●中国・重慶の火鍋に欠かせない「鴨血」の魅力とは?
辛い物が苦手なのに、火鍋タウン・重慶へ行きました。重慶は、中国西南部の山岳地帯に位置する都市。
そして料理も地形同様に激しく、味つけが右も左も「麻辣(マーラー)」づくし!
麻辣は今、日本でも大人気の味つけです。花椒(ホアジャオ=花山椒)の「麻(マー=痺れる感覚)」と、唐辛子の「辣(ラー=辛さ)」を合わせてあり、辛さの向こうにうま味が見つかる、何とも言えない奥深さがあります。同じ麻辣を使う料理は四川料理が有名ですが、四川は優雅で繊細、対して重慶はパワフルで豪快な印象です。

その重慶のソウルフードといえば、火鍋。モツなど少々クセのある食材だって、麻辣スープで煮立てれば、何でもおいしく食べられてしまう。……が、当然辛い! ビジュアルが刺激的な食べ物には何の抵抗感を覚えない筆者ですが、物理的な刺激には弱いので、正直めちゃくちゃ高いハードルを感じる料理でした。

日本の火鍋は、二色のスープを間仕切り鍋で食べられる店がたくさんあります。だから辛い物が苦手でも、安心。ところが伝統的な重慶火鍋は、二色鍋なぞ認めぬ! と言わんばかりの赤一色(一応お土産用で売られている火鍋のもとには、赤白二色セットもあります)。自分の粘膜、耐えられるだろうか……と当然ひるみまくりました。
街を歩けばオープンエアな火鍋店もたくさんあり、前を通ると真っ赤なスープがボコボコグツグツしているのが確認できます。漂ってくる香りが、もう辛い。それだけで粘膜が刺激され、くしゃみを連発しそうでした。しかし、ここまで来たからには食わねばならぬ。

重慶到着初日に入った記念すべき火鍋店は、重慶の達人がチョイスしてくれた「串串(チュアンチュアン)」タイプの店でした。串に刺さった具材を陳列ケースから自分でとり、鍋に入れるシステムです。
具の値段は、刺さっている串の本数でカウントするので、観光客にもわかりやすく、各々の腹具合に合わせ、量を調節しやすいのもありがたい。

真っ赤なスープから引き上げた具は、なかなかの刺激……ですが、案外イケる…⁉ その理由は、ごま油ベースのつけダレに具をくぐらせて食べるから。スープの辛みがごま油で洗われて、多少マイルドになるのです。これならギリ行ける! と喜んだ私をさらに沸かせたのは、目にも鮮やかな「鴨血」でした。

鴨血は文字そのまんまの食材で、鴨の血を固めたもの。中国、台湾、ベトナムではポピュラーな食材です。
刺激的なビリビリの合間に口内に広がる、癒しの瞬間。火鍋タイムにホッと一息つける、ゆるふわリラックス具材ではありませんか。それ以来、すっかり鴨血の虜になってしまいました。

その数か月後、台湾の夜市で食べた鴨血スープも最高でした。しかし、ヒーヒー言いながら食べる火鍋の合間に、口内をふんわり癒してくれる感覚の虜になった自分にとっては、やはり火鍋とセットの食い物なのです。

頻繁に「鴨血」アンテナを立てているからか、最近は台湾あたりでは混ぜ物をした鴨血が出回っているというニュースも知りました。人気が高く需要に供給が追い付かないため、他の家畜の血が混ざっている場合もあるといいます。
しかし、どの鴨血が純度100%かなんてわからないよね……。むしろそれ、食べ比べてみたい! と、これまた友人たちと盛り上がりました。鴨血で広がる、食体験。
火鍋がなかったら出会わなかった、鴨血。これからも全力で推したい食材です。
●著者プロフィール
ムシモアゼルギリコ
フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック) 。