連載【落語に学ぶ住まいと街(6)】
落語好きの住宅ジャーナリストが、落語に出てくる江戸の暮らしを参考に、これからの住まい選びのヒントを見つけようという連載です。

落語「お化け長屋」とは…

夏と言えばお化けの噺。

落語にも幽霊の出てくる噺はたくさんある。そのひとつ「お化け長屋」とは……。
長屋に1軒空きがある。全部埋まると家賃の催促も厳しくなるからと、借り手が付かないように一計を案じる長屋の杢兵衛(もくべえ)と源兵衛。空き家には幽霊が出るということにする。さて、借り手が現れると、源兵衛が大家は遠くにいるからと杢兵衛の家に案内する。そこで、杢兵衛が夜に押し入った泥棒に殺された女の幽霊が出ると怪談風にきかせると、借り手は怖がって逃げてしまう。ほくそ笑む二人だが、次に訪ねてきたのは江戸っ子の威勢のいい男。同じ話を怖がるどころが、家賃が安くていいとばかりに、すぐに引越してくる。
驚いたのは長屋の連中。引越してきた男の留守に仕掛けをして、戻ってきた男に幽霊話そのままに、仏壇からチーン、障子に髪の毛がサラサラ、ひとりでにスーッ……。さすがの男も驚いて逃げだした。
でも、また戻ってくるかもしれないと次の仕掛けを準備していると、男は自分の親方を連れて戻ってきたので、これはかなわぬと連中は裏から逃げ出す始末……。

上方では「借家怪談」というそうだが、夏に入ると多くなる落語だ。最後までやることは少なく、筆者がよく聴くのは、引越してくる前の幽霊話が成功する一度目と上手くいかない二度目をたっぷり演じるところまでだ。

家具一式はもちろん、畳も自前の江戸時代の引越し

さて、江戸時代の借家は、家具一式はもちろん、畳や建具を付けずに貸すのが一般的だったようで、「裸貸(はだかがし)」と呼ばれていたそうだ。だからといって、引越しが大変になることはなかった。道具屋や損料屋というビジネスがあったからだ。引越す前に近所の道具屋に道具を売り、引越し先の道具屋から必要な道具を買えば、荷物は少なくて済む。また、何でも貸すというレンタル業の損料屋に、必要なものを必要な期間だけ借りるというスタイルが定着していたので、自分の持ち物は本当に少なく、収納場所もあまり必要ではなかったのだ。

上の写真は、深川江戸資料館で再現した長屋のうち、棒手振(ぼてふり)の政助の家。棒手振というのは、天秤棒で荷を担ぎ、町を売り歩く職人のこと。深川らしく、アサリやシジミを売り歩くという設定だ。長屋のなかでも貧しい政助の家には、畳もなければタンスもなく、家具も少ない。

むしろを敷いた上で寝たり、作業をしたりする暮らしだ。まじめに働いて稼ぎが増えれば、買ったり借りたりして家具も増えていくのだろう。

殺人現場だったなら、事故物件として家賃が安い場合も

「お化け長屋」に話を戻そう。お化けはともかくとして、その家が殺人現場だったなら、今なら「事故物件」となる。例えば、殺人や自殺、火災などによる死亡事故、孤独死などにより居住者が住宅内で亡くなった場合が該当する。このような居住者が心理的に嫌悪するような要因がある場合、不動産会社は契約しようとしている人に、重要事項説明書で告知をしなければならないと定められている。
ただし、詳しいルールは明確化されていないので、一定期間たった場合や入居者が入れ替わった場合などには告知されないケースもあるようだ。気になるようであれば、直前もしくは過去に、こうした事故がなかったか、事前に不動産会社に確認するとよいだろう。
一方、事故があってもきれいにリフォームされ、家賃も安くなるなら構わないという人もいるだろう。民間の賃貸で事故物件だと広告に明記しているケースは少ないが、UR都市機構では「特別募集住宅」として、1年から2年程度(住宅によって異なる)家賃を半額にして募集している。

さてこの落語の場合、筆者が聴いたのは、のり屋のばあさんが住んでいて、老衰で死んで長屋で弔いを出したというのが真実だったが……。真剣に家探しをしている人には、しゃれにならない話だ。


■参考資料
「落語ハンドブック改訂版」三省堂
「お江戸でござる」杉浦日向子監修/新潮文庫
「展示解説書」深川江戸資料館
  
江東区深川江戸資料館
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