自分が本当に好きだと思うものに囲まれて暮らしたい。そう願う人はきっと少なくないはずです。
住まい丸ごと買いたい !? 可愛いコレクションがずらり
玄関を入ると収納棚にレトロな器が飾ってあって、しかもそれはコート掛けを兼ねた優れもの。すぐお隣はキッチン。古いカフェオレボウルやキッチンツールが並ぶ宝の山を通り抜け、さらに進んでゆくと……?
コート掛けのついた棚を玄関に。小さな戸棚と組み合わせて、ちょっとしたディスプレイのようだが、実際の機能性も十分!(撮影/Manabu Matsunaga)
空き缶コレクションと、カフェオレボウルコレクションが並ぶ(撮影/Manabu Matsunaga)
キッチンの一角の棚。飾る収納のお手本にぜひ!(撮影/Manabu Matsunaga)
「かわいいパリの部屋」を再現していて映画さながらですが、ここはスタジオセットではなく、フランスさんが暮らしている正真正銘のアパートです。とはいえ、ここまで壁という壁、棚という棚のすみずみまで丁寧にデコレーションが行き届いた可愛らしいテイストのお住まいは、パリ中を探してもなかなか巡り会えません。このセンス! フランスさんは、一体どんな人物なのでしょう? 現在はリタイア生活をされていますが、アクティブだったころのご職業は? もしや、プロの蒐集家でしょうか?
可愛らしいセットのようなキッチンに立つフランスさん(撮影/Manabu Matsunaga)
「いえいえ、プロではありません。ブロカントが趣味で、もう40年ほど集めていますが、これが本業であったことは一度もないのですよ。もともとはグラフィックアーティストで、広告会社に勤めていました」と、フランスさん。
ブロカント、とは古い雑貨や家具、オブジェのこと。またはそれを売る店のこと。
フランスさんはグラフィックアーティストだった時代から蚤の市やフリーマーケットを巡り、この「ブロカント」と称されるグッズを集めるのがライフワークだったと言います。時には自分でもフリーマーケットにスタンドを出して、集めたグッズを販売することも。フランスさんのスタンドはきっと選りすぐりが集まった、掘り出し物の山のはず! ぜひのぞいてみたいです。
ワインオープナーなど、古い道具は実際に使える(撮影/Manabu Matsunaga)
「春以降の天気のいいシーズンになったら、またスタンドを出すと思いますよ。フリーマーケットは、友達と一緒に参加すると楽しいものです。いろんな人と会話ができますし、友達にスタンドを任せて他の出展者のスタンドを見て回ることもできますから。自分一人だと、持ち場から離れられないでしょう?」
ふふふ、と、チャーミングに笑うフランスさん。女性の一人暮らしの穏やかな雰囲気と、心地よいこのお住まいをコツコツとマイペースで紡いでいるゆったり感が、その笑顔から伝わってくるのでした。
住み替えのマジックと、リノベーションの妙
現在のアパートに引越す前は、同じ11区にある46平米のアパートに20年間暮らしていたというフランスさん。
「1984年からずっとこのエリアに住んでいます。
大学時代は美術を学んだフランスさん。現在も趣味で油絵を制作している。ダイニングテーブルの脇の壁に飾った油絵は、ご自身の作品(撮影/Manabu Matsunaga)
いわば終の住処である現在のアパートは、中庭に面していて静かなことも好条件の1つです。また、道路側だった以前の住まいに比べて、埃も少ないとか。オブジェをたくさん陳列しているフランスさんにとって、これも嬉しいポイントです。
細かいところまで丁寧に陳列して楽しんでいる(撮影/Manabu Matsunaga)
ちなみに、以前住んでいた46平米も、現在の60平米も、持ち家なのだそう。46平米を売って、60平米を購入 ?! そんなことが可能になるのが、不動産売買の面白いところ。20年間で平米単価が上昇し、フランスさんは見事、暮らし変えに成功したのでした。
さて、そんな現在のアパートに引越す際に、リノベーション工事は行ったのでしょうか? もし行ったとしたら、それは自力で?
「キッチンとリビングの間のドアを取り除き、壁を半分くらい残してセミオープンに変えました。いえ、自力ではなく、プロに依頼しましたよ。リビングとベッドルームの壁も同様に、セミオープンに。ドアがなくなったおかげで、住空間全体に広がりが生まれました。全部オープンにしなかったメリットとして、寝室のプライバシーが保てています」
キッチンとリビングの間の壁の一部を外して、セミオープンにつくり直した(撮影/Manabu Matsunaga)
セミオープンにしたキッチンは、リビングと流動的に使えて便利(撮影/Manabu Matsunaga)
リビングの向こうは、作業場を兼ねたベッドルーム(撮影/Manabu Matsunaga)
ベッドルームの一角につくった作業コーナー(撮影/Manabu Matsunaga)
(撮影/Manabu Matsunaga)
作業場兼ベッドルームからリビングの眺め。グリーンはオブジェと同じくらい大切(撮影/Manabu Matsunaga)
確かに、ちょっと仕切りがある方が、空間ごとの用途が明らかになって使いやすい印象を受けます。また、リフォーム工事はプロに依頼しつつも、棚をつける作業はフランスさんが自力で行ったとのこと。ブロカントが趣味のフランスさんにとって、古いものの修理修繕はお手のもの。その延長で、ちょっとしたDIYは、自力で抵抗なく行うのだそうです。だからこそ、部屋の隅々まで小さな棚やキャビネット、絵画や飾りで埋め尽くされているというワケ。これだけの数の設置を誰かに頼んでいては時間がかかってしょうがないでしょうし、また、自分の思い通りには仕上がらないリスクもあります。自分でできる、ということは、お気に入りの住まいをつくる上で、大きな強みといえます。
つくり付けのスパイス棚は、コンパクトなキッチンでも余計な場所をとらず機能的(撮影/Manabu Matsunaga)
キッチンとリビングの間には、ワイヤーでつくったカゴ類をかけて飾る収納。丸い形のカゴは、洗ったサラダ菜の脱水器(撮影/Manabu Matsunaga)
現在修復中の鏡。ブロカントは壊れたり欠けたりしていることが多いので、自分で修理修繕する(撮影/Manabu Matsunaga)
飾る収納の極意は「テーマを決めて、仲間をまとめて」
それにしても、これだけたくさんのコレクションが並びながら、全体としては整然と整った印象であるのはなぜでしょう? きっと、ディスプレイのコツがあるはずです。
「そうですね……自然にこうなるので自分ではわかりませんが、どのオブジェにも自分の場所があるので、それをリスペクトしています。彼らは飾りであると同時に使えるものですから、用途を考えて置く場所を決めて。そしてこのように居場所が決まっても、気が向いたら販売をして手放すこともあり得ます。ずっとこの形で動かないというわけではないのです」と、フランスさん。
置きっぱなしではなく、使用したり、手放したりするからこそ、埃がたまらないのかもしれません。
また、フランスさん自身は無意識だと言いますが、住まいの取材を続けている者の目から見れば、そこにある種のルールがあるのは明らかです。もっともわかりやすいルールは、「仲間同士をまとめること」。キッチンにはキッチンのもの、リビングにはリビングのもの、作業場には作業場のものを置く。そして同じ用途のものをまとめる。使いやすさを考えれば当たり前のことですが、このルールが守られていないケースが、片付かない悩みを抱えたお住まいにはよくあります。
仲間同士をまとめて飾るのがポイント(撮影/Manabu Matsunaga)
陶器の動物をまとめたコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)
用途の同じものや、同素材のものをまとめるのが、飾る収納のコツ(撮影/Manabu Matsunaga)
ブタで統一したコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)
小さな棚と空き缶や壺をいくつも並べて、機能的に(撮影/Manabu Matsunaga)
空き缶ケースと揃いのグラス、水差しのセット。それぞれまとめて飾る収納(撮影/Manabu Matsunaga)
木のおもちゃをまとめた棚(撮影/Manabu Matsunaga)
箱をまとめたコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)
バスケットをまとめたコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)
カフェオレボウルをまとめた棚がここにも(撮影/Manabu Matsunaga)
空き缶と香水びんをまとめたコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)
バスルームにある色とりどりの棒状オブジェは、何と帽子のスタンドコレクション(撮影/Manabu Matsunaga)
もう1つのルールは、「飾る場所と飾らない場所を決めること」。例えば、ベッド周りは、あまり物が置かれていません。そうすることで安らぎの空間を演出している、と住まいの取材を長年続けている者の目には明らかです。これとは反対に、ご自身の作品である油絵は、複数まとめて飾ることでより一層見応えのある壁面に。このメリハリも、住まい全体がまとまって見える、また片付いて見えるポイントでしょう。
ベッド周りは飾りすぎず、落ち着く演出(撮影/Manabu Matsunaga)
無造作に置かれたパレットも作品のように美しい(撮影/Manabu Matsunaga)
道具置き場もこの通り、機能的に美しく(撮影/Manabu Matsunaga)
フランスさんのお祖父様の肖像画。彼は画家だった(撮影/Manabu Matsunaga)
悠々自適、75歳のパリジェンヌライフ
フランスさんが、どんなふうに自分のコレクショングッズと付き合い、どんなふうに住まいづくりをしているかがわかりました。悠々自適といえる毎日を過ごす中で、フランスさんはこれからの生活をどんなふうにイメージしていらっしゃるのでしょう? ひとまず、バカンスのご予定は?
「私の父はパイロットでしたので、家族みんな旅が大好きでした。私も小さいころからだいぶ遠くへ行きました。
私には娘がいて、彼女は田舎にセカンドハウスを持っています。そこを時々たずねるくらいがちょうどいいです。それから天気が良くなったら、またブロカント巡りをするでしょう。きっと出店もしますよ。リタイアして田舎に引越す人もいますが、私は映画館に行ったり、友人を招いたり招かれたり、カフェに行ったり、外食したり、そんな暮らしがやっぱり好きなのです。幸い、友人たちもみんなパリ暮らしを続けています。それに、アリーグルの市場もありますしね! 今日の暮らしを、明日も、その次の日も、のんびり続けてゆくと思います」
フランスさんがちょくちょくのぞく雑貨屋さん。センスがよく値段が手ごろ(撮影/Manabu Matsunaga)
フランスさんは読書好き。インディペンデント本屋さんが今も多く残るのは、フランスの強みの1つでもある(撮影/Manabu Matsunaga)
75歳のパリジェンヌ、フランスさん。いつか彼女が出店するフリーマーケットのスタンドに、ばったり遭遇したいものです。きっとその時も今日と同じ穏やかな笑顔で、迎えてくれる気がします。自分のリズムで生きる人特有の、落ち着いた雰囲気をたたえつつ。
フランスさんの娘が週末だけ営業しているブロカントショップ。セカンドハウスの一角がショップになっている。
(撮影/Manabu Matsunaga)
Ma Chinerie
Instagram MA_CHINERIE

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