●東京生まれ東京育ち。中央線の飲み屋をこよなく愛するライター・松田義人による中央線一人飲み案内。
荻窪駅の東改札(地下)を出て、北口の地上へ。地上のすぐ出た右脇に、古来より多くの酒飲みたちを引き込むカリスマ的な酒場があります。その名は『鳥もと』。
創業は昭和27(1952)年。古くは文豪・井伏鱒二が『鳥もと』を好み、後に中央線沿線で暮らす文化人、ミュージシャン、役者なども多く来店したことで知られましたが、2009年に駅周辺の再開発の影響で、『鳥もと』本店は荻窪駅北口の飲み屋街・荻窪銀座街に移転。
さらに元あった駅横から100mほど西側に行ったところに、『鳥もと』2号店がオープンしました。いずれの店も移転から16年ほど経過した今なお、多くの酒飲みに愛され続けています。
風情ある良店が多い荻窪北口の飲み屋街

筆者もかつて昼夜問わず旧『鳥もと』に通い詰めた時期がありました。ただし、様々な事情があるのは承知していながらも「再開発」というのがどうも苦手で、荻窪の南エリアで暮らしながらも、かつて大好きだった旧『鳥もと』がなくなって以来、足が遠のいていました。
今回、久しぶりに今の『鳥もと』2号店で一人飲みをすることに決め、まずは荻窪駅北口周辺の今を偵察すべく散策することに。昔ながらの「荻窪北口駅前商店街」という小さなアーケードは健在ながらも、そのテナントの多くはチェーン店が占めています。「荻窪ならでは」の店はごく少なく、これは正直寂しく思いました。

また、さらに一本東にある「アサヒ通り」は営業を続ける飲食店が複数ある一方、シャッターが閉まったままのところも。正直活気があるとは言い難く、侘しさが漂っています。
しかし、さらに東側に行った飲み屋街「荻窪銀座街」はまだまだ健在で良い雰囲気の店が軒を連ねていました。

この中に今の『鳥もと』本店もあります。こういった良い雰囲気の店の多くは、かつて闇市だった頃の雰囲気を守り、そして継承すべく営業を続ける店ばかり。どの店も大きくはないものの「荻窪ならでは」の佇まい自体がなんだか嬉しく勝手に応援したくなります。
旧『鳥もと』に最も近い『鳥もと』2号店へ

さて、今回一人飲みに伺ったのは旧『鳥もと』に最も近い『鳥もと』2号店。JR中央線の線路沿いにあります。旧『鳥もと』のやや敷居の高いイメージを廃した間口の広い店で、連日多くの客で賑わっています。さっそく入ってみましょう。

旧『鳥もと』では立ち飲みを楽しめましたが、今の『鳥もと』は完全座り式。そして、旧『鳥もと』よりも間口が広く明るくなったことで、2~4名ほどのグループ客が増えた印象です。その余波を受け、客の入り具合によっては、一人客は微妙な席に案内されてしまうことも。

この日、筆者が案内されたのは「目の前が壁」の小さなテーブル席。すぐ真横には見知らぬ女性客の背中が密接しており、酔いも手伝ってか、ママ友の悪口が盛り上がるたびに、ドシン! とテーブルに当たってきて揺れます。
でもまぁこれもご愛嬌。慣れ親しんだ『鳥もと』の味を、令和の今も楽しめることに感謝しようじゃありませんか。
慣れ親しんだカシラの味わいに感動!

言い換えれば、今の『鳥もと』はかつての「焼鳥店」の様相から進化し、酒好きの親父だけでなく女性客も入りやすいメニュー多めの居酒屋的な店になっているわけです。まずはモロキュー(250円)、カシラ(130円)、焼酎ロック(麦・一番札・カットレモン入り・400円+20円)をオーダー。

キュウリで体を冷やした後に喉を潤すレモン入りの焼酎ロック。うーん、なかなかスッキリいい感じです。

そして、ほどなくして焼き上がってきたカシラの塩もまた、かつての『鳥もと』の味わいそのもの。プリッとした肉を噛み締めると、カシラならではの旨みが口いっぱいに広がり、テンションが上がりました。
女性客の背中に危険を感じて早々に退散

ただし、さらに酔いが深まったのか、例の隣の女性の背中が筆者のテーブルにガタンガタンと当たることが多くなってきました。焼酎ロックを1杯だけおかわりしましたが、グラスを押さえていないとこぼれそう。サバイバルすぎる……。
かつての旧『鳥もと』とは違い、今の『鳥もと』で一人飲みをする場合、今回のように時間帯によっては「壁を見つめながら、隣の人の背中にテーブルを揺らされる」という格好になることもあり、落ち着かない感じになる点は否めません。
しかし、それでも歴史ある『鳥もと』の味わいと、大衆酒場の雰囲気は健在です。今度は一人飲みではなく友人たちとみんなで訪れたいと思いました。
(取材・文◎松田義人(deco))
●SHOP INFO
店名:鳥もと2号店
住:東京都杉並区上荻1-7-5
TEL: 03-3391-1541
営:月水木15:00~23:00
金15:00~翌12:00
土13:00~翌12:00
日・祝12:00~23:00
休:火曜