【連載】スイーツ番長presents:パティシエのいる街には幸せが住む Vol.65

スイーツ番長(以下、番長)「創業40年だそうですね。1972年当時“パティスリー”と名のる店は、都内でも大変珍しいですよね?」

上村希(かみむら のぞむ)シェフ(以下、上村)「はい、僕で二代目ですが、僕が生まれたときには、父はもうオーナーパティシエでした。

フランスのパティスリーみたいにパンも扱っていて、ブーランジュリー(パン屋・パン屋の店)も名のっていました。」

番長「当時からブーランジュリーもやっていたなんて、銀座や青山ならまだしも、下町ではすごく画期的なスタイルですね。」

上村「でも、今風のパティシエがつくるお菓子ではなく、ショートケーキやシュークリームといったお馴染みの洋菓子で、パンもクロワッサンやブリオッシュではなくカレーパンやあんドーナツでしたが(笑)。」

番長「いやいや、当時は銀座や青山だってそういうものでしたよ(笑)。現在もそのスタイルは守り続けているようですが、シェフはフランスでの経験も長く、コンテストなどでも活躍され国内の有名店でも腕を奮われていたようなので、もっと現代フランス菓子が並んでいるかと思いました。」

上村「店を継いだときには、フランスや有名店で培った経験や技術を活かした、ムース系のお菓子やフランス伝統菓子を並べてみました。しかし、お客さんにはなかなか見向きもされませんでした。お客さんがなにを求めているのか理解しようとしていなかったのかもしれませんね。」

番長「お店を継ぐきっかけは?」

上村「実は2007年の暮れにオーナーパティシエである父が病に倒れまして、当時僕は自由が丘の辻口シェフのモンサンクレールでパティシエをしていたのですが、一年で最も多忙なクリスマスシーズンなのに無理をいって暇をもらい実家を手伝いに戻ってきたのです。それでそのまま家業を継ぐことになったわけです。そんな状況だから、モンサンクレールのみなさんに恩返しするためにも、父の店のためにも僕が成功することが一番だと思いこみ、今までの経験や技術を活かした、現代的なケーキや伝統菓子を並べてみたのです。」

番長「それが歴史のあるコトブキさんのお菓子とはかけ離れてしまい、お客さんをむしろ戸惑わせてしまったのですね。」

上村「おかげでとても勉強になりました。僕が子どものころからのお客さんや、そのお子さんのご家族、そしてこの街の下町風情残る魅力に惹かれて移り住んで来られる方々、そんなみなさんの顔を感じながらつくることが、おいしいお菓子づくりの秘訣だと思います。幸いに今年で創業40年の節目を迎えるので、建物も老朽化したこともあり、この春から店を新築し、今秋に新装オープンさせていただく予定です。」

番長「立石の名物ケーキ屋さんになりそうですね。」

上村「立石周辺は戦前から玩具製造業が多く、タカラトミーの本社もあり、いわば“おもちゃ”の街として知られています。そんな子どもも喜ぶ夢のある街の名物ケーキ屋さんになれるよう、これからも頑張ります!」

シェフの母、そして妻も店先に立ち、お菓子づくりを引退した父もパンづくりに励みパティシエやスタッフたちと家族ぐるみの経営をしている、下町人情溢れるパティスリーの新装がたのしみである。

●サバラン(360円)

たっぷりのラム酒のシロップに漬けこんだ、飲みもののようなサバラン。甘さは控えめでラムが芳醇に香り、大人だけが楽しめる仕上げになっている。

●コトブキロール(945円)

ずっしりとした重みなのに、真綿のようにふわふわで、潤いと弾力ある生地は那須の御養卵を使用して焼き上げる。

まろやかでこくのある北海道産純生クリームとのバランスが抜群で、抑えめ価格の上からも絶品ロールケーキです。

●キャラメルポワール(350円)

苦味がきいたキャラメルムースとフローラルな香りの洋梨のムースのケーキ。繊細なムースと親しみのあるスポンジ生地で、現代的なフランス菓子を楽しませてくれる。

シェフの「街のお気に入り」 立石仲見世商店街  
京成立石駅南口にある、戦後の闇市にルーツを持つ商店街。現在のアーケードは昭和35年に建てられたもので、ここまで昔ながらのスタイルが残っている商店街は珍しい。まるで映画のレトロな街並みのセットの様でもある。わずか100mほどの通りには、それぞれに立ち食い寿司屋やそば屋、もつ焼き居酒屋から惣菜店等がひしめいていて、テレビの情報番組では「立石おかず横丁」などとしばしば紹介される名物商店街です。
HP:http://www.tateishinakamise.jp/ 上村希シェフProfile
1978年東京生まれ。フランスエクサンプロヴァンスの大学に語学留学後、パリの職業専門学校エコール・フェランディに入学し、パティシエのコースを修了。その後、パティシエのCAP(フランス国家職業適性証)を取得。1999年からはアルザス地方ミュルーズにあるパティスリージャックにて修行。帰国後はモンサンクレールパティシエ、コンフィチュールHアトリエ長を経て、2007年パティスリーコトブキシェフパティシエに。
ShopData
パティスリー コトブキ 
東京都葛飾区東立石4-49-6
Tel. 03-3694-6187
営業時間9:00~21:00 年中無休 (他にイトーヨーカドー四つ木店、四つ木ライオンズマンション店の2店舗)
ショーケースにはマカロンなどのフランス菓子も並び、お菓子だけでなく食パンから総菜パン、サンドイッチも取りそろえ、住民の胃袋を満たしてくれている。上村希シェフ考案の焼きドーナツや昔ながらのマドレーヌも贈答用やオヤツに大人気。
HP: http://www.patisserie-kotobuki.com/元画像url http://jrnl-parts.s3.amazonaws.com/wp/wp-content/uploads/2013/01/36273main.jpg
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