マンションのオートロックと言えば、鍵を挿したり、暗証番号を入力したりして開錠するのをイメージする人が多いだろう。ところが、近年はITやAI技術の革新によって大きく進化し、ICチップを内蔵した鍵やカードをかざしたり、カメラに顔を映して顔認証で本人認証したりして開錠するタイプが増えている。
住宅への侵入窃盗事件は年間で1万6000件発生
警察庁の統計によると、住宅侵入窃盗の認知件数(下グラフの赤線)は、2004年(平成16年)から概ね減少しており、2024年は前年比8.4%減となる約1万6000件だった。減少傾向とはいえ、それでも1日当あり約44件発生しており、油断は禁物だ。
「昔はお金持ちが住む豪邸などが狙われがちでしたが、最近は宅配業者に成りすまして侵入するといった新手の事件が一般住宅でも増えています。事前に侵入しやすい住居にマーキングを行うなど手口も巧妙になり、特に防犯セキュリティの低い住居ほど狙われやすいです」と防犯アドバイザーの京師美佳(きょうし・みか)さんは説明する。
侵入窃盗認知件数の推移。赤のグラフが住宅対象の件数(データ/警察庁)
2024年に発生した侵入窃盗の認知件数を場所別に比較すると、一戸建て住宅が29%と最も多いのに対し、多くのマンションが該当する4階建て以上の共同住宅は3.7%と少なく、マンションの侵入窃盗リスクは一戸建てと比べて低いと言えるだろう。
「一戸建てとマンションの防犯セキュリティを比べると、オートロックや防犯カメラなどが最初から備わっているマンションの方が一般的には高いと言えるでしょう。しかし、マンションならではのリスクもあります。見知らぬ人が多く住んでいたり、プライバシーを重視するあまり共有部に死角が多かったりすることなどです。また、一戸建ては後付けで防犯対策を追加しやすいのに対し、マンションはできる余地が限られています。その意味でもマンションを選ぶ際は、防犯セキュリティが高い物件を選ぶことが重要です」(京師さん)
令和6年の侵入窃盗の発生場所別の認知件数(データ/警察庁)
マンションの防犯セキュリティの要を担うのが入館認証システム
マンションの防犯セキュリティを高める施策で重要なのが、エントランスにおいて住人やその知人・友人だけを入館させて、それ以外の不審者を入館させないこと。またエントランスから不審者に入館された場合を想定し、管理人やコンシェルジュが監視したり、エレベーターなどの共用スペースにも同様の認証システムを設置したりするなど二重三重の対策を講じて、不審者を住戸まで上げないことだ。
「高級分譲マンションでよく見かける入館認証システム、コンシェルジュによる監視、エレベーターで居住階のボタンしか押せないといった3つが備わっていればまず安心です」(京師さん)
また、コロナ禍以降、宅配業者の配達員などになりすました不審者の不法侵入が増えている。
セキュリティが高いのは、ICチップ内蔵の鍵と生体認証の組み合わせ
マンションの防犯セキュリティの要を担う入館認証システムはIT技術を活用して大きく進化している。一昔前の入館システムは鍵を挿すか、暗証番号を入力して開錠する種類が多かったが、「最近はICチップ内蔵の鍵やカードをかざして開錠する方法が主流です」(フルタイムシステム原周平さん)
ICチップ内蔵の鍵やカードには、「Suica」などの交通系ICカードやコンビニの支払いで使う電子マネーなどさまざまな用途で使われている近距離無線通信(NFC)技術が使われている。ICチップ内蔵の鍵やカードを専用の受信端末にかざすと近距離無線通信によって認証が行われる。このICチップ認証だけでもセキュリティは高いが、ICチップ内蔵の鍵やカードを紛失した場合、第三者に不法侵入されるリスクが残る。
そこで最近はセキュリティをさらに高めるため、ICチップに加えて生体認証による本人認証を追加するケースが増えている。生体認証の種類は顔、指紋、静脈などがあるが、マンションには何が適しているのだろうか?
認証用のICチップを搭載したキーヘッド付きの鍵(左写真)やカード(右写真)(写真提供/株式会社フルタイムシステム)
マンションでは、鍵やカードを鞄などに入れたまま開錠できる顔認証が便利!
指紋認証や静脈認証は認識の精度は高いものの、認証時に指を受診端末に触れる必要があるなど手間がかかります。一方、顔認証は天候などの環境によって精度が劣るものの、カメラに顔が映るだけで認証されるため簡単です。住人が多いマンションのエントランスだと、指紋認証や静脈認証の場合は住人が指を端末に触れていると時間がかかるため、利便性やスピードの観点から顔認証が普及するでしょう」(原さん)
フルタイムシステムが提供する顔認証のハンズフリーサービス「F-ace(フェイス)」はNECの顔認証技術をベースに共同開発した。顔認証は顔の形や骨格など数百カ所の特徴を登録して行うため、個人情報の顔写真の提出は必要なく漏洩する心配もない。「鍵やカードに内蔵されているICチップに顔認証情報を登録すると、居住者は鍵やカードを鞄から取り出さずとも開錠できます。その利便性の高さから当社が実施したアンケートによるとIC認証と顔認証どちらも可能な物件の居住者では8割強の人が顔認証を利用しています。IC認証と顔認証の組み合わせは防犯セキュリティと利便性の双方を向上できるので人気です」(原さん)
なお、紛失リスクを考えてICチップ内蔵の鍵やカードを廃止し、生体認証による本人認証だけの方がセキュリティが高まると考える人もいるかもしれないが、認証精度が100%ではないことや、例えば災害等でシステムが作動しない場合は入れなくなるリスクも考慮し、物理的な鍵やカードは当面なくならないだろう。
ハンズフリーで施錠できるためマンションで人気が高い顔認証システム。
オール顔認証マンション(R)の導入やスーパーの決済を顔認証で行う実証実験も
実際、顔認証を採用する分譲マンションは増えつつある。顔認証IDプラットフォーム「FreeiD」を提供するDXYZ(ディクシーズ)株式会社では、エントランスからエレベーター、住戸の玄関、駐車場や宅配ボックスに至るまで顔認証で施錠できる「オール顔認証マンション(R)」のシステムを提供しており、2025年10月末時点でこのシステムを採用した物件は271棟まで広がっている。
「当社が提供している「オール顔認証マンション(R)」では、マスクをした状態で2メートル離れた場所でもスムーズに開錠できるなど便利なこともあり、当社がマンションの居住者に採ったアンケートによると97%の人が便利だと回答しています」(DXYZ経営企画部の橋本裕介さん)
同社の顔認証IDプラットフォームは、特定のメーカーにしばられないデバイスフリーのプラットフォームのため、現在、最も普及に注力しているマンションに加えて、オフィスやホテル、商業施設、役所などさまざまな施設で顔認証を利用できるよう努めている。例えば、イオンモール常滑店ではイオンカードの保有者は顔認証で決済できる実証実験を行っている。
ヴァースクレイシアIDZ下北沢の写真
エントランスに加え駐輪場やエレベーターなど共用部から専有部まで顔認証で施錠できるマンション「ヴァースクレイシアIDZ下北沢」。左が外観写真、右がエレベーター前の写真(写真提供/DXYZ株式会社)
進化した宅配ロッカーを活用してなりすまし不法侵入を防ぐ
宅配業者などになりすました不法侵入を未然に防ぐ役割を担う宅配ロッカーも進化している。宅配ロッカーの仕組みを説明すると、宅配業者が訪問した際、エントランスにあるインターホンで荷物の宛先の部屋番号を呼び出し、居住者が不在の場合は宅配業者専用の方法(専用の暗証番号や鍵など)でオートロックを開錠し、宅配ロッカーの操作盤に配達員IDやパスワードなどを入力し宅配ロッカーを開ける。
荷物を入れた後は、届け先の部屋番号や氏名などの情報を入力し扉を閉めると、居住者のインターホンやメール、専用アプリなどで荷物が届いたという通知が届く。入居者は宅配ロッカーの操作盤に自分専用のパスワードや暗証番号、二次元バーコードをかざすなどして該当する宅配ロッカーを開けて、荷物を取り出す、という流れだ。
自宅マンションに宅配ロッカーがあれば、仮に在宅でも玄関先まで持ってきてもらう必要がなく宅配ロッカー経由で受け取ることができる。そのため、宅配業者に成りすました侵入者がオートロックで部屋番号を入れて呼び出し玄関先で襲われるというリスクに対して、常に不在を装うと対策が可能だ。
「弊社の宅配ロッカーは、前述した入館システムと同じクラウドシステムで管理しています。2つのシステムは連携しているため、ICチップ内蔵の鍵を入館時にかざすと、宅配ロッカーに荷物が届いていた場合は鍵に通知され、宅配ロッカーに行ってかざすと荷物を受け取れます」(原さん)
宅配業者などになりすました不法侵入を未然に防ぐ役割を担う宅配ロッカー(写真提供/株式会社フルタイムシステム)
不在時に難しかった食材の受け取りが可能な宅配ロッカーも登場
さらに最近は不在時に宅配ロッカーでは難しかった食材の受け取りも可能だ。同社では、生協パルシステム東京など全国65社の食品・食材のデリバリー会社と連携して食材の宅配サービスを実現した。
「例えば、住戸の玄関脇や共用部のステーションなどに食材を保管する冷凍、冷蔵、常温のBOXを設置し、事前にIDが付与された提携の食配事業者の配達員がBOXに食材を置きます。すると居住者に通知され、居住者がBOXに行って鍵やカードをかざすと取り出せます」(原さん)
ID保持者しか入れなくしたり、誰がいつ何を配達したかなどの入館履歴を取得したり、監視カメラで管理したりするなどセキュリティを高める工夫をしている。また、提携会社の配達員にカードを持たせて住戸までダイレクトに配達するように運用方法を変更できたりもできる。
不在時の受け取りが難しかった食品の受け取りも宅配ロッカーで可能に(写真提供/株式会社フルタイムシステム)
これまでは防犯セキュリティを高めようとすると鍵や暗証番号の入力が増えて利便性が損なわれがちだったが、ICチップによる認証や顔認証などの生体認証を活用すれば、エントランスはおろか、宅配ロッカーやそれ以外の共用スペースやシェアリングサービスなどマンションの全域に渡って、防犯セキュリティと利便性を双方に向上できよう。最先端技術を活用したセキュアかつスマートな暮らしができるマンションが増えることを期待したい。
●取材協力
・防犯ジャーナリスト 京師美佳さん
・株式会社フルタイムシステム
・DXYZ株式会社

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