●年間700杯以上を食べ歩く“ラーメン官僚”こと田中一明氏が、日本全国のローカル・ラーメンの最新事情&行く価値のある名店をご紹介します。
徳島県は、東部・南部・西部と大きく3つのエリアに分けられる。

そして徳島県のラーメン事情だが、何と言ってもご当地ラーメン「徳島ラーメン」が有名。徳島ラーメンは、大きく「茶系」「黄系」「白系」の3系統に分けられる。
・「茶系」…濃厚豚骨出汁×甘辛い濃口醤油やたまり醤油
・「黄系」…鶏ガラと香味野菜から採った出汁×薄口醤油
・「白系」…豚骨出汁×薄口醤油や白醤油
徳島ラーメンの人気の火付け役となった『いのたに』をはじめ、『王王軒』、『春陽軒』、『東大』など全国レベルの知名度を有する実力店が提供するラーメンは「茶系」が多い。それゆえ、一般的に徳島ラーメンといえば「甘辛い味わいの豚骨醤油ラーメン」というイメージが先行しがちだが、現地に赴けば、「茶系」以外の実力店も多数存在することが分かる。例えば、「黄系」の『中華そばかわい』、『支那そば よあけ』や「白系」の『岡本中華』などがそれに当たる。
また、ここ数年で、徳島ラーメン以外の「非ご当地ラーメン」を提供する店舗も急増中。特に、鳴門市は、「非ご当地ラーメン」を提供する複数の人気店がしのぎを削り合う、県内有数のラーメン激戦区と化している。
以上を踏まえ、徳島県のラーメン事情をまとめると、以下の3点に要約される。
1.「茶系」「黄系」「白系」の3種類に大別される「徳島ラーメン」が根付いている。
2.近年、「徳島ラーメン」以外のラーメンを出す実力店が増えてきている。
3.有名実力店の多くは東部エリアに集中する。
以下、最近訪問した徳島県のラーメン店の中で、特に印象に残った店舗をご紹介していこう。
いま徳島市で最強に熱い店 『中華そば がっつ』

まずは、県庁所在地である徳島市から、おススメ店を1軒ご紹介する。それが2022年8月22日にオープンした、『中華そば がっつ』。この店が今、とんでもなく熱い。
店舗の場所は、JR佐古駅の出口から徒歩1分。ほぼ駅前の至便な立地だ。ちなみに佐古駅は、徳島市の鉄道路線の玄関口である徳島駅のすぐ隣の駅。そんな意味合いにおいてもアクセシビリティの高さは申し分のないところだろう。
同店が提供するのは、「中華そば」、「中華そば肉入り」、「味噌ラーメン」、「赤からラーメン」の4種類。
メニューリストに明記されているが、「中華そば」には、徳島ラーメンの定番「豚バラ肉」が盛り付けられ、「中華そば肉入り」には、豚バラ肉でなく「豚バラチャーシュー」が盛り付けられる。

つまり、基本の「中華そば」と「同肉入り」とで、トッピングの種類が変わる珍しい仕様であり、複数名で来店するのであれば、「中華そば」と「中華そば肉入り」の双方をオーダーし、食べ較べを楽しむのも一興だと思う。それでも、「どちらか1杯を選べ」と言われれば、徳島ラーメンらしさがより満喫できる「中華そば」を推したい。
さて、同店では、数年前に惜しまれながら閉店した『中華そば 美渓(みたに)』の味を受け継いだ1杯を提供。『美渓』と言えば、徳島東部エリアの内陸にある勝浦町に店舗を構え、月に数日しか店を開けず、かつ、営業時間も極めて短いという凄まじいハードルの高さから、地元の方々でも訪問が困難な“幻の店”と呼ばれていた伝説的名店。
この名店の味が、アクセシビリティ良好な『がっつ』で気軽に堪能できるというのだから、徳島ラーメンシーンが同店の誕生を熱烈に歓迎したのも宜(むべ)なるかなといったところだ。
そんな同店の「中華そば」のスープは、豚骨・鶏ガラ等の動物系素材から採った出汁に、濃厚醤油ダレを合わせた「茶系」。しかしながら、その味わいは、一般的な「茶系」のスープとは明らかに一線を画し、端的に言って傑出している。ニンニクをガツンと利かせ、醬油ベースであるにもかかわらず、まるで味噌が溶け込んでいるかのごとく、この上なく風味芳醇なのだ。
トッピングの豚バラ肉も高水準で、肉に内包されているリッチな甘みに、思わず頬が落ちそうになった。この1杯を食さずして、徳島ラーメンシーンの「今」は語れないだろう。
●SHOP INFO

店名:中華そば がっつ
住:徳島県徳島市佐古二番町18-10
TEL:088-676-3749
営:11:00~20:00
休:水(営業時間・定休日は変更の場合あり)
ラーメン激戦区・鳴門市の名店 『とりとたい 鳴門店』

ここ数年間で一気に県内有数のラーメン激戦区と化した鳴門市に、とっておきの優良店がある。2022年11月にオープンした、『とりとたい 鳴門店』だ。ロケーションは、JR鳴門駅から徒歩15分程度、「小鳴門橋」のたもとにある(駐車場は18台分)。

さて、同店においては、「とりとたいラーメン」、「鶏白湯」、「味噌鶏白湯」、「シビカラ鶏白湯」など、数種類のラーメンが提供されているが、一番人気はもちろん、メニュー名に屋号を冠した「とりとたいラーメン」。その名の通り、鶏と鯛のブレンドスープを用いた一杯だ。
「とりとたいラーメン」のビジュアルは、近年、近畿地方の「鶏白湯ラーメン」の店で頻繁に見かける、ブレンダーでスープを泡立たせた、いわゆるエスプーマ系。特に西日本においては“泡系鶏白湯”と称される、それほど珍しくないタイプだ。
しかしながら、これが鶏出汁に魚介出汁を合わせた「MIXスープ」となれば、話が変わってくる。中でも、鯛出汁を合わせたスープを泡立たせて提供する一杯は、泡系の本場・近畿地方でもめったにお目にかかれない。
華やかな香りとビビッドなうま味を兼ね備えた鯛出汁が、泡立たせることによって絶妙な塩梅ではんなりと和らぎ、鶏出汁のコク・滋味と仲睦まじく手を結ぶ。鶏単体、鯛単体だけでは到達し得ないワンランク上のうま味を体現することに成功したスープは、まさに試行錯誤の集大成と言うほかない。
お店の真ん中に鎮座する製麺室で丹念に打ち込む自家製平打ち麺のすすり心地も秀逸で、スープとの相性も、この上なく良好。「ダイブめしセット」を注文すれば、麺をすすり終えた後のスープを用いた「極上リゾット」も堪能できる。
食べ始めから食べ終わりまでワクワク感が持続する、類まれな良杯だ。
●SHOP INFO

店名:とりとたい 鳴門店
住:徳島県鳴門市撫養町大桑島字濘岩浜48‐60
TEL:088-624-8185
営:平日11:00~15:30、17:00~20:00(19:30LO)
土日祝11:00~20:00(19:30LO)※麺がなくなり次第終了
休:無休
アクセス:JR鳴門駅から徒歩15分(駐車場18台)
徳島ラーメンの本格派 『らーめん2の2』(美馬市)

続いてご紹介するのは、2013年9月に美馬市にオープンした、『らーめん2の2』。ロケーションは、JR徳島線・穴吹駅から約1.3km。穴吹駅は、徳島線のほぼ真ん中に位置し、美馬市を代表する拠点駅。冒頭で述べたとおり、徳島県西部と南部は、東部と比べて実力店の数が相対的に少なめ。しかし『らーめん2の2』は、そんな西部エリアにおいて貴重な本格派「徳島ラーメン」が食べられる店舗の一つといえる。
同店が提供する麺メニューは、「ラーメン」、「肉入りラーメン」、「チャーシューメン」、「みそラーメン」など。「みそラーメン」も人気商品だが、初訪問時に頼んでほしいのはやはり、メニューリスト筆頭に君臨する「ラーメン」。
豚骨のコクと風味が過不足なく抽出された動物系出汁と、濃口醤油を用いたカエシを見事なバランス感覚で重ね合わせた豚骨醤油スープは、口内へと飛び込んだ刹那、甘辛いカエシのうま味が味蕾を心地良く刺激する、「茶系」徳島ラーメンのお手本のような味わい。
豚バラ肉にじんわり沁み込んだ下味と、カエシとの相性の良さも並大抵のものではなく、ひとすすりで、食べ手を魅了するだけの訴求力を持ち合わせている。「徳島ラーメン」に対して食べ手が求めるポイントを、的確にとらえ抜いた佳作。西部エリアに立ち寄る機会があれば、迷わず訪問いただいてOK。そう太鼓判を押せる優良店だ。
●SHOP INFO

店名:らーめん2の2
住:徳島県美馬市脇町拝原2531
TEL:0883-53-0367
営:11:00~20:00(火曜のみ~15:00)※スープ売切れで閉店の場合あり
休:月曜
※店舗前に駐車場あり
南部エリアの人気店 『牟岐55ラーメン』(牟岐市)

最後は、南部エリアからオススメの1軒を紹介する。
店舗の場所は、JR牟岐線・牟岐駅より徒歩7分ほど。牟岐町の国道55号線沿い。店名はこの国道に由来する。店主は、香川県を代表し、その名を全国へと轟かせる実力店『讃岐ラーメン はまんど』で修業を重ねた後、独立開業を遂げた経緯の持ち主(『はまんど』先代店主とはクラスメイトの間柄だそう)。

現在、同店が提供する麺メニューは、清湯スープをベースとした「牟岐ラーメン」、「中華そば」、「つけめん」と、白湯スープをベースとした「白湯そば」、「濃厚魚介そば」、「55つけめん」の計6種類。看板メニューは、メニューリストにその旨が明記されているとおり、屋号を冠した「牟岐ラーメン」だ。
煮干し・鯖・鯵・鰹など、多種多様な「海の幸」を丁寧に炊いたスープは、乾物の滋味が舌上で雄々しく伸び上がり、やがて、味蕾を通じて身体の全細胞へと沁みわたる、“瀬戸内”らしい、しみじみ(沁み滋味)系の味わい。スープ表層を浮遊する大量の背脂も、その上質な甘みが、スープのうま味を更に引き立たせる役割を全うする。

このスープに合わせるのは、存在感のある多加水平打ち太麺。快適なすすり心地と良好なのど越しに加え、寸分の過不足なくスープを持ち上げ口元へと運び込む優等生。夢中になって麺をすすり続けているうちに、いつの間にか丼が空っぽになっている。
徳島県、それも香川県から距離がある南部エリアで、『はまんど』のDNAを継承した四国最高レベルの1杯に舌鼓が打てる。そんな贅沢な体験を現実のものとしてくれる『牟岐55ラーメン』には、ただ感謝するほかない。
●SHOP INFO

店名:牟岐55ラーメン
住:徳島県海部郡牟岐町川長関33-1
TEL:090-6280-0565
営:11:00~14:00、17:00~20:00
休:水曜
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●著者プロフィール
田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。