もしも美術館に飾られるような器に、トップシェフの料理を盛り付けたら。きっと器と料理が共鳴して、それまで以上に素晴らしい一皿になるはず――。
そんな思いを現実にした体験型レストランイベント「USEUM SAGA」が、今年も佐賀で開催されました。舞台となったのは、県庁近くの『パークテラス』内『La Pause』。大盛況となったこのイベントの様子をお届けします。

料理と器、そして人の起こした化学反応
今回で6回目を数えるこのイベント、毎回注目を集めるのは、佐賀の料理人と、県外の名シェフがコラボレーションするというスタイル。佐賀の料理人は誇りを胸に地元の魅力を伝え、県外のシェフは新たな視点で佐賀の魅力を発掘する。そんな化学反応による特別な料理が味わえるのです。
今回は佐賀市のフランス料理店『shokudo欅』を営む寺田功・久枝夫妻と、仙台市の中国料理店『松石』の松石翼・晶子夫妻という二組の夫婦が厨房に立ちました。


ふたりのシェフが持ち寄ったそれぞれの故郷の食材
オープニングを飾ったのは、松石シェフによるスープ料理。佐賀の黒鮑と仙台のフカヒレという東西の海の恵みが、佐賀の名門「今右衛門窯」と「柿右衛門窯」の器に盛り付けられて登場しました。
瞬間、会場の空気は一変。ゲストは緊張しつつ器に触れ、スープを口に運び、その奥深いおいしさにため息をもらしました。

さらに象徴的だったのが、次に登場した前菜6種盛り合わせ。それぞれのシェフが3種ずつを担当して一皿に盛り合わせた前菜ですが、両シェフが相手の故郷の食材を使って仕上げたのです。
「あえてそうしようと打ち合わせたわけではないんです」と寺田シェフ。

その後も、両シェフの持ち味を発揮した料理が、持つ手が震えるような器に盛られて次々と登場します。宮城県産のホッキ貝に佐賀のアスパラガスを合わせた寺田シェフの焼き物、佐賀の未利用魚を使用した松石シェフの春巻き。あるいは同じ竹崎牡蠣という食材を、それぞれまったく異なるアプローチで仕立てた一皿。洋食と中国料理というジャンルの違いがありながら、不思議とひとつのコースとしての統一感が一貫されていました。


遠く離れた土地に共通する風土と誇り
「仙台空港に降り立った瞬間、佐賀に似ていると思いました。山があって、海があって、平野があって、食材の多様性がある」
そう語るのは、地元・佐賀の寺田シェフ。長崎で生まれ、フランス各地で修業を積んだ寺田シェフは、初訪問の仙台をそう評しました。


一方の松石シェフは、山形県出身。仙台のホテルで中国料理の腕を磨いたのち、独立して『松石』を開業。今回訪れた佐賀を「第二の故郷になった気持ち」と話します。
そんな出自もまったく異なる二人ですが、実は同じ料理学校出身であり、重ねてきたキャリアや夫婦二人で店を切り盛りする現状など、さまざまな共通点がありました。その「遠く離れた似た者同士」のような関係性が、今回のコースの統一感の一因かもしれません。

器が導いた、料理の覚醒
「普段から古伊万里や有田焼は使っていますが、今回はそのレベルが違った。料理を盛りつけた瞬間に器が輝き出すような感覚でした」
松石シェフがこう振り返るように、器の力もまたこのイベントの主役のひとつ。十四代今泉今右衛門、中里太郎右衛門陶房、井上萬二窯、そして気鋭の作家・徳島あやらによる器の数々が、料理にもう一段階の深みを与えました。

イベント終盤、会場はまるでひとつの物語を聞き迎えたかのような空気に包まれていました。ライブ感満点の調理、料理人たちのやりとり、器の存在感、そして料理を囲んだ人々の笑顔——どれもがこの日限りの奇跡。
「普段にはないプレッシャーもありましたが、新しい刺激をたくさん得られました」と語る寺田シェフに対し、「今回のイベントで、料理人としての殻を破ったような感覚がありました」と松石シェフ。
料理も器も人も、使われてこそ本領を発揮する。そんなことを改めて感じさせてくれた『USEUM SAGA』。佐賀と宮城、約1500kmの距離を超えて繋がったシェフたちの想いが、これからの佐賀の食を、もっと面白くしてくれそうです。

