山口県東部、光市の南部に位置する室積(むろづみ)地区。瀬戸内海に面したこの穏やかな街に、2025年7月、新たなゲストハウスがオープンしました。
自分のルーツでもある実家の売却を目前に辿り着いた、「民泊」という選択肢
ゲストハウスの眼前に広がる、室積の街とおだやかな瀬戸内の風景(撮影/古石真由弥)
「もともとは、お盆と正月に短期間帰省するくらいで、地元の友人たちやご近所さんとの交流も特になく、何年も室積の街に出かけることもなかったんです」と振り返る可部さん。東京に住まい、忙しい日々を送っていた可部さんに、実家問題が突き付けられたのは2023年のことです。
2019年ごろから入退院を繰り返していた母親が他界。「相続の手続きを済ませ、山口の実家を今後どうするか話し合いましたが、兄弟はそれぞれ東京、神奈川、大阪と遠方に長く住んでいて今さら実家に戻るという選択肢も考えられず、将来的にも子どもたちに負担をかけたくないと実家の処遇には消極的で……」。可部さん自身もその当時はまだ実家に帰るつもりはなく、帰るとしても10年以上先。実家は売却しようかという話になっていたといいます。
しかし、「いざ売却という段階になると、なんだか自分のルーツを失ってしまうようで何か心に引っかかるものがあって……」と可部さん。「友人にも相談する中で出てきたのが、『リノベーションして民泊にしたら?』というアイデアでした」
折しもコロナ禍を乗り切り、「リモートワーク」や「ワーケーション」が広く受け入れられるようになった時期。可部さん自身も、母親の介護のために東京との行き来を続け、リモートワークで仕事を続けてきた経緯もありました。
さらに、「いざ久々に室積の街を歩いてみると、街のあちこちに新しいお店ができていたり、街を盛り上げようと頑張っている人に出会えたりして、『これは民泊需要があるかも』と感じました」
歴史を重ねた建物が点在する「海商通り」。「火曜マルシェ」の行われる日には、朝から人の往来も多い(撮影/古石真由弥)
「火曜マルシェ」の会場の一つ「室積市場ん」。
室積の街を元気にしようと奮闘する、熱量のある人たちとの出会い
室積は瀬戸内の穏やかな風景が広がる、御手洗湾に面した港町。海路貿易の拠点として、また、海路の安全を司る「普賢菩薩」を祀る普賢寺の門前町としても栄えた街です。街の中心となる「海商通り」には、江戸から明治にかけて栄えた豪商などの町屋がところどころに残り、そのうちのいくつかは近年、再生されて新たなお店になっています。
可部さんの背中を押したのは、そんな街の変化や、街を盛り上げようと奮闘する人たちとの出会いでした。
築170年以上の商家を改装した「室積市場ん」もその一つ。
運営しているのは同名の女性グループで、始まりはコロナ禍の2020年に遡ります。多くの店が営業を取りやめるなか、「平日に人が集まれるコミュニティをつくりたい」と始まったのが「火曜マルシェ」でした。マルシェに集まるのは、地元のお店の商品や目の前の海で取れた新鮮な魚、そして近隣から集まってくる人が持ち寄る雑貨やスイーツなど。会場となるいくつかの店舗からは、いつも楽し気な話声が聞こえてきます。
マルシェは回を追うごとに出店数や来客数を増やし、2021年に核となる店舗は常設化。その後も、毎週火曜日にはマルシェを継続し、県内外から多くの人が室積を訪れています。
可部さんがその存在を知った時は、室積市場んが法人化を経て、ちょうど室積の空き家活用や移住支援にも力を入れているところだったといいます。「実家の活用や管理をどうしようかとWebでいろいろ調べていたところ、室積市場んさんのことを知り、さっそく問い合わせしました」
2015年までこの地で営業していた、嘉永5年(1852年)創業の老舗和菓子店「中野昌晃堂」を改装した「室積市場ん」(撮影/古石真由弥)
地元・室積の魅力を再発見。民泊経営の強力なサポーターも
その時に出会ったのが、現在、可部さんが民泊の管理・運営をお願いしている山本 統(やまもと・おさむ)さん(現・むろづみ空想計画舎代表)です。
「私がお会いしたころは、山本さんご自身も勤めていた会社を退職されて、弟の古谷哲(ふるや・あきら)さん(現・むろづみ空想計画舎副代表)と一緒に、室積での地域創生に力を入れ始めたタイミングで」と可部さん。山本さん自身、街の活性化のためのイベントを主催したり、地域の空き家を活用したお店を検討したりと、積極的に地域の魅力を活かした活動を行っていました。建物の管理だけでなく、ゲストへの街紹介や、アクティビティの案内といったサポートも民泊経営には大事なポイントです。
「山本さんと街を歩き、室積の魅力や、街を盛り上げようとしている人たちを紹介してもらう中で、私自身も、地元・室積の魅力を再発見できたように思います」。さらに、実家のリノベーションについても、山口市に本社を置く地元の建築会社との出会いがあり、「本当にいろんなご縁が重なって、いい流れで実家の活用に向けてスタートをきることができました」(可部さん)
昭和初期から製パン業を営んでいた「木村家」は、山本さんの妻の実家。築160年ほどになるこの建物も、リノベーションを経て、今はお惣菜や雑貨の店として営業している。写真は左から、山本さん、可部さん、古谷さん(撮影/古石真由弥)
リノベーションで蘇る、実家での懐かしい日々や父母の思い
「小さいころは、うちの家は変わった家だと思ってて。今にして思えば、木造・瓦葺きが大半を占めるこの街の住宅の中で、RC構造の平らな屋根の家は珍しかったんですよね(笑)」と懐かしむ可部さん。
リノベーションを担当した社長の田丸亮(たまる・あきら)さんは、建物の第一印象について「建てた人のこだわりを強く感じるお住まいだなと思いました。リビングの暖炉横の石のあしらいも、この時代にはなかなかないデザインですよね」とひとこと。
同社の山本陽子(やまもと・ようこ)さんも、「今では希少なデザインガラスを使った建具なども多くて。刷新する部分とのバランスを見ながら、納まりを考える過程が楽しかったですね」と振り返ります。
外観の雰囲気はそのままに、サッシを断熱性の高い複層ガラスに変えることで快適な室内空間を実現。そのサッシの向こうには、室積の街と瀬戸内海を一望できる。写真は左から、I.D.Worksの田丸さん・山本さん、可部さん(撮影/古石真由弥)
老朽化のため急務だったトイレとサッシに加え、水回りを中心に古くなった設備は交換し、ゲストハウスとして使いやすいようにゆとりのあるデザインに。ダイニングとリビングの間にあった間仕切りの引き戸は外して、一体感のあるLDKに変更しました。
さらに、LDK横の部屋は和室をフローリングに変え建具を外して、土間続きの開放的な空間に。「広縁を解体したその下に現れた石畳は建てた当時のもの。土間の下に隠すのではなく、土間のデザインとして活かしました」(山本さん)
リノベ前の様子(写真提供/I.D.Works)
現在の様子。庭に面したリビングに設えられていた暖炉と石壁の収納はそのまま活かして、手前のダイニングとの間仕切り引き戸を取り払って視界を確保した。大きなソファでのんびり過ごすことができる(撮影/古石真由弥)
キッチンは海外からのゲストでも使いやすいように、標準的な高さが850mmのところを900mmで作成。つくり付けの食器棚は、この家にもともとあった家具をリメイクして造作したもの。右側のガラス扉がワークスペースと和室への入り口になっている(撮影/古石真由弥)
LDKに隣接する部屋をワークスペースとして活用。広さがあるので、大人数でくつろぐにもちょうどいい。
逆に、リビングの暖炉やその横の石壁のデザインはそのまま。寝室の壁面全体に設えられていた可部さんのお父様こだわりの書架や、階段下の黄色いガラスブロック、かつての面影を色濃く残す和室も建具などに手を入れつつ残すことに。
「いざリノベーションを決めて改めて住まいを眺めてみると、父がこの家をどんな思いで建てたのかとか、ああこんなこともあったなとか、いろんなことが思い出されて、さらに愛着が増した気がします」(可部さん)
2階の寝室。つくり付けの書架も元のまま活かして、一部はヘッドボードのように使っている。ダウンライトで明るさを絞り、穏やかな時間を過ごせるスペースになっている(撮影/古石真由弥)
リノベ前の寝室(写真提供/I.D.Works)
傷んでいた建具や畳を交換しつつ、和室自体は手を加えず残した。大人数での宿泊時には寝室として使えるほか、海外からのゲストには“日本らしさ”を体験してもらうこともできる(撮影/古石真由弥)
玄関脇、階段下の壁には明り取りのガラスブロックがあしらわれている。夕日のような温かな光が入ることで、ノスタルジックな雰囲気のある空間に(撮影/古石真由弥)
ゲストハウスの準備を進めながら思いを巡らせた、街の未来とセカンドライフ
実家問題に直面したことで、自分の将来について向き合うことになったという可部さん。
リノベーションやゲストハウス化を検討していく過程は、そのまま可部さん自身の将来をイメージしていく過程でもあったのかもしれません。
「今、東京に主軸を置いて暮らしている中で、文化的に切り離されてしまうのは嫌だなと思っていました。何かやっていたいタイプなので、ただのんびり田舎暮らしをしたいというわけでもなく……。だからこそ、山本さんをはじめ、多くの人が街を盛り上げるために奮闘している今の室積の現状は、とても魅力的に感じました」
「室積市場ん」などで配布されている観光MAP。室積の歴史あるスポットのほか、近年増えている移住者やUターン人材による新スポットも掲載されている(撮影/古石真由弥)
リノベーションを決めてからも、何度もオンラインで打ち合わせを重ねた可部さん。
その内容は、リノベーションや民泊のプランだけでなく、地域活性のアイデアにまで及んだといいます。室積に帰省した際には、地元のスポットを巡り、地域創生に活かせるポイントを発掘して歩いたことも。
「いつになるかは分からないけれど、本格的に室積に帰るなら、自分が住みたいような街にしておきたい。そのためにも、今から積極的にこの街の地域創生にも関わっていきたいと思っています」と語る可部さんは、今は半年に1回くらいの頻度で室積に戻り、テレワークで仕事を続けながら1カ月 ほどを過ごす、そんな生活を続けています。
「コロナ禍で、東京でなくても通信さえあればなんとかなるということを実感しました」と可部さん。ゲストハウスにはワークスペースも備え、通信環境も整っている(撮影/古石真由弥)
「行き来を続けているうちに、軸足の境界線がどんどんあいまいになっている気がします。もしかしたら思っていたよりも早く軸足が移るのかもしれないし、もっと先かもしれない。でもそれに向けての下地づくりが進んでいるという実感はありますね」
室積の街を歩く。人とのつながりが地域への結びつきを強くする
室積の街は可部さんと愛犬のお散歩コースにもなっています。室積で過ごす期間には、のんびり街を歩くことも多いそう。街を歩けばそこかしこに顔見知りがいて、気さくに声をかけてくれます。
「むろづみ空想計画舎さんとつながることで、地元のコミュニティやそこに関わるたくさんの人たちとのつながりができ、さらには中高時代の同級生とのつながりも徐々に復活。
街を歩けば、可部さんが“激ウマ”と絶賛する、スイーツの店「くるみの樹」さんや、新鮮なお魚とお惣菜の「ときよし鮮魚店」さん、火曜マルシェにも参加している「喫茶はらだ」さんに、最近海沿いの立地に誕生した「しお活バレルサウナ」さんなど、魅力的な施設がたくさん……。
「まだ行けてないお店もあるので、これからもいろいろ歩いてみたいですね」と話す可部さんは、もうすっかり“室積の人”でした。
「室積市場ん」の長野さん、川村さんとごあいさつ。街を元気にしてくれる女性たちの活躍は可部さんにとっても刺激に(撮影/古石真由弥)
海へと伸びる普賢寺の参道をお散歩。湾状に広がる海辺や、岬に見える灯台も、今ではすっかり馴染みの風景に(撮影/古石真由弥)
この街でどんな風に過ごしていきたいかと尋ねると、「セカンドライフは、何かしら地域に貢献できる活動ができればいいなと思っています。家には広い庭を活かしてドッグランを創ったり、友達も呼んでBBQしたりしてにぎやかに過ごすのもいいですね」と笑顔を見せる可部さん。「もちろん、地域を楽しくする仕掛けにはどんどん関わっていきたいです!」とポジティブなひと言も忘れません。
取材を通して感じたのは、室積を盛り上げる皆さんのパワー!
こんなにポジティブでパワフルな皆さんが盛り上げる室積の、そう遠くない未来が、ますます楽しみになりました。そして、やはりそう遠くない未来に、街に違和感なく溶け込み、相変わらずパワフルに活動しながら、朗らかな笑顔を見せる可部さんの姿も、鮮やかに目に浮かぶように感じました。
●取材協力
むろづみ空想計画舎
株式会社I.D.Works
室積市場ん
airbnb:山口県光市のまるまる貸切の一軒家

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