クラフトビールはもはや酒好きだけのものではない。小うるさい蘊蓄はひとまず脇に置いて、エチケットの可愛さで選んだり、スイーツと合わせたり。
ペアリングが今もっと美味しい
ホップや麦のスタイル、醸造方法などを変えることで、ユニークな味わいを表現するクラフトビール。その個性に合わせて、食の作り手の創意工夫も広がっている。
前回に引き続き、今回はペアリングがもっと美味しくなるおすすめの4店舗をご紹介します。
東京・江古田『お菓子と麦酒』:お酒に強くても弱くても、すべての人に寄り添うタルトとビール

昭和レトロな青果店や蕎麦屋が並ぶ江古田市場通り商店街に、ポツンと海外のカフェのようなお店がある。月替わりのタルトとクラフトビールを楽しめる『お菓子と麦酒』。ここは、店主・山口瑞希さんの物腰の柔らかさからか、一際スロウな空気を醸し出している。

そんな穏やかな雰囲気とは裏腹に、山口さんが作るタルトはピシッと塩味が効いていてクラフトビールの肴にピッタリ。「枝豆とアボカド」は、さっぱりとした豆腐クリームの生地にガーリックがガツンと香り、アロマホップが華やかなFar Yeast Brewing 「東京ホワイト」と驚くほどよく合う。

「お酒が強くない人でも小さいサイズで気軽に楽しめるように」と、4種のタップビアはすべてSサイズ500円。“誰でも飲みたいときに、飲みたいものが飲める場所”であってほしいと、甘党向けの「ビアフロート」やノンアルコールメニューも豊富に揃えている。
店名の由来はサマセット・モームの代表作である小説『お菓子と麦酒』。タルトもビールも生活必需品という訳ではないが、日々の彩りになってほしいという想いから、この名前に決めた。
「その日のお客さんによって飲みたいビールの種類は様々。
●SHOP INFO
住:東京都練馬区栄町29-5
営:12:00~19:00
休:月曜
予算:500円~
個室:なし カード:可
東京・代官山『Spice&Cafe FamFam』:喉越し抜群のビールと出汁の旨味溢れるカレー

麦とホップの味わいがしっかり立った「キリン スプリングバレー 豊潤<496>」が、代官山『Spice & Cafe FamFam』の「チキンとキーマのあいがけカレー」と抜群に合う。街の中心から並木橋方向へ数分歩いた路地の2階、読書や作業をする人も多いというこのカフェでは、和風出汁やラー油を使った個性豊かなカレーを常に8種類以上用意。なかでも鰹節、味噌、醤油の旨味が際立つキーマカレーと、「豊潤」の喉越しは病みつきになる組み合わせ。

チキンカレーは長時間煮込んだトマトとココナッツミルクで表現した、まろやかなコクが特徴。あいがけされたカレーを混ぜながら食し、ビールをひと口。そのうちカルダモンとクローブの香りが口のなかに広がり始め、またビールをひと口。スプーンを口に運ぶと自然とビールにも手が伸びる、そのうちに「もう1杯!」と手が止まらなくなってしまう。

他にもパイナップルとアールグレイが華やかな「カルダモンチキンカレー」とトロピカルな印象の「キリン スプリングバレー サマークラフトエール<香>」など、試してみたい組み合わせがたくさん。“辛いものをスカッと流す”のではない、旨味を引き立て合う“クラフトビールとスパイスカレー”の新たなタッグを堪能してみてはいかがだろうか。
●SHOP INFO
住:東京都渋谷区代官山町9-10 SodaCCo 2F
TEL:03-6416-1851
営:11:00~22:00
休:なし
予算:1000円~
個室:なし カード:可
※時期によってクラフトビールは替わります。
ここにしかない一杯が堪能できる店2選
クラフトビールブームのなかで注目なのが、飲食店がブルワリーと制作したコラボビール。それぞれのお店の業態や想いが詰まった一杯には、手で造るビールの真髄が詰まっている。
東京・池ノ上『COFFEE COUNTY TOKYO』

福岡を代表するスペシャルティコーヒーロースターの『COFFEE COUNTY』が、東京・池ノ上にオープンした新店舗で飲めるクラフトビールがとんでもなく美味しいらしい。そんな噂を聞きつけて開店時間である11時にお店へ向かうと、平日にも関わらず“仕事前の1杯”を求める人の列が。
職人の手仕事の暖かみを感じながらスペシャリティコーヒーのようなビールを

「豆の産地や発酵方法など、浅煎りコーヒーの“酸っぱいだけ”じゃないユニークな違いを伝えたい」という思いから始まった『COFFEE COUNTY』。同じ福岡で販売所をオープンさせた『Hobo Brewing』とつくったオリジナルのビールは、“苦いだけ”というイメージを払拭すべく、クロモジなどを使って複雑さを表現した。

アルコール度数が3.5%と低く、一口飲むと後から押し寄せてくるクロモジの爽快感でジュースのようにゴクゴクと飲めてしまうのが特徴だ。舌がキュッと引き締まるシトラスホップの酸がナチュラルワインの“酸っぱさ”に似ていて、お酒好きが造ったビールだと確信できる。店内には一杯ずつ丁寧に抽出されるスペシャルティコーヒーを待つ間に、1杯飲み始めている人も多い。

カウンターのレンガやモールテックスなどザラリとした質感の素材で作られた内装も『COFFEECOUNTY』のこだわり。全体の色味をコーヒーやワインを連想する茶や赤色で統一した結果、コーヒー豆の産地であるエチオピアで見た建築様式に通ずる空気になったそう。こだわり抜かれた豆で作られたドリップコーヒー、複雑な味わいのクラフトビール、独特な匂いが感じられる内装。そうした人の手からしか感じられない温もりが、『COFFEE COUNTYTOKYO』には充満している。
●SHOP INFO

COFFEE COUNTYTOKYO
住:東京都世田谷区北沢1-30-3 1F
TEL:03-5790-9909
営:11:00~19:00
休:月曜
予算:1000円~
個室:なし カード:可
東京・二子玉川:『New Valley(ニューヴァレー)』

二子玉川の角打ちで飲める酒屋『New Valley』では、毎年全国各地のブルワリーと協力し、オリジナルビールを制作。お酒の輸入業界で15年以上働いた経験がある店主・千葉芳裕さんを中心に、『New Valley』で働くスタッフがオリジナルビールの雰囲気やスタイルを構想。それぞれの人柄や個性、お店に対する思いを存分に詰め込んでいる。
酒屋だからこその品揃え角打ちスタイルでオリジナルビールを楽しむ

店舗の向かいにある酒屋にて、国内産を中心としたクラフトビールを30種類、世界各国のワインを約5000本揃え、そのほとんどは店内の角打ちカウンターや外のベンチでゆっくり楽しむことができる。自家焙煎のコーヒーもあり、下戸でも楽しめるのもポイント。
コラボでおなじみ『Hobo Brewing』と作ったセゾンスタイルの「biere de soif」は、喉が乾いたときにゴクゴク飲めるようアルコール度数を低めに設定。静岡のWE ST COAST BREWING と作った「24HOUR POWER」は、店主の千葉さんが“従業員のみんなが飲みながら楽しく24時間戦えるように”という意を込めてリラックス効果があるCBDを配合し、まるでエナジードリンクのような風味に仕上げた。スタッフが造ったオリジナルビールを飲みながら、誕生秘話に花を咲かせてみてはいかがだろうか。

●SHOP INFO
住:東京都世田谷区玉川3-23-24 カーム・ヴィアマーレ
TEL:03-6431-0132
営:11:00~23:00
休:なし
予算:1000円~
個室:なし カード:可
(撮影◎黒坂明美、文◎川端うの[FIUME inc.]、構成◎岩谷 大)