2025年9月30日、兵庫県神戸市の南西部に位置する垂水区に、駅前の新たなランドマークとなる図書館がオープンしました。1階には一般車用ロータリー、地下には駐輪場を備える「垂水図書館」は、神戸市が推進する「リノベーション・神戸」の事業のひとつ。

オープン後早々に地域の人々に親しまれ、「まちのリビング」となった垂水図書館を取材しました。

館内のにぎわいがあふれ出る外観

垂水図書館は神戸市南部の沿岸部を走る2つの路線、山陽電車とJR神戸線の駅である垂水駅の駅前に位置しています。神戸市内には12の図書館があり、そのうち中央図書館は市が直営、それ以外の図書館は垂水図書館も含め、指定管理者による運営となっています。

駅に隣接する複合施設、「レバンテ垂水」の臨時駐車場跡地に建てられたことから、隣り合う建物がなく、どの方角から見ても正面になる、特徴的な配置計画となりました。コンクリートの太い柱と分厚い床がアクセントとなった、土木インフラのような力強い外観が、大きな震災を経験した神戸市民に安心感を与えるデザインとなっています。

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

交差点越しの外観。太い柱でもち上げられた2階部分の真下がロータリーになっている。建物の奥では高層マンションの建設が進められている(写真提供/神戸市)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

別角度からの外観。どの方向にも「垂水図書館」のロゴが掲示されている。テラスで過ごす人々の姿が見える(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

図書館へ上がる階段下のベンチで休む人々。平日の日中でも多くの人が行き交う(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

1階ロータリー。車道が建物の直下に引き込まれており、屋根の下で乗降できるようになっている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

多角形の形をした太い柱。柱の柱頭部分に地震の揺れを吸収する免震装置が仕込まれている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

外壁には建物の揺れを吸収する仕組みを紹介するパネルも掲示されている(写真/筆者)

内部は一転して家具スケールまで細かな配慮の行き届いた、住宅のような居心地の良い空間。

2階にある図書館のエントランスから、奥に行くほど本棚の背が高くなる配置によって、見通しが良く本を探しやすいよう工夫されています。

各階に大きさの異なる屋外テラスが設けられており、椅子に腰掛けながら読書を楽しむことができるのも嬉しいポイント。一般的には、図書館の計画においては直射日光を避けるために外部空間との接触は避けられがちです。しかし垂水図書館では、テラスの軒を深く取ることや、書棚に直接日光が当たらないよう、テラスと書棚との間に緩衝域となるスペースを設けるといったデザインによって、明るく開放的なテラスを備えた図書館を実現しました。各テラスからは隣接するバス停や、淡路島とを結ぶ明石海峡大橋、地域の交通を支える2つの鉄道路線など、場所によって異なる垂水区の風景を望めるようになっています。

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

2階内観。エントランスの正面に、定期的にテーマが変わる展示コーナーが設けられている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

館内の中心部ほど低い書棚が、外周部ほど高い書棚が配置され、見通しの良い空間となっている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

バスターミナルを見下ろす、2階の「バステラス」。手すり部分に簡易的なテーブルも備えられ、飲食もできるようになっている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

「バステラス」へ続く新聞・雑誌コーナー。多くの人が集まる人気のコーナーになっていた(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

正面に電車が走る、3階の「うみテラス」。開口部の手前には背の高いベンチが置かれ、窓と書棚の間の緩衝帯となっている(写真/筆者)

“自由に過ごしていい図書館”の背景にある、社会の変化

垂水図書館のスタイルの背景には、図書館に求められる役割が変化してきている状況があると、神戸市立中央図書館総務課の川村凜太郎(かわむら・りんたろう)さんは話します。

「これまでも、そしてこれからも変わらない図書館の役割は、地域の方に情報を提供して課題解決に役立てていただくことです。幼児期の読み聞かせに始まり、勉学・仕事や趣味、研究、育児や介護、住まいや健康のことなど、ライフステージごとに直面する課題を解決するための本を探したり余暇の楽しみを見つけたりするための場所だというのは大切な前提です。これに加えて近年は、地域の人々の居場所、サードプレイスとしての機能が重要になってきているのではないでしょうか」

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

3階はフロア全体が児童図書のフロアとなっており、お子さん連れでもほかの利用者に気兼ねすることなく利用できる(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

市内のボランティアによる読み聞かせにも使われる「おはなしひろば」(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

「おはなしひろば」で大型絵本を楽しむ親子(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

「おはなしひろば」内にも小さな窓があり、1段下がった位置から外を眺められる。

子どもには楽しいスペースだろう(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

予約制で利用できる学習室。中高生の利用が多く見られた(写真/筆者)

「電子書籍の貸出や自動貸出機の普及など、図書館で行われる手続きがデジタル化し簡略化が進む現代だからこそ、人が集まるリアルな場所としての図書館の価値が相対的に高まっているのだと思います。静寂な空間であるべきとされていた図書館が、多少の会話は許容する、自由に過ごせるスタイルに変わる流れは垂水図書館ができる以前からありました。居場所としての図書館には、読書して過ごすことに加えて、本を通じた交流の場になったり、新たな活動を支援したりする場になるポテンシャルがあると思っています。垂水図書館は、地域の人々の居場所としてさまざまな過ごし方ができる図書館としてデザインされているんです」(川村さん)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

自分で貸出手続きができるセルフカウンター(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

返却も自動返却機を使用でき、貸出から返却まで、セルフで完結できるようになっている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

2階、階段裏に設置されたカウンター席。裏動線のため人の往来が少なく、読書に集中しやすいコーナー(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

2階、書棚そばに設けられたテーブル。窓辺にはカウンター席もある。館内には本をお供に過ごすことのできるさまざまなスペースが用意されている(写真/筆者)

これらのテラスで思い思いに過ごす人々の様子は外部からも見えるため、建物の外観を構成する要素のひとつになっています。中に入ったことのない人も、一目見るだけで、図書館の存在を確認できるとともに、リラックスした時間を過ごすことができそうだという印象をもつのではないでしょうか。

「垂水図書館は、以前別の場所にあった図書館が移転したものです。以前の図書館は書棚と貸出機能は備えているものの、自習室や滞在してじっくり本を読むのに適したスペースは用意されていませんでした。新しい図書館がオープンして、問い合わせフォームに市民の方から感謝のメッセージが届くこともあります。

感謝の言葉が書かれていると市民の方のお役に立てているのだなと実感でき、うれしくなります」(川村さん)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

地域活動に使用される「たるみなとルーム」。行事のない日は予約制の学習室として開放されている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

遠くに海を望む屋上広場にも、さまざまなベンチが設置されている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

電車の路線と垂水の街並み越しに海を望む、屋上広場からの景色(写真/筆者)

垂水図書館の設計を担当したのはフジワラボ・タト・トミト設計共同体。設計者は、企画提案を募って発注先を決める「公募型プロポーザル方式」によって選ばれました。フジワラテッペイアーキテクツラボ、タトアーキテクツ、トミトアーキテクチャという3つの建築設計事務所が協業するかたちとなっています。組織設計事務所と呼ばれる、多数の社員を抱える中~大規模の設計事務所と比較して、個性が際立ったデザインを得意とする小規模なアトリエ系設計事務所が、3者で協働することで、それぞれの個性を活かしつつお互いの経験を共有しながら大規模な事業にあたる体制が可能となりました。

この体制について、フジワラテッペイアーキテクツラボ代表の藤原徹平氏は、3者それぞれが「役割を分担せず、フラットにアイデアを投入し続けることで、多様な視点から高い密度の設計を仕上げていく」「単独の組織による設計では到達し得なかった多様で高い質の建築に結実することができた」と振り返っています(『新建築』2025年11月号)。

藤原徹平氏とタトアーキテクツ代表の島田陽氏は、2025年11月に行われた神戸建築祭2025にて、垂水図書館の建築デザインを解説して回るガイドツアーを実施するなど、建築の魅力を伝える活動にも取り組んでいます。このようにフットワーク軽く現地での取り組みと連携することができるのも、組織がコンパクトなアトリエ系事務所ならではと言えるかもしれません。

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

建設現場から出土した土器の展示や、垂水の歴史を紹介するコーナーも設けられていた(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

(写真/筆者)

垂水駅周辺の再開発事業の中核としての図書館

また垂水図書館は、単に旧図書館の機能拡充としてではなく、垂水駅周辺の再開発事業の根幹としても重要な役割を担っています。神戸市が展開する「リノベーション・神戸」第2弾において、垂水駅周辺は「生まれ変わる海辺のまち」として位置づけられています。計画では、垂水駅周辺の住機能の強化とともに、駅前の交通機能の強化と公共施設の整備が盛り込まれ、駅への送迎などにも利用できるロータリーや地下駐輪場を備える垂水図書館はその一環として建設されました。また2026年には、垂水図書館と隣接する広場の供用開始も予定されています。

「垂水は神戸市の中心地への通勤・通学の多い、ベッドタウンとして位置づけられます。駅までバスや自家用車、自転車などで来て、電車で中心地へ向かうといった利用が多いようです。そのためロータリーの整備は、長らく市民の方の待望でした。ロータリーやバス停からの行き来もしやすいので、ちょっとした待ち時間などでも、日々の生活のなかで使っていただけるとよいですね」(川村さん)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

今後整備される予定の広場。広場も垂水図書館と同じ設計者により設計が進められている(写真/筆者)

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

200台以上が駐輪できる、地下1階の原動機付自転車用駐輪場(写真/筆者)

垂水駅前には昔ながらの商店街があり、駅前の大型商業施設は商店街と連続するような関係をもっています。また現在建設が進む高層マンションのほか、駅周辺には中・高層マンションが建ち並び、駅から徒歩圏内における居住機能の拡充が進められています。垂水駅の再開発は、駅前の交通利便性を高めるとともに公共施設の充実を図ることで、増加する住居に対応し、駅周辺で生活が完結するコンパクトシティの実現に向けた動きと見ることができるでしょう。

垂水駅は神戸市の中心である三ノ宮駅まで、乗り換えなしの快速で18分の位置にあります。通勤や通学の利便性が高い垂水において、多くの人が利用する駅前、それも駐輪場やロータリーの真上に図書館ができたことで、日々の習慣に図書館通いが組み込まれた人も多いのではないでしょうか。

「図書館に市民から感謝メール」の理由。仕事、読書、お喋り、過ごし方は自由自在、個性派「垂水図書館」の凄み 神戸市

垂水商店街の風景(写真/筆者)

少子高齢化が進む日本の特に地方においては、今後中心部への都市機能集約がより切実に推進されていくことが考えられます。そのような状況において、図書館をはじめとする公共の文化施設のあり方は、日々の暮らしの豊かさに直結するポイントになっていくのではないでしょうか。郊外の静かな場所で静かな環境を提供していた図書館が、まちの中心部に、にぎわいを創出する拠点として整備されるようになってきた背景には、こうした社会の変化に応じた図書館の役割の変化が見て取れます。


以前こちらでレポートした大阪府茨木市の「おにクル」などでも、商店街と連続させ、前面の広場との一体利用を前提とした、施設全体での地域のにぎわい創出が意図された計画が行われていました。

■関連記事:
オープン1年半で来館300万人! 公共施設「おにクル」が市民に愛されまくる理由とは? 図書館、遊び場・つどいの場など多幸感に満たされる空間で快進撃 大阪・茨木市

垂水図書館も、これからの日本社会における公共施設のあり方に対し、ひとつのモデルを示しているように思います。三ノ宮駅から電車1本、18分で行ける垂水図書館、ぜひ訪れてみてください。

●取材協力
神戸市立垂水図書館

編集部おすすめ