生粋の立ち食い蕎麦マニアは、最終的に「コロッケ蕎麦」にたどり着くと言いますが、実はパンマニアも「コロッケパン」にたどり着く、というのが筆者の持論です。
思えば、コロッケってすごいヤツだと改めて思います。
そんなコロッケの偉大さに感心しながら、「コロッケパンの本当に美味しい店はないかなぁ」と日頃から口にしていたところ、担当編集者から「西早稲田の新店のコロッケパンが美味しいらしい」という情報が舞い込んできました。
調べてみると、赤坂で69年間営業し、昨年9月に閉店した老舗パン屋『長野ベーカリー』が、この1月に西早稲田で『イトウベーカリー』として新生したというではありませんか。閉店した『長野ベーカリー』の看板商品は「コロッケパン」でした。それが新店でも味わえるというので、さっそく行ってきました。
「コロッケパン」も「とんかつ」も絶品だった!

東西線・早稲田駅から徒歩5分ほどのところに『イトウベーカリー』はありました。店先はこんな感じでアットホームな雰囲気です。

入店すると、パンケースにずらりと並んだ約50種類のパンがお出迎え。目移りしますが、その中に個装された「コロッケパン」(200円)を確認。さっそく購入しました!
袋を開けてみると、“ガマ口”のような形のパンで、開いている口に、コロンと丸いコロッケが、若干はみ出しながら挟まっています。コロッケに合わせたパンの形なのか、パンに合わせたコロッケの形なのか。

パクリと食べてみると、パンはフカフカしていて、ほんのり甘く、コロッケは揚げたての衣で、サクサクとした食感。ひと口でもうすでに美味しい。
食べ進んでいくと、真ん中あたりに甘辛いソースが登場。そのソースで衣が少ししんなりし、パンの方にも味がしみて、その部分がたまらなく美味しい。フルコースで言えば、ここがメインです! 筆者は『長野ベーカリー』の時の味を知らないので、懐かしい味というより、この味わいはむしろ新鮮です。

ここで気づいたのですが、コロッケは、コーン、人参、グリンピースが入った昔ながらのもの。ソースのほうも店主の伊藤さんに聞けば「普通の業務用のソース」だというのです。つまり、秀逸なのは、それらをまとめ上げているパンということになります。
というわけで、今度はパンの凄さを確かめるべく、横にあった「とんかつ」290円に注目しました。いわゆるカツサンドですね。

(とん)かつサンドといえば、一般的には500円以上するところも多い高級惣菜パン。でも、ここの「とんかつ」は、なんとお値打ちの290円です。
しかも、見えている部分は分厚いのに、実はカツの切れっぱしで、最後のほうはパンだけを食べる羽目になる……なんていう“残念カツサンドあるある”もありません。あれは世の中で最も許しがたい詐欺の一つですよね。
ところが、こちらの「とんかつ」は、1cm強の分厚いカツがパンの奥までしっかり入っていて一切虚飾なし。だからパン、カツ、ソースの三位一体を最後のひと口まで味わえます。そしてやっぱり、包み込んでいるパンがふんわりとしていて、ほんのり甘く、とんかつの邪魔をせず、それでいて存在感もあるのです。

老舗の味と新店の味はどう違う?

というわけで、こんなにサービス精神旺盛なサンドとそれに合わせた極上のパンを作っているのは店主・伊藤さん。長野ベーカリーでパン職人として13年勤めた方です。そのこだわりについて、お話を伺ってみました。

「『長野ベーカリー』では、パンのイロハを一から教わりました。特に人気商品は同じ味を求めていらっしゃる常連さんが多いので、毎日同じ味を作り続ける難しさを知りました。コロッケパン、明太フランスなどはその代表です。とはいえ、そんな常連さんにも新しい味を買っていただけるよう新メニューを作ってみたりして、その難しさも知りました」
今回は、自分の店であり、西早稲田という新天地。
「長野ベーカリーの人気商品の味を引き継がせていただくことを大事にしながら、今は西早稲田という街の人に向けたパンを作りたいと思っています。例えばクロワッサンやカレーパン、メロンパンなどは、同じ名前でも自分なりに配合や味を変えていますし、新たなニーズもあって、レモンベーグルなどを作ってみたり。まだまだ模索中ですが楽しんでやっています」

夜中3時には起きて4時には厨房に入るという伊藤さん。パン屋さんの朝はびっくりするくらい早いんです。でもそれは、開店時の7時になるべく多く商品を並べてお客さんの笑顔が見たいという思い。1つひとつ丁寧に作るパン屋さんの日常でもあります。
『長野ベーカリー』からほとんどの機械を引き継いだというので、見せていただいたら、古い機械もピカピカに磨き上げられていました。やはり、あの「コロッケパン」は“一夜にしてならず”の深い味なんです。
冒頭で、コロッケがいろんな料理に合うといいましたが、コロッケパンの場合、パンの食感、形、甘みの加減が大事だとわかりました。『イトウベーカリー』で焼き上がる極上のパンとコロッケのハーモニーをぜひ味わってみてください。
(取材・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

店名:イトウベーカリー
住:東京都新宿区西早稲田1-10-7
TEL:03-6265-9018
営:7:00~18:00(土曜~16:00)
休:日・月・祝