今回、筆者が訪れたのは、日本屈指の湯量を誇る岐阜・奥飛騨温泉郷に2024年にオープンした『界 奥飛騨』。山岳地としての温泉の楽しみ方に加え、飛騨の伝統工芸の粋をモダンに織り交ぜた宿です。

 木の温もりと澄んだ山の空気に心が洗われる滞在と、飛騨牛や郷土食材を生かした会席料理&和朝食をレポートします。

コンセプトは”山岳温泉にめざめ、飛騨デザインに寛ぐ宿”

 雄大な北アルプスの名峰に囲まれた高地に佇む『界 奥飛騨』。一歩足を踏み入れると、澄んだ空気と木の香りが迎えてくれます。

【注目の宿】奥飛騨温泉郷に佇む『界 奥飛騨』で温泉、ご当地グルメ、伝統工芸にふれる大人のひとり旅
チェックインしたらまず足湯でゆったり

 館内は東西2つの客室棟と湯小屋棟、離れ棟が中庭を囲む配置。かつての温泉街で地元の人々が自宅から共同浴場へ歩いて湯巡りしていた風景を再現しているのだとか。中庭には源泉を引いた“小川”が流れ、足湯に浸かりながら山々の景色を楽しめます。耳を澄ませばお湯のせせらぎと風に揺れる木々の音…都会の喧騒を忘れ、思わず深呼吸してしまいます。

飛騨の伝統工芸が息づく客室と、くつろぎの露天風呂

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「飛騨MOKUの間」

 客室は飛騨産業製の曲木チェアや、伝統漆器「飛騨春慶(ひだしゅんけい)」によるウォールアートなど、飛騨の文化が随所に散りばめられたご当地部屋。特に大きな曲木をモチーフにしたヘッドボードは、寝転ぶとまるで飛騨の森に抱かれているような幸福感に浸れるはず。

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夕暮れには外気と湯気がミックスし、ほどよいぬる湯(約40℃)に

 この部屋の醍醐味が、テラスに設けられた露天風呂。石造りの浴槽には濡れたまま横になれるデイベッドが隣接していて、湯浴みと寛ぎの時間を自由に繰り返せる贅沢仕様です。冷気を肌に感じながら温かい湯に浸かる「温冷交代浴」効果も得られ、体もすっきり整います。まさにプライベート露天風呂ならではの至福時間!

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体を芯から温める泉質で湯冷めしにくく、寝る前に入れば深くぐっすり眠れます

 客室だけでなく、大浴場も完備。奥飛騨の豪雪地帯に見られる“雪の回廊”をイメージしたというこの露天風呂は、まるで雪でできた静かな洞窟のよう。

頭上には大きな円形の開口部がぽっかりと空き、そこから夜空が切り取られるように広がっています。お湯に浸かって星をぼーっと眺める時間は贅沢そのものです。

夕食は飛騨の恵と遊び心に出合う、山のごちそう会席

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思わず笑みがこぼれるユニークな演出

『界 奥飛騨』の夕食は地元食材をふんだんに使った会席料理。各組ごとに仕切られた半個室で、ゆったり落ち着いて食事を楽しめます。テーブルに案内されるとまず目に飛び込んできたのは、木箱の上にちょこんと座る不思議な顔の人形…。こちらは飛騨に古くから伝わる魔除けのお守り「山彦(やまひこ)人形」なのだとか。料理の随所に地域の伝統や遊び心が織り込まれていて、食べる前からワクワクさせられます。

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先付「すったてと牛しぐれ」

「すったて」とは大豆をすり潰して出汁に溶いた白川郷の郷土料理。茶碗蒸し風にアレンジされたすったての上に、牛肉のしぐれ煮がのっています。まろやかな豆の風味と牛肉の濃い味が絶妙にマッチ!

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囲炉裏端を思わせる古材の器に盛り付けられた「宝楽盛り」

 赤と黄土の盤に並ぶ前菜は、季節の海・山の幸が目にも鮮やか。「トマト玉寄せ 生姜ジュレ」など夏らしい爽やかな小鉢の他、「稚鮎の煎り酒餡」「苦瓜とえんどう豆の和え物」といった酒肴も。地酒と共に楽しむのもおすすめですよ。

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台の物「飛騨牛味噌すき焼き」

 メインの台の物は、霜降りが繊細な飛騨牛を小鍋スタイルですき焼きにして味わいます。

通常は砂糖と醤油のすき焼きが主流ですが、こちらでいただくのは冬の寒い山里ならではの発酵文化と保存食の知恵を反映した「味噌仕立て」。さらに、卵ではなく“とろろ”につけていただくという唯一無二な一品です。濃厚で甘い味噌と飛騨牛は言わずもがな完璧な相性でした。

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[食楽web]

創作性に富んだ締めの甘味

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甘味「みたらし真珠麿」

 締めの甘味は、みたらし団子ならぬ「みたらし真珠麿」。香ばしく焼かれたマシュマロに、みたらし餡をかけていただきます。かつて砂糖が貴重だった飛騨らしい味を再現した甘じょっぱい餡のおかげか、マシュマロなのに和菓子っぽさを感じる不思議さがありました。

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竹炭に見立てたクランブルなど、最後まで遊び心に富んだ演出

 さらに網の下には黒ゴマアイスと竹炭クランブルが隠れている仕掛け。みたらし餡がしたたり落ちて程よい塩気を纏ったアイスは締めにぴったり。最後の一匙まで驚きと楽しさに満ちた食体験に大興奮でした!

朝は、自然と呼吸を合わせる“奥飛騨やまびこ体操”から始まる

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緑に囲まれながらのアクティビティで心身ともにリフレッシュ

 翌朝は7時10分から始まる「奥飛騨やまびこ体操」からスタート。界の各施設で行われている“湯治体操”の一環で、それぞれの土地の文化にちなんだ動きを取り入れているとのこと。木工文化の奥飛騨では、木を切り倒すような木こりの動きを、掛け声と共に行います。小鳥のさえずりや川のせせらぎの音を感じながら、健やかな朝を迎えることができました。

和朝食は体の芯まで染み入る

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品数の多さに驚き

 山里の暮らしを映したような滋味深い「和朝食」は、小鍋仕立ての干し野菜と豚肉の味噌鍋がメイン。寒干しした大根やかぼちゃ、茄子などの凝縮された干し野菜は、戻すことで旨みが凝縮され、具沢山で食べ応えも十分。味噌のコクとともに体を芯から温めてくれます。

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蒸した朴葉のホッとする香りに癒される
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ご飯が進むおかずも盛りだくさん

 さらに、きびの朴葉蒸し、ぼっか煮など、山の幸を少しずつ味わえる小鉢も充実。特に“めしどろぼ漬”と名付けられた昆布と梅の漬物は、ご飯泥棒の名に恥じぬ美味しさです。地元の恵みをこれでもかと味わって、朝から元気いっぱいに。

匠の技に触れる、曲木ハンドル作り体験

 界の館内で毎日開催されている無料アクティビティが「ご当地楽」。『界 奥飛騨』では、飛騨の木工技術である曲木を使ったハンドル作りを体験できます。曲木が飛騨で盛んになった歴史や背景を聞きながら、実際に体験すると、木工技術の奥深さと、それを支えてきた職人さん達の知恵と工夫がより一層尊いものに。

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ゆっくりと曲げてハンドルの形に整えます

 曲木ハンドルに客室備え付けの界オリジナル風呂敷を結べば、風呂敷バッグの出来上がり。旅の思い出を詰め込んで、そのまま湯巡りにも使える嬉しいお土産になりますよ。

【注目の宿】奥飛騨温泉郷に佇む『界 奥飛騨』で温泉、ご当地グルメ、伝統工芸にふれる大人のひとり旅
大きさも人それぞれ。世界に一つだけの風呂敷バッグの完成です

 飛騨の自然と伝統工芸に彩られた『界 奥飛騨』は、日常から少し離れて自分自身と向き合うのにぴったり。静かな山の中で温泉に癒やされ、土地に根差した料理を味わい、手仕事の温もりに触れることで、心も体もゆっくりと整っていくはず。避暑を兼ねて、夏のごほうび旅にぜひ訪れてみてください。

●DATA
界 奥飛騨
住:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯138
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiokuhida/

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