撮影スタジオとして貸し出すことにもチャレンジしているそう。

駒井「それは購入時点から想定していたわけではなく、住み始めてから、家や暮らしの中で、いかに楽しむことができるかを考え始めたことが背景にあります。その結果、挑戦しようと思ったのが、家を開くという暮らし方でした。ロケハン(下見)の申し込みは、平日、月に1~2回ほど。直前に連絡が来ることも多く、採用される頻度も高くはありません。そのうえで、生活しながらもある程度人に見てもらえる状態に保つことが必要ですし……好きじゃないと続かないですね」

そう苦笑しながら「でも家の中を他人の目線からリセットするいい機会になりますし、“大変なほうが楽しい”っていうのはわかっているので」と、あくまで楽しむ姿勢でチャレンジを続けている駒井さんです。

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ダイニングテーブルを中心に、家の中のいろんな場所でノマド的に仕事をする駒井さん(写真撮影/相馬ミナ)

家を開くことで “人と関わる暮らし” が生む豊かさ

自宅の貸し出し以外にも、月に一、二度は友人知人が集まる機会があるそう。どちらかといえば夫のほうが多様な交流に積極的で、駒井さんはそこに巻き込まれるパターンが多いそうですが、子育てや家事、そして仕事をこなしながらも巧みにそれを乗りこなしています。

駒井「私の祖母の家が農家で、家の周りは畑ばかり。鍵もかけないような暮らしでしたから、ご近所の人が家の内外にいて当たり前。

地域や人に開いた暮らしの原体験は、そこで得たのかもしれません」

駒井「例えば子どもに対して、家の中だと感情的に怒ってしまいがちですけど、人目がある外だとそうはなりにくい。それと少し似ているような気がするんですが、誰の目にも触れない閉じた空間で暮らすよりも、風通しのいいところで暮らすほうが自分を律しやすいと思うんです。もちろん大変なこともありますが、その分、楽しさも増すという感覚。頻繁な飲み会の準備や片付けに追われることは、正直大変なときもありますが、後で振り返ると、やっぱり楽しかったなって思えるんですよね」

子どもたちも、よく家に友達を連れてくるのだとか。「うちには誰が来てもいい、という感覚が身に付いている気がします」と駒井さん。家を開き、風を呼び込むオープンマインドが、子どもたちにもしっかり受け継がれていることに目を細めます。

多くの人は自宅を「人に見せられない自分の隠し場所」にしがちですが、駒井さんが日常的に人を迎え入れることで、自分たちの暮らしや家族のあり方を客観的に見つめ直している点は示唆に富んでいます。人との関わりから得る刺激や活力は、日々の暮らしを豊かに彩るカンフル剤のような存在。大変さと背中合わせであることも受け止めながら、そうしたスタイルを楽しみ続ける姿勢が、駒井さん一家の人生をより深く、豊かに育んでいるように感じました。

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可能な限り壁を取り払った2階のフリースペースは、子どもたちがのびのび遊べる部屋として使用。週末は友達が訪ねてきてにぎやかに遊ぶことも多いそう(写真撮影/相馬ミナ)

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2階には、ゲストの利用も意識したスタイリッシュなサニタリーを設置。「いずれはシャワーブースも設けたいと考えています」(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
駒井 美智子さん
Art Director/Designer
棚をつくるユニット チーズとバター | cheesetobutter

福岡 康之さん

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