尾行、ストーカー、SNS詐欺。どれも遠い話のようでいて、きっかけは日常のなかにあります。
元大阪府警の警察官で、現在は一般社団法人 全国防犯啓蒙推進機構の理事長を務める折元洋巳(おりもと・ひろみ)さんに帰り道の歩き方からSNSでの距離感まで、一人暮らしで知っておきたい防犯の考え方を聞きました。
■前編:【1000人超の犯罪者が証言】泥棒が諦める「面倒な家」の条件。防犯目線の物件選びを元大阪府警の警察官・折元洋巳さんに聞いた
「いつもの帰り方」が一番危ない。“毎日同じ”は、相手に読まれやすい
折元さんは、1000人以上の犯罪者(被疑者)と接した経験から、泥棒や犯罪者のリアルな心理や手口を熟知している住まいの防犯の専門家。
折元さんは、防犯で大切なのは「何かあってから逃げる」よりも、「危険な機会をつくらない」ことだと言います。
例えば、一人暮らしの帰り道。女性を狙った犯罪は夜間から深夜にかけて多く、被害に遭った女性(20~34歳)の約94%が「同行者なし(一人)」のときに狙われているほか、危険な体験をした場所の約70%が「路上」、特に大通りから一本入った住宅街や自宅マンションのエントランス等で、背後から(犯罪被害の約74%)接触されて被害に遭うケースが多いようです(警察庁調べ)。
子供・女性に対する犯罪等を防止する ための対策に関する調査研究(警察庁子供・女性に対する犯罪等を防止するための対策に関する調査研究会)より
新生活の今のシーズンには、特に気をつけたい話です。どうしたら防げるのか、詳しく伺ってみましょう。
―― 帰宅時の防犯では、どんなことを意識するといいでしょうか。
折元さん:
まず、毎日同じ時間・同じルート・同じ行動を繰り返しすぎないことです。
人って無意識にパターン化するんですよ。
―― 大きく変えようとすると続かなそうですが、どの程度変えればいいのでしょう。
折元さん:
ちょっとでいいんです。一本違う道を通る日をつくる。コンビニに寄る日と寄らない日をつくる。帰る時間が少し前後するだけでも違います。大切なのは、“この人の動きは読み切れない”と思わせることなんです。
防犯って、すごく大きなことをしないといけないように思われがちですけど、実際は日常の癖を少しずらすだけでも意味があるんですよ。
一般社団法人 全国防犯啓蒙推進機構 理事長・折元さんは、大阪府警の警察官として20年のキャリアを持ち、特殊捜査(尾行など)を行う刑事や、留置場の看守などを務めてきた。
イヤホンとスマホは、自分で自分の感覚を閉じてしまう
―― 帰り道でやらないほうがいいことはありますか。
折元さん:
イヤホンとスマホですね。
イヤホンで周囲の音を遮断して、さらにスマホに集中していたら、視覚も聴覚もかなりふさがれます。後ろから近づいてくる気配にも気づきにくいし、違和感にも反応しづらくなる。イヤホンをして周囲の音を遮断すること、スマホに集中して歩くことは避けるべき行動です。
―― 一人で帰るときほど、つい音楽や動画に頼りたくなります。
折元さん:
気持ちはわかります。でも、防犯の観点では、自分の感覚を自分で閉じるのはかなり不利なんです。怖がりすぎる必要はないけれど、最低限、帰宅時は周囲の音や空気を拾える状態にしておく。それだけでもかなり違います。
尾行されていないかは、自然に確認する。コンビニや自販機を“チェックポイント”に
―― もし尾行のようなものが気になった場合、どう確認すればいいですか。
折元さん:
あからさまに振り返る必要はないです。むしろ、自分なりのチェックポイントを持っておくほうがいい。自販機、コンビニ、交差点などで自然に後方確認するといいとされています。
例えばコンビニに入って飲み物を見るふりをしながら外を見る。ショーウインドウに映る後ろを確認する。交差点で立ち止まる。そういう自然な動作のなかで確かめるんです。
―― “確認しようとしている感じ”を出しすぎないほうがいいんですね。
折元さん:
そうです。自分も緊張しすぎないし、相手にも読まれにくい。日常の動きのなかに確認を組み込むのがコツです。
(イラスト/いぢちひろゆき)
防犯ブザーは持っていたほうがいい。でも「鳴らせたらもう遅い」とも言える
――尾行などの防犯というと、防犯ブザーを思い浮かべる人も多いです。
折元さん:
防犯ブザー自体が無意味ということではないです。持っていないよりはあったほうがいい。
でも、そこを過信しないでほしいんです。防犯ブザーって“鳴らす時点で、もうかなり危険な状況”なんですよね。相手が近くにいて、何かが起きかけているか、すでに起きている。そう考えると、本当の意味での防犯は、ブザーを鳴らす状況をそもそもつくらないことなんです。
―― たしかに、「持っているから大丈夫」と思い込んでしまうことはありそうです。
折元さん:
ありますよね。でも、防犯ブザーを鳴らすような場所って、たいてい周りに人がいないんです。犯人側も「ここなら成功する」と思える場所で行動を起こしているわけだから。だから、事後の道具より前に、“その場所に入らない”“その状況をつくらない”という発想が大事なんです。
資料提供:折元 洋巳さん
「何かおかしい」で十分。違和感があったら、絶対に家へ帰らない
―― 違和感があったとき、一番避けるべき行動は何ですか。
折元さん:
一番避けるべきは、家に帰ることです。
もし尾行されていた場合、自宅を特定されることがその後の大きなリスクにつながります。違和感があれば、自宅には戻らず、人のいる場所に移動する。そのうえで、110番や#9110に連絡するのが基本です。
―― まだ被害に遭っていなくても、警察に相談していいんでしょうか。
折元さん:
もちろんです。110番は緊急通報、#9110は相談のためのダイヤルです。まだ事件になってないから電話できない、と思っている方も多いですけど、それは違います。相談実績があることが後の対応の根拠になると説明されています。
違和感って、被害になる前のサインでもあるんですよ。
資料提供:折元 洋巳さん
SNSの相手は“感じがいい”からこそ要注意。詐欺は友達の顔で近づいてくる
―― 最近はSNSをきっかけにしたトラブルも増えています。一人暮らしの若い人が気をつけるべきことは何でしょう。
折元さん:
「詐欺師は詐欺師の顔をしていない」ということです。
これに尽きます。怖そうな人がいきなり近づいてくるわけじゃない。むしろ、同年代で話しやすい、優しい、気が合いそう、という顔で入ってきます。
実際には、同年代の女性からSNSで友達申請が届き、やり取りを重ねて食事に行くようになったあと、別の男性が出てきて、最終的に数百万円の借金を背負わされたケースもあります。入口が“女性同士の友達関係”だったことで、警戒心が下がりやすかったといいます。
―― 入口が友達関係だと、たしかに疑いにくいですね。
折元さん:
そうなんです。だから、相手が同性か異性かで判断しないほうがいい。大切なのは、“関係の進み方”を見ることです。知り合ってすぐ会いたがる、距離の詰め方が早い、こちらの個人情報を知りたがる、急に別の人が登場する。そして、お金の話が出る。「あとで男が出てきたら注意」「お金の話が出た時点でアウト」と覚えておいてください。
「お金の話が出たらアウト」。線を引くポイントは、意外とシンプル
―― SNSでのやり取りはどこまでならいい、という線引きはありますか。
折元さん:
相手を完全に疑ってかかれ、という話ではないです。
ただ、防衛線は必要です。貸してほしい、立て替えてほしい、困っている、助けてほしい。そういう話が出た時点で、一回止まったほうがいい。
―― 恋愛や友情の空気のなかで、お金の話が紛れ込んでくることもありそうです。
折元さん:
だからこそ危ないんです。感情が乗ってくると、判断が鈍るから。“いい人そう”とか“かわいそう”より先に、「この話は金銭に向かっていないか」を見る。その視点があるだけで、かなり防げることがあります。
写真1枚から生活圏は見えてくる。SNSで“暮らしの断片”を出しすぎない
―― SNSでは、住所や最寄り駅を書いていなくても特定されることがあるのでしょうか。
折元さん:
あります。位置情報をつけていなくても、写真の背景、窓の外の景色、よく行く店、投稿の時間帯、通勤ルートっぽい動き。そういう断片を組み合わせると、生活圏はかなり見えてきます。
本人は“日常の記録”のつもりでも、相手からすると“行動情報”になっていることがあるんです。
―― 一人暮らしだと、部屋で撮る写真も多いですよね。
折元さん:
そうですね。だから、家の外観、ベランダからの景色、最寄りが推測できる場所は、出し方に気をつけたほうがいい。毎日の習慣をそのまま公開しすぎないこと。防犯って、“全部隠す”ではなく、“相手に与える情報量を意識する”ことでもあるんです。
(イラスト/いぢちひろゆき)
接客の笑顔が、ストーカーの入口になることもある
―― ストーカーの話も伺いたいです。特に接客業の人にとっては身近な問題かもしれません。
折元さん:
接客業の方は特に注意が必要です。接客の笑顔や名札が、相手の思い込みを強める入口になることがあると整理されています。必要以上に話しかけてくる、何度も同じ窓口に来る、個人的な質問をしてくる。そうした行動はカスタマーハラスメントの入口であり、ストーカー化の第一歩になり得ます。
―― 仕事だから丁寧に対応しているだけでも、相手が別の意味に受け取ってしまうんですね。
折元さん:
犯罪者に共通するのは、すごく自分勝手だということです。「あの子は自分に笑ってくれた」「自分に好意がある」と、自分の都合で意味づけしてしまう。こちらの意図は関係ないんです。
資料提供:折元 洋巳さん
相談は“深刻になってから”では遅い。「少ししつこい」で共有していい
―― どのタイミングで周りの人に相談すればいいのでしょうか。
折元さん:
“ちょっとしつこいな”と感じた段階で十分です。
大げさかな、考えすぎかな、と思っても、その時点で共有しておくほうがいい。防犯で大事なのは、事件になってから相談することじゃなくて、事件になる前に選択肢を増やしておくことなんです。
―― 我慢してしまう人も多そうです。
折元さん:
多いですね。でも、一人で抱え込むと、相手はどんどん“いける”と思ってしまうことがある。職場なら上司、同僚、必要なら警察。少なくとも、自分だけの問題にしないことが大事です。一人で抱えないこと、声を上げることが救いにつながります。
資料提供:折元 洋巳さん
「いい人そう」は安全の証拠にならない。見るべきは“人”より“状況”
―― 折元さんの話を通して感じるのは、「人を見抜こうとしすぎない」という姿勢です。
折元さん:
人は、いくらでも“普通”に見せられます。感じのいい人にもなれる。だから“この人はいい人そうだから大丈夫”は、防犯の根拠にはならないんです。
それより、「この状況は危ないか」を見る。帰り道なら人目があるか、家に向かう動線が読まれていないか。SNSなら距離の詰め方が早すぎないか、お金の話が混ざっていないか。接客なら業務の範囲を越えた接触になっていないか。全部、見るべきは“状況”なんですよ。
(写真撮影/桑田瑞穗)
一人暮らしの防犯は、毎日の行動のなかで考えたい
折元さんの話を伺っていると、防犯は特別なことではなく、日々の行動の延長線上にあるのだとわかります。
イヤホンを外して歩くこと。帰宅ルートを固定しすぎないこと。違和感があれば家に帰らないこと。SNSで急に距離を縮めてくる相手には少し立ち止まること。
どれも大がかりな対策ではありませんが、そうした小さな意識の積み重ねが、自分を守ることにつながっていきます。
一人暮らしは自由な半面、自分で自分を守る場面も増えます。
帰り道や人とのやり取りのなかで「少し気になる」をそのままにしないこと。日常のなかに防犯の視点を持っておくことが、安心して暮らし続けるための備えになるのかもしれません。
■前編:【1000人超の犯罪者が証言】泥棒が諦める「面倒な家」の条件。防犯目線の物件選びを元大阪府警の警察官・折元洋巳さんに聞いた
●取材協力
折元洋巳さん(おりもと ひろみ)
一般社団法人 全国防犯啓蒙推進機構 理事長。元大阪府警の警察官として約20年勤務。留置場の看守時代に1000人以上の犯罪者の心理や手口に接した経験をもとに、防犯啓蒙や住まいの防犯対策に取り組んでいる。

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