高齢化社会の日本において、高齢者が賃貸住宅を借りにくい問題は深刻です。家賃の支払い能力があっても、「高齢」というだけで入居を断られるケースは後を絶ちません。
高齢者の賃貸住宅問題。大きな壁は「孤独死」「残置物」「認知症」
不動産賃貸の現場では依然として「高齢者お断り」の風潮があるようです。
2016年に司法書士として個人事務所を開設してから、「成年後見制度」など、高齢者のさまざまな相談にのることの多かった西谷さんですが、高齢者の相談が増えるにつれて「特に住まい探しは難しい」と気づきます。そこで、100社近くの不動産会社やオーナーにヒアリングを行い、その原因を探求。すると、貸す側が抱える3つのリスク・不安が浮き彫りになったそうです。
1つ目は「孤独死による事故物件化」。発見が遅れることで原状回復費用がかさみ、次の入居者が決まりにくくなるリスク。
2つ目は「残置物の問題」。入居者が亡くなった後に部屋に残された荷物を、誰がどう片付けるのかという法的・実務的な懸念。
3つ目は「認知症や要介護状態への対応」。
孤独死や認知症の発症など、貸す側の不安・リスクが、高齢者の賃貸入居を阻害している(画像提供/つむぎシニアライフサポート)
「オーナーさんは、まだ起きていないトラブルを恐れて貸さない決断をしているようでした。ならば、懸念するようなことが起こらない、あるいは起きても私たち専門家が対処できる仕組みがあれば、部屋を貸してもらえるはずだと考えました」(西谷さん、以下同)
このような状況を鑑み、万一、身寄りのない高齢の入居者が亡くなった場合に「残置物や契約の解除をどうすればいいのか」というオーナーや不動産管理会社の疑問に応えるため、国はモデルとなる契約条項などのガイドラインを公開しています。また、2025年10月には「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、改正住宅セーフティネット法)が施行となり、入居中の見守りがセットになった「居住安定援助賃貸住宅」(以下、居住サポート住宅)の制度が始まるなど、国を挙げて高齢者の住まい確保に力を入れ始めています。
国でも貸す側の不安・リスクを軽減できるよう「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を作成し、周知を進めている(資料/国土交通省)
成年後見のプロである司法書士のつくった会社が、居住支援法人に
そもそも、なぜ法律の専門家である司法書士が居住支援に取り組むのか。それは西谷さんが長年携わってきた「成年後見業務」に原点があります。認知症などで判断能力が不十分な方を法的にサポートする制度「成年後見制度」。成年後見業務を行うには専門的な知識が必要とされ、司法書士が担当することも多いそうです。
司法書士である西谷さんは、法律手続きの専門家として多くの成年後見業務を担当し、身寄りのない高齢者の財産管理や身上監護をおこなってきました。
「私たちが後見人としてついている方は、私たちが責任を持って対応できるため、住まいの問題は基本的に起こりません。しかし、まだ後見人がついていない、契約もしていない高齢の方は、誰のサポートもなく門前払いされてしまう。これを解決するには、司法書士の経験を活かした事業が必要だと感じました」
成年後見制度を利用すれば、身寄りのない高齢者の財産管理や介護サービスの契約などを後見人が代行できるが、特に問題が生じるのは「後見人がいない人」だと西谷さんは指摘する(画像提供/つむぎシニアライフサポート)
当初、西谷さんは「入居者が亡くなった後の片付け」を引き受けるサービスを考案しましたが、不動産管理会社やオーナーには全く需要がなかったといいます。
「多くのオーナーや不動産管理会社は、『片付けだけなら家賃債務保証会社との契約の特約などでカバーできる』と考えていたからです。
そこで西谷さんは、自身が代表を務めていた司法書士法人とは別に、高齢者の住まいの問題を専門にサービスを提供する株式会社を設立。友人の協力などで実績をつくり、大阪府・兵庫県で「居住支援法人(※)」の指定を得て、本格的な支援に乗り出したのです。
※居住支援法人:住宅の確保に特に配慮が必要な人(住宅確保要配慮者)が、民間賃貸住宅へスムーズに入居し、安定した生活を送れるよう支援を行う法人で、住宅セーフティネット法に基づいて、都道府県が指定する
ニーズに即して改善した、高齢者の見守りと生活支援をセットにしたサービス
試行錯誤の末に完成したのが、高齢者見守り・生活支援サービス「つむサポ」です。特徴は、入居中の見守りから万が一の際の死後事務までを一貫して行う点にあります。主なサービス内容は、定期的な見守り、福祉への接続、高齢者施設などへの移行支援、死後事務・契約の解除、緊急連絡先の引き受けなど。
■つむサポのサービス【入居中】
入居中の高齢者の相談対応、見守り、介護福祉への橋渡しを通じて、孤独死が起こりにくい体制をつくる「つむサポ」(画像提供/つむぎシニアライフサポート)
■つむサポのサービス【入居者の逝去後】
「つむサポ」では、入居者の逝去による退去にあたり、賃貸借契約の解除・引き渡し、物件内の各種契約の解除、残置物の移動・保管・処分なども行う(画像提供/つむぎシニアライフサポート)
費用は、1室あたり初期費用1万6500円(提携保証会社利用時は1万1000円)、月額550円からと安価に設定されています(※IoT電球等の見守り機器利用料等はオプションとして別途)。
ポイントは「1人あたり」ではなく「1室あたり」の料金設定であること。夫婦で入居する場合も1人で入居する場合と費用が変わりません。夫婦双方と契約を結ぶことで、どちらが先に亡くなってもスムーズな死後事務が可能になるよう設計されているのです。
「私の理想は、入居者様が『居住支援を受けている』と意識せずに暮らせることです。特別な扱いではなく、普通に部屋を借りて、普通に暮らす。その裏で私たちがリスクをヘッジしている。何事もなく生活していただくのが一番の成功です」
また、この仕組みは改正住宅セーフティネット法で定められた居住サポート住宅の要件を満たす可能性も秘めています。
信頼の積み重ねでさまざまな関係者に広げる支援の輪
この画期的なサービスも、普及には苦労がありました。なぜなら司法書士は法律上、このサービスを紹介してくれる不動産会社などに紹介料を支払うことができないからです。
「相手によっては、直接的・金銭的なメリットがないと話を聞いてもらえないこともありました。しかし、粘り強く『この仕組みがいかにオーナー様のリスクを減らし、社会課題を解決するか』というビジョンを語り続けました」
その熱意は徐々に実を結び始め、西谷さんの友人である不動産オーナーが「実績づくりのために」と自身の物件の入居者にサービスを導入してくれたり、行政の担当者が熱心に後押ししてくれたりと、協力者が現れ始めたのです。つむサポを利用するための高齢者側の金銭的な負担は前述の通り月額550円からと最小限ですが、導入する不動産管理会社やオーナーの判断によってはオーナーが負担するケースも出てきているそう。
さらに最近では、大手の家賃債務保証会社であるジェイリースとの提携も実現。家賃債務保証会社にとっても、残置物リスクや事故物件リスクを減らせるこのサービスは、渡りに船だったのでしょう。
また、西谷さんは地域の介護事業者とも連携を深めています。
「つむサポを利用する高齢者に介護が必要になったとき、介護事業者を紹介するサービスがありますが、ひとつのマンション内でつむサポを利用する人が複数いる場合は、その複数人を同一の介護事業者に紹介できます。介護事業者にとっては、同じマンションで複数人の対応ができるので、デイサービスや在宅介護の移動など、業務効率が上がります。その代わりに、事業者が訪問する際に介護サービスを利用する人の住戸だけではなく、同じマンション内で介護を利用していないつむサポ利用者にも声かけをお願いします。
当社にとっては見守りの仕組みができると同時に、介護を提供する側に『業務の効率化』と『将来の顧客となりうる人との繋がり』を提供することで、介護事業者、入居者、当社の全員にとってメリットのある協力体制を築いています」
つむサポには、賃貸住宅向けのプランとは別に介護施設に入居する人向けのプランも設けられています。
つむサポには、介護施設入居者向けのサービスも。さまざまなステークホルダーと協働しながら、関わる各者にメリットがある仕組みがつくられつつある(画像提供/つむぎシニアライフサポート)
“司法書士ならでは”の視点で感じる課題と今後の展望
法律のプロである西谷さんから見ると「現在の居住支援の現場には、危うさも感じる」といいます。
「実は、国土交通省のガイドラインの中には、相続放棄の期間を参考にして残置物処分の期間を設定するなど、法的に曖昧な部分があるのです。法律知識のない居住支援法人が、ガイドラインだけを頼りにしたり、独自の判断で残置物を処分したりすると、後々相続人との間でトラブルになるリスクがあります」
その点、つむぎシニアライフサポートでは、司法書士と弁護士が連携し、法的リスクを精査した上で業務をおこなっているとのこと。遺言書と死後事務委任契約が競合した場合の優先順位など、複雑な権利関係を整理できるのは専門家ならではの強みでしょう。
当面は「このサービスを広く知ってもらうこと」が西谷さんの目標ですが、「支援する側にとっても特定の誰かだけが儲かるような仕組みではなく、法的にクリーンで持続可能なモデルを全国に広げたい」という想いを持っています。
今後の展望を語る、つむぎシニアライフサポート代表の西谷さん(画像提供/つむぎシニアライフサポート)
「金銭的なメリットだけに頼らずとも、信頼とサービスの質で仕事が回ることを証明したい」と語る西谷さん。「将来的には、全国の司法書士と連携してプラットフォームをつくり、高齢者だけでなく、障がいのある人の『親なきあと問題』など、住まいに関するあらゆる社会課題を解決していきたい」と、熱い想いはとどまりません。
西谷さんの挑戦に注目して、「支援されていることすら意識しない」当たり前の日常が実現することを期待したいものです。
●取材協力
株式会社つむぎシニアライフサポート

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