●年間700杯以上を食べ歩く“ラーメン官僚”こと田中一明氏が、日本全国のローカル・ラーメンの最新事情&行く価値のある名店をご紹介。今回は千葉県のラーメンシーンに迫ります。

 千葉県のラーメンシーンの全容については、近隣の都県に住む人たちはおろか、東京のラーメン好きでさえ十分に把握できている者は少ない。その理由は後で説明するとして、まずは地勢的なお話から。前提として、千葉県は全国第6位の人口規模(約630万人)を誇る「大県」だ。人口規模に比例して、実力店・人気店として位置付けられる店舗の数も極めて多い。

 筆者が連載している千葉県のタウン誌『月刊ぐるっと千葉』では、同県を大きく「東葛」、「湾岸」、「北総」、「九十九里」、「中房総」、「南房総」の6エリアに分けている。千葉県のラーメンシーンを読み解くに当たっては、これに「千葉市」を加えれば分かりやすい。その千葉市を中心に、その西側に位置する東葛、湾岸、北総を〈千葉県西部(西部)〉、東側に位置する九十九里、中房総、南房総を〈千葉県東部(東部)〉と考えれば、千葉のラーメンシーンの全体像が見えてくる。

ラーメン官僚が太鼓判を押す千葉県の本当に美味しい店。茂原市の『元祖・房総らーめん520』

【1】東京に近接し、都内と同質のラーメンシーンが展開される〈西部〉
⇒地理的にも東京の延長線上にあるため、都内のラーメン好きが注目するような実力店が多い。例えば、都内の実力店で修業した人が千葉県で店舗を構えるのも西部が多い

【2】東京から距離があり、地域独自の麺文化が展開されている〈東部〉
⇒東京から距離があり、都内の空気を感じさせる店はそう多くない(市原市、東金市、茂原市など一部を除く)が、土地の風土に根差した地方色豊かな“地元の名店”が各地に点在

【3】西部と東部、双方のラーメン文化が入り交じる〈千葉市〉
⇒〈西部〉と〈東部〉、両者の要素が絶妙な塩梅でミクスチャーされたエリア

 冒頭で少し述べたが、東京のラーメン好きでさえ千葉県のラーメンシーンの全容を把握するのが困難な理由は、まさにこの地理的な要因と千葉の広さによる。そもそも、〈西部〉と〈千葉市〉に膨大な数のラーメン店があるため、都内から離れた〈東部〉の店を攻略するまでのハードルが高いのだ。しかし、ひとたび〈東部〉へと足を踏み入れれば、その多様性と奥深さは特筆すべきものがある。近年、注目を浴びている「竹岡式ラーメン」、「勝浦タンタンメン」、「アリランラーメン」といった千葉のご当地麺は、すべて〈東部〉発祥。

ラーメン官僚が太鼓判を押す千葉県の本当に美味しい店。茂原市の『元祖・房総らーめん520』
『らーめん八平』のアリランラーメン[食楽web]

 つまり、都内顔負けの最先端のラーメンが豊富に揃う〈西部〉、地方色を色濃く残した1杯が堪能できる〈東部〉、両者の要素が絶妙な塩梅でミクスチャーされた〈千葉市〉。これら3つの要素を併せ持つのが千葉県のラーメンシーンと言えるだろう。

 今回は、千葉の〈東部〉に位置する茂原市に2024年8月28日に誕生した新店『元祖・房総らーめん520』をご紹介したい。

千葉東部らしい煮干しの名杯『元祖・房総らーめん520』

ラーメン官僚が太鼓判を押す千葉県の本当に美味しい店。茂原市の『元祖・房総らーめん520』
『元祖・房総らーめん520』のロケーションは、JR外房線・茂原駅から徒歩約10分

 店主・小島氏は、30歳で美容師からラーメン業界に参入し、2016年6月、茂原市にて、「ガッツリ系ラーメン」を主力商品とする『ら~めんコジマル』を開業。同店を、茂原を代表する人気店にまで育て上げ、「中房総」ラーメンシーンの活性化に多大な貢献を果たした〈東部〉エリアを代表する名ラーメン職人のひとりだ。

『元祖・房総らーめん520』は、そんな同氏が、満を持して世に送り出したニューブランド。提供するのは、地元・九十九里産の煮干しを用いた1杯。麺メニューのラインナップは、「房総らーめん」、「煮干し中華そば」、「昆布水つけ麺」など多岐にわたるが、どれか1杯を選んでほしいと言われれば、私は店名の一部を冠した「房総らーめん」を薦めたい。

ラーメン官僚が太鼓判を押す千葉県の本当に美味しい店。茂原市の『元祖・房総らーめん520』
房総らーめん

 九十九里産のカタクチイワシと国産鶏の胴ガラを絶妙なバランスでブレンドし、丁寧に炊き上げた出汁に甘辛いカエシを重ね合わせたスープは、イワシ・鶏・醤油の三者が舌上でピタリと融合し、ワンランク上のうま味を紡ぎ出す、会心の出来映え。

 他エリアにおける同系統のラーメンと比較して、醤油の存在感をより鮮やかに浮かび上がらせるなど、「醤油っぽさのある醤油ラーメン」を好む房総エリアの嗜好にマッチした味わいに仕上がっている点も、称賛に値する。

 幾度も試作を重ね比類なきモッチリ感を実現した麺や、磯の香り豊かバラ海苔など、スープ以外のパーツにも、一切の手抜かりは見当たらない。

 〈東部〉らしい地域性を丼の中にしっかりと落とし込み、かつ、1杯の「煮干しラーメン」としても極めてハイレベル。

ラーメン好きであれば、絶対に押さえておきたい優良杯だ。

●SHOP INFO
店名:元祖・房総らーめん520
住:千葉県茂原市高師町3-11-6
TEL:047-38-7825
営:11:00~14:30、18:00~21:00
休:木曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

編集部おすすめ