未確認“揚げもの”物体「じゃりち」の正体は?

 その物体を見かけたのは、テレビのグルメ番組でした。思わず「何、あれ?」と、目が釘付けになりました。羽根のような衣がついた揚げものです。

レポーターが“肉の天ぷら”“肉のから揚げ”と説明していましたが、名前のインパクトもすごくて、その名も「じゃりち」というそうです。今まで一度も聞いたことがない料理名です。

 調べてみると、中国料理に「炸裡背(ザーリーチー)」という豚バラ肉の天ぷらがあって、きっと、それが「じゃりち」になったのではないか? と想像しましたが、とにもかくにも、テレビで見た「じゃりち」は美味しそうで、どうしても食べたくなりました。

 そこで「じゃりち」を食べられる店を探すと、東京・錦糸町にある老舗中国料理店『栄福(えいふく)』しかありません。そこで某日、お昼どきに錦糸町へ向かいました。

「じゃりち」って知ってる? 錦糸町名物、謎の“パリパリ肉天”を初体験してきた!

『栄福』さんは、錦糸町から歩いて7分ほどの場所にありました。老舗店とはいえ、街の中華屋さんのような気取らない雰囲気です。

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 入店すると、目に飛び込んできたのは、店内正面の壁にある“額”。「今日最高の新点心 栄福の美味(あじ) 韮溜湯麺(ひりゅうたんめん)」という文字が書かれています。これも知らない料理名です。メニューを見ると「栄福 特製そば」と書いてあり、こちらも名物のよう。ぜひ確認せねばと両方を注文しました。

 しかし周囲を見回すと、チャーハン、やきそば、餃子といった定番メニューを食べているお客さんがとても多いのです。しかも、ものすごく美味しそう!

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 数分後、先に登場したのは「じゃりち」。実物を見ると、予想以上に大きくて手のひらサイズ。ヒラヒラとした形状の衣が付いている豚肉の揚げ物です。衣から噛むと、サクッ、カリッ、パリッというような音と共に、醤油とニンニクの風味が口に広がります。から揚げの衣とも天ぷらの衣とも異なり、薄煎(うすせん)のようにとても軽い衣です。食べ進むと真ん中あたりに豚肉が入っています。その部分はグニュッと柔らかい食感。じゅわっと肉の脂と旨みが口に広がります。これはあるようでない未体験の味です。

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衣の香ばしさが後を引く

「小皿の塩と山椒を少しまぶしていただくと美味しいですよ」とお店の方に勧められるまま、振りかけてみます。たちまちピリッと山椒のシビれ感が加わり「じゃりち」の風味が変わりました。「カリッ、サクッ、グニュ、パリパリ」と食べ進んでいくと、衣の存在感の大きさに気づかされます。

とにかく香ばしさ満点。「フムフム、この料理は衣を味わう料理なんだな。ならばビールは必須だな」と確信。

 そこで、昼どきですが「ビール」を追加! “グビグビ”が加わると、もう“パリパリじゃりち“が止まりません。「きっと、じゃりちを発明した人は無類のビール好きだったんだな」とわかったところで、「韮溜湯麺」が登場しました。

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ニラの大群に遭遇!

 まず、すごい量です! ニラニラ、ニラニラ。もはや“ニラの海”です。こんなニラの量を1人前の丼に入れていいのでしょうか?

 しかもトロリとしたスープも、なみなみと入っています。まずは透き通ったスープを一口いただくと、熱々のとろりとした餡で閉じられた中に具材がいっぱい。絶妙な塩味であっさりしており、とても優しい味です。

 箸ですくうと、まずニラが捕まり、その次もニラが絡まり、そのうちプルンプルンのキクラゲやぷりぷりの豚肉、シャッキリとした筍なども捕まります。そしてその下に、たんまりと麺が入っていました。これもまた「1人前か?」と思うほどたっぷりの量。

しかし、とてもさっぱりしているのでスルスルと食べられて、箸が止まりません。こんなに大量のニラが入っているのに、臭みもまったくなく、あっさりと完食できました。

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唯一無二の名物料理、誕生秘話

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じゃりちはやっぱりここだけの味

「じゃりち」と「韮溜湯麺」の美味しい初体験を終えて、お店の方に、お話を聞きたくなりました。どこにもない名物料理は一体、どうやって誕生したのでしょうか? 店主・池田宗一郎さんが教えてくれました。

『栄福』さんは、昭和30年創業して今年で63年目。創業者は池田さんのお母様だそうです。

「“じゃりち”は創業当時からあって、私は子どもの頃から食べていました。母は、これは衣と一緒に食べる料理なんだよと言っていましたね。当時は、餃子やタンメンなど、今でこそ有名な中国料理がまだ一般的でなかったので、“じゃりち”もそういったメニューだと思っていました。が、他店ではあまりないメニューだったようで、口コミでどんどん人気が出てきたんです」

「じゃりち」の誕生は池田さんが勤め始める前のことなので、真相はわからないそうですが、
「うちの“じゃりち”の味は、中国に行っても同じものがないんですよ。実際、簡単にできる料理ではなくて、熟練のコックさんにうちのレシピを伝えても、なかなかできません。技術を習得するまで時間がかかる料理なんですよ」

 中国の「炸裡背(ザーリーチー)」との関係については不明。でも「じゃりち」はここだけの味だということだけははっきりわかりました。

もう1つの「韮溜湯麺」について聞くと、それは完全にオリジナルメニューだと言います。

「じゃりち」って知ってる? 錦糸町名物、謎の“パリパリ肉天”を初体験してきた!

ニラタンメンはどうやって生まれた?

「誕生は30年前くらいで、私たちが新メニューとして考案しました。きっかけは、海外研修で台湾に行った際に食べた、家庭料理。とてもあっさり、さっぱりしていて、これは日本人の舌に合うと思いました。その味をヒントに、ニラベースのあっさり湯麺(たんめん)を作ろうと考えたんです。ニラを1束以上使い、そこに優しい味つけとしてスープはあっさり塩味で、片栗粉でとろみをつけました。そこに、生姜とニンニクが効かせていてピリッしているでしょ」

 確かに、こちらも、あるようでどこにもない唯一無二の味わいです。

「じゃりち」って知ってる? 錦糸町名物、謎の“パリパリ肉天”を初体験してきた!

「うちはこの名物料理もあるけど、創業以来、チャーハン、餃子、焼麺(やきそば)、タンメンといったメニューも人気で、常連さんが、ここの味はちっとも変わらなくて旨いんだよなぁと言ってくれるのが嬉しいんです。ぜひ、また食べに来てください」

 確かに、みんなが食べている定番メニューはとっても美味しそうでした。『栄福』の料理は唯一無二の名物料理ばかりだったんです。

 次はみんなと一緒に来て、チャーハン、餃子、じゃりち、韮溜湯麺、あと焼麺を食べに来よう、と決心!是非皆さんも唯一無二の味を体験してみてください。

(取材・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

「じゃりち」って知ってる? 錦糸町名物、謎の“パリパリ肉天”を初体験してきた!

店名:中華料理 餃子の老舗 栄福

住:東京都墨田区江東橋5-15-8
TEL:03-3631-2621
営:11:30~15:00LO
  17:00~21:30LO
休:水

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