53歳のとき、母屋の隣に自分ひとりのためだけの家を建て、その記録や日々の暮らしをInstagramで発信するヘアサロンオーナーのTaji(@2nd613)さん。洗練されたセンスと前向きなマインドが支持され、現在、フォロワーは8.1万人を超えています。
50代で決断。「修繕して住み続けるか、小さく建て直すか」の選択
■Tajiさん邸工法木造間取り2階建・2LDK建築面積72.87平米敷地面積364.62平米(母屋部分も含む)竣工年月2024年9月住宅性能断熱等級3、一次エネルギー消費量等級6UA値0.41W/m2/KC値0.3cm2/m設計・施工ナッジ株式会社(三重県)白とグレーを基調とした空間にモダンなインテリアが並ぶ、小さなミュージアムのようなTajiさんの住まいは、三重県内の住宅街にあります。壁には白い漆喰(しっくい)が塗られ、入り口が曲線で縁取られた寝室や、採光たっぷりの吹き抜けがあるなど、コンパクトながらセンスにあふれる空間です。
Tajiさんが「家を建てよう」と思い立った最大のきっかけは、「母屋のリフォーム代の見積もりを取ったら、家が1軒建ちそうな金額に驚いたからです」とのこと。
祖母の代から続く美容室の三代目として、20代からお店を切り盛りしてきたTajiさん。
「かつて建て直した母屋に、家族と一緒に住んでいました。当初は協力してローンを払っていましたが、数年後の借り換えを機に、私が全額負担することになりました。ただ、長年暮らすうちに家の中には物があふれ、ライフスタイルの変化とともに、私が理想とするシンプルモダンな住空間を維持することが難しくなっていったのです」
デンマークの老舗家具ブランド「フリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)」の名作、セブンチェアがTajiさんの定位置。パソコン作業もここで(写真撮影/本美安浩)
仕事に打ち込み30代と40代を過ごしてきましたが、あるとき事件が発生します。
「ベランダから真下のリビングへ、雨漏りが発生したのです。
母屋のローンもあと2年半という2022年。美容室のお客さんとの会話で、「50代だとローンの審査が通りにくい」と聞いたTajiさんは焦り、仕事でお付き合いのある銀行で「ローンが借りられるかどうか」を相談しました。
「お金は借りられるとのことで一安心。でも、やはりリフォームに取り掛からなくてはと思いました。私が最後までこの家に住むのは難しいですし、今は家を出ている息子が、将来的にこの家をどうするかわかりませんから」
そこで母屋のリフォーム代の見積もりを取ると、「外壁とベランダと1階の修繕だけで、今住んでいる地域で家が1軒建てられそうな金額」になったそうです。
「あと2年半でローンが終わるのに、今からまた80歳くらいまでローンを組むの? それに、私が最後まで住む家なのに、自分の老後にはまた今と同じように古びているかもしれない。そう考えると、驚きと同時に虚しさが襲ってきました」
リビングのソファとオープンシェルフはフランスのライフスタイルブランド「リーン・ロゼ(ligne roset)」のもの。デンマークを代表するシステム収納家具ブランド「モンタナ(Montana)」のワイヤーシェルフをテーブルとして使用(写真撮影/本美安浩)
53歳秋、一人暮らしのマイホーム計画が走り出す
Tajiさんは、そこで諦めませんでした。
「ふと、母屋の隣に自分のためだけの小さな家を建てられないかな?と思いついたんです」
というのも、Tajiさんはそれまで、母屋の隣に8畳くらいのプレハブを置き、趣味兼副業のアクセサリー製作のアトリエとして使っていました。
「50代の私が自分のための家を建てるという、“夢のまた夢”が叶うかもしれない」と、気持ちに光が差し込んだそうです。
階段下のスペースでは「デロンギ」のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れたり、メイクをしたり(写真撮影/本美安浩)
「お金の面は、リフォームをしなければと思ったときに、どのくらいの金額を何年払うかについて考えていました。50代から組むローンですから、自分が亡くなってしまったら支払い義務が免除される住宅ローンにする、と決めていました。毎月の返済金額を収入の20%以内になるように試算して、25年ローンを組みました。繰上げ返済はせず、体が動く限り楽しく働き続けながら、細く長く返していこうと思って」
一家の大黒柱として働き続けるTajiさん。今まで、そしてこれからの頑張りに対するご褒美があってもいいはずと、2022年秋、53歳のときに夢のマイホーム計画をスタートさせました。
Tajiさんの新居は、母屋で陰になる上、すぐ隣には別の方の家が建っている。日の当たる場所が限られているため、採光も考え抜いた(写真撮影/本美安浩)
家づくりにおいて、まず「どういう家を建てて、どう過ごしていきたいか?」というテーマを立てたTajiさん。
「ずっと憧れていた“おしゃれな暮らし“が最優先。また、人生最後のマイホームなので、絶対外せないワードが“老後の家“でした。
工務店探しでも、「おしゃれな暮らし」と「老後の家」というテーマが柱になりました。
「日曜休みではない仕事柄、住宅展示場などへは行けません。そこで、銀行員さんからの紹介を含めた、2つの工務店にプランを依頼しました。その結果、建物の気密性と断熱性にこだわった高性能な家づくりをする、地元の小さな工務店を選びました。社長さんが土地を見に来て、日当たりの良くないわが家の採光を考えてくれて、『どこが一番暗くなるのか』『どこから光が入るのか』などを細かくチェックしてくれました。また、全棟気密測定をするという方針で、のちに完成したわが家の測定値は、名刺1枚分の隙間しかないという気密性の高さでした」
美容室オーナーとして忙しく働きながらの家づくりは、2023年9月から11回の工務店との打ち合わせを経て、2024年2月に地鎮祭をして着工、半年後の9月に引き渡しというスケジュールでした。
「5つの要望」を出したら、間取りは設計士におまかせ
リビングにある寝室や日光が差し込む吹き抜け、ロフト風の2階など、間取りが特徴的なTajiさん邸ですが、「私、間取りは自分で考えていないんです、素人ですから。その代わりに設計士さんへ次の5つの要望を出して、考えていただきました」とのこと。
① リビングと寝室はカーテンで仕切る
② トイレ・お風呂・洗濯スペースはワンルームに
③ 壁はすべて漆喰(しっくい)に
④ 予備の部屋を1つ
⑤ 「ヴィラ・クゥクゥ(VILLA COUCOU)」のような家
一人暮らしで「おしゃれな暮らし」兼「老後の家」と考えると、どれも納得。詳細なメソッドや家づくりの全貌は、著書『53歳からのシンプルモダンな暮らし』に綴られています。
「ヴィラ・クゥクゥ」とは、建築家の吉阪隆正氏が、早稲田大学名誉教授の近藤等氏の自宅として設計した東京都渋谷区にある住宅。2024年に俳優の鈴木京香さんが取得して改修し、月に数日、予約制で一般公開しています。
「圧迫感がないように」と設計士から提案された丸い曲線の寝室の入り口。
ヴィラ・クゥクゥに惹かれるのは、「こぢんまりしつつも、角が丸くなったフォルムがあちこちに見られ、仕切りが少なく、すべてのスペースが一体化しているから」というTajiさん。
「実際にはうちとヴィラ・クゥクゥは全然違うよ、雰囲気だけね?」と照れていましたが、こぢんまりした隠れ家感や、丸みを帯びた寝室の入り口、階段下の傾斜のスペースなどに、遊び心あるエッセンスを感じます。
吹き抜けの光が差し込む2階の予備の部屋。扉がないのでロフト感覚で開放的(写真撮影/本美安浩)
「どこを見ても全力のインテリア」である代わりに、水回りにはお金を掛けず、キッチンもコンパクト(写真撮影/本美安浩)
照明を主役にコーディネートするTajiさん流インテリア
白の漆喰壁とグレーのフロアタイルで統一された室内に、シンプルモダンなインテリアをセンス良く配置したTajiさん邸。
「憧れのインテリアに囲まれて暮らし、収入が少なくなる老後も、『買っておいて良かった』と思いながら眺めたいんです」とニッコリ。なかでも照明が好きで、吹き抜けの上に取り付けた、デンマークを代表する照明ブランド「レ・クリント(LE KLINT)」のラメラシリーズのペンダントライトを基調に、住まいをコーディネートしたそうです。
「好きなテイストが決まっているわけではないのですが、丸みがあって滑らかな曲線を描いているものが好みなので、それを雑誌やSNSなどで探して、家づくり開始と同時に購入しました。だから北欧モダンに限らず、ソファやシェルフはフランスで、イタリアの照明ブランドのものもあります。違うメーカーのものを購入したけれど、同じデザイナーによるものだったと後から知ったアイテムもあります」
さまざまな国やデザイナーのアイテムをミックスしても、シンプルで柔らかい雰囲気でまとまっているのはさすがです。
日中は仕事をして帰宅するのは夜になるため、特に照明にはこだわりたかったそうですが、欲しい照明をすべてそろえると、それだけで予算の3倍になってしまうことがわかりました。それでも「照明は譲れなかった」というTajiさんは、外食を減らし、洋服を買うのを我慢するなどの節約を開始するのと同時に、驚きの減額ポイントを設計士に伝えます。
「まず、備え付けのシューズクロークをなしに。狭い玄関に扉のついた収納があると圧迫感があり、開閉もしにくそうなので、自分で好きな収納を入れるために、壁の一部にスペースを開けておいてもらいました。
生活する上でも「キッチンで朝の身支度をするので、洗面所をなくしても不便はないです」とのこと。そんなところにも一人暮らしの自由さが感じられます。
床から2mの位置に低めに取り付け、玄関のドアを開けたら見えるようにした「レ・クリント」のペンダントライト「ラメラ」(写真撮影/本美安浩)
洗面所をなくしたトイレの隣に、「リーン・ロゼ」のシェルフを大胆に配置して部屋のように(写真撮影/本美安浩)
「クラッシュゲート(CRASH GATE)」のバンダムメッシュロッカーを置いた玄関。玄関に2つ、リビングに1つ灯るシーリングライトは「フォスカリーニ(FOSCARINI)」(写真撮影/本美安浩)
自分を満たすことで、これからの人生を彩り豊かに
暮らし始めて2年目を迎えたTajiさん。自分ファーストな住まいの住み心地は?
「最高です! 誰もいない家に一人で帰る楽しみがあります。好きなものに囲まれた空間にいると、やはり癒やされますね。こだわりのインテリアは、あると満足して大切に使うので、『飽きたら買い換えよう』という考えもなくなります。今までは雑貨屋さんで気に入った雑貨を見つけても『どうせ、うちに置いても合わないし』と諦めていたのが、この家だと『どこに置こうか?』と選ぶ楽しみがあります」
少し離れたことで、家族との関係性もより良くなったと感じるそうです。
「以前は、自分がローンを負担している家でありながら、理想の暮らしができないことに焦りやストレスを感じてしまうこともありました。しかし、隣り合う別の建物に住まうという選択をしたことで、心にゆとりが生まれました。
50代前後から家づくりを考える人へアドバイスをいただきました。
「SNSでフォロワーさんから相談されることもありますが、50代からの家づくりは、まず経済的に自立する必要があると思います。またデザイン面では、『好き』という気持ちや感覚だけで家づくりを進めると、家の中がガチャガチャしてしまうので、自分が本当に心地よいと感じるテーマやテイストなどを事前に整理し、柱を明確にすることが大事だと思います。私は50代で自分の家を建てることができましたが、そうできる人ばかりではないでしょう。ですが、ほんの小さなスペースなら、自分のお気に入りの空間をつくって過ごすことができるのでは。例えば、キッチンに趣味などの作業ができるスペースをつくるとか、部屋の一部だけでも眺めたくなるコーナーをつくるとか。そうやって自分を満たすことが、今後の人生に彩りを持たせるのではないかと思います」
ウォークインクローゼットに収納できる分の洋服しか持たないようにして、整理整頓(写真撮影/本美安浩)
「ラメラ」のペンダントライトを階段越しに眺める風景もお気に入りだそう(写真撮影/本美安浩)
“注文住宅のマイホーム”というと、カップルやファミリーのイメージが頭に浮かびますが、「自分のためだけに建ててもいいんだ!」と目からウロコの思いです。
誰もができることではなくても、「どこか1カ所でもお気に入りの場所を持つ」という話は印象的でした。
また、Tajiさんと筆者は身長が140cm台と小柄同士だったので、Tajiさん邸の収納棚や照明、スイッチの位置などの高さが、どれもちょうどよく感じられました。老後などの来るべき未来に備え、誰かのためではなく、自分自身の不便や不満を解消した家づくりができるところも、“自分ファーストな住まい“の良さだと感じました。
Taji(タジ)さん
美容師、ヘアサロンオーナー、ジュエリーデザイナー。
2022年から始めた家づくりが24年9月に完結。インスタグラムで、シンプルモダンな暮らしを発信中。その素敵な暮らしが、多くの共感を呼んでいる。
『53歳からのシンプルモダンな暮らし』(CEメディアハウス)
Instagram @2nd613

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