目利きのあの人が選ぶ器は、なんで心惹かれるのでしょう。
料理をおいしく見せたり、使うだけで心が躍るような器たち。
「あの人が恋するうつわ」。今回はフォトグラファーの辻 佐織さんに普段、愛用している、愛着のある器たちをご紹介していただきました。

辻さんは写真家として活躍する傍ら、北海道で人気のカフェ『CANTUS(カントス)』のクリエイティブディレクターを担うなど、そのクリエイティブさ、感性はお墨付き。さて、どんな器に心惹かれるのか、「恋するうつわ」を拝見していきましょう。
旅や仕事で出会って。食器棚には思い出の器が集まってくる

辻さんは愛らしい人。それが器選びにも表れています。デンマークの好きな島で出会ったシーグラスを持ち帰り、小さな器の世界に描かれる愛らしい絵に惚れ、作り手を感じるグラスでお酒を嗜んだり、繊細な花柄のカップに恋したり。
食器棚には仕事で、旅先で、蚤の市などで見つけた器やグラスが思い出深く、並んでいます。その様子を見ると、手がけた作家も形や個性もバラバラなのに、なんだか統一感がある。それは選ぶ人のぶれない感性があるからなのでしょう。
「旅先やロケ先で出会う器には、その土地の風土が静かに息づいていて、ふとした瞬間に創作のスイッチが入ることがあります。被写体として惹かれることもあれば、『なんだか、いいな』と直感的に手にしていることも。日々の食卓でふと手に取ると、記憶がよみがえったり、『あ、私はこんなものが好きなんだな』と気づかされたり。使うほどに目になじみ、心にぬくもりを灯してくれる存在です」(辻さん)
スウェーデン『Rorstrand(ロールストランド)』のデミタスカップ&ソーサー

辻さんの器を見に行った日。料理家さんなども集まり、おしゃべりしながら眺めていたんですが、見た瞬間、「わあ、かわいい!」と歓声が上がったのがこちら。可憐なフラワーが描かれ、縁周りにはゴールドがあしらわれたカップ&ソーサー。スウェーデンの陶磁器メーカーのビンテージらしい繊細さに、辻さんの好みが現れています。
このカップ&ソーサーに合わせたランチョンマットは、辻さんが最近、ハマっている刺繍を施したもの。この食器が辻さんの世界を広げる一つになっています。

ソーサーにカフェ『CANTUS』のビスコッティを添えて、友人などをおもてなし。こんな子がいたら、ちょっと洒落た、気の利いたおやつタイムが過ごせます。
デンマークの人気レストランで使われる『Lov i Listed』のポット&カップ

こちらはデンマークへ旅した時、ミシュランにも選ばれた地産地消レストラン「Kadeau」で使われていた陶器の窯元『Lov i Listed』のもの。
「ころんとしたフォルムとざらつきのある手触りがお気に入り」(辻さん)。実はこの美しいブルーのポット、少しだけ欠けているんですが、作家の方が「ちょっと割れてるからあげるよ」とくれたものだそう。
お酒も美味しく、おもてなしも楽しくするグラスたち

「デンマークに好きな島があって、そこの工房のグラスがとても素敵で」と語る辻さん。バルト海に浮かぶボーンホルム島にある工房『Baltic Sea Glass』のグラスは、手に持つとよく馴染み、飲み物を入れると美しいデザインが浮き上がる。夫婦でお酒を傾けるひとときが、ゆっくりと流れていくのを感じさせます。

食器棚に並ぶグラスたちがまた、愛しいこと。ガラス作家、山野アンダーソン陽子さんのもの(下段右端)、フランスのライフスタイルブランド「Astier de Villatte」のゴブレット(下段右から二番目)、吹きグラスの質感が素敵な「小樽ガラス」(下段左から3列)など、どれもシンプルなのに個性が溢れています。
日本の人気作家ものも独自の視点で

土楽の福森 雅武さんのお皿は、辻さんがCM撮影で伺った際に出会ったもの。和のお皿のようで、洋のお皿のようでもある。無国籍なものが好きという辻さんのインスピレーションにピンときたひとつ。
「和食も洋食もなんでも受け止めてくれるんです。そういうお皿ってありそうでそんなにないですよね」

手書きの愛らしいこちらの豆皿は、箸置きとして使っている陶芸作家・土屋まりさんの作品。テーブルにちょこんとあるだけで、ふふふっとほくそ笑みたくなります。
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旅や仕事、さまざまな場所やシチュエーションで出会う器は、たくさんの思い出を重ねながら自分のものになる。
(撮影◎辻 佐織、取材・文◎草地麻巳)
●プロフィール
辻 佐織
写真家。北海道出身。グラフィック広告を中心にCM撮影、雑誌やwebのエディトリアルなど幅広い分野で活躍。国内外の広告賞多数受賞。2019年、札幌にファクトリーラボ+カフェとして『CANTUS(カントス)』の立ち上げに、クリエイティブディレクター&フォトグラファーとして携わる。世界40カ国以上での撮影経験を通じて多様な風景と向き合いながら感性を深め、自然光の美しさとスタジオワークの緻密さ、両方に寄り添う眼差しを大切にしている。