京都市(京都府)では空き家に悩むオーナーが多い一方で、多くの留学生が住まい探しに苦労しています。空き家問題と外国籍の入居困難という2つの課題を結びつけ、空き家を留学生の住まいへと転換しているのが株式会社ハチノジです。
京都の空き家問題と、住まいに困る留学生の現実
京都市で住まいを探す留学生の多くは、賃貸借契約の場面で「4つの壁」に直面します。
1つ目は国籍と言語の壁です。十分なコミュニケーションをとれないことから、賃貸管理会社やオーナーが「契約内容や説明が十分に理解できないのでは」「入居後にトラブルになるのでは」と不安や懸念を感じることで、断られてしまうケースが少なくありません。
2つ目は、連帯保証人の確保が難しいこと。来日したばかりの留学生は、日本国内に保証人を頼める知人がいないケースがほとんどです。
3つ目は、短期入居可能な物件が極めて少ないことです。半年ほどの短期留学で来日する外国人留学生も多く、そのニーズに応えられる住まいは限られています。
そして最後は、敷金・礼金に加え、家賃債務保証会社との契約もしくは連帯保証人の確保、火災保険の契約など、日本独特の複雑な習慣と手続きです。
外国人の賃貸入居希望者は、国籍や言語の壁、連帯保証人がいないこと、長期の契約ばかりではないこと、日本独特の商習慣などにぶつかっている(画像提供/ハチノジ)
「日本に来たばかりの留学生にとって、賃貸借契約のハードルは高すぎるんです。住まいがないことで、勉強や生活のスタートが切れないという相談をよく受けます」(松浦さん、以下同)
留学生が直面する「4つの壁」について語る松浦さん。その背景には日本特有の契約慣習や文化の違いがあると分析する(画像提供/ハチノジ)
一方、京都市の空き家率は行政の努力によって減少傾向にあるものの、「2023年度(令和5年度)住宅・土地統計調査の結果(空き家率、空き家数)」によると空き家率12.5%、100軒中12軒は空き家ということになり、数にすると10万5300戸にも上ります。
居住先を見つけられない留学生と、空き家の活用に苦慮するオーナー。このミスマッチの溝を埋めるべく、道筋を探っているのがハチノジです。
最短1日で入居可能。国際交流を育むシェアハウスの暮らし
ハチノジは、代表の松居 豊(まつい・ゆたか)さんが2014年に創業しました。当初は外国人観光客向けのゲストハウスを運営していましたが、利用者である留学生や外国人労働者から「住まいを見つけられない」という切実な声が寄せられたのをきっかけに、支援型事業へと転換し、2016年に1軒目のシェアハウスを開始しました。
現在は京都市内で23拠点(うち自社物件9拠点)を展開中(2025年9月の取材時点)。英語を中心に中国語・韓国語でも対応しています。入居者対応やオーナー調整、トラブル解決まで担う松浦さんは、自らもシェアハウスに暮らしながら「“寮のおばちゃん”のような距離感で入居者を支えている」と言います。
松浦さんは自身もシェアハウスに住み、入居者と同じ目線で日々の暮らしをサポートしている(画像提供/ハチノジ)
松浦さんが「とにかく入居のしやすさを重視しています」と話す通り、ハチノジでは入居に関わる契約をすべてオンラインで完結。入居申請から海外送金まで対応しており、概ね3日程度、最短1日で手続きを済ませられます。家具や家電も備え付けているため、スーツケースひとつで生活を始められるのも特徴です。
生活に必要な家具・家電がそろうハチノジの共用スペースの例。
現在の入居者の国籍は日本人30%、欧米系外国人50%、アジア系外国人20%。共用キッチンで食事をともにしたり、掃除やゴミ出しを当番制で行ったりと、心地よく共同生活を送る仕組みが整えられています。
各シェアハウスの日々の交流とは別に、全シェアハウスの入居者と外部の方が参加可能な月1回のたこ焼きパーティーや団子づくりなどの文化交流イベントや日本語に触れる交流イベントを実施して、入居者間の交流を促進。また毎年7月に京都で行われる祇園祭に、入居者の出身国の料理を提供する屋台を出店することは、留学生にとって特別な体験となっていることでしょう。
月1回の文化交流イベントは、留学生が日本の文化に触れることができ、参加した日本人にとっては英語力促進や異文化体験の機会となっている(画像提供/ハチノジ)
祇園祭に合わせた屋台出店も恒例行事(画像提供/ハチノジ)
2024年は台湾をテーマにジーパイ(台湾風スパイシーから揚げ)を販売した(画像提供/ハチノジ)
1階に地域の日本食居酒屋を誘致したシェアハウスもあり、留学生が気軽に和食を楽しむ場であると同時に地域住民にも開かれた交流拠点になっています。
シェアハウスの1階に誘致した居酒屋は、留学生と地元住人の交流の場としても機能している(画像提供/ハチノジ)
「入居者の留学生からは『友人ができてよかった』『京都を知ってから一人暮らしへ移行できた』、日本人からは『英語力アップにつながった』『国外留学の代わりになった』といった声も多く寄せられています」
ハチノジのシェアハウスは、単に住まいを提供するだけでなく、共同生活を通じて文化や地域社会を学べる場にもなっているようです。
スムーズな契約と快適な共同生活を支える運営の工夫
そしてハチノジでは、海外から訪れる人たちの入居のしやすさを第一に考え、契約の仕組みを工夫しています。
「礼金や仲介手数料は不要とし、契約は月単位が基本です。また家賃保証会社を利用せず、代わりに保証金を預かり、退去時にクリーニング費用を引いて返金するシステムを採用しています。
さらに外国人の入居手続きでは学生証やパスポート、ビザで来日目的や予定日を確認し、国内の知り合いや大学・学校名を緊急連絡先として提出してもらえばOKなど、手続きのハードルを下げつつ信頼性を担保しています」
一方で、共同生活である以上、掃除の仕方や騒音、ゴミの分別などについての日常的なトラブルは避けられません。そのため入居時には多言語資料と口頭で対応し、周知を徹底しています。
「日本人でも外国人でも、生活ルールを守れない人は一定数います。だからこそ最初に明確に伝えることが大事なんです」
ゴミの捨て方やハウスルールについての張り紙は主に日本語と英語で記載(画像提供/ハチノジ)
松浦さんたち運営スタッフが週1回はシェアハウスを巡回して状況をチェックし、トラブルの早期発見にも努めています。
「例えば掃除をやらない人がいた場合、いきなり厳しく突き放すのではなく、まずは『一緒にやってみよう』と声をかけます。それでも無理な場合は、きちんとした話し合いの場を設け、『このままでは退去してもらうことになってしまいますが、どうしますか』と注意して改善を促します」
段階的な対応は、日本にまだ慣れていない外国人ができる限り共同生活によって日本での生活習慣を身につけながら滞在できるようにという松浦さんたちの配慮なのです。
日常的な掃除は当番制になっているが、中にはルールを守らない人もいるそう(画像提供/ハチノジ)
入居者みんなで共用部の清掃を行った時の様子(画像提供/ハチノジ)
空室リスクを価値へ転換。オーナーに寄り添う仕組み
一方、シェアハウスとなる物件の選定やオーナーさんへの対応はどのようにしているのでしょうか。ハチノジでは、空き家を中心とした不動産オーナーからの相談を受けて立地や物件の状態を確認して物件選定を行います。シェアハウスに適さない場合は一般賃貸として活用するなど柔軟に対応。現在は23のシェアハウスのほか、一般賃貸物件として自社物件6軒、オーナーから10軒前後を預かり、運営・管理を行っています(2025年9月の取材時点)。
ハチノジは空き家のオーナー(所有者)から活用の相談を受け、物件の調査をはじめ、企画・施工・募集・運営管理をワンストップで行っている(画像提供/ハチノジ)
現在は京都市内に23軒のシェアハウスを展開。町家風からモダンな物件まで、多彩なタイプがそろっている(画像提供/ハチノジ)
しかし「空き家をどう活用すればよいか悩んでいるオーナーであっても、外国人に貸すことに不安を感じる方は少なくない」と松浦さんは言います。
「けれども、オーナーさんの不安を一つひとつ説明しながら解消していくのも私たちの仕事です。前述したトラブルを未然に防ぐ仕組みや、実際の入居者の生活ぶりを具体的に伝えることで、安心して任せてもらえるようになります」
実際に、10年以上空き家だったビルをリノベーションしシェアハウスとして運営したケースでは、毎月ほぼ満室の状態を維持。「長年の空き家が、安定収入を生む物件に生まれ変わった成功例」として、シェアハウス活用を検討しているオーナーの信頼につながっています。
約10年間放置された店舗兼住宅をシェアハウスに改装したところ、ほぼ満室状態を維持できるように(画像提供/ハチノジ)
スタッフ体制を整え多地域展開へ。遊休資産を価値ある空間に
ハチノジのミッションは「日本中の遊休資産をバリューアップし、世界中の人々に付加価値の高い空間と時間を提供する」ことですが、現在の1番の課題はスタッフ不足。多言語対応や入居者フォローの負担が大きく、今後の成長には「成長意欲があり、さまざまな価値観を許容できる人材が不可欠」といいます。
チームミーティングの様子。入居者がボランティアスタッフとして参加してくれることもある(画像提供/ハチノジ)
「シェアハウスの付加価値をもっと高めて、『京都に来てよかった』と思ってもらえる仕組みをつくっていきたいと思っています。すでに京都以外の地域からも相談が増えており、今後は大阪などへの展開も視野に入れています」
また、同社は京都府指定の居住支援法人として、高齢者やDV被害者など、外国人に限らず住まい支援にも取り組んでいます。松浦さんは「住まいを確保することが難しい人たちの受け皿になることが、地域にとっても大事」だと語ります。
長期的には「社会課題の解決」と「事業としての持続性」を両立するモデルを確立し、遊休資産を価値ある空間に変えていくことを目指しています。空室対策を超え、地域と人をつなぐ拠点としての可能性を広げていく――それが、描いている未来です。
地域の人たちを招待した交流会などを開催し、地域との接点を増やしていくことを意識している(画像提供/ハチノジ)
安心して暮らせる住まいがなければ、学びも生活も成り立たない。その思いから始まったハチノジの活動は、空き家を再生し、留学生と地域をつなぐ仕組みの創出へと進化してきました。
住まいが整うことで、留学生は学業に集中し、友人や地域とのつながりを育むことができます。
入居者、オーナー、地域社会のそれぞれに利益をもたらすこの取り組みは、地域と世界を結ぶ架け橋となり、多地域へと広がっていくのではないでしょうか。
●取材協力
株式会社ハチノジ

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