「珍奇植物」を知っているだろうか。 “BIZARRE PLANTS(ビザールプランツ)”とも称され、塊根(かいこん)植物、サボテン、多肉植物、食虫植物、エアプランツなど、「奇妙で風変わりな形をした」植物のこと。
室内外にあふれる植物たち。ルーフバルコニー付き物件との出合いが趣味の始まり
玄関を開けると、室内にもバルコニーにも植物、植物、植物。まるでプランツショップのようだ。
東京都内の55平米・2LDKのマンションで、中学生の娘と妻と3人で暮らすAさん。そもそも植物にハマったのはこのマンションに引越したことがきっかけだ。
「40平米のルーフバルコニー付きですから。やらないともったいないと思ったんです」
室内外に、独特なフォルムの塊根植物、ユーカリやオリーブの木、天井まで育ったサボテン、小さな多肉植物の鉢植えが所狭しと並ぶ。室内のグリーンが屋外のグリーンにシームレスにつながり、実際の広さ以上の開放感を生み出している。
リビングからルーフバルコニーを眺める(写真撮影/相馬ミナ)
以前の賃貸の部屋から持ってきた唯一の植物が、このエバーフレッシュ。「この木は一番の古株。
「塊根植物」もしくは「コーデックス」と呼ばれる、根や茎、幹の一部が大きく肥大化した植物がそこかしこに(写真撮影/相馬ミナ)
室内は55平米の2LDKと決して広くはないが、この40平米のルーフバルコニーがもうひとつのリビングと思えば、使えるスペースは倍近く、ともいえると感じたそう。
「そもそも、一戸建て派の僕と、マンション派の妻の折衷案がこのルーフバルコニーだったんです」とAさん。
当初は、家を買うなら庭付き一戸建てが良かった。とはいえ、予算内で希望エリアとなると、狭小の3階建て住宅しかない。さらに郊外に行こうと考えたら、利便性重視の妻は反対。そんなときに、当時住んでいた賃貸と同じ最寄駅、しかも駅近の新築マンションが販売された。
「2階住戸は広いルーバル付きと知って、夫婦で“これはいい!”ってなったんです。階下は店舗なので足音を気にしなくていいし、何より、このルーバルが決め手。ここでなら、マンションの利便性のまま、一戸建てのような感覚も得られるので、ちょうどよいなと思いました」
約40平米のルーフバルコニー。フェンスの向こう側はマンションの共用部の植栽。
庭師さん+施工会社+DIYでオーダーメードのアウトドア空間に
実家にも日本庭園があり、緑のある暮らしには漠然とした憧れがあったAさん。せっかくなら、このルーフバルコニーで緑のある生活を楽しむには、スペースを自分仕様にしてみようと、入居直後に改修に着手した。
“餅屋は餅屋”と、造園は庭師の職人に、ウッドデッキなどのエクステリアの施工を知り合いの業者にそれぞれ依頼した。
ウッドデッキと奥にあるコンテナは業者にお願いしてあつらえたもの。コンテナは車輪付きで移動可能(写真撮影/相馬ミナ)
エアコンの室外機カバーも入居直後に業者に依頼した。スリットがあり、風が抜ける仕組みになっており、ちょうどよいグリーン置き場に。板にはビカクシダの根元を取り付け、エクステリアの一部に(写真撮影/相馬ミナ)
ウッドデッキには照明を埋め込んでおり、ライトアップもできる仕掛けに(写真撮影/相馬ミナ)
ライトアップした様子(画像提供/本人)
室内でも日当たりを確保するため、窓際にエアプランツや塊根植物をのせたサイドテーブルを置いた。屋外のグリーンに緑が重なる(写真撮影/相馬ミナ)
他にはない個性に惹かれて「珍奇植物」のコレクターに
当初はオリーブやユーカリなど枝ものをメインに収集していたが、そのうち、フォルムが面白い「珍奇植物」に傾倒するようになった。サボテンや多肉植物など比較的に手に入れやすいものから始まり、現在は、根や茎が肥大化した塊根植物へと、“他にないもの”の収集にすっかりはまってしまった。今やもっぱらネットオークションで購入している。
南アフリカ、西ケープ州西岸が原産の球根植物「ブーファン・ハエマンソイデス」。「夏場は休眠して冬場に葉を出す冬型タイプで、ウネウネと波打った青緑色の葉が気に入っています」(写真撮影/相馬ミナ)
「鉢までこだわるとけっこうな出費になるので、すべて黒の樹脂のものにそろえました」。日に焼けて自然に明るさのグラデーションになってモダンな雰囲気に。
「世界中の、その場所でしか発見されないもの。特定の土地の地形や気候からなぜか生まれたもの。その独特さに惹かれたんです。ネットでどんなものがあるか見ているだけで時間が溶けてしまうほどです。ただ、植物は土がついた状態では検疫の問題で持ち込むことはできません。そのため土を完全に取り除いた“根”の状態で輸入されるんです。だから芽が出るかどうかはギャンブルの部分もあります」
マダガスカル原産の塊根植物「パキポディウム・グラキリス」。「春先に鮮やかなレモンイエローの花が何個も咲くのが綺麗です。でっぷりとしたフォルムが気に入っており、大小合わせて8株持っています」(写真撮影/相馬ミナ)
入居間もないころに植えたオリーブの木。実のなる木は自然と季節を感じることができる(写真撮影/相馬ミナ)
手前はエアプランツの「チランジア・カーリースリム」。奥は大型のビカクシダの「プラティケリウム・コロナリウム」。つるせば、フォルムが強調され、存在感を増す。
メンテナンスも必要。ただ、その手間自体が喜びになる
ただ、このグリーンライフを維持していくのは大変ではないだろうか?
「水やりは週に一度ほど一気にホースでやるくらいです。わが家の植物の大半は、南アフリカ、タンザニア、イエメン、マダガスカルなど、乾燥地帯の植物が多いので頻繁に水をあげる必要がないんです。さらにコンテナは自動的に水やりをしてくれるシステムにしています。とはいえ、夏なら水やりの頻度は上がるし、秋なら落ち葉を掃くのが大変ではあります。だけど、何かとお世話したりするのが楽しいんですよ。あ、芽が出たな、とか。大きくなったな、とか。ちょっとした変化を感じて癒やされています」
庭ではないため緊急避難も必要だ。
「台風のときは、飛ばされそうな鉢は全部室内に運んで大変でした。室内が本当にジャングルみたいになりましたよ(笑)。今後予定されているマンションの大規模修繕のときは、造園を依頼した庭師さんの敷地に一時的に一部を置かせてもらえるようお願いしていますが、それでもリビングが鉢だらけになりますね」
寒さ対策も必須だ。
バルコニー壁の部分にDIYで棚を取り付け、板付きのビカクシダや娘が子どものころに描いた絵を飾って。この裏側は土や道具などの収納になっている(写真撮影/相馬ミナ)
当初は、「家族3人では55平米で狭い、いつかは住み替えよう」と考えていたというAさん。
「ルーフバルコニーがここまでになってしまって(笑)、もう引越せないと思います」
そこで、子どもの成長に合わせ、リビングの間仕切りをリフォームして加え、圧迫感がないようにインドア窓をつけた。そのほか、地下にあるトランクルームをフル活用。どうにもあふれたモノは実家に置かせてもらっている。
リビングに壁をつけて半分を寝室に。窓を設け採光を確保。窓枠の黒もインテリアのアクセントになる(写真撮影/相馬ミナ)
室内のテレビのまわりには日光が当たりにくい場所でも育つグリーン。陶器の香炉とあわせて洒落たコーナーに(写真撮影/相馬ミナ)
「正直、この趣味でトータルいくらかかったか、聞かれたら、小さな車は買えますね(笑)」というAさんだが、この趣味を見つける前は、特に収集癖も、お金をかける趣味もなかったという。
しかし、ハマった。
「どうしてでしょうね。
こうした趣味に没頭するきっかけは「家を変えた」部分が大きいというAさん。新しい家との出合いが、新しい暮らしの扉を開ける始まりになるのかもしれない。

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