大手デベロッパーなどの不動産事業に関わる事業者で構成された業界団体である「不動産協会」が、「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」を発表した。近年都心部の新築マンション価格の高騰が著しく、投機的な転売などが価格高騰を招いているといった指摘を受けてのものだ。

国土交通省も実態調査に乗り出している。状況を説明しよう。

【今週の住活トピック】
「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」を発表/不動産協会
不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果を公表/国土交通省

マンションの短期転売などが問題となった経緯は……

マンションの投機的な購入についてが、話題に多く上がるようになったのは、選手村跡地の晴海フラッグのマンションがきっかけだろう。土地は東京都のもので、建物は選手村として使用された後に改修するものであることなどから、周辺相場よりも価格を抑えて分譲されたため、申し込みが殺到した。

一方で、同じ買主が多くの住戸を購入するなどの投機的な買い方が問題だと指摘されるようになり、購入戸数を制限するなどの対応がとられたが、入居開始後に居住実態がない住戸が多いといった問題が浮上するようになった。

また、近年は特に都心部での新築マンション価格の高騰が著しく、その理由として、投機目的で購入する富裕層や海外投資家などが高値で購入することを指摘する声も高まってきた。自治体からも、価格高騰により住みたい人が買えない実態について、投機的な購入を問題視する発言も上がった。

2025年7月には、千代田区が不動産協会に対して、「再開発事業などで販売するマンションについては、購入者が原則5年間は物件を転売できないようすること」、「同じ名義人が複数物件を購入しないこと」など、投機目的でのマンション取引などに関する要請を行った。

こうした事態に国土交通省も動き出した。マンションの取引の実態把握を行うとともに、不動産協会と投機的な取引の抑制に向けた対応について、協議を重ねた。その結果が、不動産協会の今回の発表につながっている。

不動産協会による投機目的の短期転売などへの基本姿勢とは?

不動産協会は、今回の「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」で、どう認識しているか、どういった基本姿勢をとるかを明らかにしている。

不動産協会は、まず、マンションの価格上昇の要因として、「土地代や建築費などの原価の高騰」が大きいとし、マンションの供給が減少している一方で住宅購入意欲が根強いといった「需給バランス」が加わったことによるもので、投機的な取引の影響は限定的とみている。

そのうえで、投機目的の購入や短期転売は好ましいものではないとし、できる限り抑制するために何らかの対応が必要という認識を示している。

その対応策としては、まず、これまで以上に購入目的の確認を徹底することを挙げている。これは、転勤などの事情で購入後すぐに売却せざるを得ない事例も少なからずあり、実態をきちんと把握して対応したいということだろう。

さらに、3つの施策を基本として取り組むとしている。
(1)登録・購入戸数の上限制限
1物件当たりの購入戸数を制限する(購入戸数制限)ことに加え、1回の販売期(1期1次など)で登録できる住戸数を制限する(登録戸数制限)
(2)契約・登記等名義の厳格化
購入の登録をした人の名義のまま、契約や引き渡し、所有権登記までを行うことを徹底する
(3)引き渡しまでの売却活動禁止
売買契約締結から引き渡しまでの期間で売却活動を禁止する

大手デべがマンションの短期転売対策に乗り出した!マンション価格高騰の歯止めになるか?

不動産協会「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」より転載

転売禁止とした期間を引き渡しまでにしたのは、住宅は個人の私的財産なので財産権の対象になること、引き渡し以降は「契約を解除して引き渡しをしない」という手段に出られないこと、などを理由として挙げている。

また、3つの施策をすべての不動産会社、すべての物件で実施するのではなく、物件の特性に応じて各社で適宜判断するとしている。

今回の不動産協会の施策について、某大手デベロッパーの住宅部門長に聞いたところ、「東京湾岸エリアのマンションを除けば、それほど短期転売や海外からの購入が多いという実感はないが、買いたい人の機会を公平にするという観点で、今回の施策に取り組みたい」ということだった。

国土交通省が登記情報を基に短期売買などの実態を調査

では、国土交通省が行った不動産取引の調査については、どういった結果だったのだろう。

国土交通省の新築マンションの取引調査は、主に法務省から不動産登記情報の提供を受けてのもの。三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)と地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)の2018年1月から2025年6月までに保存登記※がなされた、約55万戸の新築マンションを対象として分析している。
※登記原因が売買である申請情報のうち、所有権の保存および移転登記の情報

「短期売買」=2024年6月までの間に保存登記されたもののうち、保存登記から1年以内に移転登記したもの、として分析したところ、中心部ほど短期売買割合が高い、あるいは増加する傾向が見られたという。保存登記が2024年1~6月の直近の短期売買割合は、東京都は8.5%、神奈川県は5.1%、大阪府は6.2%、兵庫県は7.1%と高いが、なかでも、東京23区(9.3%)(都心6区に限ると12.2%)、横浜市(5.7%)、川崎市(8.2%)、大阪市(7.2%)、神戸市(12.1%)で高い数値が出た。

ただし、同じ地域でも年によって大きく変動し、その年にどういったマンションが供給されたかなど、マンションの個別性によって短期売買割合は変わることも分かった。

次に、「国外に住所がある者による新築マンションの取得」については、直近で増加する傾向が見られたという。

取得期間が2025年1~6月の直近のデータでは、東京都が3.0%、大阪府が2.6%、京都府が2.3%だった。

大手デべがマンションの短期転売対策に乗り出した!マンション価格高騰の歯止めになるか?

国土交通省「【報道発表】不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果を公表」より転載

なお、不動産登記については、現在、国籍を記載する仕組みになっていない。金子恭之国土交通省大臣は11月25日の大臣会見において、「総理指示を受けて、不動産登記において国籍を把握する仕組みが整備された場合には、国土交通省としては、国籍も含めた、より詳細な取引実態の調査・分析に取り組んでいきたい」と語っている。

短期転売禁止、戸数制限などの効果は?価格への影響は?

さて、国土交通省の調べた実態について、その数値をどう読むかは人によって異なるだろう。

筆者は、海外居住者が新築マンションを取得した割合については、それほど高くないと感じた。また、短期転売については多くの地域で一定数生じていると感じたが、おそらくいずれについてもマンションによって大きな開きがあり、かなり高い比率になる特定物件もあると思う。

したがって、今回の短期転売禁止、戸数制限などの施策により、一部のこうした行為は抑制されると思うが、新築マンション価格の上昇に歯止めがかかるほどではないと思っている。

かつて不動産投資といえば、賃料で収益を上げることが主流だった。しかし、賃料も上昇しているものの、住宅価格の上昇が著しいことから、賃貸化の利回りよりも転売による利益のほうが大きいといった状況が、転売を促進している。住宅価格の上昇に歯止めがかからないと短期転売の抑制は難しいだろう。

一方、価格の上昇は今後も続くとみられている。円安や日本がインフレに移行したこと、建築業界の人手不足などもあり、地価や建築費の上昇は今後も続く見込みだ。

原価は上がり、新築マンションの供給が減少するなか、デベロッパーは確実に売れるマンションに注力するため、好立地や再開発の物件などに付加価値をつけた高価格帯のマンションの比率が高まり、市場価格は上昇するという構図だからだ。

とはいえ、売買契約=手付金を支払って購入する権利を得たという段階で、売却活動をしたり、一部の購入者が多くの戸数を買い占めたりする行為はいかがなものかと思う。買いたい人に公平な機会が得られるように、不動産会社各社は今回の施策については適切に対応してほしい。

投機目的の購入については、マンションの維持管理上の課題もある。そこに居住しない所有者が増えれば、マンションの維持管理のための管理組合の活動に支障が出るといった懸念も生じる。いろいろと根が深い問題なだけに、政府や不動産業界などで実態をよく把握したうえで、適正な取引ができるように知恵を絞ってほしいものだ。

●関連リンク
不動産協会「分譲マンションの投機的短期転売問題にかかる取組みについて」
国土交通省「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引の調査結果を公表」

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