最近、東京ではソースカツ丼やタレカツなど、“卵とじ”ではない地方発信のカツ丼専門店が急増中です。今回、ご紹介する『奏す庵』もソースカツ丼専門店。

しかし、ただの専門店ではありません。2016年に、日本の「カツ丼」発祥当時のソースカツ丼をオマージュして「ワセカツ丼」という新しいカツ丼を創り、早くも早稲田の名物になっています。しかもカツ丼なのに女性にも大人気なんです。その味の秘密を探ってきました!

ルーツの味を知って覆される常識

 カツ丼のカツといえば、トンカツ同様“カラッ、サクッ、分厚く、ジューシー(KSBJ)”の4拍子が揃って美味しい! そう思っていませんか? 確かに聞いただけで美味しそうですが、その定義は、もしかしたらTVの食レポの表現に感化されすぎかもしれませんよ…。

 そもそもカツ丼のルーツは大正時代。東京・早稲田鶴巻町にあった洋食屋『ヨーロッパ軒』のシェフが、ドイツ修業を終えて、帰国後「シュニッツェル」(カツレツ)をヒントにカツ丼を作ったのが始まりと言われています。今のような卵でとじたものではなく、シュニッツェル同様、極薄。そしてソース味。カツはカラッともサクッともしていなくて、しっとりしていたようです。

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

 なぜそれがわかるかというと、その洋食屋さんは関東大震災をきっかけに福井県に移転し、福井の「カツ丼」として定着したからです。

 つまり、福井のカツ丼に日本のカツ丼のルーツがあるわけで、つまり先ほどの美味しさの定義「KSBJ」は絶対ではないということなんです。そして、その早稲田生まれ福井育ちの「かつ丼」を、再び発祥の地・早稲田で復活させたのが『奏す庵』の「ワセカツ」なのです。

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

 かくいう筆者も長年「カツ丼」といえば“卵とじ”で、分厚いのが美味しいものだと信じこんできましたが、今回、『奏す庵』のカツ丼ルーツの「ワセカツ丼」をいただいて、「カツ丼の正義」を覆されました。

正直言って、「卵とじのかつ丼」より、「ルーツカツ丼」のほうが、断然タイプだったからです。

 それではさっそく「ワセカツ丼」980円を紹介しましょう。

薄いカツの味わいとは?

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

熱々の薄いカツが5枚重なり合って

「ワセカツ丼」は、揚げたてのカツがご飯を覆い隠すように積み上げられています。その数5枚。

 ただし、TVメシのリポーターが騒ぐような厚切りカツではなく、見たことがないほど薄いです。前述したように、カラッ、サクッはなく、特製のソースに浸されて、しっとりしています。5枚のカツの内訳は、薄いカツの中でも極薄の「うす」3枚、ちょい厚めの「あつ」2枚が入っています。

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

「うす」はびっくりするほど薄いです。目測で5mm程度なのですが、極めて細かなパン粉の衣をまとっていて、フルーティなソースに浸されています。でも、ペロンペロンのべちゃべちゃではなく、上の写真のように、シャキッとしています。

「あつ」の方は1cm弱。こちらも同様の繊細なパン衣ですが、「うす」よりは、若干どっしりとした貫禄を感じます。

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「うす&あつ」のコンビの仕事っぷりに感激

 この「うす」と「あつ」のコンビがじつにいい仕事をするんです。たった数ミリの違いなのに、食感も味わいもまったく異なるため、「こいつは“うす”だな、今度は“あつ”だな」などと思いながら楽しく食べることができます。

 そして、どちらにせよ豚肉が薄いせいか、衣とお肉が寸分たがわずピタッと一体化しています。服でいえばジャストサイズ。ほら、普通のとんかつは、時々、衣がぶかぶかで、途中ではげ落ちて、豚肉だけを食べる羽目になることありますよね。「ワセカツ」はそういうことは一切ありません。
「うす&あつ」は、フルーティなウスターソースとキレのいい油が織り成す上品なソースダレが衣と肉にしっかりと浸みているのです。

 さらに、丼の下、福井コシヒカリのご飯の表面にはその極上のソースダレが溢れ落ちているので、ご飯だけでも極ウマ!

「うすだ、あつだ、ご飯だ」と食べ進み、途中で辛子入りソースで味変したり、しみじみと味噌汁を飲んだりして、あっという間に完食。揚げ物を食べたくどさもなく、胃もたれなど微塵もありません。

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古くて新しいカツ丼が誕生!

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最新テクと手仕事が織り成すカツ丼だった!

 この「ワセカツ」を考案したのはなんとIT系のプロデュースのお仕事をする福井県出身の森武彦さん。子どもの頃からカツ丼といえば、ソースカツ丼のことだったという生粋のソースカツ丼原理主義者です。

「もともと和文化を世界に発信していきたいという思いがあったんです。その中で、自分のソウルフードである福井のカツ丼が、日本のカツ丼のルーツであることを知り、さらにドイツからの文化を吸収した“和洋折衷”だと知った時に、これこそが和文化の大きな特徴の1つであると思ったんです」

 そこで、福井のカツ丼を、発祥の地・早稲田に復活させ、そこから世界に発信していきたいと『奏す庵』を自らオープンしたのだそう。

「ワセカツは福井のカツ丼とは少し違い“うすとあつ”という2種類が入っているのが特徴なんですが、ソースの味も試行錯誤したオリジナルです。

ザラメだけの甘さだと胃もたれするので、フルーツなど様々な甘味を研究して、さっぱりした後味のウスターソースを作っています」

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

 また、油で揚げているはずのカツ自体があっさりしているのも嬉しい特徴。
「うちでは特殊な油の装置を使っていて、油に電流を流すことで水と油が弾くように作っています。それによって不要な油がカツ自体に残らないので、くどくないんです。女性でもペロリと平らげられるのは、しつこさがないからだと思います」

 ただ単にカツ丼元祖の味を再現したというわけではなく、研究し尽くされた新しい「ワセカツ丼」だったのです。

「とはいえ、味噌汁の味噌、梅干し、そしてお米などすべて福井から取り寄せて使っています。地元の手作りの味は、私にとって懐かしさがありますが、それだけでなく世界に通用する美味しさがあると思います」

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

 確かに、「ワセカツ」の美味しさは、丼の中だけにあらず。食欲をそそるための特別酸っぱい梅干し1粒に始まり、出汁を使用せずとも旨みの濃い味噌汁、味変のためのエスプーマ仕立て辛子ソースなど、お盆の上に様々な工夫があります。そして、古くて新しい「ワセカツ丼」を食べていると、“和食”ってすごいなあ、と改めて感動してしまうのでした。ぜひみなさんも“元祖カツ丼”を体験してみてください。

(取材・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

「ワセカツ」って知ってる? 早稲田生まれの“元祖かつ丼”の復刻版が激ウマ!

店名:奏す庵

住:東京都新宿区早稲田鶴巻町555-19 鶴屋ビル1F
TEL:03-6302-1648
営:11:00~15:00
  17:00~22:00(LO)
休:水
http://www.sauce-un.jp/

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