4棟(120戸)の団地の理事長経験者である筆者が団地の老朽化と高齢化をぼやく本連載。「なんだか昔のようにはいかないな……」そう感じるモヤモヤの根底に、今や日本で3割以上を占めるに至った“単身世帯”の課題がありました。

そんな中、突如空から降ってきたのは……なんと「調理済みの焼きそば」!? 犯人捜しでは解決しない、令和の団地トラブルへの向き合い方を考えます。

団地の怪「ベランダに焼きそばが!」空から食べ物が降ってくる珍事件! 犯人捜しより有効だった”管理組合の解決法”【ポンコツ理事長奮闘記7】

「ベランダに焼きそばが!」。団地住人からの通報に“仕事ができる男”B君は、理事長(筆者)を利用することを思いつきました(イラスト/てぶくろ星人)

団地が抱える課題=「老朽化」「高齢化」に加え、「単身世帯の一般化」も

「団地で最も多いのは夫婦と未婚の子のみの世帯でしょ?」……そう思っている人が多いのではないでしょうか? 私自身、理事長を務めるまではそう思い込んでいました。

厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、
確かに、当団地が竣工した1981年に近い1986年、全世帯構造別で最も多かったのは夫婦と子のみの世帯で15万525世帯。対する単独世帯はその半分に満たない6万826世帯でした。ところが2019年にこの立場が入れ替わります。
2024(令和6)年の調査時点で日本全国の世帯総数は 5482万5000世帯。このうち、最も多いのが「単独世帯(単身世帯)」(1899万5000世帯)で全体の34.6%を占め、夫婦と子のみの世帯」(1321万8000世帯)を上回りました。、当団地も決して例外ではなく、私が理事長を務めた2023年度の時点で、階段理事(※)12名中6名……すでに半数が「単独世帯」だったのです。

団地の怪「ベランダに焼きそばが!」空から食べ物が降ってくる珍事件! 犯人捜しより有効だった”管理組合の解決法”【ポンコツ理事長奮闘記7】

(イラスト/てぶくろ星人)

※階段理事とは……
私たちの団地は5階建て。1階段=10世帯を1単位とし、毎年持ち回りで代表者を選出します。この代表者は「階段理事」と呼ばれ、月に1度開かれる「理事会」に出席。階段を代表して議題を提起する一方で、理事長、副理事長、会計、書記、駐車場担当、建物設備担当(2名。

内1名は防火管理責任者を兼務)、環境整備担当、集会所担当、監事のいずれかを担当します。今回の主人公、B君は「まだ入居2年目」という事情をくんで、軽い役(集会所担当理事)を当てられていました。

竣工(1981年)当初は核家族がバリバリに機能していた団地の管理組合。その役割を単身世帯が担うと、どうなるのか?

今回は「UFO事件」をきっかけに、単身世帯でありながら、階段理事として核家族分の活躍せざるを得なくなったB君の例をご紹介したいと思います。

団地の怪「ベランダに焼きそばが!」空から食べ物が降ってくる珍事件! 犯人捜しより有効だった”管理組合の解決法”【ポンコツ理事長奮闘記7】

12名の階段理事のうち6名が単身世帯。それぞれ気ままに暮らしていますが、理事の責務を果たすには、平日の日中、団地にいる誰かとの連携が必要に(イラスト/てぶくろ星人)

【前提】そもそもB君の階段は住人の入れ替わりにより交流が薄かった

B君が暮らす階段を共用している住戸は長く最上階が空き部屋となっていました。ところが、普段は静かな上階から、ドスンドスンと音が鳴り、振動が響いてきたからB君はびっくり。2年前、B君自身が入居した際に、当時の理事長(筆者ではない)に転入届を出した経験から、今の理事長(筆者)なら新しい入居者を把握しているだろう、と連絡をくれました。

B君「うちの上に新しい人が入居されたんでしょうか?」
私「初耳です」

私から管理会社のフロントマンに問い合わせたところ、当該の物件がすでに売買されていた事実が発覚。ただし、引越してきたのはオーナー本人ではなく、外部オーナーと契約を交わした賃借人だろう、とのことでした。

私「外部オーナーから転入やリフォームの届け出はあった?」
管理会社フロントマンS君「それが……外部オーナー様から申請がない状態です。引越しの件も、水野さんからの電話で初めて知りました。しばらく様子を見て、何も届け出がないようなら、こちらから連絡してみます」

管理会社への委託が始まって7年。

いまだ入退去やリフォーム申請の窓口が一本化されておらず、管理会社からの連絡も後手に回りがちなのが残念なところ。しかし、そのことを嘆いてばかりもいられませんでした。

【事件1】ベランダ(バルコニー)への落下物を発見した1階の住人が階段理事に電話

謎の入居者の引越しから3カ月が経ちました。団地の集会所で、階段理事12名+管理会社のフロントマンS君の合計13名で12月度の理事会が開かれています。

私「それでは先月、階段で(階段を共用する世帯で)何かあった人は発言してください」
B君「空から調理済のインスタント焼きそばが容器ごと降ってきました」
全員「はぁ!?(笑)」
B君「1階のベランダを直撃したため、住人夫婦はカンカンで、議事録に載せてほしい、と(悩)」
私「理事会は共用部分や団地のみんなのためになることを話し合う場やのに、個別の苦情を議事録に載せるのはどうかなぁ……他の団地ではどうしてる?」
S君「議事録が苦情でいっぱいになってしまうことは他の物件でもよくありますね……」

ここへ来て、大工のA君が流れを変えました。

A君「(1階のお宅は)訳の分からんいちゃもん付ける人とちゃう。それに子どもがうっかりやったことで、親は気づいてないかもしれへん。あんまり騒がんほうがええ」
お母さん理事のLさん「まぁ! なかなか良いこと言うじゃない♡」

多数決の結果、お母さん理事のハートをつかんだA君の意見が通り、1度はスルーすることに。

B君「ただ、1階のお宅が収まらないでしょうから、理事長から言ってもらえませんか?」
私「(単身世帯だから、ご家族がコミュニケーションをとれる機会があるわけでもないからな……)分かった。私から連絡して、説明するわ」

翌日、1階のお宅に電話した筆者。電話口のお母さんから、「(焼きそばを落とした)犯人はB君の子どもじゃないか?」と言われて驚きました。1階のお宅の認識では、B君が妻子と住んでいることになっているよう。コミュニケーション不足が生んだ大きな誤解でした。

誤解を解いた後も驚きのニュースが。私に電話をしてくるほどB君を悩ませた引越しのことも、1階のお宅の認識では「初耳」とのこと。B君の上階が空き部屋だと思っていたから、その下の階のB君が疑われてしまった……やはりこの階段のコミュニケーション不足が窺われます。

救いだったのは、ご夫婦が大工のA君の幼い頃をちゃんと覚えていたことでした。「最近のことは知らないけれど、小さな頃は子ども会で一緒だったの」というお母さんに、「A君が子どもをかばったんですよ」と話をすると、食べ物落下の件は快く、スルーしてもらえることになりました。ところがどっこい、話はこれで終わりじゃなかったのです。

【事件2】事件その1から2週間後、次の事件が……

12月度の理事会の翌週、最初の落下事件が起きてから2週間後に次の事件が起きました。

B君「今回は缶詰の黄桃らしきものの中身と缶が落ちているとのことで、そのまま置いてもらっています。可能でしたら写真を撮っていただけたらと思い連絡しました」

なんということでしょう。お勤め中のB君のスマホを住人が何度も鳴らしているようです。B君は会社の人たちの目を盗んで私にこっそりLINEしてきたのでした。
私「単身世帯やから家族に頼るわけにもいかへんもんな……私が代わりに行ってあげなくっちゃ」
自宅で仕事をしている理事長ライターが直接、1階のお宅に伺うことにしました。

ピンポーン♪
私「はじめまして。

今年度、理事長をしております、C棟の水野です」
1階のお母さん「わざわざ、スミマセン。いえね、理事長さんに片付けてほしくて言ってるわけじゃないんですよ」

恐縮しながらベランダ(バルコニー)の様子を見せてくれます。

団地の怪「ベランダに焼きそばが!」空から食べ物が降ってくる珍事件! 犯人捜しより有効だった”管理組合の解決法”【ポンコツ理事長奮闘記7】

1階のバルコニーから芝生にかけてフルーツ缶とその中身が散乱していました。食べ物を粗末にしてはいけないし、落下する空き缶も危険すぎます(イラスト/てぶくろ星人)

私「わ~確かに黄桃が散乱していますね」
前回の焼きそばの証拠写真も見せてくれました。
1階のお母さん「一体、どういうことなんでしょう?」
私「今、在宅されているんでしょうか? ちょっと上まで行ってみます」

ピンポーン♪
あいにくB君の上階は不在の様子。撮影した黄桃の写真をB君に送り、その晩、1階のお宅と仕事から帰ったB君と理事長の私の4名で今後の対策を協議することにしました。

私「上階に行ったけど、お留守やったわ」
B君「え! ? 現場を押さえたわけでもないのに、そんなことしちゃダメですよ」
私「だって他に犯人は考えられへんのやろ? それに理由もちゃんと知りたかってんもん……(ムキになる私)」
B君「憶測で動くのは危険です。まずは証拠となる写真を添えて、掲示板に注意文を張り出しましょう」

B君に任せるとハードボイルドな警告文になりそうだったので、急ぎ午前中に撮影した写真を使ってマイルドな注意文を作成しました。

【事件3】掲示板の効果は一時的なものにすぎなかった……

私「あの張り紙、上の階の人(食べ物を落としていたと思われる居室の住人)は気付いてくれたやろうか?」
B君「年末年始は何も落ちてこなかったようですから、気付いたんじゃないでしょうか? 気付いたら気付いたで、迷惑をかけたお宅に謝罪するべきなのに(怒)」

そんなB君をあざ笑うかのように、今度は2階の住人から「ご飯が1階と2階のベランダを隔てる金網上に落ちている」と連絡が入りました。

A君「わざとやな。またやるで」

「子どものやったこと、と寛容さを見せていたA君はどこへ行ってしまったのでしょう。その予言(?)通り、翌々週にはレトルトのパスタが地面に落下……。

こうして12月に見送った「議事録への掲載」を2月度議事録で実行し、注意を喚起することになりました。

「階段下の掲示板への張り紙」だと、その階段を利用する10世帯しか見ませんが、「議事録への掲載」となると団地の全120戸に回覧されます。その効果はテキメンで、掲載以降、私の任期中に食べ物が落下することはありませんでした。

こうした隣人トラブルで大切なのは「犯人捜し」や「原因究明」ではなく、「どう対処するか」なのだと知った食べ物の落下事件。この事件に取り組んだことで、後日、心温まるエピソードが生まれました。

【後日談】B君が暮らす階段の世帯間コミュニケーションが活性化

総会準備も大詰めを迎えた4月。私はFさんと管理会社フロントマンS君と一緒に委任状の数をこまめにチェックしていました。全住戸の4分の3にあたる90戸の票が集まれば、大抵の議案は問題なく通るからです。そこへ少し出遅れていたB君から連絡が。

B君「たった今、僕のところに1階のお父さんが来てくださって、出欠が出そろいました」
私「高齢のお父さんが階段を上がってわざわざ? 何があったん?」
B君「委任状の書き方を間違えたらしくて、謝りに来てくださったんです。『後は頼むで!』って(笑)」
私「すっかり階段に馴染んだんやね……よくできました!」

団地の怪「ベランダに焼きそばが!」空から食べ物が降ってくる珍事件! 犯人捜しより有効だった”管理組合の解決法”【ポンコツ理事長奮闘記7】

1階のお父さんに認められ、理事長との連携もスムーズ。入居2年でこれだけの存在感を発揮できたのですから、理事も悪いことばかりじゃありません(イラスト/てぶくろ星人)

2年前に引越してきたばかりで階段理事に当たったB君。会社と自宅を往復するだけの毎日では「団地の人とほとんど会わない」と言っていました。

ところが、今回の隣人トラブルに巻き込まれたことで、はからずも問題を共有した階段の人たちとコミュニケーションが取れるようになり、今ではすっかり階段の人たちと連携が取れるようになっています。このようなご近所づきあいに立ち会えたことは、私の理事長時代の最も心温まる思い出の一つとなりました。

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