2025年11月ブラジルのベレンにて、気候変動枠組条約サミットCOP30が開催されました。パリ協定COP21から、ちょうど10年の節目になります。

これを記念し、パリ市は「持続可能な近接都市に関する国際会議」を9月4・5日の2日間開催。この会場に立ち会い多くの学びを得た筆者から、日本でも参考になりそうな事例やヒント、そして日本を代表して参加した大阪市のプレゼンを紹介します。

ヒント1:住人を巻き込むことが、素早い実現の鍵

「通勤も買い物も徒歩15分圏内」が世界の常識に? パリで車が激減した理由とは? 大阪の街も”大変貌”計画が進行中

(撮影:筆者)

世界中の都市や機関から代表者が集い、持続可能な近接都市実現のための今日までの取り組みを報告し合った「持続可能な近接都市に関する国際会議」。初日の会場は、パリ市庁舎の並びにある「アカデミー・デュ・クリマ」(「気候アカデミー」の意味)でした。アカデミー・デュ・クリマは2021年に誕生したサードプレイスで、元パリ4区区役所だった歴史ある館が、現在は全館気候変動に関する取り組みに活用されているという象徴的な場所です。

このカンファレンス会場に、パリ市長アン・イダルゴ氏をはじめ、国会議員、国連ハビタット代表、各国の都市の市長、ノーベル経済学賞受賞者らの知識人など、約40名の登壇者が集結。会議は英語、フランス語、スペイン語の3カ国語で行われ、国連会議さながらに同時通訳のブースが複数設けられていました。

「通勤も買い物も徒歩15分圏内」が世界の常識に? パリで車が激減した理由とは? 大阪の街も”大変貌”計画が進行中

アカデミー・デュ・クリマ入り口(撮影:筆者)

「通勤も買い物も徒歩15分圏内」が世界の常識に? パリで車が激減した理由とは? 大阪の街も”大変貌”計画が進行中

アカデミー・デュ・クリマ内、コーヒーブレイクスペース。ここは以前、パリ4区の住人が結婚式を挙げる広間だった(撮影:筆者)

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2024年パリ五輪ではペットボトルゼロに取り組んだパリ市。ここでも飲み物はペットボトルではなく、サーバーやピッチャーから注ぐ仕組みが採用されている。紙コップはなくエコカップでゴミも削減(撮影:筆者)

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コーヒーサーバーの隣には「帆船で輸送されたコーヒー豆」との表記。風の力で移動する帆船にコーヒー豆を積み、CO2を排出しない輸送に取り組む人たちがいる。ミルクは牛乳ではなく豆乳とオーツミルクを選び、こちらもCO2をミニマムに(撮影:筆者)

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開会の挨拶を行うパリ市長アン・イダルゴ氏(撮影:筆者)

オープニングセレモニーは、イダルゴ市長の開会の挨拶でスタート。

コロナ禍2020年に行われた市長選挙の公約でもあった「15分都市」計画に触れながら、この10年間に実現した事例の数々を報告し、それらがもたらした効果を数値を挙げつつ説明しまた。

「15分都市」とは、以前の記事で取り上げましたが、徒歩または自転車15分圏内で、生活に必要な最低限にアクセスできる都市のコンセプトです。ソルボンヌ大学教授のカルロス・モレノ氏が提唱者で、「生活に必要な最低限」には住居、労働、物資調達(買い物)、治療(病院)、教育(学校)、スポーツ・娯楽、の6要素があり、徒歩圏内で充足した人生を生きられる街づくりがCO2を削減し、同時に気候変動やパンデミック、不平等といった社会問題の多くを解消するソリューションになり得ると論じています(※)。

※カルロス・モレノ著書『15分都市 人にやさしいコンパクトな街を求めて』参照。

イダルゴ市長は、現在パリ市内の自転車レーンはトータル1500km、2014年から行った21万3千本の植樹により市の総面積の31%が緑地になり、「子どものための道」(※)は 300以上だと報告。
そしてその成果として、この10年間で車の交通量が40%減少し、温室効果ガスは25%減少、2024年の自転車事故は2023年に対し7.4%減少したことなどを加えました。交通事故に至っては、フランスの全国平均が0.8%増加した中、フランス第一の都市パリで5.8%減少しています。自転車レーンの確保や歩道化が、安全な街づくりにいかに有効であるかがわかります。

※保育園・小学校に面した道路を通行止めにし、100%歩行者化したもの。緑化や遊べる工夫もされている。

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「子どものための道」には明るい色の舗装材を使用。エリアの雰囲気が向上するだけでなく、猛暑対策にも効果を上げている。

従来のアスファルトは夜間になっても熱を持ち続けるため、都市の気温が下がらない欠点がある(撮影:筆者)

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かつては渋滞の名所だったリヴォリ通りの現在の姿(撮影:筆者)

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車が減り、自転車の利用者が増えている(撮影:筆者)

中でも特に印象的だったのは、「市民を巻き込むことがスピーディーなプロジェクト実現を可能にする鍵である」という言葉でした。筆者は、政治は遅いものだと思い込んでいたのです。

このイダルゴ市長の言葉通り、パリ市は市民の声を積極的に市政に取り入れています。参加型予算然り、住民投票然り。日本人観光客の間でも話題になった出来事として、電動キックボード廃止を問う2023年の住民投票が思い出されます。

参加型予算については、これも以前の記事で触れましたが、市民が公共空間の美化・改善に関するアイデアを専用プラットフォームに寄せ、集まったアイデアを市民が投票して決める制度。そのために確保されている公共事業予算のことをいいます。自転車レーンは必要か?どのエリアに必要なのか?都市緑化は続行するのか?――市民の意見を聞きながら、市民と共に街づくりをすることで、市の判断はスピーディーになります。また、市民の合意があればこそ、工事に伴うさまざまな不便・不満の声を、最小限に抑えることもできるでしょう。要はコミュニケーション。このコミュニケーションの努力は、パリの住人の1人として、筆者も常々実感しているところです。

「通勤も買い物も徒歩15分圏内」が世界の常識に? パリで車が激減した理由とは? 大阪の街も”大変貌”計画が進行中

参加型予算の投票箱は、投票の期間中市内のあちこちに登場する。

学校の前、朝市の広場、公園、市民プールや市民図書館の前など、人が集まる場所が多い(撮影:筆者)

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蚤の市の脇にも、参加型予算投票箱が登場(撮影:筆者)

ヒント2:大阪・御堂筋の魅力向上と、気候変動に耐える街づくり

イダルゴ市長、国連ハビタット事務局長、世界地方政府連合UCLG委員長らの挨拶の後、「市長たちの言葉」というラウンドテーブル(事実上の報告会)を挟んで、各都市・各機関の代表者によるラウンドテーブルが展開されました。

テーマは3つ、「環境インパクトを抑え、気候変動に耐える環境づくり」「ミクストユースな街づくりでローカルエコノミー強化」「インクルージヴな市政と健全なコミュニティ形成」。各テーマ6~7名の代表者が登壇し、その中の1つ「環境インパクトを抑え、気候変動に耐える環境づくり」のセッションに、大阪市建設局 寺川局長が登壇しました。

大阪市のまちづくりといえば、今年2025年春、大阪駅前に誕生した広大な緑地エリア「グラングリーン大阪」を真っ先に思い出す方も多いと思います。しかしそれ以前から大阪市は、メインストリートである御堂筋を中心に、人中心のまちづくりを行ってきたのだそう。2020年コロナ禍の外出制限中、パリ市がルーヴル美術館脇のリヴォリ通りを素早く自転車レーンに変えたまさにその時、大阪市は素早く御堂筋の歩道拡張に着手していました。この工事は現在も段階を追って進行中です。

「通勤も買い物も徒歩15分圏内」が世界の常識に? パリで車が激減した理由とは? 大阪の街も”大変貌”計画が進行中

以前の歩道は幅6mで、イチョウの先は側道になっていた。現在側道は存在せず、歩道と自転車レーンに姿を変えている。これにより歩道の幅は、自転車レーンを含むと13.5mに拡張している(撮影:筆者)

寺川局長は、「御堂筋100周年記念となる2037年をターゲットイヤーとして、フルモール(完全歩行者空間)化を目指している」とし、安全性、快適性、都市の魅力向上のために行ってきた道路空間の再編が、結果として気候変動に耐える環境づくりにつながっていることを報告。
一例を挙げると、御堂筋のトレードマークであるイチョウ並木の成長を促す目的で、根が張るスペースを地下に確保し、鋪装を透水性のある素材に変えている取り組みが、実は洪水のリスクを減らし、木陰が広がることで暑熱対策にも貢献しているのだそうです。
また昨年2024年、大阪市のイニシアチブで実現した世界ストリート会議(※)での学びから、今後は都市の魅力以上に、気候変動に焦点を置くことが必要だと認識していることも、明らかにしていました。

日本の都市の国際レベルでの活発な取り組みを、パリで発見させてもらいました。

(※)ニューヨーク、シカゴ、メルボルン、パリの4都市から官民の代表者を各1名招待し、特にメインストリートに関する取り組みと、未来のストリート像について、2日間にわたり意見交換を行った国際会議。パリからは公共事業グランプロジェ担当者と、シャンゼリゼ委員会広報担当者が参加。「都市と交通」135号にその報告がまとめられている。

少し脱線しますが、このラウンドテーブル終了後のエピソードを1つ。進行役を務めていた元プリツカー賞エグゼクティブディレクターのマーサ・ソーン氏が寺川局長に個別に挨拶をし、「都市の中心に広大な緑地を誕生させるというグラングリーン大阪のニュースを知った時、大阪市は世界中のどの都市よりも先を見ていると認識させられた」と伝えていました。

「通勤も買い物も徒歩15分圏内」が世界の常識に? パリで車が激減した理由とは? 大阪の街も”大変貌”計画が進行中

出典:御堂筋将来ヴィジョン【概要版】

ヒント3:意外にも効果大、ローテクソリューション

「環境インパクトを抑え、気候変動に耐える街づくり」セッション登壇者のもう1人、バルセロナ市議会建築責任者のマリア・ブヒガス氏の死角を攻めた意見も特筆すべきものでした。

彼女によると、「15分都市はヨーロッパの古都の基本構造であり、つまりすでに確立されているもの。問題は旧市街の外側、すなわち郊外の街にある」と。確かに、ベッドタウンをつくるだけでは人は仕事のため、または買い物、診察、余暇のために、都会の中心部へと長距離移動をするばかりです。これでは環境インパクトを抑えることはできませんし、生活の質向上もあり得ません。「郊外にこそ努力が必要」と強い語気で論じた彼女の言い分は、的を射ていました。

また、「(パリのように)水があれば植樹も大いに結構だが、バルセロナには水がない。その代わりに日陰をつくる。

空き地があれば極力公園にする」とも。乾燥したスペインならではのローテクソリューションには、説得力がありました。

もう1人、「ミクストユースなまちづくりでローカルエコノミー強化」セッションに登壇した、コロンビアのモンテリア市長ヒューゴ・ケルゲレン氏は、「自転車レーンをつくっても、暑い土地ゆえ利用者はなかった。が、そこに街路樹を植えたところ日陰ができ、多くの人が自転車で移動するようになった」と報告。これは、昔からある街路樹というソリューションが、現代のアーバニズム(都市づくり)において実際に効果を上げるという、明快な事例です。

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2027年をめどに、市内13ヶ所に総面積5,000平米の日陰をつくる計画のバルセロナ市。市の景観基準を満たすシェード建築のコンペが行われている(2025年11月現在)。写真は公開されている構想の1つ(出典:バルセロナ市H P)

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こちらも構想。日陰に座って語り合う人々の姿が想像できる(出典:バルセロナ市H P)

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住宅地の遊具の上にも、日陰がつくられる予定(出典:バルセロナ市H P)

日本の本州の緯度は、南ヨーロッパと同じです。南ヨーロッパの国々に比べ、日本は多湿で降雨量が多いものの、年間平均気温を見れば、日本の首都東京とスペインの首都マドリッドはあまり大差がないようです。そしてメキシコは、そのさらに南にある国。バルセロナやモンテリアの街路樹・日陰ローテクソリューションは、日本のまちづくりにも参考になりそうです。

ヒント4:まちづくりに「幸せ」を持ち込もう!

ラウンドテーブルの前に行われた市長の報告セッションには、コンゴの州知事、イタリアの市長、韓国の釜山副知事らが登壇。釜山も「15分都市」のまちづくりを行っていることを、みなさんはご存知でしたか? 筆者は知らず、日本に一番近い国の情報がまるで伝わっていないことに驚きました。こんなことからも、国際会議の意義を痛感します。

副知事は報告の最後を「市民が幸せに暮らせるまちづくりに、今後も取り組んでゆく」と結び、セッション進行役を務めた世界地方政府連合UCLG書記長エミリア・サイズ氏がこれに注目。「都市開発でハピネスを語った人はいなかった。そのことに気づかせてくれた釜山副知事に感謝したい。私たちはアーバニズムにもっと幸福を持ち込むべきだ」とコメントし、会場からは釜山副知事への拍手が起こりました。

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釜山市公式サイトで、15分都市の取り組みを説明(出典:釜山市H P)

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暮らしと緑が共存するエコデルタ・スマートシティプロジェクトも、着々と進行中(出典:釜山市H P)

幸せな暮らしを望まない人はいないはずです。その一方で、「気候変動枠組条約サミット」や「持続可能な近接都市に関する国際会議」と聞くと、日々の生活からかけ離れた遠い話をしているように思えるかもしれません。が、環境は私たちの生活の場です。真夏日でも快適に街路樹の下を歩くことができ、集中豪雨があっても洪水の被害は起こらず、子どもたちは安全に徒歩通学し、余暇を過ごす緑地が身近にある。そんな環境づくりに日夜取り組んでいる、行政、国際機関、そして学者たちの、最新情報を生で聞いた「持続可能な近接都市に関する国際会議」初日でした。

2日目は、前出のカルロス・モレノ教授が指揮をとり、主に専門機関の代表者や研究者が発表を行いました。こちらも有意義な内容で、今では誰もが認識しているSDGsと同じように、これからは「15分都市」が暮らし方のスタンダードになる、と痛感した次第です。

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カルロス・モレノ氏。2日目会場ソルボンヌ大学にて(撮影:筆者)

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「15分都市釜山」プレゼンを行う副知事(撮影:筆者)

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「15分都市釜山」をより便利にするアプリも(撮影:筆者)

以上、「持続可能な近接都市に関する国際会議」を抜粋してリポートしました。
2日間聴講してつかんだポイントは4つ。
1、住人を巻き込むこと
2、都市の魅力が都市の持続可能性とイコールであること
3、ローテクが効果的であること
4、都市開発に幸福を持ち込むこと

持続可能なまちづくりをすること、つまり気候変動や環境問題は、案外自分ではどうにもならないことではないのかもしれない。そんなふうに思えてきませんか?

世界中どの都市でも、住む人と行政が1つになって、良好なまちづくりが実現されることを願ってやみません。

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