新しい部屋を探すとき、家賃や間取り、駅からの距離、築年数は気になるのに、「防犯」は後回しに……身に覚えがある人もいるのではないでしょうか。
防犯は「オートロック」や「防犯カメラ」があれば安心、と思いがちですが、実はそうとは言い切れないのだとか! 一体どういうことでしょうか。
元大阪府警の警察官で、現在は一般社団法人 全国防犯啓蒙推進機構の理事長を務める折元洋巳(おりもと・ひろみ)さんは、1000人以上の犯罪者(被疑者)と接した経験から、泥棒や犯罪者のリアルな心理や手口を熟知している住まいの防犯の専門家。物件選びから入居後の対策まで、一人暮らしで知っておきたい住まい防犯について聞きました。
■後編:SNSが犯罪の入り口に。尾行・ストーカー・詐欺…1000人超の犯罪者が証言、驚愕の手口を元大阪府警の警察官・折元洋巳さんに聞いた
「不審者に気をつけよう」だけでは守れない。まずは“危ない場所”を知る
折元さんは、「防犯とは、不審者を見抜くことではなく、犯罪が起こりやすい場所を知ること」だと話します。詳しく伺ってみましょう。
―― 新しい家・新しい生活の「防犯」の大前提とは?
折元さん:
大事なのは、「人を見抜こうとしすぎない」ことです。
警察やメディアなどが、よく“不審者に気をつけましょう”と言いますけど、実際には不審者って見た目でわからないんですよ。特に詐欺や窃盗のような犯罪では、相手は最初から悪そうな顔では来ません。感じのいい人、普通の人の顔をして近づいてくるわけです。だから、「この人は怪しいか」で判断しようとすると、どうしても限界があるんです。
―― では、何を見ればいいのでしょうか。
折元さん:
「場所」です。もっと言えば、「景色」ですね。
僕がずっとベースにしているのは犯罪機会論という考え方。犯罪って、“悪い人がいるから起きる”だけじゃないんです。犯罪をやろうとしている人間が、「ここなら成功しそうだな」と思える機会があると、起きやすくなる。
つまり、犯人の性格や属性だけじゃなくて、場所の条件がそろったときに犯罪は起こりやすくなるんです。防犯は“事後の対処”ではなく、事前にその機会を潰すことが本質だとされています。
―― その“犯罪が起こりやすい場所”には共通点があるんですか。
折元さん:
あります。すごくシンプルです。「入りやすくて、見えにくい場所」です。
犯人からすると、入るのが簡単で、周囲から見えにくいところは犯罪をやりやすい。
この考え方は、住まいだけじゃなくて、帰り道や街の見え方にもつながります。特に、一人暮らしの物件選びではまずここを意識してほしいですね。
(イラスト/いぢちひろゆき)
物件選びは「部屋の中」だけでは決まらない。周辺環境などもチェックを
―― 物件探しというと、つい室内の設備や間取りばかり見てしまいます。建物の外や周辺環境の「入りやすくて、見えにくい場所」について、もう少し詳しく教えてください。
折元さん:
つまり「周りからの視線がどれだけあるか」がポイントなんです。
例えば袋小路の奥や突き当たりにある住戸は、通行人が少ないので狙われやすい傾向があります。よく「泥棒ってお金持ちの家を狙うんですよね」と言われるんですけど、そんなにわかりやすく見抜けるわけじゃないんです。彼らが最初に見ているのは、金持ちかどうかより、「入りやすいか」「見つかりにくいか」「逃げやすいか」です。
実際、留置場で犯罪者に話を聞いていると「(家に)入ったけど何も盗れなかった」というケースもあるんですよ。
―― 何も盗れなくても、ですか。
折元さん:
犯人にとって一番怖いのは、出てきたところを誰かに見られて通報されることなんです。
留守だと見込んで盗みに入っても、家から出てきた瞬間に周囲に見られていたら終わりですよね。だからこそ、通行人が少ない、外からの目線が届きにくい場所はやりやすい。袋小路の奥って、そういう意味でかなり都合がいいんです。
―― 「静かな住宅街で落ち着いている」は、裏を返すと人目が少ないことでもありますね。
折元さん:
そうなんです。もちろん静かな場所そのものが悪いわけじゃないです。
でも、“静かで落ち着いている”と“見守りの目が少ない”は、時に同じことでもある。物件を見に行ったときには、その場所が自分にとって心地いいかだけじゃなく、「第三者の目がどれだけあるか」も一緒に見てほしいです。
一般社団法人 全国防犯啓蒙推進機構 理事長・折元さんは、大阪府警の警察官として20年のキャリアを持ち、特殊捜査(尾行など)を行う刑事や、留置場の看守などを務めてきた。防犯専門家歴20年、1200件以上の防犯相談、10000室以上の防犯対策を指導。NHKやフジテレビ、日本テレビなど、多数のメディア・テレビ番組にも出演している(写真撮影/桑田瑞穗)
「非常階段や外付け階段近くの部屋」は安心どころか要注意? 集合住宅で見落としがちなポイント
―― アパートやマンションなどの集合住宅でチェックすべき場所は?
折元さん:
非常階段の位置ですね。
例えばマンションだと、「非常階段に近いと、火事や地震など何かあったとき安心かな」と思う人も多いんですけど、防犯の視点では必ずしもそうではありません。非常階段の横の部屋って、泥棒からすると逃げ道を確保しやすい場所なんです。
もし何かしている途中で見つかっても、すぐ逃げられる。逆に、階段と反対側の部屋だと、逃げるときに他の住人と鉢合わせするリスクが高い。だから、最初に狙うなら非常階段側、という考え方が出てくるんですね。
―― かなり意外です。
非常階段と部屋の位置関係には注意が必要(写真/PIXTA)
折元さん:
防災の目線では安心感があっても、防犯面では「犯人にも都合がいいかもしれない」と考えたほうがいい。マンションのベランダは、火災時の避難通路として隣の部屋へ移動できる構造になっているのが前提です。そのため、非常階段側の部屋から侵入した泥棒が、ベランダ伝いに侵入を広げていくケースもあります。だからこそ、ベランダを塞ぐのではなく、ベランダに面した窓に補助錠をつけるなどして、各住戸でツーロックにしておくことが重要です。
―― ということは、高層階だから安心とも限らない。
折元さん:
そうです。高層階なら絶対安全、とは言えません。
特に日本人は、マンションの上階の窓やベランダは無意識に“安全地帯”だと思いがちです。だから対策が薄くなりやすいんです。
「オートロック付き」は安心の目印にならない? 過信が危ない理由
―― 防犯に気をつけている人にとっては、「オートロック付き」はかなり大きな訴求ポイントですよね。
折元さん:
オートロックは、過信しないでください。
たしかに、セールスなどの部外者が簡単に入れない仕組みがあるのは安心材料のひとつです。しかし、プロの犯罪者は現在のオートロックのシステムの盲点を熟知しています。特殊な破壊道具などを一切使わずとも、わずか数秒でロックを解除してしまう手口が存在します。
つまり、オートロックは「手口を知っている悪意ある人間は防ぎきれない」設備だという認識が必要です。
―― それは意外です。
折元さん:
そうですよね。
―― つまり、オートロック付きでも安心しきらないほうがいい、と。
折元さん:
オートロックがあること自体はマイナスではありません。ただ、それだけで防犯性を判断するのではなく、共用部に死角がないか、管理が行き届いているか、玄関や窓の対策ができているかまで含めて考えることが大切です。「オートロックがあるから安心」ではなく、「それでも入れる前提」で備えておくことが重要です。
オートロックを過信せず、ゴミ出しなど少しの外出でも、必ず自分の部屋の玄関の鍵を閉めるようにしてください。
防犯カメラは“防犯”ではなく“監視”。設備名だけで判断しない
―― 同じように「防犯カメラあり」も安心材料に感じますが。
折元さん:
これも言葉の印象が強すぎるんですよね。
「防犯カメラ」と呼ばれていますけど、実際の役割としては「監視カメラ」です。事件が起きたあと、捜査資料にはなります。でも、犯罪を未然に防ぐかというと、それは別の話なんです。
今は帽子にマスク、といういで立ちの人がいても、全然不自然じゃないですよね。そうなると、カメラがあっても顔がはっきり映るとは限らない。しかも泥棒側も、そこはわかった上で動いているわけです。
―― では、防犯カメラは意味がないんでしょうか。
折元さん:
“使い方による”ですね。
例えばエレベーターの中の映像を、1階のエントランスで見えるようにする。そうすると、中で何か悪いことをしようと思った人が「ここでやったら見られるかもしれない」と感じてやめる。そういう設計なら抑止になります。
でも、ただカメラがついているだけで「この物件は安心」と考えるのは危ない。設備の名前ではなく、その設備がどう機能するかで見たほうがいいです。
まず守るべきは玄関と窓。侵入経路は意外なほど限られている
―― 入居者が自分で対策するなら、どこから始めるべきですか。
折元さん:
玄関と窓です。そこが最優先です。
2024年の一戸建住宅の侵入窃盗は、侵入手口では「無締り」が47.6%、「ガラス破り」が35.7%。侵入口で見ると「窓」が52.9%、「表出入口」が22.0%で、窓と表出入口を合わせると約75%を占めています。つまり、“何から手をつければいいか”はかなりはっきりしているんです。
資料提供:折元 洋巳さん
―― まずは鍵のかけ忘れと窓の対策なんですね。
折元さん:
防犯というと、特別なグッズや高価な設備を思い浮かべる方も多いんですけど、その前にやるべきことがある。鍵を閉め忘れないこと。窓を破られにくくすること。ここをおろそかにして、別の設備だけ立派にしても、あまり意味がないんです。
「侵入に5分かかると7割が諦める」。“面倒な家”になることが一番の防犯
―― “住まい防犯”で目指すべき状態をひと言で表すと、どんな状態でしょうか。
折元さん:
「面倒な家」です。つまり、侵入に時間がかかる家ですね。
実際に捕まっている泥棒へのアンケート調査でも、「侵入に5分かかると7割が諦める」という結果が出ています。実際に留置場で聞いたときも、「そりゃそうですわ」と当人たちが口をそろえていました。犯人だって、リスクの高いことはしたくない。だから、絶対に破られない家を目指すというより、「ここはやめとこう」と思わせる家にするのが現実的なんです。
―― “完璧な安全”より、“やりにくさ”をつくるわけですね。
折元さん:
他の家と比べて、自分の家のほうが面倒そうに見えればいいんです。泥棒って、比較のなかでよりリスクの低いほうへ行きますから。
(イラスト/いぢちひろゆき)
スマートロックは便利。でも「防犯性が上がる」とは限らない
―― 最近はデジタルキーやスマートロックをつける人も増えています。これは防犯対策になりますか。
折元さん:
タイプによります。まず、自動施錠になることで、鍵のかけ忘れを防げるのは大きいです。デジタルキー導入で侵入手口の54.5%に対抗できるとされています。無締りの対策としてはかなり意味があります。
ただし、備え付けの鍵穴の上にかぶせるだけの後付けタイプは、利便性は上がっても、防犯性が大きく上がるとは限りません。もともとの扉の構造や、鍵が出入りする金属部分がそのままなら、物理的にこじ開ける手口には対応しきれない場合があるからです。
―― 便利さと防犯は、分けて考えたほうがいいんですね。
折元さん:
その通りです。便利になること自体は悪くないです。でも“便利=安全”ではない。そこを混同しないほうがいいですね。
一方で、閉め忘れ防止という意味では大きな価値があります。だから、何に効いて、何には効かないのかを理解して使うことが大切です。
資料提供:折元 洋巳さん
窓の補助錠、防犯フィルム、シャッター。地味だけど効くのは“手間を増やす”対策
―― 窓については、どんな対策が現実的でしょうか。
折元さん:
補助錠と防犯フィルムですね。
補助錠は、ホームセンターで買える後付けタイプでもいい。上下につけるのが理想です。どうしても1つなら上側。上にあるだけでも、外から見たときに“あ、面倒そうやな”と伝わりやすいんです。
ホームセンターなどで購入できる窓用補助錠(写真/PIXTA)
物件に「サブロック」がついていれば防犯上の安心材料になる(写真/PIXTA)
それから防犯フィルム。これはすごくいいです。
ガラスが割れないわけではないけど、割っても貫通しにくくなる。時間がかかる。しかも防災面でも役に立つ。デジタルキーと防犯フィルムの2つの対策で、侵入手口の90.2%に対抗できるとされています。
―― 防犯だけでなく、防災にもつながるんですね。
防犯フィルム(写真/PIXTA)
折元さん:
防犯フィルムは、台風や地震でガラスが飛散しにくい。紫外線対策にもなる。防犯だけのための出費と思うとハードルが高くても、“暮らし全体の備え”として考えると意味があると思います。
―― シャッターや雨戸はどうでしょう。短時間の外出なら(在宅していると思わせるため)閉めないほうがいい、という話も聞きます。
折元さん:
それはあまり気にしなくていいです。
泥棒は、シャッターの開閉だけで留守かどうか判断しているわけじゃない。もっと慎重に見ています。だったら、閉められるものは閉めたほうがいい。シャッターがあるなら閉める、ロックする、補助錠も使う。設備は使ってこそ意味があります。
シャッター(写真/PIXTA)
駐輪場とゴミ置き場は、その建物の“防犯レベル”を映す場所
―― 内見時には、室内以外に共用部もよく見たほうがいいですか。
折元さん:
絶対に見たほうがいいです。
特に見てほしいのは駐輪場とゴミ置き場ですね。駐輪場が乱雑で、放置自転車がある。カゴにゴミや古い傘が入ったままになっている。そういう場所は、“誰もこの場をきちんと見ていない”という印象を与えます。
ゴミ置き場も同じで、ルール外のゴミが出ている、生ゴミが散乱している、掃除されていない。そういう状態だと、外から入ってきた人間が“異物”として目立ちにくいんです。
―― 犯人側も「ここならなじみやすい」と感じるわけですね。
折元さん:
犯罪者って、自分が異物だとわかっているんですよ。だからこそ、異物として認識されにくい場所を好む。逆に、管理が行き届いていて、住民の目線が感じられる場所は嫌がります。
室内の広さや設備だけじゃなく、その建物全体がどう保たれているかも、防犯の大事な材料なんです。
(イラスト/いぢちひろゆき)
1階は本当にダメ? “避ける”より“どう備えるか”が大事
―― 一人暮らしだと、1階は避けたいという声も多いです。
折元さん:
たしかに、1階は窓からの侵入リスクが高いので、そのままだと不安はあります。
でも、1階だから即ダメということではありません。窓に防犯フィルムを貼る、補助錠をつける、シャッターを使う。そうした対策ができていれば、かなり変わります。
1階って、出入りしやすいとか、荷物の搬入が楽とか、専用庭があるとか、メリットもありますよね。
だから、「1階だから避ける」だけではもったいないこともある。大事なのは、その部屋が“無防備な1階”なのか、“ちゃんと対策された1階”なのかを見ることです。
(写真撮影/桑田瑞穗)
設備名ではなく、「この家は入りにくいか」で選ぶ
内見では、つい「きれい」「広い」「便利」といったわかりやすい条件に目が向きます。もちろん、それらは部屋選びの大事な基準です。
でも折元さんの話を聞いていると、防犯もまた、安心して暮らすための“住み心地”のひとつなのだとわかります。
オートロック付きか、防犯カメラがあるか。そうした設備は判断材料にはなりますが、それだけで安心は決まりません。大切なのは、その建物や部屋が、外から見て入りやすくないか、目が届きにくくないか、そして“狙いやすそう”に見えないかどうかです。
新しい部屋を探すときは、間取図や設備欄だけではなく、共用部の見通しや周辺の人通り、玄関や窓まわりにも目を向けてみる。
そんなふうに「この家は入りにくいか」という視点をひとつ持つだけで、物件の見え方は少し変わるはずです。
■後編:SNSが犯罪の入り口に。尾行・ストーカー・詐欺…1000人超の犯罪者が証言、驚愕の手口を元大阪府警の警察官・折元洋巳さんに聞いた
●取材協力
折元洋巳さん(おりもと ひろみ)
一般社団法人 全国防犯啓蒙推進機構 理事長。元大阪府警の警察官として約20年勤務。留置場の看守時代に1000人以上の犯罪者の心理や手口に接した経験をもとに、防犯啓蒙や住まいの防犯対策に取り組んでいる。

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