2025年1月、富山市はニューヨークタイムズが選ぶ「2025年に行くべき52カ所」に選出された。街がコンパクトにまとまり、食や文化が豊かであることが選出理由のひとつとされたが、富山市の魅力は“日常の豊かさ”にあると前回の記事でお伝えした。
例えば、日々の食卓に並ぶ食材の質の高さ。見上げるといつもある立山連峰の、息を飲むような美しさ。
日常生活の中で見落としがちな魅力を丁寧にすくい上げる方々の話から、世界からも注目を集める富山での暮らしの魅力と、それを支える人々の知られざる工夫や取り組みを探った。
地産地消が生み出す三方良しの関係性
街中にある産地直送市場、地場もん屋総本店。毎朝生産者さんから届く新鮮な野菜や果物が売り場の半分以上を占めるほか、お総菜からお土産品まで多種多様に取りそろえる。特に平日は徒歩や自転車圏内のお客さんがほとんど。朝収穫された野菜がその日の食卓にあがり、地産地消の根幹を担う。
「うちの店は毎日入荷するものは特に決まっておらず、生産者さんの収穫のタイミングにお任せしています。
『明日は何がありますか』とお客さんに尋ねられても、朝並ぶものはわたしたちにも分からない。野菜の並び方を見て、季節を感じます」とチーフの岩城祥子(いわき・しょうこ)さんは話す。
生産者さんが採れたて野菜を売り場に届ける(左)。誰にも予想がつかないライブ感ある売り場が地場もん屋総本店の特徴(写真撮影/竹田泰子)
さらに、約15年前のオープン時から勤めている店長の田近寛充(たぢか・ひろみつ)さんは続ける。
「家庭で料理をされる方以外にも、街中という立地上、近隣の飲食店の料理人の方も多い。
地場もん屋総本店で仕入れをする飲食店に、岩城さんたちが実際に足を運ぶこともあるそう。
「調理されて出てくると『あの野菜がこうなったのか!』と驚きます。料理人の方々は目でも舌でも楽しめるようにしてくれるので、よりおいしく感じます」(岩城さん)
「生産者さんたちと、仕入れしてくださっている方のお店へ行くバスツアーを企画したこともあります。ご自分のつくった野菜が高級フレンチになっているのを見て、みなさん刺激になったようです。
『この野菜がこの時期にほしい』といった要望を受け、作付けを増やしてもらった事例も過去にはあります。シェフの方々が農家さんに直接買い付けするようになるなど、当店がキッカケとなってつながりが広がるのはこちらとしてもうれしいですね」(田近さん)
ほかにも、生産者さんがお客さんの声を直接聞けるよう対面販売するイベントを開催したり、地場もん屋総本店のSNSで「当店自慢の○○生産者」とプロフィールを紹介したり、富山の農産業の活性化にも良い影響をもたらしている。
すべての農産物に生産者名と産地が明記されている(写真撮影/竹田泰子)
飲食店と生産者との交流を促進する一方で、店内には地元の常連客を飽きさせない工夫が随所に散りばめられている。
売り場で積極的にお客さんへ声をかける岩城さんは「近くの常連さんは一人暮らしの高齢者の割合も高く、例えば一人分のカレーの材料よりレトルトカレーを買いたい方も多いんです」と話す。
さらに田近さんはこう続ける。
「時期によっては収穫できる農産物が少なく、ラインナップの変化が乏しくなります。そういったときには売り場で夏の“そうめん甲子園”、冬には“鍋つゆ選手権” などと題して特定のカテゴリー商品の特集を企画したり、秋になったら“芋vs栗 バトルシリーズ”と銘打ってそれぞれの加工品を並べたり。
鍋つゆの素や、レトルトカレーが並ぶ(写真撮影/竹田泰子)
さまざまな家族構成やニーズに臨機応変に応えるため、農産物以外の商品も豊富に取りそろえてお客さんの心を離さない。
「スタッフと生産者さん、生産者さんとお客さん、お客さんとスタッフと、すべての関係性の間に会話があります。他のスーパーなどにはない特別な雰囲気かもしれませんね」(岩城さん)
標高3000m級の立山連峰から流れる水は肥えた土をつくり、育つ作物をおいしくさせるという。そんな地の利以上に、店内でのコミュニケーションから生まれる三方良しの循環がより日々の食卓を豊かにしていると感じた。
市内の呉羽地域で栽培される呉羽梨は、シーズンになると入荷待ちの方も絶えないほど県内外問わず大好評。人気を受け、通年販売するために専用の保管庫を導入した生産者さんもいるそう。「『保管庫は地場もん屋の売上で買った』と笑っていました」と田近さんは話す(写真撮影/竹田泰子)
地場もん屋総本店のオリジナル商品。とやまアルペン乳業株式会社によるご当地コーヒー牛乳“カウヒー”を使ったソフトクリーム。さらっとした口当たりでペロリと食べきれる。「世界にココだけ」のカウヒーソフトはどの年代にも好評だそう(写真撮影/竹田泰子)
市民の憩いの場から始まる、新しいつながり
20年以上前から富山市は“コンパクトシティ”政策を推進しており、車社会と言われる地方都市でありながら、公共交通機関をベースにしたコンパクトな街づくりを実現している。市街地の再開発に伴い、2015年に富山市立図書館本館は建築家の隈研吾氏が手掛けたことでも知られる複合施設「TOYAMAキラリ」内に移転。今や図書館は、市内に暮らす人々にとってのサードプレイスとして定着した。
「日常的な居場所としてより親しみをもってもらうために、バックヤードを案内したり図書館司書の仕事内容を紹介する館内ツアーを継続的に行っています。
館内ツアーでも案内するという書庫。郷土資料や利用頻度が減った資料などが保管され、利用者は普段入ることはできない(写真撮影/竹田泰子)
バックヤードには書店から届いた新刊本が並ぶ。毎週開かれる“選書会議”で、司書のみなさんが集まり購入する本を決める(写真撮影/竹田泰子)
工藤さんは読書推進係を務め、2025年には3カ月連続イベント“宵(よい)の図書館”を企画立案から運営まで担当。“ゆる友活”と題し、20~40代の方々が本やボードゲームを囲んでゆるくつながる新しい出会いの場を設けた。
「参加対象とした年代は、平日は家と職場の往復だけの方も多く、図書館の利用も少なめ。新しい交友関係もなかなか築きにくい層ですよね。仕事終わりの金曜夜に立ち寄ってもらえないかと思い、構想を練りました」
昨今、婚活イベントを自治体が運営することは珍しくないが、友だちづくりとは新しい。参加定員も増枠したほど好評だったという。生活や仕事から一歩離れた居場所を求める人は実は多いのだろう。普段図書館をあまり利用しなくても、イベントには参加する方も少なくないそうだ。
「イベントを機に出会った方同士で、館外で自主的に交流したとの声も聞いた」と工藤さんはうれしそうに話す。
“宵の図書館”のイベント時に使用されたボードゲーム。本や新聞など、図書館にあるものを遊び感覚で使ったり、サイコロトークで参加者同士の心理的ハードルを下げたり工夫をこらす(写真撮影/竹田泰子)
こうした交流をメインとした企画だけでなく、家にある「積読本」を図書館に持ち込みひたすら読むという場づくりを目的にしたイベントも準備中。バリエーション豊富なイベントを年間160回以上実施しているというから驚きだ。既存・新規イベント問わず常にブラッシュアップを繰り返す。
「従来の図書館は静かに過ごすことがマナーですが、富山市立図書館本館ではお喋りOKとしています。静かに利用したい方、イベント参加者の方など、みなさんの要望がかなえられる場所でありたいですね」
2~6階まで少しずつ斜めにずれる吹き抜け空間に光が差し込み、建物全体に開放感を与える。3~5階にある図書館エリアには間仕切りの壁もほとんどなく、のびのびとした時間を過ごせる(写真撮影/竹田泰子)
通りに面した壁側にも大きな窓があり、明るい館内(写真撮影/竹田泰子)
老若男女すべての人にとって居心地のいい環境を整備し「何かおもしろいことをやっている場所」として市民に認識されていると感じると工藤さんは話す。
富山市立図書館本館が基本理念に掲げる“にぎわいの交流拠点”は、工藤さんはじめ働く方の不断の努力により支えられている。
利用者からの問い合わせに応じて資料提供をするレファレンスサービスも、図書館の重要な役割のひとつ。工藤さんは、レファレンスサービスがもっと市民にとって日常的になればいいと話す(写真撮影/竹田泰子)
イベントでにぎわいや交流を生む一方で、従来の読書や学習環境にも配慮されている。平日の放課後や休日は、多くの学生が勉学に励む(写真撮影/竹田泰子)
雪国の暮らしに楽しみを見つけ、オープンマインドで地域になじんだ移住者コマさんの心構え
冬が来ると日本海側地域では、大陸から吹く季節風により日本海上で暖かい水蒸気をたくわえた雲が山々に運ばれ、雪雲が発生する。厚い雲が常に空を覆うため湿気も多く、太平洋側地域のからっ風が吹く乾燥した冬との違いには驚かされる。
富山県を雪国として認識している方も多いだろう。しかし、年にもよるが平野部では足が埋まるほど雪が積もることはあまりない。
例年12月になると初雪が市内で観測され、1~2月に降雪のピークを迎える。富山市内の一部の山間地域は豪雪地帯だが、市街地は除雪車や道路の融雪装置(道路に埋め込んだパイプから水を散布し路面凍結を防ぐ)のおかげで、日常生活は滞りなく過ごせる。
市街地の道路や歩道は除雪され、積雪があっても通勤や通学など生活に不便はない(撮影/筆者)
富山市内のサンドイッチ店「ロゼッタオミケッタ」で働くコマさんは他県出身で、雪国での生活に縁がなく移住直後は戸惑ったと言う。
「雪がある暮らしは慣れないことの連続。とにかく冬が強烈で、なかなか晴れないので移住したばかりはしんどかったです。
でも、春が訪れたときの喜びは格別ですね。晴れているだけでこんなに幸せな気持ちになれるなんて、太平洋側で暮らしているときには思いませんでした。富山では冬が暮らしの中心で、冬を迎える準備と冬を越えた後の喜びのコントラストがハッキリしています」
お店で毎年出しているカブやジャガイモのスープを仕込むと、冬が近いと感じると話す(写真撮影/竹田泰子)
「慣れないなりに受け入れて、冬をどう楽しく過ごすかという受け止め方に変わりました。子どもを連れてスキーに行ったり、家の中を明るくしたり、時間のかかる煮込み料理をつくったり。自分なりの楽しみをつくるのが心地よく過ごす秘訣(ひけつ)ですね」
もちろん一朝一夕でできたわけではない。
「自分のやり方じゃなく、ここで暮らす人のやり方を見て教えてもらう。
冬が来たらどうするか教えてもらい、そのとおりにやってみると自分も生活がしやすくなりました。富山は控えめな方が多いですが、自分がオープンマインドでいて柔軟に動いたことで、少しずつ馴染めたんだと思います」
雪かき用のスコップが、市内の交差点やバス停前などあちこちに置かれている。信号待ちなどの間、歩道に積もった雪を「ひとかき」するよう住民同士の助け合いを目指す(撮影/筆者)
富山では冬が来れば雪が降るのが当たり前。
雨の日も雪の日も、客足は大きく変わらない。ヒザまである長靴を大人も子どももそろって履き、コートのフードを目深にかぶり、融雪装置から排出された水で水浸しの道を何事もないかのように歩く。
山に積もった雪が春になれば雪解け水となり、作物をまたおいしくさせる。自然の過酷さも恵みも、表裏一体。自然環境を受け入れ、うまく付き合っていく術が富山で暮らす人々はおのずと身についていくようだ。
富山は冬が来ると日照量が極端に少なくなる。曇天が多い中、たまの晴れ間に見える冠雪した立山連峰はまさに絶景で、冬のご褒美のひとつ(出典/富山市観光協会)
人との循環を育てる土壌
富山の「食」の当たり前レベルの高さは、旅行で訪れることでも実感できるかもしれない。しかし富山の本当の良さは日常にこそ潜み、人の営みから生まれる魅力は生活することでより実感する。
大々的に宣伝されるような派手さはないかもしれないが、街のあちこちを巡ってみると、見つけにくくとも確かに楽しみは潜んでいた。雪国の不便さも、楽しんでしまえばそれが冬の醍醐味になる。どう過ごすか、ハンドリングするのは自分次第だ。
今回お話をうかがった3カ所では、図らずも“循環”というワードが頻出した。生産者とお客さんや飲食店、住民同士、住民と移住者。性別、年齢、職業など社会的な属性が違う人それぞれが小さな生活圏の中のどこかでクロスし、交流が生まれ、だんだんと居心地の良さにつながる。
つい即効性を求めたくなるが、ゆっくりと循環を育む土壌がある街が、暮らしたい街、住み心地のよい街になるのだろう。
富山市が注目を集めるきっかけとなった背景には、日々の暮らしに楽しみを生み出そうとする、富山の人々の工夫があるのだと改めて感じた。
●取材協力(五十音順)
地場もん屋総本店
富山市立図書館本館
ROSETTA O MICHETTA(ロゼッタ オ ミケッタ)
Ink&Dive 居場梓(取材アテンド)

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