4棟(120戸)の団地の理事長経験者である筆者が団地の老朽化と高齢化をぼやく本連載。今回は、水の流れを止める部品=止水(しすい)バルブの話。

この部品が固着(※)したせいで自宅のお風呂に入れなくなった!という事件が発端で、3年後の私たちの理事会メンバーがてんやわんや、の顛末をご紹介します。

※経年劣化や汚れ、サビなどによってバルブが閉じたままや開いたまま動かなくなってしまう状態

1世帯のお風呂リフォームが団地全体の大工事に発展?! 「水道の元栓が動かない」が引き起こした事件の顛末【ポンコツ理事長奮闘記6】

お母さん世代の理事の一人Kさんが自宅でお茶会を開いています。毎月、団地の奥様たちの間で理事会の様子が面白おかしく語られているようでした(イラスト/てぶくろ星人)

止水バルブって、何?

バルブ(valve)は英語で「弁」の意味。止水バルブとは、配管内を通る水の流れを止めるためのバルブ(栓)です。私たちの団地では、各戸の玄関横パイプスペース内に一つずつ(以下、PS内バルブ)、その上流=1階エントランス脇の芝生内にも、各戸の水を止めるバルブ(以下、芝生内バルブ)が並んでいます。これらは水回り(キッチン、バス、トイレ、洗面所、洗濯機等)の修理・交換作業の際などに使用されるほか、漏水時に住居内への水の流入を止める役割もあります。

1世帯のお風呂リフォームが団地全体の大工事に発展?! 「水道の元栓が動かない」が引き起こした事件の顛末【ポンコツ理事長奮闘記6】

各戸に直接アクセスできるのは、左のPS内バルブと右の芝生内バルブ。この上流には、階段ごとに水を止めるバルブ、棟ごとに水を止めるバルブも(イラスト/てぶくろ星人)

団地の外に目を向けるようになったポンコツ理事長

理事長に就任して間もなく起きた断水事件で、団地の住人の底力を確信した筆者。

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「ベテラン理事Fさんが示す明かりをたどっていけば、きっとうまくいく」と、何かにつけFさんの意見を仰ぐようになっていました。

しかし、Fさんも生身の人間。けっして万能ではありません。

白線引きでは、奥様理事のパワーを実感。

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そして団地の外にも助けとなる光を見出すきっかけになったのが、今回の「止水バルブの全戸一斉交換工事」につながる「お風呂のリフォームストップ事件」でした。

止水バルブの交換、って、どこから来た話なの?

最近のマンションには竣工時から長期修繕計画が用意されているようですが、築42年の当団地にそんなシャレたものはありません。2023年はとりわけ工事の多い年でしたが、どの工事も、当時の私にはまるで降って沸いたように感じられたものです。

Fさん「前年度総会で前理事長が持ち出した止水バルブの一斉交換工事の話やけどな。あれ、どこから来たんや? 過去の議事録を読み直してみたけど、話がつながらへん。3年前、B棟のお宅で止水バルブの交換があって、それに10万円もかかってるけど、これが発端か? みんなのお金を預かる理事会が一戸だけのためにお金を出すなんて、不公平やで。かといって、悪くなってないところも含めた全戸だと、120戸あるから総額1200万円にもなる工事や。うかつに手は出されへんぞ」

「おかしな話」なのかどうかも分からないポンコツ理事長ですが、耳の遠いFさんに代わって、当事者に突撃インタビューを開始しました。

私「もしもし? 3年前に止水バルブの交換があったんですって?」
当事者「はい、お風呂のリフォームしようと思って」
私「え? お風呂?」
当事者「止水バルブが固着していて工事が中断しちゃったんです」

お風呂のリフォームなら、私も経験済です。
確か、うちもPS内バルブは固着していたけど、幸い、芝生内バルブがかろうじて回ったから無事に工事をすることができた、って職人さんが言ってたな……。

私「PS内バルブも芝生内バルブも、両方固着していたんですか?」
当事者「母も私もよくわからなくて……バルブの交換ができるまでずっと、私の車で銭湯通いだったんですよ~。高齢の両親は本当に大変でした……」
私「大変でしたね……で、バルブの交換にかかったお金は?」
当事者「当時の理事長さんが管理会社に発注して、12万円のところを10万円に負けさせた、って聞いています。代金は管理組合が負担してくれました」

うちのお風呂を工事してくれた職人さんによれば、PS内バルブは団地の管轄、芝生内バルブは自治体の管轄、とのことでした。管理組合が負担した、ということはPS内バルブを交換するのに10万円かかった、ということなのでしょうか……Fさんに報告しても、眉間の皺が深くなるばかり。私自身、「大ベテランのFさんでさえ二の足を踏むほど大がかりな工事を私のようなポンコツが執行するなんて怖すぎる……」という不安がぬぐえませんでした。

止水バルブ交換のこと、管理業務報告書に書いてある!

そうこうしているうちに、管理会社から今年度初の管理業務報告書が届きました。

管理業務報告書とは文字通り、管理会社が何を行ったのかを可視化したもの。月々の収支や滞納状況、法令で義務づけられている点検の進捗などをまとめてあります。

「へぇ~理事長になると、こんなものが届くのか……」。おっかなびっくりページをめくると、冊子の一番後ろ、未解決の事象が並ぶコーナーに、小さな文字で「止水バルブ」と書いてあるのに気づきました。そこには「3年前の固着事例を受けて管理会社から見積もり」とも書いてあります。

初耳や……。

驚きつつも詳細を知りたくて、管理会社のフロントマンS君に時間を取ってもらいました。Fさんも交えて、集会所での三者会議です。

私「止水バルブ全戸一斉交換工事のことなんやけど」
管理会社フロントマンS君「止水バルブの固着は水面下で進んでおりまして、3年前の事件は氷山の一角です」
Fさん「それなら過去に自腹を切って交換してしもたお宅もあるんちゃうか? 今更、全戸と言いだしても不公平と言われかねへん。この工事は遺恨を残すと思う」

S君「今回の工事の発端はお風呂のリフォームでしたが、老朽化した団地で何より怖いのは漏水事故です。いざ漏水となったとき、各戸に直接アクセスできるバルブが両方固着していたら、住戸への水の流入を即座に止めることができません。止水バルブ一斉交換には漏水対策の意味合いも含まれていると思います」
私「漏水なんて、やだ」
Fさん「俺らの代でやらなアカンか……」
S君「給排水設備の更新の多くが手つかずになっています。

ここで一歩でも前へ進めましょう」

私「見積もり金額についても教えてほしいねん。そちらの見積もりが602万8000円って、どうゆうこと?」
S君「一戸だけですと10万円ですが、全戸となると単純計算で1200万円。ただ、一括してすべて弊社にお任せいただけるなら602万8000円となります。一斉に交換すれば職人さんの日当が大幅に圧縮できますので、一戸ずつ別日に工事するよりも安くなります」
Fさん「前年度理事長が業者Hから取得した見積もりが約170万円。なんでこんなに金額が違うんや?」
S君「業者Hの見積もりは弊社を通さず管理組合から直接発注するために取得したものですので、細かいところまでは分かりかねますが、僕から見ても破格ですよ。これは悪い話ではないと思います」
私「あんた、自分の会社で受注せなあかんのとちゃうの? 業者Hに仕事譲って、上司に怒られるんちゃう?」
S君「うちの見積もりが高いことは自覚しています。大事なことなので、もう一度言います。ここで一歩でも前へ進めましょう!」

いつもちょっと頼りなさげなS君ですが、珍しく力強い口調で筆者の背中を押してくれました。

1世帯のお風呂リフォームが団地全体の大工事に発展?! 「水道の元栓が動かない」が引き起こした事件の顛末【ポンコツ理事長奮闘記6】

「遺恨を残す」と待ったをかけたFさん。筆者の背中を押したのは、ベテラン理事から「頼りない」と評されていたフロントマンのS君でした(イラスト/てぶくろ星人)

1世帯のお風呂リフォームが団地全体の大工事に発展?! 「水道の元栓が動かない」が引き起こした事件の顛末【ポンコツ理事長奮闘記6】

業者Hの見積もりはPS内バルブのみ。保険がきかず、部品も安価なものを使用する代わりに費用は激安(イラスト/てぶくろ星人)

バルブの交換を市役所水道部がバックアップしてくれる?

激安の約170万円という業者Hへの発注について、筆者の背中を押してくれた人物は他にも。それは市役所の水道部の職員さんです。電話で教わったポイントは以下の4つでした。

●芝生内バルブの交換は水道局で対応できる。
●芝生内バルブの全戸一斉交換はできない。なぜなら、市の対応としては「壊れたら直す」が基本スタンスだから。
●PS内バルブは団地の管理組合が対応する。
●PS内バルブを全戸一斉交換するという考え方は「長い目で見ればアリ」。

水道部の職員さんの「どちらにしても一度、現地を見たい。芝生内バルブを点検し、不具合のあるものだけをピックアップ→水道部から指定業者に一斉発注する流れで想定している」という言葉に「水道部がバックアップしてくれるなら安心だ!」とポンコツ理事長は大いに胸をなでおろしたのでした。

管理会社フロントマンS君の「破格」という言葉、水道部職員の「長い目で見ればアリ」という言葉。この2つの言葉に気持ちを強くし、前年度総会で可決された止水バルブ全戸一斉交換のための予算170万円の執行(業者Hへの発注)を理事会に上程。全員一致で無事に可決されました。

【後日談】団地で水回りの工事をするなら「今でしょ!」

止水バルブの交換工事に燃えた夏が終わり、「そろそろ総会に向けて準備しないと」とFさんが言い出したころ、理事会あてに水回りのリフォーム申請がありました。

申請者は当団地の構造に精通したベテラン住人ばかりです。

PS内の止水バルブは交換したばかり。今なら固着でストップする心配もなく、安心して工事に臨めます。おそらく止水バルブを交換した直後から商談を始め、理事会による承認にも十分な時間的余裕を持たせた上での今、だったのでしょう。

私「さすが、分かっていらっしゃる……」

なんだかんだ言って、私はお釈迦様の手の平で飛びまわっていただけなのかもしれません。抜本的な解決にはならなかったかもしれないけれど、PS内バルブの全戸一斉交換工事により、団地の給排水設備の一部を更新し、S君の言う「一歩前へ」を実現することができました。

1世帯のお風呂リフォームが団地全体の大工事に発展?! 「水道の元栓が動かない」が引き起こした事件の顛末【ポンコツ理事長奮闘記6】

交換を待つ止水バルブ。工事当日に筆者が撮影したものです。「全戸」を目指したものの、過去、より高価な部品に替えられていた住戸は交換を見送りました(撮影/水野康子)

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